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第50話(火城へ)


 こんな地震は体験した事がなかった。

 立っているのが困難だ。身を屈めて、縮こまって治まるのを祈るしかない。

「もう……大丈夫みたいだな」

 ゲインが言った。私の固まって恐怖で縛られた体は、ほどかれる。

「どうやら……青龍が寝返りでもうったんじゃないか。ははは」

 なんてゲインは笑ってみせるけれど。私はとてもそのノリにはのれなかった。ごめん、ゲイン。

(四神鏡が2枚……揃い始めたからなんじゃ)

 不安が消えない。いつまでも。




 ゲインの家へ帰ってきて、私は床につく。夜も深い。ちゃんと寝ておかなくちゃと少々焦り。

 難なく眠りの淵へ。夢の中へ、スルスルと。疲れは忘れて別世界への境を越えて。誘われるがままに……いらっしゃいませどうぞだった。

「ん……?」

 寝言のようにも思えたけれど、違った。意識は夢の中にあった。白っぽい視界には水面がある。

 とても透明感のある水質だった。下に揺らぐ水草が見えている……が、ただの私が描いたイメージなんだろうか。ハッキリしない。ちょっと曖昧なんだけれど、夢なんだから……ま、いっか! と思い込む事にした。

 そんな美しい水面の上に私は立っている……のだろうか。重力を感じなければ、実感もないし、残念ながら私自身の姿は私の目には見えないのでわからない。しかし下には自分の足元だけが見える。やっぱり立っているんだな。

 微かだが、水面に私の姿が映っている。足を少しでも動かせば、波紋が一点から揺り描き出されて広がる。何処までも広がっていく……。

「あ……?」

 目で追っていったら、正面に誰かが居るのがわかった。水面から水が蒸発して雲か、それともガスでも発生しているのかどうだか。白い湯気が大きくたって。誰か、を覆い隠してしまっている。

