第6話(魔神具の力)
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。今回あたりからあります(汗)。
同意した上で お読みください。
お前らは疫病神だ――――
こんな ひどい言い方って無いと思う。一本の矢が、胸を突き刺したような痛みが走る。
その痛みが私の緊張を緩めた。同時に、涙が溢れてきた。とめどなく涙が流れ、その場に立ち尽くした。手で顔を覆う事もせず、ただ ぼうっと、突っ立っていた。
視線が、斬殺された村人たちに移る。
一体この人たちが何をしたっていうのだろう……。
色々と考えていると、私の足首を つかんでいた村長が いきなり誰かに殴られた。
「ジジイ! 何て事 言うんだよ!」
口の悪い女の子……さっきレイに背中を斬られたはずの、楓ちゃんだった。
「たかが泉一つで あーだこーだと。うざいんだよ! 泉の水くらい、あたしが とってきてやるよ! それでいいだろ!? こいつらには全然関係ねーーじゃんか!」
と、口攻撃が続く。村長はといえば、さっき楓ちゃんの一撃で のびていた。しかし構わず、楓ちゃんは責めるのを止めない。
突然、楓ちゃんが私の方を くるりと向いた。
「勇気!」
「はいぃ!」
と、思わず返事をしてしまった。迫力のある人だ。ケガは浅かったのか?
「何しょげてんだ! あたしの村を、こんなにした あの男……絶対に殺してやる!」
と勇ましく言い切った。
あの男……レイ。
何のために、こんな事をするのか。
不気味な表情……薄笑いさえ浮かべているようだった。いや、そう見えるのは ただの錯覚かもしれない。彼は無表情だから。
「レイ! このまま……このまま、この村から出て行けっ!」
と、セナが思い詰めた声で言った。
「俺はお前を憎みたくない。殺したくもないし、殺されるのを見たくもない。お願いだから、黙って出て行ってくれ!」
「殺されるだと? この俺が?」
と、レイが口を開いた。そして持っていた刀に いっぱいと付いた血を、ぺろりと舐めた。
「この刀は、何だと思う?」
とレイが問うが、私たち一同は さっぱり わからない。というか、わかるはずがない。
「ついに完成したんだよ……この、魔神具、“邪尾刀”が!」
魔神具……“邪尾刀”……?
一見、ただの曲刀にしか見えないんだけど。彼の言ってる青龍の復活と何か関係があるのだろうか。
「教えてやる。四神獣の復活には、世界の中の人間の体内に持つ“四神鏡”が必要なのだ」
“四神鏡”……セナたちが持っている、“七神鏡”とは違うのかな。
「この刀で、人間の体内に それが眠っているかどうかを調べる事ができるのさ……」
と、不気味に目を光らせた。冷たい……凍てついた顔。恐怖を感じさせる。
「青龍の召喚のために、こんな斬殺なんて事をしたってのか。一体何で……何で お前は変わっちまったんだ!」
セナが言い詰めても、眉一つ動かさない。
「そうさ。俺は変わった……愛だの情だのと、ほざく人間どもを俺の手で従えるのさ。人間は虫だ。害虫だ! この世の万物以下だ! 害虫には、ふさわしい生き方、もしくは死に方が必要だとは思わんか!? なぁ、セナ! ……どうだ? 俺と手を組め! 2人で、この世を破壊しようじゃないか!」
と、セナに手を さしのべるレイ。セナは、当然のように それを拒否した。
「ふざけるなっ!」
と言った途端、セナはレイの眼光から放たれた気のようなもので、後ろに数十メートル吹っ飛ばされた。不意を突かれてしまい、セナは少し壁に叩きつけられて肩を打ち、激しく痛めたようだ。
「フン……。また会おう、セナ。今度は ゆっくりと話し合おうじゃないか」
とレイに見下され、セナは何とか起き上がって攻撃に出た。
「レイイイィィィイッ!」
と、自ら起こした風で切り刻もうとする……ところが、それより強烈な風が現れ それを押し返し、いきなりでセナが驚いていると、誰か――が、セナの胸あたりを風の刃のようなものでザクッと斬った。
