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第51話(四神鏡、揃う)


 沈黙で闇の部屋から。

 レイは音もなくまぶたを開けた。


 目覚めの時。それが今。

 静かに身を起こす。

 他に生物のいない暗闇の中で。レイの耳や感覚は、機能を試そうにも何もない。

 ここは何処なんだと普通は思うはずだった。でもレイは。

 最初から全てを知っている。

「ふ……」

 喉の渇いた奥から、すり抜けた声が聴覚を刺激した。してくれた。

「どいつもこいつも……俺を笑わせる……」

 正確に発音される。咽頭は衰えてはいない。声も通る。確かめた。

 だからか、レイは次に大声を。「ハハハハハ!」

 暗く見えない天井へと向かい激しく体をベッドの上で上下させて踊り狂う。ダン、ダン! と自分のヒザの上に固く握られた手は押し叩かれ、目尻からは面白すぎたのか涙がこぼれた。

 何が可笑しいと指摘をもし受けても返さない。レイはベッドから降り立ち上がる。

 さあこれから。

「いよいよ……」

 夢を見ている子供のように目を輝かせていた。

「実現する」

 レイの夢は。……もうすぐ。




 私は仰向けで倒れていた。床が冷たくて目が覚める。

 目を開けても暗闇。閉じても真っ暗。光がほしいなって思うんだ。いつもいつも。

 私は新たな疑問を一つ増やして思った。私がセナと会ったり、いつかはハルカさんとも対面した都合のいい夢。いつもフィルターがかっているみたく灰色っぽく色の少ない視界、水面の上に居る事が多くて。上を歩いているんだけれど何故足は沈まないのかという、それは。

 私の足元がいつもおぼつかない――心が不安定だから“水の”上なんじゃ? そうか、そうなんだ。私がフラフラ決心がつかないでいるからなんだ、いつまでも。

 と……ここまでを、起き上がりもせずに ぼうっと考えていた。すると、頭上からだった。

「勇気……」

 誰かが私の名を。私の名前を知っている者。

 男の声で。「セナ!」私は跳ね起きる。

 セナと叫んだのは私だ。声質ですぐにわかる。好きな人の声。

 黒の物質が沈殿された闇の部屋の中で、浮かび上がる顔、姿形。間違いなくセナだった。夢の中で私を抱き締めてくれたまんまの。変だ。もう遠い昔の事みたいだった。

 私は駆け寄る……でも『壁』にぶつかってしまった。

「何これ……見えなかった」

 鼻を押さえながら、固い物……透明だったガラスの壁に手を触れた。どうやら、ガラスを伝っていっても終わりがなく。囲んで、『部屋』になってしまっているようだった。

 そしてその中。壁を挟んで向こう側にセナが弱った顔をして私を見ている。セナの力でも脱出は不可能だったんだ。まあ、それもそう。だから逃げられずにココにいるんだしねー。

「そうだ……これなら」

 私は腰の鞘に手をかけた。そして、利き手の右手で剣を抜く。そう。

“光頭刃”だった。

「斬れない物はないはず……よ」

 ゴク、と息を呑む。まさか剣が折れやしないでしょうねと刀身を見た。切っ先まで睨んだ後、思い切り振りかぶってみる。セナは壁のそばから2歩3歩と後退した。様子を見ていてくれているらしい。

 果たして私の力で何処まで。「せえ……のっ!」

 ガァン!

 手が痺れた。「……」

 勢いよく割りにかかったが……ガラスは平然と構えていた。やはり私の非力さではダメなのかな。

 そう思っていたらだ。

 ピキ……ピキ、ピキ、ピ、キ……

 ヒビ割れが生じた。「……!」

 体が動かない。それはセナもだ。ガラスがどうなるのかを私達は見守った。

 やがて……パンッ。

 私が直撃を食らわした箇所を中心に、細かくヒビ割れは蜘蛛の巣を描くように割れ目を作り上げていき、終いには弾けて破片を四方に飛ばした。

 衝撃に一瞬ササッと避けたが、すぐに見直してみると。ガラスの壁にポッカリと穴が空いているじゃないか!