「誰なの?」

 私の呼びかけに答えてくれるのだろうか。答えてくれなかったらどうしようと一抹の不安があった。

 でも払拭される。

「俺だ」

 なじみのある男の声だった。私は。

「セ……」

 後が続かない。

「よお」

 全てを知っているかのような笑みを浮かべていた。霧が晴れて、正体は明らかになる。


「セナ!」


 走った。

 バシャバシャと……鳴ってよいはずの水を撥ねる音はない。全くない。していない。

 響くのは声だけだった。

 夢という名の異次元。

「やっと落ち着いて会えたな。すげー懐かしい感じがする……」

と、セナ……目を細めていた。セナのそばで私は。「セ……」興奮を抑えにかかる。

 セナ。細身の体。薄紫色の、肩の後ろに伸びた細く長めの真っ直ぐな髪。長いまつ毛、女みたいな顔。言うと怒る……。

「ぷ」

 怒る、と想像して少し吹き出してしまった。「何がおかしい」

 セナは肩を竦めた。

「ごめんごめん……あはははは」

 私はおかしくなって笑った。セナがますます変な顔をする。それも何だかおかしかった。

 どうやら私の頭のネジがどっかに飛んで行っちゃったんじゃないだろうかな。

「は……」

 発作的な笑いが下火に落ち着いてきた後。代わって静けさがやってきた。

「……」

 沈黙が降りる。時間を忘れて。

「……」

 セナも沈んでいて黙っていて。

 私達の間に、不思議が訪れて居座っている空気が流れた。

 少し……遠慮しがちに。セナがこそりと口に出す。

「チリンの鈴……」

と、片方の手を出して私の前に手の平を広げて見せてくれた。握っていたのは、小さな何の変哲もないただの鈴。でも私は知っていた。

「チリンの……“通信鈴”……?」

 そうだ。思い出した。

 チリンくんが私にくれた事があるんだ。元の世界に帰る前だった。確か……自分の“会いたい”と思った人と交信しあう事ができる、というもの。だから……。

「私に会いに来てくれたの? セナ」

 セナは鈴を固く握り締める。自分の胸元に置いて。そして。

「まあな」

と真剣なまなざしで私を見据えた。とても真剣に。「……」

 少し緊張して怖くなったけれど。

 セナは何かを言おうとしている。聞くのも何だか躊躇(ためら)われた。

「会いたかった……」

 少し擦れた。聞き間違えたかと思った。

「会いたかったんだ」

 もう一度。同じ言葉は繰り返される。

「セ……」

 まただ。

 私の言葉は何度でも続かないんだ。途切れてしまって。「セナ!」

 飛んだ。

 羽が生えた訳じゃない。

 私が自分の『意志』で、飛んだのだ。いや。


 セナの胸に飛び込んだ。


 セナの腕が私を迎えてくれる。すっぽりと入っていった。

 私はいつの間にか泣き出していて。止まりそうにない。後から後からとめどなく涙が溢れてきて、肺は苦しいし全身が熱い。汗は冷たくなって、鼻の奥は詰まりかけていた。はっきりいって……みっともない。

「ひぐっ……」

 しゃっくりが止まらない。頭は埋めたままだったけれど、とてもセナの前で上げる度胸はなかった……どうしよう。

 セナはしばらく何にも言わなかった。ずっと私を抱き締めていてくれて。私がどんな情けない醜態を見せた所で全部何もかもがお見通しで。そして……全てを受け流すか受け止めてくれるような。力の強さを感じていた。

 私はまた自分という脆さを知った。今まで何回泣いてきたのだろうか、と。もう随分と長い間、この世界で過ごしてきたような気がする。でもやっぱり短い期間でもあったような。そんな事を考えてしまうけれど、別にお別れをするんじゃない。

 私が言いたいのは。

 こんな短期間なのにいっぱい泣いたなあって事。

「ごめんなさ……」

 必死に出したものの、謝る事しか頭になかった。

「何で謝る……勇気、何かしたか? 謝らなければならないのは俺の方だろ……」

 セナの言葉は私の耳元で囁かれる。

「セナ、こんなにやつれて……だって……私、一人じゃ全然頼りなくて……皆に心配ばかりかけまくってる……」

 切れ切れで、聞き取りにくい声をセナはちゃんと拾ってくれていた。

「先に心配かけた俺が悪い。気にすんな」

「う……」

 気にするなと言われても。どうしても気にしてしまうんだけれどな……。

 もう少し時間が経ってくると、私はだいぶ冷静になってきていた。もう大丈夫と思って、セナから離れてみる。久しぶりに見たセナの顔は、やっぱり綺麗だった。

「セナは、ハルカさんの所に居るんだよね? 今」

 聞いてみた。

「ああ」

 セナは帰って来れた訳じゃない。実体は、まだ監禁されたままなんだ。

 ならばだ。

「私達、これからそっちにのり込むつもりだよ! 最後の七神も見つかったし!」

 セナはびっくりして私を見た。

「見つかったのか! 七神」

「うん! だから……」

 私は固く自分の手を握った。勢いづかせて叫ぶくらいに大音量で言い放つ。

「絶対あなたを助け出す……!」

 引き締まった顔は、決心を表していた。

「だって私はセナの事が好きだもの! セナだけじゃない、マフィアも、皆の事も。だから……帰ってきて!」

 セナは。

 少し、顔を背けて。「ありがとう……勇気」と悲しげに告げた。

「?」

 私はそれが受け入れ難く。どうしてそんな顔をするのか謎だった。

 セナが次に私を横目で見た時には、平常心に戻っていたみたいだけれど。

「俺、お前に告白された時。すげー嬉しかった。単純に。俺も、勇気の事が好きなんだろうと思った。でも。……でもだ」

 好きと言われ嬉しくて胸が弾みそうになった。でもすぐに消える……すぐに。


「俺、忘れられない人が居る」


 私は即座に「ハルカさん……?」と勝手に口がそう言ってしまった。セナは驚きもせず、ゆっくりと頷き水面に映った自分の顔へ一言一言を確かめて。伝えようと言葉を吐いていった。

「ハルカが……好きだった。今もきっと……愛してる。あいつがレイの事を好きなのは、子供(ガキ)ん時からとっくに知ってた。でもそれでも良かった。だから――追いかけた」