セナは深手を負い……倒れた。
「セナぁっ!」
と、私が駆け寄る。
私の背後で、レイと ある人物の会話が なされた。
「レイ様、おケガは?」
「大丈夫だ。行くぞ」
私が振り返って見ると、レイの側に女の人が一人。見た目、巫女のような格好。とても長いストレートの黒髪が、たなびいていた。
レイはフッと消えてしまった。私は「待って!」と叫んだが、完全に無視される。しかし、その女の人がレイにも劣らぬ不気味な顔で私に話しかけた。
「今夜は月が綺麗よ……救世主」
と……。それを言い残しレイの後を追って消えた。
セナは重傷……村人たちも。楓ちゃんは……と見ると、必死に村人たちの手当てをしていた。
そうだ。こんな ぼうっとしている場合じゃない。私も、手伝わなきゃ。
暗雲が立ちこめ、雨が降ってきた。
ケガの手当てより先に、皆を家の中へと引っ張り込む作業から始めた。
楓ちゃんと2人で、村人たちを家の中へと運び、止血の作業を繰り返した。セナの体の傷もすごい。綺麗な曲線カーブでズバリッとヤられている。出血は何とか止まり、安堵のタメ息。
止血の作業は……何とか終えた。
疲れた顔で楓ちゃんを見ると、楓ちゃんは ちょうど その場でバタリと倒れてしまった。
あれだけ動きまわっていたのに……よく見ると、レイに斬られた背中の傷からドクドクと出血しているではないか。無理して動いていたんだ。
「楓ちゃん! しっかりして!」
と、私は大急ぎで止血を。村中から さっきかき集めた布を包帯代わりに、傷をふさぐ。顔色が真っ青……やばい、出血多量だ。このままじゃ……。お願い、止まって!
私は固く、傷口を押さえ続けた。何十分か何時間かと思ってしまうような長い時間をかけ、何とか血は止まってくれた。
村人たちが倒れているのを見て、レイに襲いかかった楓ちゃん。とっても勇敢だ。私なんかとは大違い。こんな傷をつけられても、きっと根性で立っていたのね。
ピンピンしているのは、私一人……。
とにかく、村人たちの様子を一人一人と見回った。傷の深い者、浅い者、死んだ者、また死んでいく者……私は少しの間、胸のムカつきを覚えた。
しかし、グッと堪える。
私、仮だろうが何だろうが、この世界では救世主なんだから! 村人一人、村一つ守れないでどうするっていうのよ!
だるい足にムチ打つ。パンパンになった足を引きずってでも、私は走りまくった。村中の家から足りない薬や布、水なんかも取りに走る。
一人 対 村人全員なんて決してラクではないけれど。捨てるわけにはいかない。
私が走りまわっていると、ある子供が私に微かな声で話しかけた。
「お姉ちゃん……『エンジュリール』みたいだね……」
と。
聞いた事もない名前だったので、子供に それは誰かと聞いた。
顔と体中を包帯で ぐるぐる巻きになっている、その子は答えてくれた。
「昔の人でね……戦場の跡に現れて、敵味方関係なく手当てしてくれるんだ。僕の ひいじいちゃんも……その人のおかげで手遅れにならずに済んだんだよ」
と、ポツポツと語り出した。息は少し乱れている。でも その子のおかげで『エンジュリール』という、こっちの世界の人の事が わかった。私の世界で言う、ナイチンゲールの様なものなんだわ。
「そっか……でもね、お姉ちゃんはね、その……エンジュリールさんみたいに偉くは無いよ」
と言うと、子供はニッコリと笑った。その愛しさといったら。私は、思わず抱きしめた。村人の中でも、その子は重傷だった。レイは こんな幼い生命まで、手にかけたというの。
なんて……なんてヒドイ奴よ。
私、絶対に許さない。
私は、少し休憩をした。
私に出来る事は やったつもり。後は村人たちの生命力と天命に任せるしかない。
村人全員がいる大きな集会所のような建物の玄関前の石段に座りこみ、ジッと考えこんでいた。
段々、青龍の復活というものがレイのおかげで わかりかけてきた。
青龍の復活……想像は、し難いんだけど。それは どうやら この世の終わりを意味するも同じなんだわ。それを、あのレイが やろうとしている。
