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七神創話  作者: あゆみかん熟もも


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第9話(時の門番・壱)


 ライホーン村に暖かな朝が訪れる。雲一つ無い晴天。窓から降り注ぐ日差しが眩しい。

 マフィアより一足お先に起きた私は うーん、と伸びをして、パジャマから服に着替えた。

 昨夜は、本当にグッスリ寝たなぁ。何か すっごい久しぶりって感じ。今、何時頃だろ? まだ昼前だとは思うんだけどね。

 何て考えた後、部屋を出た。宿の主人の所へ行く前に、セナに一声かけておこうかな、と思って私の部屋の隣部屋のドアを、ノックしてみた。

 ところが、返事が無い。

 まだ寝ているのかな……とも思って、とりあえず宿の主人の所へ行こうと下の階へ降りた。すると階段を下りる途中、ちょうど宿の主人と出くわした。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

「あ……ハイ」

 まだ ちょっとボケた頭で そう言うと、宿の主人はニッコリ笑った。そして、

「下に朝食が出来てますよ。どうぞ食べて下さい」

と、感じよく言った。

「あの……」

と私が ためらいながら言うと、主人は すぐ「ああ」と思い出して言った。

「洗濯物なら庭に干しておきましたよ。今日は良い天気ですからね。すぐ乾くと思って。お連れの お一人は先に出かけなさったようですけど、あなた方2人は しばらくココに いらっしゃるんでしょう?」

「え? 出かけた?」

「男の方ですよ。まだ夜明け前くらいでしたかね」

 それって、セナの事!?

 私は急いでセナの部屋に行き、ドアをノックする。ウンともスンとも言わないので、ノブを捻るとドアが開いた。鍵は かかって いなかった。

 見ると布団が綺麗に たたんであって、荷物ごとセナは居なかった。ただあったのは、ベッドの側の小机の上にあった置き手紙らしき物だけ。


 嘘……セナ、何処に行っちゃったの!?


 私は その手紙を掴むように持って、マフィアを叩き起こした。マフィアは びっくりして飛び起きて、手紙の内容を読んでくれた。


『“時の門番”の所へ行ってくる。用事が済んだら帰る。 ――セナ 』


 こっちの文字で、そう書かれていた。

「“時の門番”?」

「知らないわ。一体、何処に……」

と私とマフィアが首を捻っていると、部屋の入り口の開けっ放しだったドアに もたれかかって こっちを見ていた楓ちゃんが教えてくれた。

「タル島のスペリッタ山にあるよ。今朝一番の船で行ったみたい。あんたたちに よろしくってさ」

「セナと会ったの?」

「私ん家、ジイちゃんが早起きだからね。私も早起きして、村中ランニングしてるの。今日も その途中、村の入り口んトコで会った」

 ちっとも気がつかなかった。私もマフィアも、グッスリ眠っていたから。

「どうして急に……」

とマフィアが考え込む。そんな事、いくら考えたって わからない。

「さあね。でもそこって、確か人の過去を見る所よ。レイって人の事でも、調べに行ったんじゃないの?」

と楓ちゃんに言われて、私とマフィアは顔を見合わせた。それは十分考えられる事だったからだ。

「そうか……あの出来事の後だものね。きっと昨晩、フッと思い出したんじゃないかしら。それで すぐ行ってみようと思ったのね。でも どうして私達に黙って……」

「きっと……」

と、マフィアの言葉を遮った。

「きっと、七神捜しには あんまり関係無いからじゃないかな。私用の事だからって気を使って……」

 そう。セナって そういう事を考えそう。これまでも、私の事をよく考えてくれていた。きっと、これは俺とレイとの問題だからなんて今回も考えたんだろう。私には今マフィアが側に居てくれているわけだし、大丈夫だろうって思ったんだわ。

「それにしても、水くさいわね」

「ああ、さっき水仕事してたもんで」

「いや、そうじゃなくて」

と、マフィアと楓ちゃんの小漫才など笑っていられる余裕は無かった。ただ、ただ悲しかった。何だか のけ者にされた感じがしたからだ。

(どうして一人で行っちゃうのよ……)