「……」

「レイと別れた後。国王の娘であるハルカの失踪を耳にした。何の旅の目的もなかった俺は、ハルカを捜しに旅に出ていた。それこそ世界中を。まさかレイの所であんな風になっているとは、夢にも思わなかったぜ」

 セナの本音は私にとって苦痛となるもの。できれば、聞きたくはない内容でもある。

 でも、でもでも。

 私の中は……セナが本心を包み隠さず一生懸命に伝えようとしていてくれている事の方が、たまらなく幸せに感じた。だから、怒りなんてしない。

 これが……『セナを受け入れる』って事なんじゃないか。

 私は、私が感じたままに従う。

(セナが旅していた目的……私に出会うまでは、そうだったのね……)

 さらにセナはトドメの一撃を私に食らわした。

「だから……お前の告白は受け入れられない。ごめんな、勇気……」

 悲しかった。

 でも、ダメージなんてないように感じられた。何でだろう。苦しさなんて何処かへと置いてきたみたいだ。私は自然と明るく笑っていた。

「わかったよ、セナ。もうわかった」

 私は突然胸を張る。ない胸を。何が。

「で・も・ねー! それとこれとは別に。セナ、早く戻って来なさいよ! 皆も私も心配してるんだから。いよいよこれからが本番なんだからね!」

と、鼻息荒くニンマリと口元を吊り上げて笑うと、セナもつられてくれて調子にのった。

「ああ。必ず戻る。ハルカが何人居ようとこんな狭っちい所はおさらばだ。勝手に人質になってて戦いに参加できずに悪ィな! 勇気に皆――“火の島”で待ってるぜ!」

 火の島?

 私が聞き返そうと思った時。朝日が視界の端から乱入してきた。


 夢は、覚めてしまっていた。




 ……パジェナ村。村人人口250人ほど。

 もし勇気達がミルカ村を後にし。ナニワの森を抜ける前に進路方向を変えていたなら、訪れていただろう小さき村。

 農作物を何処の民家でも育てていて、牛飼いの多い村だった……が。

 見る影もなく。

 平和は、赤で塗りたくられた。

「これで3枚目……」

 さくらの手には、卵に似た湿った物体。艶光りする。割ってはいないが、中には恐らく。

「あと1枚となりましたわ……レイ様、ハルカ様……」

 目の奥が光る。妖しい光を生み出している。さくらの髪にこびりついて離れない血は固まって塊となっている。気にしていない。後で洗えば済む事だと、高をくくっている。

 片手には見慣れなじんだ刀。こちらにも血が……数滴、滴り落ちている。

「ふふ……あははははは……」

 宵の闇が、もうすぐに。一刻一刻と迫っている。

 さくらの狂気か狂喜の声が暖かく湿った風にのって、乾いた髪とともになびき運ばれていった。肌に付着する長い髪が煩わしいと。

 グ……ゴゴ……ゴゴゴ。

 地面から雄たけびが聞こえる。足の下からだった。

 それをも かゆいとさくらは思っていた。




 セナは“火の島”に居る。

 私は空に向かってアジャラとパパラを呼んだ。朝が来て、今後の事を相談し終わった後で。

 セナにヒントを教えてもらって、テーブルの上に丸まっていた地図を広げたんだ。隅から隅まで、それらしき名前の場所がないかを目を皿にして探したんだった。

 ポツンと孤島で、あった。地図によると、東の方角……ベルト大陸よりもっと北東に。海に浮かんだ、“火の島”だ。私達は丸まった海老の尻尾みたいになって北に伸びていたベルト大陸を横断してきたけれど、また戻って行かなければならない事になる。

