野盗賊
乾燥させた野菜にお肉と…
「なあ、別に毎回国に帰っても構わないのでは?」
俺は率直な意見を述べる。
何だ?二人して異常者を見るような目を!
川まで3分かからんのだぜ?森なんてそこから見張り塔を過ぎてちょいじゃないか。
ちょちょいと走ればつくじゃないか!
「…。いや、よそう。昨日、見張り塔の者達からの報せのままじゃのう。ギー坊の飛行並みとまではいかぬが、大地を駆けるのであればかなりの速さだったと。」
ほう?ギータは飛ぶスピードも速いのか。
走るほうも十分速いし、確かに国一なのだろう。
「タケさま。調べに行くのですから、夜間等の調査も含まれるのでは?それに、どんなに時間がかからないとはいえ、行き来に時間は要します。物資の調達に関しても、野草や木の実、自生する果物、魔物のお肉を調達すればいいのです。」
これは手厳しい。
野営はストレスになるのではと考えての事だったが、こちらの世界でなくともキャンプ云々をする人たちだっているよな。
都会の喧騒から離れ、自然の中に身を置く者とて居る。
レジャーってやつだな、うん。
まあ、何を言っても現地の方々だ。
俺の考えとは違いがあるよなぁ。
それにしても、クリスタさんの言葉は慣れた者の言葉だ。
数日をかけて採取とかに出かけたりしてたってことかね。
「ほら、あそこに生えている草だって調理次第で食べれたりするんですよ!」
「「…。」」
俺と先生はただ無言で指差された『草』を見た。
とてもワイルドですね。
「のぉ、トライや。我は草は食わんからな?せめて果物じゃ。それならば2~3日は凌げる。」
「了解した。なるべく果物類を集めるよ。」
興味本位で食べてみたい気もするが、安全なほうがいいだろう。
俺はやんわりとクリスタさんの肩に手を置き、次のお店へと催促した。
水筒に鍋など火打石もそれに毛布類。食べ物も2~3日分。
もちろん俺は荷物持ち。思ったより軽いな。
まあ、テントとかを持って行くならそれなりに重かったのかもしれないがね。
最後に安売りされていた荷車に二人と荷物を乗せ、ついに出発した。
そして、現在…
「ふひいいいいいいぃ!!!速い速いっ!!!でも全然ガタガタせんぞ!どゆこと?」
「はははははいぃ!!!いっ?浮いてますよ!この荷車浮いてますよ!」
そりゃあ俺が持ち上げてるからね。
ガタガタ道じゃ木の車輪は消耗しそうだったからな。
なるべくは持ち上げて移動することにしたのだよ。
「既に川見えてますよ!あ、バス将軍です!」
「お、本当じゃのう。地下に道があったのじゃったな?」
「バジリスクが通って出てきたそうです。」
「それをこのトライがしとめたと。ふうむ。朝食はうまかったのぅ。」
「スープは美味でした!」
慣れたもんだよ。先ほどまでキャーキャー言ってたのに。
バス将軍は、そんな俺たちの姿を見て少しの間呆けた後、片手を上げて挨拶してきた。
それに手を振って応える乗客2名様。
俺は手がふさがってるからな、流石に挨拶ができん。
そのまま川を跳び越える!
「ちょ、あっちに橋ありますよ!」
「ふひひひっ、愉快愉快!トライがおれば楽しいのぅ!」
軽やかに対岸に着地し、また走り出す。
楽しんでもらえて何よりだよな。
仕事といえども、楽しいほうが良い。
俺は頬が緩むが、速度は緩ませずに突き進む!
風が気持ち良いぜ!
見張り塔の兵も俺たちに手を振り、それに先生達が手を振り返す。
もうすぐ森だな。
にしても…
「なあ、どっちが本来の道だ?」
二つ見えるのだよ道が。
「多分じゃが、左じゃろう。右は明らかに魔物が通った後じゃ。」
ああ、カトブレパスが出てきたほうかね?
俺は…
「どっちから入ったほうがいい?」
「なっ!?それは、ふうむ確かに。魔物が出てきたということは何かしらがあったと考えるべきじゃし、調査するなら候補に考えるべきじゃな。」
走る速度を緩め、左右の道からして真ん中あたりで止まる。
「なら、棒を立てて、放したときにどちら側に倒れたかできめませんか?」
そう言いながら程よい長さの枝を拾うクリスタさん。
なんだろう。買い物の時も感じたが、ワイルドだ。
いや、アクティブ?アウトドア派?
できる女と言った所か?
だが、本人曰く料理は苦手らしい。
棒倒しの結果、左になりました。
本来の道ということだね。
荷車を押しながら道を進む。進む。
何も無いね。動物達の声も、鳥のさえずりさえ聞こえない。
木々や葉っぱのこすれる音のみが聞こえてくる。
カーブに差し掛かったとき、少し違和感を感じる。
何か見ているな?
そう思ったとき…
「へへへっ!荷物をよこしな!」
ごすっ!
「おい、トライ。今何か轢かなかったかのぅ?」
「気のせいだ。いや、野生動物が出てきた場合は仕方ない場合もあるのだよ。」
「そうかそうか!野盗賊は野生動物と同じか…って轢かれたわいはなぜに無傷?掠り傷すらない?」
後ろから先ほどの『荷物をよこしな!』さんが疑問を口にする。
そりゃあまあ、なるべくは車輪に負担をかけさせないようにしているからな。
そうとしか言いようが無いし、それに彼が丈夫なのだろう。うん。
「なあ、おい!そこのにいさん!荷もひっ!!!あ、はい。冗談です。はい。ごめんなさい。許して!」
近寄ってきた彼をただ見ただけなんだが、なぜそんな怖がるんだよ。
土下座までするなよな!
「(カトブレパス殴り殺したバケモノのにいさんだった!)」
どうやら昨日の出来事を見ていたらしいな。
となると、目が良いのか?
川沿いだからそれなりに森から距離はあると思うぞ?
「ほほう?お主、良い目をしておるな。見逃す代わりに我たちの道案内を頼もうか?森には詳しいのじゃろう?でないとこのトライがお主の頭も…ふひひひっ。」
それ見逃すに入るのかね?
巻き込んでるよね?
「そ、それだけは!わいには腹をすかせた子ども達が!今もまっとるんや!」
その台詞を聞く日が来るとは…
なら働こう?そう言いたくなった。
「嫁はおらんのか?子だけがおるのはおかしいのう?それとも先に旅だたれたのかのぅ?」
「森で拾うた子なんや!捨て子に、魔物に襲われて親を亡くしたやつらや。だからな、わいが面倒見てるんや。」
熊男はそう言いながら悲しい表情をした。
そう。見た目は熊なのだ。