と怒りもしたが、空しいだけであった。そんな風に しょげている私に、マフィアは尋ねた。

「どうする? 勇気」

 マフィアは心配そうに私の顔を覗きこんだ。

 どうするも こうするも。一つしか無いでしょう? と私は自分で自分に言った。

「セナを……追いかける!」

 マフィアも楓ちゃんも、さも当然というように頷いた。



 私たちは船に乗った。ライホーン村は大陸のド真ん中にある村なので、まず村の人の馬車に乗せてもらい、マイラ港町で降りて、そこから定期船に乗り込んだ。

 タル島は、こっちの大陸と、その東南にあるコンサイド大陸との間にある、小さな島らしい。森しかないし、魔物も出るので人は全然居ない。その森の木には、リンカラという実が()る。その実を採りにチラホラと人が来る程度だ。

 リンカラはココでしか採れないし、街では結構高く売れるんだという。

 定期船はあるが、一日一往復しかない。もう今日は出てしまった。だが、港の人に頼みこんで交渉し、何とかその島まで寄り道がてら連れて行ってもらえる事になった。

 タル島の森は、ミールの森という。

 その森の真ん中に、セナが居る“時の門番”が あるのだそうだ。

“時の門番”とは、人の過去や記憶を探る所。それには大金がいるらしい。たまに何処ぞの王族なんかが兵士だの何だのを引き連れてやって来るんだとか。さっきも言ったが、森には魔物が出るのだ。そんな所に“時の門番”なんてあるもんだから、普通の人は近寄らない。しかも大金がいるというのだから。訪れるのは、豪商や王族くらいなもんだった。


 私達はタル島に着き、森を歩き出した。

 途中、魔物にも何匹か出くわしたが、マフィアが魔法の技を使って倒してくれた。

「ごめんね……マフィア。力、使わしちゃって……」

「いいのよ。この前は偉そうな事を言っちゃったけど、そうも言ってらんないもんね。しっかり技を磨いて、勇気や皆を守らなくちゃ。精霊達も、わかってくれる」

 精霊達には意思がある。精霊達の力を借りたくないんだと言っていた。

 でも、レイやら蛍やら(ひたき)やらが色々と仕掛けてくるし、人間の力にも限界がある。精霊の力を借りずに戦う事は やはり無理だ。奴らは強いし、なおさらだ。

 私はマフィアに申し訳ない気持ちで いっぱいだった。


 夕日が沈む頃、私達は森でキャンプをし、横になった。焚き火をしているけれど、向こうは森の闇。その闇の中に、セナの幻影を見た。

 今頃何をしているのだろう、一人で何を考えているのだろうと思った。右手の中指に はめ込んだ指輪を見る。触れると、冷たい。セナの気持ちが伝わってくるよう。

(セナ……)

 セナが居ないだけで、すごく寂しい。いつからこうなったんだろう。いつも側で守ってくれていたのに……。

 初めて会った時から……セナは、とってもとっても優しかった。今は それが心に しみる。私の頭の中はセナの事で いっぱいだった。こっちの世界に来る前までは、お兄ちゃんの事をよく考えていたのに。

 それなのに。


 こみ上げてきた苦しい胸の痛みを抑えながら、そっと……目を閉じた。



 ……

 早朝。森を突き進む。

 スペリッタ山は もうすぐそこだった。だが、目の前には崖の絶壁がある。

 人が登ったような跡があるな……と、私が うなだれていると。マフィアが技を使おうかと言い出した。

「技って……空を飛べるの?」

「飛べるってほどじゃないけど……まぁ、見てて」

と、精神統一をし始め、足元に手を かざし、


「“草鞋(わらじ)”!」


と唱えた。

 すると、あたりの落ち葉や草がザワザワと急に各、意思を持つように集まり出し、やがて ひと塊になった。マフィアは同じ事をして もう一つそれを作って、その上に乗った。私も真似をして塊の上に乗ると、まるでエレベーターみたいにサーッ……と、ゆっくり垂直に上に進んだ。しっかり安定しているので大丈夫。バランスは崩れない。