この世界にいる、四人の人間の体内にある“四神鏡”……四枚集めてしまったら、青龍……四神獣を復活させてしまう。
なんとしても、阻止しなければならない。
犠牲は増えるばかりだろう。あの……四神鏡を探すという目的で使われていた、“邪尾刀”で斬り刻まれて。
きっと、ここにいる村人よりも もっと多人数の犠牲が生まれるんだわ……。
とにかく、「復活の阻止」のためにまず、四神鏡を集めさせない事よ。もし青龍が復活してしまったら取り返しのつかない事になるかもしれないし。うん、そうよね。
四神鏡……どんなものか、見てみたい気もするけど。けっして見つけてはいけない、禁断の道具……。
神様、私が本当に救世主だと言うのなら、力を ください。せめて、自分の身は守れるくらいの力を。そうすれば、セナの肩の荷が下りる。
足手まといに なんか……なりたくないから。
それは、私の お兄ちゃんにも向けて言った言葉でもあった。今頃、どうしているのだろう。もう何日か日が空いてる。ひょっとしたら、私は行方不明者として大捜索してるのかも。
でもね、お兄ちゃん。私、帰れない。こんな村を見捨てては。
斬殺された人たちを目の前にして、逃げれるわけないよ。だから見守ってて、私を。
救世主としての、私を。
気がつくと雨は止み、白い満月が暗雲から姿を現した。
「さてと……」
と一呼吸置いて。村人たちの様子を見に戻ろうと、重い腰を上げた直後。
私の前に、楓ちゃんが立ちはだかった。
「楓ちゃん。ケガは大丈夫!? もう少し休んでいた方が……」
と私が話しかけても、何の返答も無かった。
首を傾げる私。何の疑いもなく見ていた。だから、次の行動なんて予測不可能だったのだ。
いきなり楓ちゃんが鎌のような武器を持って襲いかかってくるなんて、夢にも思わなかったのよ。
……一方。
レイの現在の根城である、とある島では。
血で、錆びないようにと。レイの側にいた女が邪尾刀を、不思議な模様の魔法陣の中央に置き、結界を張っていた。結界の中には蒸気のようなものが立ちこめていて、刀を隠していた。
結界を張っている女の横で、レイは その光景を眺めていた。
「素晴らしい刀ですわね。さすがレイ様ですわ」
と、女は刀を褒めた。しかしレイは動じない。いやむしろ、当然といった顔だ。
「この刀は……俺が作ったわけじゃないが。しかし、素晴らしい芸術作品とも言える」
と、刀をまるで自分の子供か玩具のように見つめている。女はそれを見て少し微笑んだ。
「この刀を大事にしてくれ、さくら」
レイは そう言い残して一人その部屋を去った。
さくらと呼ばれた女……は、引き続き結界を張り続けた。
「もちろんですわ、レイ様。私の力で、必ず」
と、さくらはレイが去った後に話しかけた。
(レイ様は今、何を考えていらっしゃるのかしら……。ううん、きっと私の考えでは、とても及ばぬ所にあるのよ。そういう方だから……)
と少し寂しそうな表情を見せた。彼女にとってレイは、絶対の君主であった。とても慕っていた。とはいっても、レイの方は どうなのかは知らないが。
レイが さくらの事をただの下の者としか見ていなくても、それはわかりきった事だと思っている。さくらの一方通行であると知っていても、彼女は それでも よかった。
(私は いつでもレイ様の お側に居ます……。そして、命にかえてでも、レイ様を守りぬいてみせますわ)
彼女の決心や覚悟は固かった。
(でも……)
と、少し、首を捻った。さくらは、レイに対して ある疑問を抱いた。
(レイ様は なぜ邪尾刀の試し斬りを兼ねた四神鏡の探索に、あの村を選んだのかしら。あの村に救世主たちがいると、私の探知能力で わかっていらっしゃったはずなのに。わざわざ鶲を使って救世主たちを村から引き離して……一体 何故? そんな事までして、あの村を狙った理由は? それとも、何かもっと観点の違った考えがレイ様には おありなのかしら?)
