バンシーのバルちゃん
どうやら目的の部屋の前についたようだ。ディオンが扉を開けると中に入るように促す。
異世界でできた友達の部屋にお邪魔することになるとは、人生何があるか分からんね。
いや、人生といっていいのか?魔人生かね?
「私や姉はこの城に住みこみですので、部屋をあてがわれているんですよ。リーナ様の部屋に比べれば設備やら広さはお粗末ですが。」
「いや、城に自分の部屋があるだけで凄いと思うんだが?」
「ですかね。」っと言って柔らかく微笑んだ。姉同様若く見えるが、俺より年上だった。ディオン曰く、「妖精族だからですかね?あまり気にしたことはありませんでした。」とのことで。
ちなみに、23だそうです。姉のアコーは29らしい。どちらもそうは見えないんだよな、流石異世界と言うことで納得するしかないか。
俺なんか、右目の下の隈の所為で実年齢より老けているように感じてしまう。リーナの手鏡に映っていた自分の顔を思い出し、顔をしかめてしまう。
「私の部屋は、居心地悪いですか?」
部屋の奥のクローゼットからブーツを取り出し、持ってきたディオンが俺の顔を窺いながら聞いてくる。
「いや、この部屋が悪いと言うことは無いんだ。俺、顔が老けているような気がしてな。アコーやディオンの年齢を聞いてなお更そう思えたんだよ。で、さっきリーナから借りた手鏡で見た自分の顔のことを思い出していたんだ。」
俺がそう言うと、持っていたブーツを膝の高さくらいの丸テーブルの上に載せ、考え込む。
「てっきり部屋に窓が無いから気になされたかと思いましたよ。ですが、私たちはそう言う種族なだけだと納得するしか…。タケル陛下は凛々しいお顔をなされているんですから、老けているという感じは受けませんよ。」
そう言われて、改めて部屋を見渡すと確かに窓が無い。でも、空気が悪いとかジメジメしてるような感じはしない。
ディオンはタライを用意し、水瓶から水を移している。その背に向けて
「そんなもんかね、人それぞれ…いや、魔族それぞれか?妖精それぞれ?」
「皆それぞれでいいのでは?この国は多種多様な民が住んでいますからね。固執した考えは反感をすぐに集めちゃいますよ。より柔軟な感じであるべきです。」
水の入ったタライを椅子のそばに降ろしながら小脇に挟んでいた布を渡してくる。
受け取った布をタライの水につけ、軽く絞ると足を拭く。
「だよな。今まで見たこと無い種族ばかりなわけだ。挨拶して回らないといけないよな。その時は、怪我人とか調子の悪い人には回復魔法をかけて回ろうかね。」
「回復魔法が使える方は少ないですからね。陛下の魔法は回復に特化しているようですし、薬を買えないような弱い方々を助けれますね。」
「どこにでも居るよな、世界が変わってもさ。薬が買えないか…よし。俺が救おう!回復した後は、簡単にできるような楽な仕事だって用意できるよう考えておかないとな。」
布を持ったまま拳を強く握り締め、今後の予定を考える。うへぇ、垂れたしずくでズボンが少し濡れた。
「流石と言うべきですね。ただ助けるのではなく、その後の事さえお考えとは…。」
「そういえばさ、杖を使えば威力や範囲とか変わるのかね?回復魔法とかも。」
「可能ですよ。攻撃魔法はあたりまえですが、回復魔法も上昇します。」
なるほどなるほど、この後どこに行くか決めたぞ。あの素晴らしい彫刻の杖をゲットしよう。カエル魔王の杖も民のために使われるんだ。バチが当たるようなことはないさ。
「その様子からして、バグパス様がお持ちになっていた杖を使うつもりですね?」
「そうだよ。そのほうが民のために役立てるだろう?遺品で処理するには惜しい。」
「いえ、アレは元より個人の杖ではありませんから。それに、タケル陛下がお持ちになればバグパス様が亡くなられた。魔王が代わったと皆にすぐ理解してもらえるはずです。声高々に倒したと言い回っても信じてもらえないかもしれませんからね。」
魔王が代わったという証明にも使えて、回復魔法の範囲も広げれるのか…お得だな。
「それで、靴?ブーツかね?それを履く前に靴下とかは…」
「?大丈夫ですよ。エンチャントが付与されていますので季節を問わず、快適に履いていられますのでそのままでいいんですよ。付与魔法を使える職人が作ったので、サイズもある程度は変えることができますし。」
すごいな。付与魔法か、リーナも似たような事ができるのかね。
テーブルの上のブーツを手もとに寄せ、見てみる。何かしらの絵のような、模様のようなものが内側に描かれている。これがエンチャントの術式と言うことでいいんだな?興味深い。
「物珍しいですかね?新品ですからどうぞご自由に御覧になってください。」
「新品をわざわざ俺なんかに、お古でも良かったんじゃないか?」
「そう言うわけには行きませんよ。朝には皆様の前に出られるのですから、上はローブ、下はその丈夫そうなズボン、そしてエンチャント付きのブーツ。手には魔王の杖を握り、そのお姿をお披露目するわけですよ。」
何だかキラキラしてるんだが…彼の中では俺の姿は美化されてるのかね?
履いてみると確かにフィットする。裸足で履いているのに違和感も無い。これで季節を問わないとは優れものだ。両足履き終わり立ち上がり…
「それじゃ、魔王の間に向かおうか。ブーツをありがとう、ディオン。大事に使うし、代わりの品をいつになるかまだ分からないけど用意するよ。」
「いえいえ、こちらこそお力になれて何よりです。では、参りましょうか。」
歩きやすいな。鎧を着ている兵にとってはかなり重宝されるんじゃないか。
「鎧もエンチャントが給与されているものがほとんどですから確かに一年を通して勝手がいいですよ。」
レベックみたいな感じの兵でも鎧姿で過ごしやすいわけだ。納得、納得。
「そろそろ…おや?あの子は…」
「ん?さっきは居なかったし、あんな幼い子がこんな夜中にうろつくのはどうかと思うがな。」
魔王の間の扉の前で膝を抱えて座り込む白髪の幼子、その姿はなぜか幻想的だった。
「この子は、バンシーと言われている妖精の子供ですね。」
「ふむ、そこのキミどうしたんだい?」
俺の声に頭を上げて顔を向ける。瞳の色はグレーで泣いていたのか目元が少し赤くなっている。
「キミじゃないよ~。バルちゃんだよ~。」
ぷく~っと頬を膨らませたバルちゃんに怒られてしまった。
しょうがないじゃないか、名前知らなかったんだから。