友達
アコーは頭を小脇に抱えながら倒れ伏し、ビクビクしている…。
「ボクの魔法力でもこんなものかな…。本来はこんな感じで麻痺するはずなんだ。タケルはすごいよね。スタンのほうも効かないんだからさ。」
「カエル魔王が放った最初のショックの時は静電気程度にピリッとしたな。次にスタンを受けたら少しズシリとはきたぞ。でもって、ショックショットの時はビリビリしただけで麻痺するようなことは無かったな。」
みんな、そんな顔しないでくれよ。頭を取り付けなおしたディオンまで信じられない様なものを見る目をこちらに向けている。
「最初からその程度って…やっぱり、勇者だからかしらね?」
「でも、ボクが魔法を放った時は首を傾げるだけでなんとも無かったよ。確かにバグパスの方が魔法力は上だけどさ、全く効かなかったんだよ?」
リーナがヴィオリーンに力説している。
「あ~それはな、状態異常耐性がMAXになったからだと思うぞ?」
「な、ば…。そんな簡単に言ってるけど、耐性がMAXだなんて聞いたことが無いよ。だから、壊れた結晶石から出てた煙も効かなかったのか…。ボクの努力の結晶もタケルの前では文字通りただの石ころだったわけだね。」
「滅ぼされる側になっていたと思うとゾッとするわね。状態異常にならずに向かってくる敵だなんてどうしようもないもの。トライオスをこちらに召喚したバグパスにそこだけは感謝しないと。まあ、本人は召喚した相手に倒されちゃったわけだけど…。」
今までの話に呆然としていたディオンだったが、バグパスの話になると…手を上げて発言しだした。
「勇者召喚を魔王の間で、本家とは違うバグパス様式の召喚を成功させたわけですね。だから、片角なのでしょうか?」
そうかもしれないとしか言いようが無いよなこの角。気になる角をぺたぺた…。握って…パキンッ!
え、パキン?
「へ、へへへ陛下!角折れちゃいましたよ!」
はは、大げさだな~レベックは…って、折れてる。自分の右手に握られる黒く光沢のある角…
<ゆうしゃ は まおうのつの を てにいれた!>
アイテムなのか、俺の角。てか、声の人、笑いこらえてるだろ?声が微かに震えているぞ。
<いえ、まさか折れるとは。ふ、ふふっ!>
「タケル…見事な角が折れたにしては、冷静すぎやしないかい?」
「ん?これで人間だった時の姿に近づけたかと思うと…あでっ、いでっ、いててて…」
いててて、折れたせいで痛むのか?そしたら、これからはこの痛みに耐えていかなきゃならねえの…か?
…ありゃ、痛みが治まった。
「トライオス…あなたどういうカラダのつくりしてるのよ。一瞬で再生したわよ、角。」
「興味深いね。ボクもはじめてみたよ。新しく生えてくるんじゃなくて、元通りに再生するだなんて。折れた角は握ったままなのにね。」
残念。普通の人間の姿には近づけなかった。持っている角を左手に持ち替え、恐る恐る右手で折れた部分を触る。戻ってる~。
「この角どうしようか?」
「どうしようって言われても、魔王の角だよ?あ、そうだ…それも組み込んでみるよ。自身の体の一部を使って作る専用アーティファクトだなんてそれだけでも一級いや伝説級だね♪作りがいがあるよ。」
アーティファクト(芸術品)?それに一級やら伝説級といわれてもな…。完成品が待ち遠しくなってきたのは事実だが。リーナの手を優しく握り、その小さな手の平に俺の角を握らせた。
「お願いするよ。それで、こうなったもともとの理由としてだな…俺用の靴、どうすんだ?アコーさんは痙攣してるし、来客用のスリッパとかでもないもんかね?」
日本じゃないから流石にスリッパとか常備して無いよな。
「そうだったね。アコーのせいですっかり後回しになってしまった。今夜の職人は…」
俺から受け取った角を頬に押し当て、スリスリしながらそんな事を言い出した。
「姉さんの事はいつもの事としか言いようがありません。ですが、リーナ様お忘れですか?今夜は作戦を実行するため城の者のほとんどは自宅待機状態ですよ?」
「しまった!すっかり忘れていたよ。ボクとした事が…なんのためにアコーを呼んでしまったのやら。タケルの事でいっぱいになりすぎたね。ごめんよ~」
だが、頬ずりはやめない。
「でしたら、陛下。私の予備でしたらありますが、どうなさいます?」
「足のサイズは同じなのか?ディオン君。」
「君などは不要です。ディオンとお呼び下さい。姉のほうも呼び捨てで結構です。サイズの調節は簡単ですので大丈夫ですよ。では、足を拭くための布と一緒に持ってまいりましょうか?」
その心遣いはありがたいが、持ってこさせるのは何だか気が引けるな…。
「いや、俺もついていくよ。俺の足の裏は丈夫そうだからな。リーナ、アーティファクトとやらはどれくらいで完成できそうなんだい?時間がかかるようなら外で時間をつぶしておくよ。居たら気が散るかもしれないしな。」
「そう時間がかかるものじゃないよ。見ていてもらいたい気もするが、タケルの好きにするといいよ。」
俺はその言葉に頷くとディオンの肩をポンと軽く叩き、催促する。
「では、行ってくるよ。」「リーナ様、ヴィオリーン様。失礼します。」
扉を開けて出て行く時に振り返りながら声をかけた。
廊下を歩いていると…
「陛下、先ほどは姉がご迷惑を。」
「いや、いいんだ。俺は急に現れた不確定な存在なんだからな。アコーからしたら邪魔な存在だろう。」
「…。姉は、ヴィオリーン様に魔王になっていただきたかったようです。今回の件も積極的に根回しに尽力なされていました。」
「なら、なおさら邪魔者だな俺は。今日のことを知っているということは、ディオンもヴィオリーンに魔王になってもらいたかったんだろう?」
俺の発言に少し考える素振りを見せ、ゆっくりと語りだした。
「どうでしょうかね。私としては、結果のまだ見えない今の時点では善し悪しはつけられません。魔王陛下に仕えているのではなく、この国に仕えているのですから。…申し訳ありません、陛下の前でこんなことを言ってしまい…」
「頭には振り回されず。ただ、国の兵であろうとし続けるか。立派だな。だが、そんな気が変わるような…仕えたくなるような王になって魅せようか?この俺が。」
「ふふっ…それは期待したくなりますね。タケル陛下。」
俺は、人好きのする笑顔を見せながら…
「だろう?期待しといてくれよ。ディオンとはいい友達になれそうだ。」
「王と一般兵が友達?変わったお方だ、ですが…そう言ってもらえると嬉しいですね。」
「それじゃあ、よろしく。」
「はい。よろしくおねがいします♪」
外は暗いが、会話はとても明るかった。