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第55話(青龍、封印とその法)


 私は普通の夢を見た。疲れた体を癒す時間に見る、普通の夢を。

 悪い私もそこには出てはこないし、見た事もないお化けや有り得ない状況も出てはこない。ただの……昔を思い出した夢だった。

 一つじゃなかったけれど。

 セナの言葉だ。

『ちょっとつまずいたり疲れただけで止めちまうような、そんな生易しい旅はしてないだろ、俺達は』とか。

『例えば、この道のりがレイに辿り着くまでの障害や困難だったとしたら』とか。


 私が歩むこの、選択して運任せな道を『階段』に見立てていた。

 引き返さない。上りきらなくちゃ。途中で休んでもいいんだ。諦めちゃ、本当にそこで終わりなんだ……それをセナが教えてくれた。まだ子供な私にセナは……。

 ありがとう、セナ……。

 こんな頼りない泣き虫な私に尽くしてくれる、皆。

 ありがとう。

 ありがとう。

 あれどうしよう? 変だな。同じ言葉を繰り返してばっかりだ……。




 暫くの休眠をとる七神と勇気、天神達。海に浮かぶ島は、夜闇の中でこちらも活動を停止して静かに休息をとっていた。醜き野心を持った『勇気』の方は、青龍とともに居たのを勇気は目撃している。逃げようと島ごと空を走り出したにも関わらず、何故か青龍らは追いかけては来なかった。一体何故――


 激戦でくたびれ果てていた体を少しでも回復しておこうと意見は一致し、皆は野原に敷かれたシートの上で適当に横並びですぐに寝静まっていった。カイトやゲイン、ヒナタは大音量のいびきを面白くかき、マフィアも蛍や紫、セナも。目を覚ます事なくぐっすりと寝入ってしまっていた。

 もちろん、並んだ中で勇気も。怖くはない夢の中で、“ありがとう”を繰り返していた。


 この時に起き出していたのは、天神と、アジャラとパパラ。3人ともは、見るからに崩れかかった神殿の真下の地下、奥に居たのだった。


 一応に僅か数十分の睡眠をとった後に天神は、島の操縦室と思われる一室へと向かい。部屋の中では交代に島の外を見張っていたアジャラ達に声を掛けたのだった。

 それにびっくりしたアジャラとパパラは冴えた目をさらにいっそう冴えさせて、訪れた天神へと振り返った。

「お疲れ様です……アジャラ、そしてパパラ。私の及ばぬ力のせいで迷惑を散々にかけてしまい、酷く申し訳ない……すまない。そして……ありがとう……」

 天神は首を前に垂れ、痛そうに顔をしかめていた。涙目になったのは天神ではなくアジャラやパパラの方で、パパラは駆けて天神に抱きつき、うああ、と声を荒げて大振りで一挙に泣き叫び出した。

「嫌や……! 謝らんといてや天神様! わてらが……天神様をお護りできんかったばかりに……堪忍してやあ……!」

 嗚咽も兼ねて素直なパパラに、天神は感激していた。

「パパラ……」

 天神の口元は緩み、瞳に安心が浮かんだ。傍のアジャラは手でにじみ出た涙を振り払っている。

 3人を取り囲むように暗室の室内には、立体的な風景が映し出されていた。いかにもそこに存在するかに見せかけた立体映像。物体が実際にそこにある訳ではない。

 映し出されているのは、地上何処かの町並みだった。家屋や商店などが並んでいる。人は――。

「よくぞ2人ともは無事で。私もです。もはや、私にはそれだけです……命ある事に、これほど感謝した事などない。アジャラ、パパラ。喜びましょう……我に、命、残された事を」

 人という人は、一人も取りこぼす事なく全員が倒されている。

 家屋の壁に背をもたれかけさせて絶している者。道にうつ伏せて倒れている者。井戸に身を投げ入れる真似をするように寄りかかっている者。

 母と子と抱き締め合う形で椅子に腰掛け眠っているように息を引き取っている者達。同じく眠るようにベッドで安らかにしている者達。晩酌の途中でテーブルに突っ伏したまま意識を失い返っては来ない者達。苦しそうに胸を押さえて床でうずくまっている者達……。

