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第48話(ミルカ村騒動)


 深い小谷。渓谷の集落である、ミルカ村。人口は数十人と少なく、日照が行き届いてはいるけれど凄く暗い。そう聞いたわけなんだけれど、人が住んでいる方が珍しいんじゃないだろうか。

 朝に起きて私は、外の様子を見ようと一階にまず下りてみた。広間にお客は誰も居なければ、厨房……台所だけれど、そこにも誰も居なかった。宿屋の主人は何処かしら。

「おはよう勇気。何か食べる? 作ってあげよっか」

 私の後から階段を下りてきたのはマフィアだった。

「え? マフィアが作るの?」

と、私が疑問をそのまま口にすると「何よ、悪い?」というような顔をして腰に手をついた。

「あ、じゃなくってさ。宿の人が作るんじゃないのかなって」

「ああ、夜しか作ってくれないの。どうやら村全体が夜行性みたいで。朝昼は、家の中に皆は閉じこもっているらしいわ。私達は3日前、たまたま夜にココを訪れたからか泊まれたみたい」

 マフィアが説明し終わると、ヒナタやカイト、メノウちゃんが下りてきた。同じく話にのってきて。

「不思議が多い村なんだよな。今は寝てるのかもしんないけど、ココの主人のおっさんも白い顔しながらさ。『昼は……人は出歩かないよう……』とか言ってたんだぜえ。どういうこっちゃか」

と、頭をポリポリと掻いたカイト。

 夜しか出歩いちゃダメだって? 何でだろうか。変な村だなあ。

「とはいってもさ。勇気も目を覚ました事だし。早々にココから出ようぜと思うけど。……あー、腹へった!」

 お腹をさすりながら、マフィアを見た。

「はいはい。簡単なものでよければ。蛍達もそろそろ来る頃かしらね。皆の分作っちゃう」

とマフィアは台所の方へと消えていった。

 マフィアが朝食に取り掛かっている間に、残された私達は顔を見合わせる。

「どうする? 暇だな」

とヒナタが聞いてきた。聞かれてもなあというような顔をする私。

「ずっと中に居たから、外へ行きたい気分なんだよね……ちょっとくらいなら、ダメかなあ」

 すると、階段から蛍と紫が下りてきた。蛍は私の顔を見つけるなり「おはよう。素晴らしくよく眠れたようね。相変わらずの変な顔」と鼻で笑った。

 はいはい、どうもね。

「何で昼の外出禁止なんだろう。魔物でも出るのかな。だとしたら、一人で出歩かなきゃとりあえず少しくらいならいいんじゃないか。俺も付き合うし」

と、カイトが言ってくれる。

「図書館っていうほどじゃないけど、書庫が村にあるらしいの。主人が言ってた。暇つぶしに行ってみようかと思ったんだけど。七神の手がかりがあるかもしれないし」

 意外に協力的な事を蛍に言われ、私は少し驚いた。蛍は「何よ」と口を尖がらせる。いや、だってえー。

「いいんじゃないの。でもマフィアの朝食を食べてからになるけどな。人数固まってりゃ何とかなるだろ。今それじゃ、出発後の行き先の確認でもしようか。地図広げてくれ」

 カイトがそう言って取りまとめてくれていた。



 ハルカはセナが監禁されている部屋に居た。ガラスに四方八方を囲まれた中に居続けるセナ。ガラスの壁の前に、スクリーンが一つ……。ハルカは横で、花装飾がこしらえられた背もたれ付きの椅子に腰かけて画面を眺めている。

 画面では、テーブルを囲み朝食を食べている勇気達。観て頬杖をつきながら、ハルカはのんびりと言った。

「あらあら。どうやら『紅い村』に入ってしまったようだな」

 あか、という単語にセナは反応する。「紅い……?」

 ハルカはフフン、と笑いながら髪の先をいじり出した。

「旅人は2度と訪れないだろう。知る人にしか知らない閉鎖された村だ。とても変わった村……北の谷の何処かにあるとは、本で読んだ事がある。ミルカ村……別名『紅い村』。なあ、セナ」

 ひとり言は、セナに問いかけた。セナは無言で返す。

「紅い……赤い色をどう思う?」

 ハルカの瞳はセナに話しかける。セナは返答に詰まってしまって答えられなかった。

 ハルカにとってそれは予想通り。だからか特にガッカリした様子はなく、ひとり言は続けられる。

「目立つ色なのは確かだ」

 ハルカの綺麗な赤い瞳は、画面の中へと戻っていった。



 マフィアとメノウちゃんは皿洗い。カイトと私は散歩しに、他メンバー達はあると聞いた書庫へと調べ物をしに出かけていった。外へ出かける際は用心にとそれぞれ肌身に武器を持つ。私は腰に光頭刃を提げていた。