「やった……!」

 見たか。“光頭刃”の威力。鼻が高くなる。

「やったな、勇気! スゲーよ!」

 セナが穴をくぐって私に近寄って来る。私も走り寄ってセナの手を取ろうと余韻で残る手の痺れを我慢して頑張った。「セナ……!」

 ああやっと会えた。触れ……。

 ……なんて喜ぼうと顔をほころばせた直後だ。


「そこまでよ」


 ピタリと静止した。ギチャリ、と。私の足の下で踏まれたガラスの細かな破片達が音を立てる。敵だと察知しセナには背を向けた。

 私とセナで敵と思われた相手を見据え……そうよ。今のは敵の声。あなたは。

「さくら」

 私は名前を呼んだ。はいという返事ではなく「救世主、久しぶりですわね。忘れもしませんわ」と返していた。

 さくらとは前に戦って――覚えている。私はさくらにこっ酷い目を味あわせたんだった。正直、あんまり記憶にない。ちょっと私が変なハイ状態だったもんだから。

 さくらがこんな所に居るという事は……?

「あなたは不思議ですわ……本当に、『何か』に導かれるようにココまで……おかげでおびき寄せる手間が省けて。あなたは、何者なんでしょうね。まあ、もうどうでもよろしいでしょうけれど」

と、さくらは奇妙な事を言った。奇妙なのは私という存在の方? 気分のよい言い回しじゃなかった。

 そういえば、何で崖から落ちてこんな所に来たんだろう。始めから崖はあったのだろうか? あの手は、魔物? 引きずられて……そして気がついたらココに。ココは、ちょうど地下だったのだろうか?

 上を見上げる。

 天井に穴が空いていたんだろうか。暗くて見えないからハッキリしない。

 それともブラックホールに落ちたとか? それはないか。

 まあいい。考えたってわかりようがないなら、いっそ放棄する。

 それよりも……。

 さくらは、艶っぽい口唇をひと舐めした後、片手を高々と掲げた。何?

 術だ。さくらの上方、頭上に近く。後ろに何面かのスクリーンが出現した。もう知っている。ココではない遠くの状況を映すスクリーンだった。映画じゃない。何処かで実際に起こっている事が映し出される。

 暗い部屋で発光めき、目は吸い寄せられて息を呑む。

 それは何処かの戦闘シーンだった。いや、映画なんかじゃない。

 始めに見つけたのはカイトだ。

 その次にヒナタ。隣にゲイン。短剣や魔法を使い、敵と戦っている。

 相手は(ひたき)や紫苑。それから。

「げ……」

 セナが嫌な声を出す。「あれは……!」

 私は全身に寒気が走った。さっきの体験を思い出したからだ。足首を掴まれた――。

 鶲達だけが敵じゃなかった。あれは魔物だ。ええと、泥人形?

「ゴーレムだ」

 セナが教えてくれた。そうだ。ゴーレム。本を読んで知っていた。彼らを作りし者の命令にだけ遂行する、いわば土や石でできたロボットか。現に泥で塗り固められた体をしていて、カイト達に襲いかかっているではないか。

 人間と同じくらいの身長だけれど服も着ず全身が泥だ。顔もなく、動きはトロいが倒しても倒しても起き上がってきてしつこくキリがない。

 しかもその数が多すぎる。カイト達はどうやら苦戦しているようだ?

「マフィアは何処!? 蛍達も!」

 映っているスクリーンには、私が言ったメンバーは姿がなかった。何処!?

 特にマフィアだ。だってマフィアは。

「マフィアあ!」

 私は画面の前まで駆け出す。さくらなんか今はどうでもよかった。

 マフィアは私が崖から落ちる前、背後から杖で攻撃されたのだ。一突きに……。

 そしてそれを実行したのは。

 ああわからない。

 私は自分の目で見たものがまだ受け入れられないでいる。マフィアを襲った人物……達が。

 アジャラとパパラだったなんて。

「!」

 画面の端にチラリと見えた。マフィアの、赤いチャイナの服が。でも。

 一人ではない。蛍と紫くんも一緒に居て。取り囲んでマフィアをサポートしているように思えた。きっと……。

 見ると、マフィアの背中から痛々しい傷跡が。破れた服の隙間から、血の滲んだ服の奥から。杖で刺されたんだ。でも立って、戦っている。「いや……!」

 血は止まっているのだろうか。手当てなんてしている余裕はなかったんじゃないだろうか。このままでは、マフィアが。

 一度私は顔を背ける。私が何故一人、ココに居るのだと責めたい衝動に駆られそうになる。何のために神の剣を持っているんだ。せっかくの不死身の体を棒に振るようだった。

 そしてピンと弾かれたように思い出す。ココにもそこにも居ないレイではない人物の事を。

「ハルカさんは!?」

「ハルカはどうした!?」

 同じ事を思ったセナと声が重なった。

「ハルカ様はレイ様に付きっきりですわ。会いたいんですの? お2方」

とさくらは冷ややかにつまらなそうな顔をした。

「ああ。レイにもだ。会って、こんなバカな事を止めさせる。あいつらにだって想像くらいつくだろう。四神鏡を揃えて青龍を呼び出したら世界はどうなると天神、もしくは神子(みこ)は言っていた? 何故わからない。何故止めない。そんなにレイは天神がまだ憎いか。もう充分だろう……? 天神は充分に苦しんだ……もういいじゃないかよ!」

 最後は叫びになったセナ。セナの精一杯の訴えは、私には痛いほどよく伝わる。

 セナの言う通り、どうして……!