「アジャラー! パパラー! 来てえー!」

 砂浜で。海に叫んでいた私。遠く沖合では、海面から頭だけを見せている岩の向こうで漁業を営んでいる船がゆっくりと進行していった。のどかな風景ではあったんだけれど。

 すぐに飛んで来ますとアジャラは言っていた。本当に来るんだろうかと(うたぐ)りを入れていたら。

「はいはーい」

「なんや〜」

と。「!?」

 振り返れば2人が現れていた。私はズッコケて砂の地面の上に腰砕ける。「……」

 ミニスカートの腰に手を当ててパパラは、私の顔を覗き見る格好になった。

「そない驚く事ないやん。瞬間移動(テレポート)くらいわけないで。慣れてしまい」

「限界はありますけど。パパラも居ますし、多人数でもできますよ」

と、2人はニコニコ顔だった。は、はあ。瞬間移動ですか、便利ですね……。

「で……」

 パパラが私の横に並んで様子を見守っている、マフィア達全員を一人ずつ目で追った。最後尾に居た、ゲインに目が向いて止まる。

「見つかったんか、最後の七神」

 パパラの表情が硬くなった。私は手や服に付いた砂を払いながら立ち上がってコクンと頷く。そうか、とパパラはアジャラへと視線を送った。アジャラも頷きで返した。

「では、いよいよとなりますね。ハルカとレイの居場所なんですが」

 それを聞いて私は先に、「“火の島”です」と口を出した。

 でも2人とも、すでにそれは承知していたみたいだった。

「ええ。自分の質に合った場所を見つけたみたいですね。希こうな場所です。今現在は、島全体が炎に囲まれています」

 炎に!?

「生物は滅多に近寄らないでしょう……ハルカ達はどうやら島の中心に。空からはわかりませんでしたので、地下に潜っているかもしれませんね」

「アジャラとやら。そこは火山地帯なのか。地下は蒸し風呂になってやしないか。そんな所に奴らが居るのか?」

と、横槍をカイトが入れる。

 パパラが補足した。

「火山島ではないねん。そこに生える植物や岩石、鉱石の影響あってか、目の錯覚で島全体が赤く見えるし異常に気温が高いっちゅう。前はなかったはずの炎に取り囲まれてるっちゅうのは、ハルカが持ち出してきた炎のせいなんとちゃうかて、思う……それにハルカの周りには四師衆がついているんや。奴らは術を使う。レイと擬似した闇の魔法……温度を通さない空間を造る事くらいできるんとちゃうかな」

 そう推測した。ふうむ。

「実際に見てみないと何とも言えないけど……」

 マフィアも考えて。私は「それじゃ」と手立てを考える事にした。

 アジャラの言う通り、ハルカ達が地下に潜伏しているとすると。島までは、アジャラ達の瞬間移動で行けるとして。それからだ。地下がどのような形状になっているかもわからないし、恐らくはこちらの動向なんて相手には筒抜けなんだろう。それって悔しい。どうぞ罠にお()まり下さいとでも言われているようでだ。

 レイとの一戦を思い出す。生きて帰れたのがラッキーだった。

 もうあんな目には遭いたくないし、無茶もしたくない。邪尾刀で刺されたり……。

(かたな)……剣。光頭刃なら、邪尾刀に立ち向かえる」

 私は不死身だった。それは立証されている。軽いダメージを光頭刃で受けた事はあったが、あれもとっくに治ってしまった。たぶんだけれど、重いダメージほど治りが早いってんじゃないだろうか。とにかく私は両方ともに最強だった。

「邪尾刀を持っている人物の相手は私ね。不死身だからって調子にのって、私は剣で戦えるわ。任せて」

 ドンと自分の胸を叩く。「でも」とマフィアは心配そうだった。

「大丈夫よ、マフィア! 私は嬉しいの。いつも護られてばかりだった自分でも戦えるんだもん! ね!」

 願っていた事だ。マフィアは少し渋々だけれど大人しくなってため息をついていた。私は続ける。

「メノウちゃんは、リカルさんの家で待機ね。いい?」

 急に話をふられて。メノウちゃんはびっくりしたけれど、聞き分けよく黙って頷いた。前はどうしてもカイトについていくー! ってダダをこねていたのに。ちょっと大人になったんだろうか? なんて思ってしまう。