 そういやカイトと2人きりというのも珍しいなとか思いながら。

 だってカイトとメノウちゃんっていつも一緒で、セットって感じなんだもん。今ならもれなくメノウちゃんが付いてくる、みたいなさ。はは。

 草木は少なく、木が点々と大地から生えてはいるが皆枯れ木だった。少し厚めの防寒着を着ているけれどそれが気候にはちょうどいいみたい。吐いた白い息は微かに手を温かく感じさせた。

「四神鏡をこっちが早く見つけられる事ができればなあ」

と、隣を歩いていたカイトが言い出した。私はハッとして気がつく。

「そうだね……」

 言われて考えてみたけれど、何も方法は思い浮かばない。レイのように邪尾刀を持っていても、人を斬りまくるなんてとんでもなかった。

 腰にある光頭刃だってそうだった。これで斬られた生物はケガをしないとはいってもだ。いきなり初対面でこんにちはとブスリ。できるわけないじゃないか。ねえ。

「剣や刀なんかに頼らなくて、何かもっと他に探せる方法でもあったらいいのに……あ、でもそれだと簡単にレイ達に見つけられちゃうかな。はあー」

 手を肩の後ろに回しながら、ため息をつくしかなかった。

「色々今まで考えてきたけど……複雑に。整理したいから、ちょっと見解を述べていい?」

 カイトがそんな事を言い出した。私は最初「ええ〜?」と、複雑と聞いて身構えたけれど。カイトが真剣な……というより表情もなく言ったので。仕方なく付き合う事にする。一体何の話なんだろう。熱き人形への想いとか延々と聞き続けるのは重いなあ気が。そんな事を思っていた。

 カイトは話し始めた……。

「満足できそうな答えに行き着くには、かなりの時間と労力がいるって事がよくわかったよ。謎ばかりだ。推測だけど」

「?」

「俺にはどうしてもわからない奴が4人いる。レイと、勇気。お前と、もう2人」

 2人?

 カイトが言う『わからない奴』の中に私が入っている事も気にかかるけれど。それはそれとしてよ。

 誰の事を言っているのだろうか?

「天神と、……セナ」

「! ええ!?」

 素っ頓狂な声を上げてしまった。だって。

「意外か? 勇気も同じように感じてると思ったけど」

 そ、それは……。

 私は何とも言えなくなってしまった。確かに、セナの考えている事なんてわからないって悩んでましたとも……それはそうですとも。

 うーん、と唸りながら困った顔でカイトを見ていた。

 ちょうど、私達の前に小さな湖が見えてくる。手前まで進んで行き、私達は立ち止まって立ち話にとなった。

「……俺はさ、まずレイが何であんなに青龍に固執するのかがわからない。ただの好奇心なのか? 何で白虎でも玄武でも朱雀でもなくて青龍なんだ。順序も違う。考えすぎか? それに非道だ。まあ、トチ狂った奴の考えている事なんてと思うかもしれないが。どうも、何か……」

 カイトはチラ、と横目で私に視線を向けた。何だかちょっと怖い、その視線。私はアゴを引いてカイトを上目づかいに見た。

「……奴は勇気を気にしている。最初からだ。気にしてないようで気にしてる。俺にはそう思えてならないんだ。殺すと言って引き上げる。殺さない。……変だ」

「……」

 全身に寒気を感じてしまった。これは何?

 でも。

「そ、それは。天神様を苦しめるためでしょう? 私イコール天神様を苦しめるって事なんじゃ」

「だと……表向きではそう見える」

 私の心臓がドキドキと高鳴ってきていた。ああこれは何。何なのだろうか。

 カイトは真剣に私を見て言った。怖い顔で。

「本当にそうなのか」

 じり、と何処かで音を聞いた。遠くで鳥がさえずった音だったのだろうか。それとも、私の焦りの音だったのだろうか。

 今、私の脳裏にこんな言葉が浮かんだ。


 カイトが、私を疑っている。


 息を呑んだ。腰の光頭刃に手が当たる。

 とんでもない事だと思った。思えば思うほど、ますます気持ちが焦ってきてしまう。「……!」

 話題をかわしたかったけれど、上手い言葉も見つからない。私は弱った顔をして黙っているしかなかった。カイトは怖い顔を崩す事はなく。

「……ごめん」

と、謝ってくれた。

「勇気を疑ってかかるつもりじゃなかったんだが……ただ、今言った、この4人がどうにか絡んでいるんじゃないか。そう思えてくるんだ。もちろん、ただの推測だ。実際は単に偶然が偶然を呼んだ結果だったのかもしれないから」

 話に区切りをつけてしまおうとしたみたい。でも何とも言えないわだかまりが残ってしまっていた。私の方こそ、妙な疑いをかけてしまう……。

 カイト、あなたは本当に味方?