 何が彼らをそうさせ動かしているというの。

 休む間もなく戦闘が続き映りだされるスクリーンを背景にして、『泥沼』という陳腐な劇が繰り広げられているんだと思った。しかし終わりが見通せない。

 そして。

 どれだけ訴えた所で、肝心のレイ達本人が居ないと話にならなかった。

 さくらに言っても。

「私に言ってもムダですわ。私はレイ様の仰る事が全てですもの……いい事を教えて差し上げる。四神鏡はすでに今。3枚を揃えてますのよ」

 さくらはとんでもない事をサラリと言ってしまった。

「!」

「何ですって!?」

「あと1枚。あとたったの……1枚なのですわ。ああ、4枚目が姿を現した瞬間。ついに……ついに、青龍が……!」

 あはは、と笑いながらさくらは自らの言いように酔いしれる。

 ついでのように地震が起こった。


 ゴゴ……ゴゴゴ……


 さらに鼻につく笑いを披露するさくら。長く麗しい髪も何だか台なしだ。全てが下品に見えて仕方がない。

 そんな事にも自覚がなくさくらは口元に手を当てて、オホホ……と上品そうに笑う。

「青龍ですわ。いまかいまかとお待ちのよう……そういえば、ご存知だったのかしら? ――ココですのよ、青龍の眠る地は!」

 私達には信じたくない事実ばかり。もういっそ慣れてしまえばどんなに楽か。

 さくらの耳につく嘲笑がいつまでも私とセナを苦しめていく。もうやめて、うんざりだ。

 とにかくレイに。

 会いたかった。

「あはは……はははははは」

 戦闘では、ヒナタがゴーレムに羽交い絞めにされ、カイトが助けに敵の背後にまわる。カイトは技を繰り出すが、どうやら度重なる技の連続使用でいつものキレがないように感じられた。疲労は残酷だ。ゆっくりと身体を蝕んでいく。

 私達は、何とか弱い生き物なんだろうか。

 どうすればいい。どうしたらいい。

 教えて……! 天神様……!

「は……」

 愉快だったさくらの顔が急に引き締まった。スウッと、吊りあがっていた頬の筋肉が大人しく引っ込む。

 ……? 何が起きた? 「……」

 さくらは黙ってしまっていた。代わりのように、強張った顔を下方へと下げる。

 さくらの……。

 さくらの、お腹から刃先が10センチほど突き出ていた。

「え……」

 生の声を出せたのは私だけだった。驚きで何も出ない。

「さく……」

 再び。でも誰も何の反応もな……い。



 レイがさくらを刺している。



 後ろから刀を。邪尾刀だった。勢いあったか、思いきりにと……一突き……だ。

 一体いつの間に、そして。何故……?

 レイとは相棒のようによく似合っている禍々しい邪尾刀からも、さくらの体からも。血液は一滴も出てはいなかった。さくらは呆然とする。それから。

 穏やかな顔になった。

 それも何故。

「レイ様……」

 さくらのヒザはゆっくりと沈む。ヒザをついた後、斜めに傾けた体は静止する。濡れたような髪は長く垂れ流して後ろに。背中は反り気味に。刀が刺さったままで。後ろに居る攻撃者は、まずはと挨拶をする。

「ご苦労。さくら。お前達の功績は高く評価しよう。お疲れだ」

 刀を抜く。ズブリ……。

 ただ刺してみましたの遊びのようだった。あまりにも無慈悲な。

 忘れてはならないとの確認でもある。レイは……残酷な奴だったじゃないか。

 刀を抜かれたさくらの体はグラリと前に倒れかけ、やがて持ち直して傷跡を確かめようとした。

 しかしすぐに。今度はレイの『手』自らが、さくらの背中からズブリと入れられた。

「ヒッ」

 思わず短い悲鳴を上げた私は手で口を押さえて。何とかこみ上げてきた吐き気を我慢した。ぐちゃり、ぐちゃりと肉の中に手を入れてかき混ぜる、聞きたくもない耳障りな音が。

 目を離せばいいのに凄まじい光景から神経が麻痺して拷問のように動けなくなった。

 これが現実? 嘘だ。

 だって血は出ていないじゃないか。

「俺は嬉しいぞさくら。起きたら……」

と、レイはさくらの体から艶ある白く丸い物を掴み取り出した。それは、……卵?