そこまで考えて、フッと笑った。
(……私なんかに、レイ様の お考えが わかるはずがありませんわ)
寂しい自分を堀り起こす。そして力を休む間もなく、レイの芸術作品であるという邪尾刀に向ける。それが今 彼女にできるレイへの忠誠の証でもあるのだった。
不気味に光輝く月。
その光に照らされた楓ちゃんの顔は、正気じゃなかった。片手で鎌を、私に向かって振り下ろした!
間一髪……で、私は それをかわす。
「か、楓ちゃん……危ないよ」
と、まだノンキな事を言っている私。目の前の殺気が いまだ信じられず、戸惑う。
体勢を整え、また襲いかかろうとしている。
ジリジリと追い詰められ、私は ついに その場から背を向けて走り出した。
とりあえず、逃げよう。
と、私は思った……矢先、足が止まる。
なぜなら、前には重傷を負い止血して寝ていたはずの村人たちが ごった返していたからだ!
楓ちゃんと同じく、手には鎌の他、クワや包丁を持ってね。
なんか、この光景って見た事がある……そうだ、こっちの世界へ来る前に見た夢の中の光景と似てるんだ!
忘れたはずの夢を思い出して少し感激……どころじゃないよ、コレ。
後ろには楓ちゃん、前には村人たち。
当然、横に逃げるでしょ。
ここまでは、あの夢の通りよね……なんて思いながら。
しかし横に動いた瞬間、やっぱり夢の通り誰かに ぶつかった。だけど、金髪でも赤い瞳でも女でも無かった。横にいたのは、よく知っているセナだった。
「セ、セナ……。皆が……」
と言いかけて、ハッとした。
セナの手が、私の首にかかる。顔は やっぱり正気じゃ、ない!
何コレ、何なのコレ!? 集団催眠!?
私は慌ててセナの手を振りほどいた。危うく、首を絞められるところだった。私は反対側へ走った。
しかし不運て奴ぁ、重なるもんだ。走った途端、ぬかるんだ地面で滑って転んでしまう。
しかも、足を くじいてしまって動けない。
その間、確実に村人+楓ちゃん+セナの集団が私に近寄ってくる。
その顔といったら!
「や、やだあぁ!」
と私は“殺さないで!”の体勢をとった。
万事休すぅ!
……と目を固くつぶったのに。何も起きなかった……。
恐る恐る目を開けると、村人たちの姿が 何処にも無かった。代わりに、視界いっぱいにスモークが立ち込めていた。
何だろう、一体何が起こったのだろうと考えているうちに、何故か眠気が突然に襲ってきた。クラッと体が傾いた時。
突然、誰かが私の口に後ろから白い布を押し当てた。
びっくりして、目が覚めた。そしてもがく。しかし、私の抵抗力よりも私の後ろで私の手を押さえこんでいる相手の方が力が強かった。
ひょっとして、レイの刺客!?
だとしたら、私は殺されてしまうの!?
助けて!
《第7話へ続く》
【あとがき】
レイのセリフ「人間は万物以下〜」は、今度気晴らしに誰も居ない所でこっそり言ってみようかと思います。きっと盛り上がるに違いない。
……見られたら沈もう……。
※ブログ第6話(挿絵入り)
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-39.html
ありがとうございました。