 数えが困難な者達の末路。皆はどうした、何があったのかと。

 聞かずとも、天神達は……知っている。

 これが――復活の。

「気が狂い朽ち果てたか、龍の体からの異臭にやられたか。毒の息か。風の悪戯(いたずら)。何と(むご)い……幾百年経ち、この光景をまた見る事になろうとは。神獣め……神獣めええ!」

 ダンンッ! と、天神のコブシは床に吸いつくように振り下ろされた。その勢いで屈み込んだまま、苦虫を噛みつぶしたような顔で穴も開かない平然とした床を激しく憎んだ。

「気を確かに……! 落ち着き下さい! 天神様!」

 アジャラが駆け寄った。パパラも心配そうに肩を震わせる。

「ああ……すまない、大丈夫なんだが……大丈夫だ。それより……」

 チラ、と一方を見た。視線の先には、別の映像で勇気達が休んでいる光景が映し出されていた。

 天神は、一旦は目を逸らす。勇気達のこれまでと我が身の不甲斐無さを思うと悔しくて悔しくて堪らなかった。よくも、よくも我が子――人間達を、と。

 息ためた息を大きく吐き、天神は意を決してアジャラ達に指図した。

「……後30分後でいい。皆を起こせ。これから青龍の所へ戻り向かう」




 神殿から少し離れて。スカイラールもスヤスヤと骨と羽を丸めて地面の上でうずくまり寝息を立てて過ごしていた。

 スカイラールに護られて。毛布を敷いた地面の上でハルカは、カイトとマフィアの持っていた上着を上に被せられていまだ目を覚まさないでいた。

 夢のようで、夢ではない夢を見ていた。登場する人物は誰もおらず、それはハルカの願望にしかすぎなかった。

(レイ……)

 少しの肌寒さが、ハルカには応えていた。レイの行方は知れず……セナからの攻撃と、レイが手に持っていた卵に似た物の殻を握り潰す瞬間を見たのとは同時だった。衝撃を受けた後、ハルカの内に棲みついていた黒い“影”は混乱に紛れて言ったのだ。(たの)しげな、可愛らしい女の子の声で……。


『レイは 死 ん だ よ』


 レイが死んだ? 有り得ないと。内から湧いてくる物から逃れられない。ハルカは何者かに支配されていた。もはや自分を突き動かしているものは何なのか。頭も意思も働かず、何故か体だけは動いているようだ? ……何だこれはおかしすぎると、浮かぶ小さき疑問も徐々に消されていった。

(レイは生きているわ……)

 ハルカの心は夢に取り残されて。表は人の形と書き『人形』と化していく。

「ピュイ……」

 スカイラールは鳴いた。誰の何を思ってか。笛の音色のように響いていた。

 月は銀色に姿を変えて皆の頭上を照らす。光が行き届いても地表は冷たく温かさはなかった。



 ね、眠い。

 外の野原へとやって来た天神様達は、私達を順に起こして地べたに正座したまま待ってくれていた。全員が起きるのを。両隣にアジャラとパパラも正座していた。

「勇気。“七神創話伝”は、何処まで知っているのですか」

と、天神様は私達、いや私に聞いてきた。ムニャムニャと口の中の渇きを潤している私。

 まだ完全に目が覚めきっていない私を含め皆だったけれど。何とかヨイショと疲れの取れきっていない重い体を動かし始めている。両目をこすりながら。

「ええと……」

 数秒ほど天神様の言葉を頭の中で回転させつつ。意味を理解していった私は、すぐにメモ帳を取り出しに荷物の所へ向かって行った。帰ってきた後にそのメモを広げて声に出して読んでみる。

『この世に四神獣 蘇るとき……』から始まる各章を順に読み上げていった。そして『世界を統治し……』と読みかけた所で。天神様からストップの声が突然にかかる。

「第五章を飛ばしましたね。何という偶然なのか……つい故意では、と疑ってしまう事よ」

と、そんな事を言って眉間にシワを作る天神様。一体どういう事なんだろうか。よくわからない。少し寝ぼけているせいもある。


「いいですか勇気、第五章を告げる前に。そもそも、“七神創話伝”とは何だったのかをお教えします。“七神創話伝”とは、私があのクリスタルに閉じ込められていた時に立てた苦肉の伝達手段だったのです。チリンを生む前に」

 私が『え?』とした顔で見ると、天神様は続けた。

「どうか届いて下さいと願いを込めて。時間魔法という僅かな力を使って、過去のあらゆる所へと飛んでいったはずです。勇気、あなたに伝わればいいと信じて」

 そんな事を聞いた。私は驚く。「そんな事だったのですか……」


 もしや呪文ではないか。もしやこれが旅のヒントに?