 まさか。


 取り出されたさくらはドン、と軽く突き出される。ほんの軽く押しただけなのに、さくらは力を失いほぼ抜け殻だった。長い髪が前に垂れて表情が飲み込めない。さっき見せた穏やかな顔をしたままなのだろうか。

 レイは知ってか知らずか満足に笑う。

「四神鏡が 4 枚 、揃ったのだからな」

 さらなる衝撃が私達を混沌へと導く。

「4枚!?」

 叫んだのは私だ。

 さくらはやっとの事で息を吐けたくらいで、小さな声だったが――話した。

「ずっと……疑問はございました。自分の体の事ですもの……人でもなく、鶲達のような造り物とも何かが違う……そう、何かが。異物が……私の中にある事を」

 レイの手に握られたそれは、湿り光っている。生まれたての卵に似て。むいたゆで卵みたいに、ぐにぐにと弾力もある。

「最後の1枚が私の中に……この目で確かめるまでは僅かにですが否定しておりました。申し訳ございません……」

 頼りなく両の手を胸に。……泣いている?

 俯いている。

「ずっとご存知だったのですね……レイ様、私は……」

 顔を上げた。

 泣いて……涙をツウと一筋ずつ流し、でも顔はとても。


 優しかった。


「……おそばに居られて。幸せでした……」

 さくらは倒れた。

「さく……」

 私が声をかけようとした時だ。

 もう一人の来客がスッと現れレイの隣につく。

 何処から登場できたのか、彼女は。

 ハルカさん。

 倒れ顔をこちらに向けていたさくらは、ハルカさんを見ていた。レイの隣にはハルカさん。さくらには、一番見たくもない光景(もの)。私の知らないさくらの感情がさくらの中で蠢いて。でも出る言葉に嘘はないんだろう。

「お幸せ……に……」

 事切れる。

 ハルカさんは眉をひそめ、レイに問う。

「四師衆が……死ぬ?」

 レイは目を伏せ、答えた。

「俺が死ねと命を下せば、死ぬ。入れ物……さくらは用済みだ。それだけの事」


 ……!

 私の全身がワナワナと震え出す。これがレイだった。あんまりだ。冷たくて――冷たすぎる!

 私の足が飛び出そうとするよりも先に、セナが飛び出していた。


「どこまで腐りきってやがんだ! レイィイッ……!」


 怒り狂ったセナが攻撃する。

 セナは穏やかではなかった。今までに見た事のない、物凄く恐い鬼の形相をしていた。足を片方一歩下げ、重心は前寄りに。引き構えた両手の中から渦巻く風の塊。

 ビュオオオオ!

 セナが気合いを込めて溜めた風は厳しい音を立てている。

「“風穴(かざあな)”!」

 セナの前に手は突き出され、奥で凝縮された風のエネルギーは敵と書いてレイに容赦なく向けられる。

 風穴、とは、風の大砲。風エネルギーは弾丸のようにレイへ発射された。

「ムダだ……」

 微かにレイがそう言ったように聞こえた。


 ドオオオオンッ……!


 レイとそばに居たハルカさんもろとも、白い煙で隠されていく。爆撃とともに。姿が完全に見えなくなっていった。

 オオオオオオ……

 残響音だけだ。頭にグワングワンとこもる、うるさい音。そして。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


「きゃあああああッ!」

「伏せろ!」

 地面が唸りを上げ、私達は立てなくなった。頭を抱えて屈む。屈んでもダメだった。セナもそうだ、滅茶苦茶な方向にそれぞれ転がっていった。「セッ……」ナ、と呼びそうになって舌を噛みそうになる。もはや何もできない!

(助けて!)