「すごーい!」

と私はキャーキャーと喜んだ。

「もっと練習すれば、自由自在に何処へでも行けるようになるわ。今の私には、上下左右が精一杯。でもちょっとした水の上とかでも たぶん行けるし、結構便利なのよね」

「だったら、これで海も渡れない?」

だなんて、無茶苦茶な事を言うと、マフィアは笑った。

「無理無理。力尽きてドボンだよ。海の上は森の精霊は少ないしね」

 なるほど。マフィアは木神だものね。

「うーん……でも、他の七神の力と併用させれば出来るかもね」

とか何とか言っている間に、絶壁を昇り終えた。すぐ、高さ5・6メートルほどの土の山があり、見ると山に埋め込まれるように木で出来たシンプルな門があって、その先は暗い。

 他に変わった所も無いし、周囲には何も無い……きっと、ココがその“時の門番”だ。間違いない。

「入る?」

とマフィアが聞いたので、私はウン、と頷いた。

 門をくぐり、一歩を踏み出した時。その先の暗闇の中から声が聞こえた。

『ココより先、一人ずつしか入れぬ。用のある者は一人で入れ』

 重々しいおばあさんの声だった。

「私行ってくる」

と、私はマフィアをそこで待たせて、先へ進んだ。マフィアは最初渋ったが、何とか「大丈夫大丈夫! 何かあったら すぐ逃げるから! 逃げ足には自信が……」と適当な事を言って(ノンキ?)強引に説得した。

 先へ進んで行く。

 道には何も無い、ただ暗闇の中を歩くだけ。

 段々目が慣れてきても、やっぱり先は道が続くだけ。一体何処まで続くのだろうと思った途端……壁になった。

 石造りの壁。触るとヒンヤリする。すると……。


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 壁が動き出した。どうやら、隠し扉?

 光が急に目に飛び込んできた。いきなりで眩しくて目を閉じてしまったが、そっと開けると……。

 部屋が現れていた。

 何とそこは!

「ココは……あの時の遺跡と同じ!?」

 そう。

 その部屋とは。この世界に来る直前に居た、あの遺跡の落とし穴! 鏡が壁に七枚、ぐるっと囲むように円状になって貼り付けてある。まさに『鏡の間』!

 よく見ると、鏡には それぞれ光の加減で色がついているように見えるのだ。これも同じ。

 そっくりだ。その場に立ちすくんでしまった。

 違う事といえば。あの部屋には、こんな今 入ってきた出入り口は無かったって事だけ。あの遺跡の部屋が上から見て七角形なのに対しココは八角形だという事だ。

 そして私が入った出入り口の真正面の鏡……そこから。ある女の人が突然! にゅっと出てきたからギョッとした。


(わたくし)は1623代目の時の門番、トキ・メイラル・エド。どうぞ、トキとお呼び下さい」……


 綺麗な声だった。あれ? さっきの おばあさんみたいな声じゃない……けれど、まあいいか。

 見た目は普通のお姉さんだ。後ろで一つに髪を縛りハネさせ、手には魔法の杖みたいなものを持っていた。先端に付いた金具のようなものが時々、鈴のようでシャン、シャンと鳴る。

 首から紐で ぶら下げている飾り。星を型どったような造りのもので、真ん中に『目』が こしらえてある。

 そして……どうやら、彼女は『盲目』らしい、という事。目が、会ってからずっと閉じられたまま……。

「ようこそ、“時の門番”へ。あなたが、青龍の年の救世主ですね?」

「えっ……どうして知っているんですか?」

「さっきの男の方が見ていらした中に あなたの姿が あったものですから」

 さっきの男の方。きっとセナに違いない。

「ご覧の通り、私は盲目ですが……この首飾りの『目』が、私の目の代わりなのです。この飾りの『目』で見たものが、私の脳の中に送られるんですわ」

「あ、あの……」

と、私は ためらいがちに聞いた。

「はい?」

 トキさんは首を傾げた。

「ココに来た男の人……何処に行きました?」

「用を済ませ帰られましたが」

と あっさり答えた。私は……かなりガックリきてしまった。

 せっかくココまで来たのに……すれ違ってしまったんだ。

 ……せっかくココまで来たのよ? このまま帰るだけだなんて。

 セナがココで見たもの。何を見たのか知りたい。

「あ、あの〜……」

と私は また尋ねた。トキさんは同じように「はい?」と また首を傾げる。

「その用って……一体、彼は何を見たんですか? 見せてもらえますか?」

と言うと、トキさんは落ち着いた声で、だが、厳しさをも込めた声で言った。

「それは申し上げられません。ですが、100万G頂けるなら少しだけ お見せしましょう」

 ひゃ……100万G!? ……って、どれぐらいなわけ?

