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誰かのために涙する

 頬を膨らませたままのバルちゃんは立ち上がると俺のそばによって来た。


 服装は喪服のような黒のワンピース。その上からフード付きの黒いケープ。靴も黒だ。黒づくしだが白い髪を引き立てる役目を担っている。


「お兄ちゃんは?ねえ、お兄ちゃんは?名前。」


 そう言いながら、ローブの裾を引っ張る。拗ねてるの?


「俺の名前は、トライ・タケル。まあ、トライオスって呼ばれてもいるが…先ほど魔王になった。よろしくね?バルちゃん。」


 俺の自己紹介に満足したのか「ん。タケル」っと短く頷きながら答えると今度はディオンのほうを見た。


「私の事は知っているだろう?アコー姉さんの弟のディオンだよ。」

「…う。アコーいつもうるさい。弟のディオンもうるさい?」

「ははは…バルちゃんにすら迷惑かけているのか姉さん。困ったものだね。私はうるさくないから大丈夫だよ。」


 騒がしい姉を持つとは大変だね。俺は一人っ子だったからな、苦労もわからんや。


「ところで、バルちゃん?こんな所でどうしたんだい?」

「ん。誰かが死んだの。だから、バルは泣いちゃったの。」

「タケル陛下。彼女の種族であるバンシーは、死者のそばで泣く習性を持っているのです。その所為で住んでる所から追い出されるのですがね。」


 誰かの死に涙することが習性か。でも、他人のために涙することができるなんてそうそうできることではないと思うがね。


「俺が思うに、死んだときに泣いてくれるやつがいるなんて幸せだと思うんだがな。誰にも見向きもされず、ただ朽ちるような最後ではなく、こんな綺麗な少女に泣いてもらえるんだぜ?報われたと思えるね。それがただの習性だといわれてもな。」

「陛下…。」


 俺とディオンの会話についていけないのかキョトンとしているバルちゃん。だが…


「タケルお兄ちゃんはバルが泣いても追い出さないの?」


 追い出されたことがあったのか…。この子に害があるのではなく、ただ泣いているだけでそんな仕打ちができるのか?


 不幸の象徴としてでも扱われたということなのか?


「どうしてだい?追い出す理由がないじゃないか。」


 俺は屈むと、バルちゃんの頭に手を置き優しくなでた。


 最初は驚きビクリとしたが、くすぐったそうに身をよじりながら笑みを浮かべる。


「んふ~♪大きくてあったかい。」


 まあ習性といわれてもやはり、泣かれるより笑顔でいてもらいたいよな。


 くいっ、くいっ!


 おや、引っ張られる。ナデナデから開放されたバルちゃんはいつの間にか俺の後ろに回ってローブを引っ張ってる。


「ね、おんぶ!おんぶして~、お兄ちゃん。」


 参ったね、子供には懐かれやすかったか俺?


 せがまれたのでしゃがむとよじよじと上ってきた。肩に足を乗せているがこれは肩車かね。ん、角を握られているようだ、首を動かし辛い。


 ポンポンと頭を軽くたたかれたので立ち上がる。


「んふふっ~!高~い!ね、ね、どこ行く?」

「この部屋だよ。」


 俺がそう言うとディオンが扉を開けた。


 先ほど来たときと変わりないな。まあ、魔法陣は消えてしまったのだが。


 壁際に落ちている杖に近づくと側に落ちている首飾りが光る。


「な、何事でしょう!?」


 壁に映像が映し出され…


『失敗じゃ。ワシとしたことが…勇者をどうこうできるとおもって舞い上がっておったのが原因じゃな。』


 な、カエルの魔王!俺は拳を握った。


『まて、まてまてまて!今回は流石に殴るな!もう諦めてるんじゃ、せめて遺言ぐらい言わせてくれ!』


「遺言か?では、死ぬ前に撮った映像ではないわけだな。」

「タケル陛下。冷静すぎやしませんか?」


『ワシの時もこれくらい落ち着いていればな…。ちょ、拳を握るでない!話す、普通に話す!』


 記録映像ではなく、先ほどの怨念のような感じでもない。だが、カエルだ。


『ワシがカエルなのは別にいいじゃろ、して、話とはな…。ヴィオロンとの約束じゃ。あヤツが先に逝くような事があればワシは実行に移すと言っておったのじゃ。どんなに家臣や民に嫌われるような事があっても、この国を残すために実行すると言っておいた。そのはなしをするたび悲しい顔をしておったよ。バグパスお前が先に逝けとも言われたな。』


 いや、そんなこと言われちゃったのかよ。それはどうかとおもうぜ?


『まあ、ワシが嫌われ者の邪悪な魔王として名を残すことを心配しての事じゃったがな。孫娘ヴィオリーンの事はワシの後に確実に魔王にしてやるとは言っておいたがの。』


 どの道、魔王の座を降りるつもりではいたのか。


『ヴィオロンという魔族国の大きな壁が無くなれば、欲望に支配された勇者の国の王族が必ず勇者を召喚して攻めて来る。簡単なことよ、「新しき魔王により世界は混沌となる~魔物が増えた~勇者が必要だ~邪悪な魔族たちを滅ぼせ~我らの土地を奪還するのだ~これで世界は平和に近づいた!尊い犠牲の果てに…。」この世界において、このような事を続けているのじゃよ。面白いじゃろ?魔王の所為で魔物が増えたと噂をたてれば民は信じ、耕してある畑やさまざまな技巧を凝らしてできた品々を奪えば民は奪還したと大はしゃぎ、そりゃあ豊かになるからのう…。肥えた豚共(貴族)が増えるワイ。最後は、危険な存在である勇者をそれとなく犠牲として処分。平和に近づきましたとさっ!けっ…筋書きがお決まり過ぎて反吐が出る。それも、決して平和になったとは言わない所が性質が悪いわい。』


 リーナからも同じような話を聞いたな。人間不信になりそうだが、人間国の民たちは舞台の上で踊るだけの存在か…欲にまみれた王や貴族が肥えるという話だな。


「で、俺に何が言いたい?」


 俺がそう尋ねると、くっくっくとのどを鳴らしながら…カエルだから似合うね、その動作。


『褒めてるのか、貶してるのか…。まあいい、だからワシは勇者を兵器ではなく魔族のために動く駒としたかったのじゃ。勇者を従えたワシの名を歴史に残したかったのも事実じゃがな。欲張りすぎたのう…。して、こうやっておぬしが魔王になったのである意味ではわしは満足じゃ。ヴィオロンとの約束はヴィオリーン姫を守る勇者をとの事と、国に向かってくる欲望の魔の手を討ち果たす力ある勇者であることじゃ。これでワシも問題なく逝ける。』


 魔王バグパスの姿が薄れ始める。


「バグパス様。…アナタ様もまた国の事をお考えで…。」


『結果で言えば、まだじゃ。勇者の国が呼び出そうとしたのがタケルだけとは限らん。だから、心しておけ…この国に勇者が攻めてくる可能性は拭いきれておらぬことを…」


 凛々しい姿だった。国を思う魔王の最後の姿として心に刻んだ。


 そんな俺の頭に、少しあたたかい雨が降った。


 






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