 そんな事を考えていた。当たらずとも遠からずといった所じゃないだろうか。私や皆、文章に織り込まれた言葉に様々な思いを馳せていた……ああじゃないかこうじゃないかと。

 私も獣とか、鏡とか……色んな事を思っていた。


 でも。ちゃんと私の元へと届いている。素晴らしい事だ。

「あの『もう一人の救世主』は、時空さえ支配できるかもしれませんからね……全て私のしてきた事は、賭けでもあったのです。チリンもそう。いえ、時すでに。チリンという存在はバレていたのかもしれません。あなたが一度元の世界へ戻った時に、チリンは姿を現わしていますから」

 私は「ん? そういえば……」と思い出す。

 というのは。私が元の世界に帰るように仕向けたのって……夢の中の『私』じゃなかったかしらって事。確か“聖なる架け橋(セイント・ブリッジ)”の在り処をわざわざ教えてくれたのは、『私』だったはずでは……?

「何で私を元の世界に帰そうとしてくれたのかしら……だって帰って来ないかもしれなかったのに。第一、記憶がなかったし」

 すると天神様は「記憶を消したのは私です」と言い出した。

「ええ!? 何で、いつの間に!?」

 私一人で盛り上がっている。セナやカイト達も私の隣や後ろに居たんだけれど、天神様との会話を一切妨げずに聞くに徹していた。

「帰って来ないようにと、チリンの力であなたに術をかけました。あなたにも気がつかないくらいに成功したのでしょう。あの『もう一人の救世主』にバレたら、一巻の終わりですからね。きっと記憶を持ったままだと、あなたはいずれまたこちらの世界に来てしまう……私は過去、あなたのような救世主を数多く見てきました。だから確信を持って言っています」

 私は頷いてしまっていた。

 もし、記憶があったままで本当の私の世界で一生を過ごせたかというと……あまり自信はなかった。だって。


 横目でセナを見る。そして顔を赤らめてしまった私。

「何だよ?」

 私の視線に気がついたセナは、何でもない顔をしていた。「いや、別に……」

 私が天神様の方へ向き直すと、微かに天神様の口元が吊り上がって微笑んでいるような気がして私は赤苦い顔をした。

 話を続けましょう。そうしましょう。


「あの『救世主』は、私の部下のアジャラとパパラを洗脳してあなたの世界へと送り、連れ戻させたようですね。そんな事をする事態になったのも、私があなたの記憶を消したせいでしょう。記憶を消さなければ、勇気、あなたは自然と戻って来たはずだ――私と同じく、向こうにも確信があったという事なんでしょうね。いいですか勇気。あの『救世主』は……あなたで遊んでいる……苦しめばいいんですよ、あなたが。あいつは。あなたは、帰りたかった。元の世界へ。あの時。そういう心境だったでしょう……?」


 私は天神様の言葉の一つ一つに頷いていった。確かそうだった……私は、あの時にどうしても突きつけられた現実から逃げ出したくて、帰る事にしたんだ。逃げる、なんてセナ達を裏切る行為。今から思えば、あいつ……『もう一人の私』にしてみれば、しめたもんだと思ったんだろう。そういう事だ。

 私の苦しみが悦びなんだと……言っていた。

 私が苦しむためなら、何だってする。

 遊んでいる……私達で。苦しめば苦しむほど……ああ……。

「チリン君の存在が……『もう一人の私』の誤算だった訳か……」

 悲しくて、何だかたまらなかった。


「それでは、第五章です」

 顔を上げた。お腹に力が入る。天神様はそう言うと、一つ咳払いをして私の顔を真っ直ぐに見直した。惹き込まれる瞳……強い引力だった。私の目を捉えて決して離さない、決意や真のこもった瞳。そしてそのまま天神様は息継ぎとともに、ポツポツと言葉を坦々に語り綴っていった……。