 そんな事は思いたくはなかった。今にしてみれば。

 私と、一緒に旅をしている七神の皆は。すっかり信じきってしまっているけれど。

 本当に仲間なんだろうか。

「……」


 ……やめて。

 つまらない事を考えてしまう頭。もう何処かにいってほしい。

 私は頭を振った。カイトは「?」と変に思ったのか首を傾げている。私は胸を張ってみた。

「信じて。――私は、私」

 迷わない。セナの言葉を借りたんだった。信じてもらう、それしかなかった。

「ああ。悪かったな、変な事を言い出して。それと何だが……もう一つある。鏡の事なんだが――」

と、カイトが言いかけた時だった。

 私が「鏡?」と聞き返す前に、違う声が割って入ってくる。


「おいこらぁ。昼間は出歩くなんてぇ、いかん聞いとらんけえのお」


 私とカイトが湖の前で突っ立っていた背後からだった。見ると、下駄履きに白いタオルを肩にかけて腹巻をした、麦わら帽子を被った一人のおじいさんが居た。あまり周囲の環境や気温にそぐわないんじゃないかと思えた、涼しそうな格好をしている。

「あ、すみません。ちょっと散歩したくなっちゃって……」

と、私はおじいさんに言い訳をした。おじいさんは村人……だよね。

「家の中ぁ居たらお前さん方の姿が見えたもんでぇ、注意しにきたと。この村は、夜しか外へ出ちゃならんね。昼間は、危ないきに……ん?」

 突然、おじいさんは何かに気がついて私の手元を覗く。私が視線を追うと、光頭刃を珍しそうに見ている事がわかった。

「これですか?」

 とても興味津々だった。私が手にとって前に出すと、おじいさんは「ほおー」とため息をつく。そして。

「すまんが、よく見せてくれんかの……あいにく、目が見づらくてぇの」

「え、あ。はぁ。どうぞ」

と、私は剣を手渡す。おじいさんは剣をジイイーッと睨むように細い目で見た後、ひっくり返したりして確かめていた。何なのだろう?

「ふむぅ……何とも神々しい光じゃの……もしやお主ら、天神の使いかね」

「!」

「何!」

 私とカイトが大きく反応してしまった。しかしおじいさんは動じる事はなく。自分の気の向くままに話し出している。

「天神……懐かしいのぉ、その名を口にするのは。昔に……今では遠い昔に。旅人がこの村を訪れて、聞かしてくれた事がある……。歌のようになぁ」

 歌?

「『七神が誕生した後のこと。生命は進化を遂げたり。或る所では魚が生まれ、川を泳ぎ。或る所では鳥が生まれ、空を飛びて。或る所では人間が生まれ、世界を支配す。人間は精霊とともにこの世で生きる道を選びたり。しかし人間と成ることのできなかった者、存在す。これが獣なり』 ……後は、忘れたのぉ。七神創話、じゃったか……」

 危うく大声を出しそうになった私。だだだだって!

「“七神創話伝”! すみませんっ、もう一回教えて下さい!」

 私は身を乗り出して勢い任せに頼んでみた。

「ううん? 何て言ったかのう?」

 おじいさんは聞こえてるんだかいないんだかわからない素振りを見せた。そ、そんなあ。覚えられなかったよお。

 するとカイトが横から口を出して私の肩に手を置いた。

「大丈夫。暗記したから。帰ってメモしといて。内容は……四神獣の事かな」

 サラッと凄い事を言ってのけるカイト。い、今の暗記できたの!? ……凄い。

「それより、ご老人。ちょっと聞きたいんだが……この村は、どうして昼間は外出禁止なんですか?」

 カイトが尋ねた。うん、私も気になっていた事だ。わかるだろうか。

 やがておじいさんは、ふうむ、と頷いて私達を見回す。そして言った。

「何もおかしい事はない……言われんかったかいのう? この村では、人、は。出歩いてはいかんと……」

 何やら雲行きが怪しくなってくる。んん?