 こっちの世界の1Gは、日本円で いくらぐらいなのかしら……。

 ……っていうか。1円も1Gも持って無いじゃない。払えるわけ、ない。

「お金が いるんですか? どうしても」

「ええ。お金の無い方は、お帰り下さい」

 何で? 何で人の過去を見るのに お金がいるの? それって おかしいじゃない。

「どうして過去を売り物にするんですか、あなたは」

と、私は詰め寄った。私の口は止まらない。

「なら、大金があれば何処の誰でも簡単に過去が覗けちゃうって事ですよね? それって、ある意味 犯罪のような気が しませんか? 自分の知らない所で自分の知らない人が自分の過去を何もかも知っているだなんて……不気味です。プライバシーの侵害なんじゃないですか?」

 もし、ストーカーだったら最悪だ。筒抜けって事になる。

「……」

 トキさんは黙ったままだった。私は なおも続ける。

「確かに、私が彼の見たものを見たいって言うのは、ワガママかもしれないけど……」

 途中、自分の意見の矛盾さに気がついた。過去の覗き見がダメだなんて言いながら、自分はセナの過去を見ようとしている。

 私って……馬鹿だなぁ。

「もういいです。ごめんなさい。私、ちょっと言ってる事が おかしかった」

「いいえ。あなたは正しいですわ。人の過去を売り物にする事は、確かに いけない事です」

と、トキさんは言った。

「じゃ、どうして お金をとるんですか?」

「人の過去というものは、お金なんかで買えませんよ。元々ココは迷い人のための。自分の過去を清算したりするキッカケを与える場なのですよ。本当なら、お金なんて頂きません。ですが……ココ数年。見栄や好奇心や、くだらない事に この場を訪れる方が増えつつあるのです。ですから、法外な お金などを請求して、帰って頂いているんですわ」

 なるほど……それでか。

 だから私にも、お金を請求したのね。

「いつかの国王には、100兆Gを請求しましたわ。もちろん、引き下がりましたけどね」

 国王ともあろう人が、100兆Gにビビって帰る……うーん、なら、100万Gって比較的安いのかな? ……そんな事は無いか。でも この人結構怖い人だ。

「え、じゃあ、セナには過去を見せたんですか?」

 うっかり名前を言ってしまったけれど、意味は通じたようだ。

「ええ。さっきも申しました通り、迷い人の方にはタダですわ」

 そうか……セナは ちゃんと見られたのね。でも、もう帰っちゃったけれど。

「そうですか……それじゃ、私も帰ります。私には、お金も迷いも無いですから」

と、言って そそくさと立ち去ろうとした。すると、

「あなたにも、かすかな迷いが感じられますわ。少しだけなら、お見せしますけど?」

と……トキさんは言った。私は びっくり。

「え……い、いいんですか? 1Gも無いですけど」

「その代わり。代償として、あなたの過去を見せて頂きます。よろしいですね?」



 取り引きは成立した。私の過去を見せる代わりに、セナが見たものを見せてくれるという。

 私は鏡の部屋の中央に立った。トキさんは何処かへ姿を消し、声だけが暗い中で聞こえた。

「それでは。お見せ致します」

 トキさんの声がした途端、それぞれの鏡 全七面を使って、一つの『映像』が映し出された。私は映し出された映像に囲まれ、目移りする。音声は一切無い。

 そこにはハッキリと……レイ――少し若い頃と思われる――が、居た。

 セナと別れたすぐなのかな……これは。

 その内容とは。

 レイが居た場所は……ココは……神殿……? 聖書にでも出てきそうな白い石造りの壁で出来た、辺りに人気の無い地だった。レイはまず、その建物を前に ひざまずいた格好で居た。まるで誰かに忠誠を誓っているかのような。よくは、わからないけれど。