 微笑みながら、次へ。

「私は決断をしなければいけないと思う。レイの……説得が無理と判断した場合。その時……は」

 今。

 セナが近くに居なくてよかったと……心底そう思う。

 私の口から飛び出す言葉は、残酷なものだ。でも。

 言わなければいけない。避けられない。いつまでもいつまでも。私が逃げているからだ。皆は、私の……救世主としての、決断を待っているのに。なのに。

 甘えは許されない。覚悟を決めなければいけない。今がその時だ。

 私は言った。もう2度と言わせないでと願う。言った。


「レイを、倒します」


 凍りついたのは自分の心臓だった。私の目は死んではいない。生きていた。

「ああ」

「わかってるわ」

「全力を尽くす」「了解だ……これが最後だ」 ――

 皆の反応で、少しは救われた気がした。ただ……蛍と紫だけは無言を繰り返していた。

 きっと迷いが払いきれていないか、私の言葉が脳中を駆け巡っているんだろう。私は決意を変えない。蛍達の問題だから。私は何も言わないよ。

「邪尾刀の相手は、勇気に任せるとして。残りを俺達が総出で相手する訳だな。四師衆を。ハルカと」

 ヒナタに続いてカイトが言った。

「たぶん、レイが邪尾刀を持つんじゃないかな。レイと邪尾刀さえなければ、俺達の頑張りで押さえとくくらいは何とかな。ハルカも居るけど……ああ、前は俺の水の力じゃ敵わなかったからなー。ショボン」

「ゲイン、あなた土神でしょ。火に土。火に水で。2人なら何とかできそうじゃないかしらね」

とマフィアがフォローする。

「おお、任せとけ! 肉弾戦でも構わんぞ! うりゃ!」

 ゲインはたくましい筋肉の腕を見せた。

「さくらと紫苑と(ひたき)と。ヒナタとマフィアだけで相手するにはちょっとキツイかもしれないから。できるだけ1対1で戦ってほしいかな……アジャラとパパラ。蛍と紫くん。あなた達はどう?」

と、私は名前を出した4人を順に呼びかけた。それぞれは、それぞれに。

「戦います。パパラも同様、戦闘向きではないですが。術を駆使し、精一杯に」

「ああ。そやな。どっちかっていうと、アジャラとのコンビネーションの方が上手くいきそうな気がするでえ、2人で今挙げたうちの一人くらいは相手したるわ。任せとき」

 アジャラとパパラはそう言ってくれたけれど。蛍達は……。

「私達で紫苑を相手するわ。たぶんそれが一番いい」

と、言ってくれた。

 私は喜びでいっぱいになる。協力してくれるんだと、安心感で満たされたから。

 これで、本当に決心はついた。

 私達は動き出す。

「蛍達で紫苑、カイトとゲインでハルカさん。アジャラ達で……術同士だからさくらが相手かな。マフィアとヒナタで鶲。私は……レイもしくは、邪尾刀」

 私が取りまとめる。「この後に準備して、すぐに発つ」そしてもうひと声だった。


「セナを助けるんだ」




 私は戦う。最強の武器――“光頭刃”で。

 恐らくはレイが所有するだろう、“邪尾刀”に。

 仲間とともに。これが最後の決戦――血戦になるだろう。腹をくくれ、躊躇(ちゅうちょ)するな。甘えは、滅びだ。突き進め。

 今度こそ逃げずに。迷わずに。


 レイを倒すんだ――と。


「準備できたな」

 カイトが私に呼びかける。先ほどの砂浜での立ち話……いや、作戦会議を終えた後。荷物を整理してまとめ、それなりに予測できる範囲で準備をした。途中、道中で買った“縮小自在ポケット”なんかにも物を詰め込みながら。セナとの出会いの頃を思い出してしまいながら。

 腰に短剣をくくりつけ、光頭刃を片手に私は皆と待ち合わせていた砂浜へと再び戻って集合した。長い時間がかかっていたのか、皆の方が先に来ていて待っていた。

 リカルさんやメノウちゃんが並んで事の成り行きを見守ってくれている。

 もう、私が来る前に別れの挨拶は済ませたのかな……?