「勇気!」

「え?」

 私はカイトに腕を引っ張られた。ステンと、後ろに転んでしまう。「あたたた……」

 すぐに起き上がって何が起こったんだろうと理解に努めた。でもすぐにわかる。

 何と、おじいさんが。私の光頭刃を持ったまま、振り下ろしていたのだ。ええ!?

 もしカイトが手を引っ張ってくれなかったら、私はアッサリと斬られていた。間違いなく。

「な……」

 私がノンキに口をポカンと開けていると、カイトが怒鳴った。「立て! 勇気!」

 私は格好悪くもジタバタとしながら何とか立ち上がって、逃げた。でも光頭刃はとられたままだ。どうしよう!?

 おじいさんは剣を構えて私達を笑った。

「ひゃははははは……惜しいのぉ、惜しいのお……。若いモンの血が見れるかと思ったのにのぉ……」

と、眼球を飛び出そうなほど目は開いて歯はむき出しにした。いい!?

「マフィア達が危ない……」

 カイトがボソリと小さく言った。私の背中に冷たい汗が。そうだ、こうしちゃいられない。

 私は意を決して、前へ出た。「!」

 驚いたのはカイトだった。護られるべき立場の私が自ら進み出たからだろう。

「その剣、返して!」

と、私はおじいさんに飛びかかる。何と真正面からだった。実は何も考えていない。

「馬鹿か小娘……無防備で」

 おじいさんは私のお腹に斬りつけた。ザシュ。「勇気ッ!」

 カイトが叫ぶ。攻撃を食らった私。お腹から血を流して一歩退いたが、後ろに倒れる事はなく踏ん張れた。自分でも無茶だなあと思ったけれど……でも。

 私には『確信』があったんだ。

「返せ!」

 私はすぐに再び、おじいさんの剣を持つ手に掴みかかった。「な、何をおおおっ!」

 おじいさんと私は剣の取り合いで揉みくちゃになる。

「返せ!」

 私が尚も同じ事を繰り返し叫ぶ。そして。

 ビュワッ。

 私から突風が飛び出した。「ひやあ!」

 おじいさんが思わぬ風にひるんだ隙に、私は剣を奪い取る。とても上手くいった。

「“小波(さざなみ)”!」

 カイトが呪文を唱えた。すると、そばの湖から波がザワザワと立ち、水の塊が飛んできておじいさんにぶつけられていく。

「ぎゃああああ!」

 おじいさんは全てを体で受けて、少し離れた所へと飛んだ。倒れたまま動かなくなった。

 倒した?

「勇気! ……ケガが!」

 カイトがすぐに駆け寄って来てくれて私のお腹の傷を見ようとしてくれた。でも。

「……」

 愕然としたように見えた。傷がない。

 確かに大きなダメージを受けたはずなのに……と。

「……どういう事なんだ。いや……」

 いったんは私から離れ、少し頭を悩ませていたカイト。私は申し訳ないなあなんて思いながら見ていた。

「ご覧の通り……私って不死身。少々の無鉄砲さも許して、カイト」

と、私はペロッと舌を出してみた。しかしカイトは厳しい目や口を崩さなかった。おまけに。

「ますます信用できんわい!」

(かつ)を入れてきた。それもそうだと私は苦笑いする。

 だってさ。もう自分で認めなくちゃいけないって思うもの。

 私は救世主。皆とは違う。人間だけど、ご覧の通りだ。邪尾刀で刺されようが光頭刃で刺されようが、私はたちどころに傷を治してしまう。いや、いっそ受けないのか。弾き返してしまうようだ。私の中に四神鏡とは違う、何かがあるとでも言いたげだ。一体何が。

 カイトが言いかけた事が浮かぶ。


 鏡。


 ……まさか……。


「急ぐぞ、マフィア達が心配だ」

 カイトが追い立てた。私は先を行こうとするカイトの後に続こうと、走り出そうとした。

 その時だ。

「待てぃやあああああ……」

 汚い声がした。

 倒れたはずのおじいさんだった。

 猫背になって立ち上がっていたものの、左右に体を揺らしている。両肩を盛り上げて、関節に折った先の両手の平はダラリと重力のかかる方に向けて。酔っ払いみたいだ。いや。

 ゾンビかもしれない?

 とにかく、気持ちが悪かった。「お、おじいさん?」

 その目は死んでいる。「げひいい……」

 人間じゃなかった。

「血を……血をくれええ……赤い、赤い……」

 数歩私とカイトは引き下がる。

 途端にだ。おじいさんはピタリと動作を停止した。

「お前さん、はよう逃げなせえ……この村は皆、血に飢えておる……獣」

 え?