 レイは見た所で普通の人だ。何処も おかしい所は無い。誰かに仕え、賢明に仕事や雑務を こなしているといった風に感じられた。

 パッ、パッ、パッと映像の中の月日が、早送りされたように時間が経過していっている。

 その流れに沿って、ある日ある時の光景。

 レイは、誰なんだか わからない――背中だけしか現れていない人物の前で、何か……? に、驚いていた。そして すごい顔で人物を睨みつけ、吐くように何かを言った後……走り去った。

 そんな内容。

 音は全く無いし、レイ以外の人物は居るんだけれども一人として誰もよく見えなかった。

「コレが、レイの過去の一部です」

と、画面は いきなり真っ白に変わった。コレで終わりのようだ。

「え? たったコレだけですか?」

「セナという人が見たのは、コレだけです。どうやらココは、『天神(あまがみ)の神殿』のようですね。レイという人はココで天神に仕えていらっしゃったのでしょう」

 セナは これだけで満足したの? だって全然 訳が わからないじゃない、コレだけじゃ。

 はっ……もしかして。セナ、まだ何か隠し事が あったりして。

「あっ、あのっ。セナの子供の時も見せてもらえませんか!?」

と、私はトキさんに頼んでみた。

 セナの子供の頃に、何か あったのかもしれない。セナが隠したがっている何か……。

「ダ、ダメでしょうか?」

 黙ったまま反応の無いトキさん。やっぱり、図々しかったのかな……こういう事言うの。でも、知りたいんだ。セナの事を。


 やがてトキさんは「いいでしょう」と返事をくれた。

 たぶん断られるだろうな、と思っていたのに予想外だった。


 真っ白な画面にパッと映像が再び流れ出した。中央に居る、少年。髪の色が薄紫色だ。きっとセナに違いない。

 年は5〜7歳くらいだ。きっと周りの背景とセナの かつての話から、そこは監獄の中に違いない。有刺鉄線の張られたフェンスの向こうにセナと、もう一人。少し、大人びた顔をしている少年……きっと、この子がレイだ。

 2人は本当に仲良く、草むしりをしていた。時々一方が話しかけては、笑っていた。これがあのレイだなんて、確かに信じられない。

 微かに、暗さがある。でも笑っている時には そんなもの無い。2人とも、本当に窃盗団や盗賊だったの? と疑わずにはいられない。

 あどけない笑顔……2人とも、本当に可愛らしい少年であった。

 私はフーム、と腕組みをして唸った。

 これまで不審な点は無い。セナの供述通りだ(犯罪者みたいね)。


(あれ……?)


 フェンスの側に、ふと、ある影が映った。その人影が段々と有刺鉄線の張られたフェンスに近づいて来る。

 セナとレイは気がついたようだ。こっちへ走り寄って来た。

 その人影が背姿を現す。後ろ姿だったが……髪が肩までの金髪の少女だった。子供ドレスを着ている。その歩き方、髪の毛をかき撫でる仕草などには、気品があった。何処かの王族か貴族の娘かと思った。

 ピンクのフワフワドレスに赤い靴を履いた少女は、フェンス越しにレイやセナと一緒に何か しゃべり出し、時々 談笑していた。

「誰、この子……」


 この少女は 一体 誰?


 すると少女が こちらに振り向いた。その顔に、見覚えがある気がした。何処かで……。

「ええと、何処でだっけ?」

 整った顔立ち。キリッとしている眉や口元。子供のようで子供らしくない感じだ。瞳が赤色だった。

 首には銀の飾り付きの黒いチョーカー。金髪の髪が、振り返った途端サララン、と音を立てそうなほど。美しかった。


 見た事があるような、無いような。

 とにかく……その少女の登場で、私は胸に不安が よぎった。

(まさかセナの隠している事って、この子の事なんじゃ……?)

 それは確信にも近い感情だった。何故ならセナは自分とレイの事を話す時に、少女の事など一言も言わなかった。もしかしたら、セナが故意に隠していたのかもしれない。


 セナとレイと この少女が笑っているさまを見て、私は胸がチクチクと痛んだ。




《第10話へ続く》





【あとがき】

 あけましておめでとうございます(今日は正月)。

 目標、継続。これだけ……。


※ブログ第9話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-42.html


 ありがとうございました。



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