「『第五章 “救世主”……


 或る時 玄武が降り立ちて 地に死という名の雪を降らしたり

 其の時 救世主という名の人間 自らの血と肉をもって 玄武を奥深くへと 封印す

 また或る時 朱雀が降り立ちて 地に死という名の光線を浴びせたり

 其の時 救世主という名の人間 自らの血と肉をもって 朱雀を奥深くへと 封印す

 また或る時 青龍が降り立ちて 地に死という名の風を吹きあらしたり

 其の時 救世主という名の人間 自らの血と肉をもって 青龍を奥深くへと 封印す

 また或る時 白虎が降り立ちて 地に死という名の毒をまき散らしたり

 其の時 救世主という名の人間 自らの血と肉をもって 白虎を奥深くへと 封印す

 救世主は自らを生け贄として捧げ 四神獣の腹を満たし

 生涯を遂げるものとす

 満たされた四神獣は 封印という名の眠りに陥りたり』」


 ……そこで途切れた。



 ……。


 ……。


 辺りは、シーンと静まり返っている……。

「……死という名の……」

 ヒナタが私の背後で言った。私は振り返る……何も考えずに。

 それからヒナタと目が合ったけれど特に何もお互い返す事はなく。私は前に向き直した。そして皆の反応を待って……でも。誰もが固まってしまっているようで、動き出そうという雰囲気が暫くなかった。


「生涯を……」

 マフィアが声に漏らす……それが堰を切った。

「救世主を……」

「生け贄……?」

「生涯を遂げるだと……?!」

 皆が皆でまくし立てる。ざわめきが激しく私の背後で口々に暴言を交えて飛んでいった。

「……どういう事だ! 勇気が死ぬとでも言うのか!」

「説明して下さい。納得がいきません!」

「……ふざけんな! ……畜生!」

 皆は(いか)っている。本気で言っているのがわかる。それぞれが地面を叩き、手が震え、目は血走っていた。沸々と、心の底から感情が沸いているのがひと目でわかる。

 でも天神様は落ち着いてそれらを見守っていた。何も言わずとても落ち着いて。

 私は……。

 私だけは……メンバーの中で、私だけは……。

 黙っていた。

「勇気! わかってんのか!? ……お前、死ぬんだぞ!」

 誰かが私の両肩をぐいと引っ張る。私を向けさせたのはカイトだ。カイトの顔が私の真正面にあった。怖い顔をして。

 私は相変わらず何とも言えない顔をして。無反応な顔をして……。

 他人事だと思っていたかった。

 天神様の言葉を思い返した……



『生涯を遂げるものとす』



 いきなり。どしんと、重くのしかかってきた。何かが私の中に。

 それでも何も言葉も感情も出ては来なかった。

「神獣……青龍は、異世界の少女の肉が好物なのだ。そこで、七神の力のエネルギーを凝縮させ、それを持って救世主――即ち『生け贄』は、青龍の体内に侵入する。それからエネルギーを解放し、内側から青龍を攻撃するのだ」

 天神様は続けた。

「しかし、それでも青龍は倒せない。だが青龍を体内から刺激する事で、睡眠作用が働き数百年余りの眠りにつく事ができるのだ」

 それが青龍を大人しくさせる法。手段。私が皆の、七神として集めたエネルギーを持って青龍の中へ入って。そして、解き放つ。そうすれば青龍は――

「生き残れた救世主は……」

 セナが呟いた。まだ夜の暗い周囲の中、小さい声のはずがよく響いてこだまさえ聞こえた。

 生き残れた救世主は……



 天神様は首を振った。



「ゼロだ」

 一同は金縛りに襲われる。

「一度体内に入った者は、二度と出ては来られない。青龍とともに封印され――朽ちていく」

 朽ちていく……。

 私の中に植えつけられたモノ――死。今まで散々と頑張ってきたというのに、結局行き着く所とは……私の未来とは……ねえ……?