「“小波”!」

 カイトの一声でまた先ほどと同じ攻撃がおじいさんに向けられる。ドカドカと水の塊を受けたおじいさんは倒れてまたまた動かなくなった。

「キリがない。行くぞ、勇気!」

「う、うん……」

 今度こそ、走り出した。おじいさんが後々どうなったか、もう知らない。

 走りながら、おじいさんの言った事が頭の中をグルグル回る。獣、と。

(“七神創話伝”にもあった……獣。けもの――)

 忘れそうで忘れていなかった単語。妙に頭に引っかかる。


 人間と成ることのできなかった者、存在す。これが獣なり――


 四神獣。

 彼らが、そう――。

 でも、どうして? 胸を。

 胸を締めつける。人ではないと、もしも言われて――。

「あれは……マフィア達だ!」

 カイトの大声に顔を上げた。カイトの肩越しに走っていた前を見るとだ。

「勇気ー!」

「救世主!」

 家屋や枯れ木などに挟まれた土の地面を並んで駆けて来る。先頭にはマフィア、と。それから。

 意外だった人物がいた。意外すぎて信じられなかった。

 私の事を救世主と呼んだ人物……達。2人の女の子だ。

「ア……」

 そう。いつか、私が自分の世界へ帰った時にお世話になった、アジャラとパパラ!

「アジャラ! パパラ!」

 私は足の速度を上げて。やっと合流する。

 しばらくゼーゼーと息を整える事に必死だったりする。ヒザに手をつきながら。

「ど、どうして……」

 アジャラ。肩で切り揃えられた真っ直ぐな髪。白い七分袖シャツを上に着て、サスペンダーを付けた短いズボンを履いている少年風だが可愛く年の近い女の子だ。手には変なデザインの杖。

 パパラの方は、金髪に近い毛質のパーマ髪で、スポーツウェアみたいな服を着ている。ショルダーのバッグを肩からいつも……提げているのかな。タレた目で、軽いノリで関西弁を話した。同じく年は近いだろうと思う。

 2人とも、天神様の使いだ。私がこっちの世界に帰って来る時に協力してくれたんだった。

「ご報告に参りました。無事でよかったです」

「ほんまやでー。間に合って何より。今、村のモンは皆。催眠波で眠ってもろてんねん。用心のためやけどな。はよこの村出るでえ。吸血人間の巣くう村」

 !

 私は、最後のパパラが言った事に敏感になった。吸血……人間。

「この村の人達が……?」

 パパラの顔を見る。パパラは当然、といった顔をしていた。

「そやで。一部じゃ有名や。実際何人も血を抜かれ発見された旅人がいたりすんねん。血を欲して止まない体質を持った、可哀想な集団や。それも運命。しゃーないんやけどな」

 さっきのおじいさんを思い出された。

『はよう逃げなせえ……この村は皆、血に飢えておる……獣』と。本性を現しながら、理性は残っていたのかそう告げて。普通の人間じゃない体とまともな人間である頭を抱えていた。

 彼らが獣だと。人に成りきれなかったなら、別物だと……?

 考えると、切ない。

 おじいさんは……生きているのだろうか。攻撃してしまったけれど。

「報告って?」

 私は気を取り直して聞いた。今度はアジャラが答える。

「落ち着いて聞いて下さい」

 ゆっくりと、私に言った。

「南ラシーヌ国が壊滅致しました」


 ――!


 私は青ざめた。めまいが、全身を襲う。「大丈夫、勇気」

 ヒナタが呼びかける。しかし声は遠くだ。聞き取りにくくなっていきそうだった。

 アジャラは続ける。

「炎神……ハルカの手によってです。数は大国で初の時よりも減っていたとはいえ、お見事ともいうべき有様でした。戦火恐ろしく、言葉には言い表せません。それより――」

 緊迫感が漂い、誰も何も口にする事を拒まれた今。事実の報告は、あまりにも残忍でどうしようもない。

「これで2つ目の四神鏡を手中に収めたハルカは、あと2枚を躍起になってさらにまた探し出そうと奔走するでしょう……闇神の代わりに。そう、闇神はもうすぐに」

 闇神とは、レイの事だ……彼が何?


「レイは じきに、復活するでしょう」


 空気が張りつめる。

 ピンと張った、氷のようだ。軽く突いただけでヒビを作ってしまいそうな。脆くも怖い緊張が走る。


 全員が、固唾を呑んだ。



《第49話へ続く》





【あとがき】

 カイトって賢かったんだよね。忘れてた。


※ブログ第48話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-114.html


 ありがとうございました。



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