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい!」

 何と、リカルさんとメノウちゃんの顔はとても明るく。不安なんて微塵もなかった。

 ああ、そうだね。

 きっとすぐ……ココに帰ってくるんだからね。

 私は笑った。ふと見上げ方向を変えると。カイトやゲインも同じようにして笑っていた。


 きっと。絶対。

 待っていてほしい。

 ココが、私達の帰る場所なんだと。


「では……行きます。いいですか」

 アジャラが変なデザインの杖を高く掲げる。「はい!」

 私達は皆で一ヶ所に固まって、目の前に広がる昼の海を眺めた。空の、羽の長い鳥は高い声で鳴いている。太陽の光は海面と陸を輝かせている。風は。心地を洗う。

 さあ、行こう。

「では」

 決心が鈍らないうちに。……行け。




 聞いた通りの島だった。

 第一声は、『暑い』。それもそのはず。

 遠く、海岸に沿っては。

 炎が道を描き海岸線で燃えさかっている。今さら思うけれど。炎にグルリと島を囲まれていたんじゃ、何処からどうやって出入りをするんだろうか。魔物でも容易くないんじゃないだろうか。私は着ていた制服の長袖を捲り上げた。汗を手で拭いたりしているのは、皆も一緒だった。

 本当だ。視界はボンヤリとだけれど赤がかかっている――少し物が歪んでも見える。

「あちらが、中心部です」

と、アジャラが海とは反対側を指さした。そこは。

 石と岩の地面の上に土が積もりに積もった大きな山ができていた。周囲に木すらない。土煙が至る所に舞い上がっていた。時々、ドドドドドと地響きが聞こえてくる。地震だろうか?

「上空からは見たんです。何もなかった。ですから、山の周囲に何かがあるはずです。探してみましょう」

 アジャラの提案で、だいたい2手に別れて山の(ふもと)に沿って調べてみた。私はマフィアと下を見ながら歩いていたんだけれど。特に何も見当たらなかった。

「変ねえ……隠し階段とか抜け穴とか。ないのかしら……」

 腕を組みながら考えてみても。何も出てはこなかった。

 おかしいおかしいと喚いていたらだ。カイトやヒナタが居る、私達から数メートルは離れていた向こうから、声が上がった。

「おーい。隠し扉みたいな切れ目を見つけたぞ!」

 それを聞いて私とマフィアは顔を見合わせる。

「行こ、勇気」

「うん!」

 マフィアが駆け出して、私が後についていくはずだった。

 いきなり。

「きゃ!」

 足を引っ張られて、前に転んだ。ズベっと。

「!」

 すぐさま後ろを見ると。

 地面から生えたような土の『手』が、私の足首を掴んでいる!

「いやあああ!」

 私の大声を聞いてマフィアが振り返った。「勇気!」

 私はズルズルと高速で引きずられ、爪を立てて地面を引っかいてみても止まらない。どんどんと『手』は後退していった。「くう!」

 終いには、後退する先に大きな『穴』が空いている事に気がついて、滅茶苦茶に焦った。

「勇気ィ!」

 マフィアが戻ってきてくれて私の手を掴む。しかしだ。それでも私の足首を引っ張る方が強かった。マフィアまで引きずられてしまう。

「うくっ……!」

 このままでは。

 私は崖になった所まで引きずられ、崖に手をかけて抵抗した。

(助けて! カイト! ヒナタ! ゲイン……!)

 誰でもいいから気がついてほしかった。でももう間に合わない!

 ザクッ。

 私は気を後ろにとられすぎていて、マフィアの背後には全く気がつかなかった。

 私の手を懸命に掴み、マフィアも気がついていなかった。

 私は光景を目の当たりにする。

 マフィアが……背中を刺されている。

 地面に突き立てるようにして、杖で。一突きだ。

「うああッ……!」

 マフィアの悲鳴は、私の脳天まで直撃していた。「マフィアァッ!」

 そして。

 私は引きずられ、落ちていく。

 マフィアの繋がっていた手は攻撃を受けた反動か放されてしまっていた。

 穴に、私は落ちていく。暗くて底の見えていない穴へと落ちていく――。

(マフィアッ……どうしてッ……?)


 どうして?


 その疑問は、落ちていく時の混乱で紛れてしまった。どうして――。

 マフィアを杖で襲った人物達……2人。

 アジャラとパパラだった。

 無表情で。



 私の意識は薄れて、落下しながら穴の底の闇へと溶け込んでいった。



《第51話へ続く》





【あとがき】

 いよいよか……。


※ブログ第50話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-118.html


 ありがとうございました。



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