 地震が私達を襲う。ゴゴゴ。鳴り止まない止まらない。もう一度でも何度でも言う。

 滅茶苦茶だ。

 何処から響いてくるの。下なの上なのどっちなの。震源は――私は転がって上下が定まらない中、必死に何かにすがろうと手をバタバタとして宙をかいていた。



 ――ココですのよ、青龍の眠る地は。



 さくらの声だ。蘇る。

 酷くゾッとした。さくらがもうこの世にいないからじゃない。これは気配だ。私の中の危険信号が激しく瞬いて、点滅し警告している。

 危険だ、回避せよ。

 無理だ。足が地面に着かない。

 何て事だ、地面を探さなければならないなんて。


 ……


 フワ。


 体が宙に浮いていた。「……!?」

 重力とは、違う力を感じたのだ。何かが私に絡みつき、引っ張る力を。

「……!」

 白い煙と鋭い風が錯綜している中、暗い視界は視界のままだったが、遠ざかっていくように感じられた。段々と、離れていく。

 私の体の方が離れていく?

 ココは暗い部屋だったんじゃなかった?

 やはり天井に穴でも開いていたんだろうか。そしてそこから外へ?

「勇気……こっち向け」

 セナの声が。私のすぐ近くで?

 おかしいなと思って振り返ってみたらだ。見た途端ギョッと目の玉がひっくり返りそうになった。だってだって!

「セ、セナ?」

 私の体を抱っこ……格好からしてタイ○ニックの男女みたいなポーズになっているんだけれど。私を抱えていた。

 空の中でだ。ココは地の上じゃない、空中だ。

「いい!?」

 セナに驚いた訳ではなく。セナも、肩を掴まれて持ち上げられていたのだった。


 巨大な怪獣みたいな鳥に。


「くえええ!」

 奇声が聞こえる。何なんだ!?

「勇気! セナ! 大丈夫か」

 もっと遠くから親しげな声が。こちらからでは声の主が確認しにくいが、あの声と面影は。

「カイトお!」

 少しだけ覗かせた頭は、確かにカイトだった。

「全員無事だ! ちょっと負傷者が出てるけど、皆生きてる……こいつのおかげでだ」

 頑張ってカイトが居るあたりを細めた目で見上げた。鳥の背に乗っているカイト……他メンバーも居るらしく、声も聞こえて人が何人か同じ鳥の背に乗っているんだとわかった。

「ギャオース!」

 鳥は私とセナに挨拶しているのか上機嫌なのかがわからない。薄い水色の皮膚をしていて、怪獣と言ったが羽のついたドラゴンに近いんじゃないか。長い尾っぽ、少し緑を混ぜたたてがみ。太めの前足で、セナを掴んでいた。

 どうなってるんだああ!?

 すると、カイトの隣からヒョッコリと顔を出した人物が居た。小柄なその子。

「お姉ちゃーん。久しぶりだねー」

と、明るく、日なたの匂いでもしてきそうなほど素朴で温かそうな男の子。特徴であるクルリとした巻き毛の前髪。そのオーバーオールを着た子供とは。

「チ、チリンくん!?」

「やあー」

 ニコニコと笑っていた。どうしてココに!?

「もしかしてこの怪獣……」

 チリンくんが簡単に説明してくれた。

「手なずけてきたんだー。僕らに協力してくれるよー。いよいよだからって、助けにきたんだ僕ー。お役立ちー!」

と、片手でピースサインを作っていた。離れている私に聞こえるようにそれを言うとさらに。

「お姉ちゃーん、崖から落ちたでしょー」

と言ってくる。え、と私はマバタキを繰り返していた。何でこの子がそれを?

「地下に落ちて、上手い具合に風神の居る場所へと行けたみたいだけどー。気をつけてー。それはねー」

と、そこまで言いかけた時だった。


 グガアアアアァアアァアア……


 地表に轟く雷鳴のような叫び。金切りだった要素も含まれ、背筋を凍らせる。

 空中に浮かぶ私達からでは下の四方に見える景色。火の島。表面上では変わったものは特にない。中央に山ができ、囲むように岩や小山が並んでいる。

 一見、無人島だった。建物らしい建物がなく、人の気配は感じられない。人なんていやしないだろうと思う。

 ゴゴゴ……

 地鳴りは止まらない。島を含む世界全体が揺れているよう。

 火山ではないと聞いていた山は。

「!」

「山が……!」

 山の中から突如それは現れる。中から、内からだ。びっくり箱から飛び出した仕掛けなんかを思い出す。ピョーン、と山の中央を崩し『生まれた』生き物。

 それが。「せ……」

 私は今度こそ夢だと思った。思いたかった。

 だって。


 グルルルルル……


 飛び出してきたのは。



 青龍――!



《第52話へ続く》





【あとがき】

 火の鳥と間違えそう。


※ブログ第51話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-122.html


 ありがとうございました。



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