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やるじゃないか熊君

 腰蓑?いや、褌かね?を装備している。


 それ以外はどう見ても熊。


 だが喋る。


「なあ、先生。野生の熊は喋るのか?」

「何を馬鹿なことを言うかっ!魔獣ならまだしも、ケモノがしゃべる分けなかろう!」

「魔獣は喋るのか…。」

「魔がつくということは魔力を用いてだの、意思疎通とかも可能じゃろうて。」


 先生曰く、動物、獣とは魔力を持ってはいるが微々たるもののこと。


 魔がつくものになると、保有量が高く、ソレを用いた進化が起き、元の動物から離れた存在となるのだそうだ。



 ちなみに普通の動物の肉と違い、魔物肉を食すとMPも微かに回復するそうだ。



「なあ、わいを見ながらなぜに魔物の話をするんや?そこは獣人って言葉、だそうや。」

「いや、な。これほどまで獣化するのかと思わなくて、な。ということは獣人でOK?」

「あたりまえや!」


 拗ねてる。


 モフモフな熊が正座しながら拗ねてる!


 なんだろう…なんと言うか、ファンシーだ。


「となりますと、この熊君は『生まれながらに』獣化を会得していたのでは?」


 生まれた時から熊だった!ってことかな?クリスタさんや。


「あ~、タケさまのその驚きはちょっと…。孤児院にもそういった子がいるにはいるんです。イヌの獣人の子どもなのですが、赤ちゃんの時から毛深く、獣化時の特徴を有していたのです。」


 犬面人?


「わいはたしかにちいちゃい時からこんなんだわい。面倒見てる子にもおる。で、わいとしては子ども達がおるからにいさん達にはついていけねえんだわい。」


 申し訳なさそうにする熊君。


「ならば、子ども達を見張り塔まで保護すればよかろうなのじゃ。」

「だが、捨て子もおる。わいにならなついているから問題ないが、はたしてあの塔のやからに心を許すか…。」

「じゃが、ずっと面倒を見るわけにも行くまい。それに、おぬしは自らを野盗賊と名乗った。ここで見逃すことはできぬぞ?育ての親が咎負いとなると子も肩身が狭かろう。ならば、真っ当な道を歩ませるためにも別れは必須じゃろう。」


 厳しく言い放つ先生。


 だが、傍から見える光景は…


 正座する熊を、幼女が説教しているところ。


 そして、脳内ではあの懐かしき歌が流れる。


<ある日…森の…っと、わたし歌は苦手ですから。>

<歌わせないでくださいね?>


 そうかな?俺的にはアルトは歌が上手い気がするんだが?


 声だってきれいなんだからさ。


<んっもう。おだてても何も出ませんよ?>

<話を変えますが、今森の中では特殊な魔物がいるのでしょう?>

<早めに逃がしてあげたほうが良いのでは?>

<子ども達が襲われるのは堪えられません。>


 うむ。確かに…


 そのことも聞いてみるか。


 ついていけないと頑なであるのなら、把握している分の森の地形や地図、特徴を聞ければ一気に調査が前進する。


 危険な場所等あるのならば、俺が単身で乗り込む必要もあるしな。


 先生はイザという時は魔法が使えるとはいえ、夜じゃないから威力が低いとのこと。


 更には、満月はまだまだだから全力なんてもってのほか。


 どうあっても力不足。


 クリスタさんに関しては元から知識、経験を必要としていたのであって、戦闘要員ではない。


「わいもそれは薄々感じとるわいっ。だから、読み書きやできる範囲での魔法の基礎とかをな、遊びを混ぜつつ教えとるんや。」


 やるじゃないか熊君!


 ソレ普通に凄いぞ!


「ほほう!おぬしは元はちゃんと教育を受けておったのだな。ならば、森におらんで孤児院で働けるではないか?」


 確かに俺も同意見だ。


 子ども達に遊びながら勉強を教えれるってなかなかの逸材じゃないか!


<はい。そんな先生は滅多にいません!>


 これはスカウトすべきだよなぁ。


「だが、わいは面識が無い!門前払いや!それに、賊や。」

「なら俺が許す!」

「っ!?」


 なんだよ!俺がしゃべった途端にびくびくとおびえだしてっ!


 きずつくじゃないか!


「にいさんがわいを許す?そ、ソレはどういう意味でしょうか?わーぃ?」

「この、回復魔王トライオスが熊君を許すと言っているんだ。孤児院で働くことを、シンフォニアに住むことを…」


 そんなに呆けなくてもいいのでは?


「へ?いや、白髪のおやっさんだったはずでは?」


 俺の前はカエルだったからその前の…


 リーンのおじいさんの事だな?


 確か…


「魔王ヴィオロンはひと月以上も前に亡くなっておるぞ?じゃからな、おぬしの目の前に立つこの者こそ新しき魔王じゃ。今回は、森の調査に来てのぅ。」

「な…なるほど。わいは魔王様に許されると?新手の詐欺では無い?(いや、あの実力だわい。騙さなくてもいつでもわいのことは殺せる。だが、先ほどからその気配は無い。)」


 疑ってるよなぁ。急に目の前の相手が『やあ!俺、魔王!』だなんて言い出したらそうなるよな。


 未だにブツブツと自問自答を続ける熊君。


「考えている間を与えたいところだが、そうも言ってられない。謎の魔物いや、クモか…。その被害にあう前に子ども達を安全な所に逃がしてあげるべきだと考えているのだよ。もちろん、熊君。キミも逃げて構わん。見張り塔まで警護する。」


 俺の言葉に表情を曇らせる。


 熊面だが表情は分かりやすい。


「なるほど。わいにできることは…森内の地形や危険な場所。怪しいポイントやな?」


 鋭いな。彼は逃がしたくないなぁ。


「ああ、そうなる。話が早くて助かるよ。子ども達を安心させるためにもソレが妥協案だろう?」

「にいさんの言う通りや。倒しても何も残らず消える不気味なクモの事やな。よく見かけるポイントやわいが踏み入ったこと無い場所を隠れ家の地図に書き足していくからそれをもっていってくれ!」


 俺たちは皆頷き合うと、熊君の隠れ家へと急いだ。













 取りあえずの目的地、熊君の隠れ家に着く。



 いや、うん。凄いじゃないか!熊君!



 木でできた手製の遊具に、リクガメの甲羅らしき物を用いたお風呂、ツリーハウスに、岩で出入り口を塞げる子どもを匿うための壕舎。


「…。はあ、すごいですね。これなら孤児院の壊れた遊具を直してもらえそうです。それどころか木があれば新しい遊具を♪これは院長先生も大助かりでしょうね!」

「そうじゃのう。このような技能を持つ職人が野盗だなどとは…世の中、分からんものじゃのう。やはり、城から出て多くを見ねばなるまいのぅ。」



 しばしの間、俺たちは熊君の隠れ家を目で見て楽しんだ。


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