 誰の顔も見られない。

「何とかならないわけ……ちょっと! そんな顔してないで、何とかならないの!? あんた、神様のくせに!」

 一番後ろに居た蛍が興奮して叫んでいた。紫が落ち着いてと両肩に手を置いている。皆は一斉に後ろを振り返っていたけれど、また前の天神様の方に向いた。そして。

 お通夜の最中みたく、だんまりとした時間を過ごして。やっと私は口を開いた。でもそれは……皆を笑わせるものでは断じてない。私は……自分の頬にカツ入れし、しばく思いで天神様の面前で公言する。

 ハッキリと言った。

「わかりました。私、やります」

 当たり前のように周りは騒ぐ。「勇気……!」

 固まった表情をした私は崩す事はなく、鬼にでもなったつもりで言葉を吐いた。

「私が生み出し招いた事です。責任をとります」

 セキニン、なんて滅多に使いたくないなと思いながら。思いが伝わればいいと思った……思う。

(私が鏡を割らなければ……あんなものは生まれなかったんだ、か……ら)

 そう思う事で悲しさがまぎれるような気がした。現にそう。妙に心の中がスカッとしてきていた。ああこれが……『けじめ』って奴かもしれないよね。うん。

 うん、何だ。簡単な事だったじゃないか。私が死ねば、済む事だ……何をそんなに悩む事があるんだろうか……。

 変なの。皆が悲しそうな顔をしている。何で。

 こんなに楽なのに…… 楽 な の に 。変なのお……。


「似ています……あなたも」

 天神様は目に影を落とし、私を見据えていた。何?

「代々の救世主――白虎の救世主、氷上も。同じ瞳をしていました。私は、救世主には毎回。元の世界へ帰ってもらっていたのです。もうこの世界には戻ってくるなと言いつけて。それでも彼女らは帰ってきた。……今のあなたと同じ瞳をして」

 私と同じ瞳を? ……自分じゃわからないけれど。どんな瞳をしてるんだろう?

 辺りを見回してみても、皆の沈んだ顔しか見えなかった。

 私一人だけが置いてきぼりみたいだ。どうしてこんな風にしか思う事ができないんだろう。私は……私は……。

 私は!


 その時だ。そばで誰かが立ち上がる。


 セナだった。

 あまり音も立てずに、手をついて立ち上がる。

 天神様に、いや、誰に向けてでもなく突然に言い切った。

「青龍を倒す」

 私を含め皆が呆気にとられて、立ち姿が締まるセナを見上げていた。突然何を、とでも言いたげな皆の注目を一身に浴びて、セナは段々と感情的になって声を荒げていった。

「救世主一人に全てを負わせない。ココは俺達の世界なんだ。黙って見過ごすか! ……俺の命くらい賭けてやる。責任は、一緒にとる。何度でも同じ事言うぞ……


 俺の命くらい、く れ て や る 」


 そんな事を言い放ったセナだった。「セ……」私の震えた声が出かかって。

 今度はマフィアが立ち上がった。

「そうね……そうよ! 私の命くらい、あげるわ! 一人にはさせない」

 そうしたら今度はヒナタだ。

「無駄死にはゴメンだ。青龍を倒すために、俺も命を賭けるよ!」

 次はゲイン。

「おうよお! 辛気臭い顔をしよってからに。戦わずしてどうなろうか! 自分の命くらい賭けられないでどうする!? おなごをみすみす死なせるなんざな!」

「どうせなら戦って死にたいさ。ココまで来たなら」

 カ、カイト。

「同意です」

「七神じゃないからって、のけ者にしないでよ!」

 忘れちゃいけない紫蛍のコンビ。

 全員、立ち上がった。いつの間にか。

 正座していた私は、立ちあがった皆に囲まれている。一体いつの間に? ああ……。


 あたたかかった。


 セナが、ニッと口元で笑う。

「決まりだ」

 私と、天神様を見下ろしていた。呆れている私達を面白そうに見ている……呆れた。

 上手い言葉が見つからないじゃないか。全く――


「ありが……とう……」


 いざって時に言葉って使えないものだったんだね。だって顔が熱くってさ。

 涙が邪魔してるんだから……。



《第56話へ続く》





【あとがき】

 変な力が入ってしまう。あてててて。


※ブログ第55話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-127.html


 ありがとうございました。




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