第42話(真黒の村)
この地に光神が居るかもしれない――
彼……少年。名をヒナタ、という。まだ少年なんだけれど、あどけなさを残して しっかりとした顔つきと筋肉だ。私より年は上だろうと思われる。
私達が辿り着いた奇妙な村――人、動物、植物と いった あらゆる生物と いわれるものが、一瞬で消されてしまったんじゃないかと思われるような残骸の跡地だった。
『影』だけを残し。姿は忽然と消えている。
これだけ太陽が照りつけた所でも、体が寒くなってしまった。
そんな場所で会った少年ヒナタ。
私達を見て怪しんだ彼は――ワマ民族の村へ来い、村長に会わせてやると言った。
そして この村が こうなってしまったのは、『コウジン』様の光の せいだとも言う……。
『コウジン』――光神。その言葉に当然の如く大いに興味を引かれる私達。期待に胸を膨らませながら、ヒナタに皆 ついて行ったのだった。
「着いたぞ。ココがワマ民族の村だ」 ……
先頭を一人きって歩いていたヒナタが、振り返らず前方を指さした。厳重な背丈ほどの囲いと、知らない赤い文字で出入り口の所の垣根に掛けられた看板。後でマフィアに何て書いてあったのかを聞くと、『よそ者 立入禁止』って意味らしかった。
「入れ。なるべく静かにな」
と、ヒナタは私達を中へと入れた後。入り口の、木の柵で できていた扉を閉めた。
そして こちらを見ると険しい顔つきに なり、ズカズカと乱暴に歩いてきたのだった。
私達の横を通過し、しばらく進んで行って……立ち止まる。んん?
「またか……」
大きな ため息が聞こえた。私達は何だ何だと追い、ヒナタの目先を背後から覗いてみる。
何かと何かが居るようだ。それは……。
少し道先の草木の生えた地面の上で。どうやら鶏と黒牛が、睨み合いをしているようだった。ブホッ、ブホッと牛の方は鼻息が荒く。コケッ、コケー! と鶏は元気に。
……と、遠くから思い込んでいたのだけれど。実は違った。
何と、人間の言葉でケンカしていたのだ! ええ!?
「いーや、あんたが悪いのよ。私は ちゃんと いつも通り手紙を届けたわ。家に 居なかった あんたが悪いんじゃない」
「何を言う! お前が不注意な せいだ! 責任を取れ! チキンにして食っちまうぞ!」
「こっちこそ、今夜は焼肉パーティーに しちまおうかねえ!?」
「何だと!? もう許せねえ!」
と……こんな風に。
私達は身を乗り出し驚いて、目をまんまるに させていた。
ヒナタは やれやれ、と重い腰を上げるように その一羽と一頭の元へと近づく。
「やめるんだ! みっともない!」
気が ついた一羽と一頭はピタリと口ゲンカを止め、ヒナタを睨みつけるように見た。
!
途端に、どう!?
鶏は女の人に。黒牛は男の人に! みるみるうちに変わっていった。テレビとかで観る、物質の変化を早回しで見た感覚だった。人間に なっちゃったけれど、ちゃんと双方とも服を着ていて男と女らしい格好をしていた。
「何よ、その人達。よそ者?」
「何 考えてる、ヒナタ。頭おかしくなったんじゃねえのか? よそ者を村に入れるだなんて」
2人は こちらをそう非難した後。知らぬ存ぜぬとササッと何処かへ足早に去って行ってしまった。
私達は それまでに。「牛と鶏が しゃべってる……」「牛と鶏が人間に なった……」と、それぞれ思いをそのまま口に していた。ヒナタは若干 顔を緩めて、まあ当然だなと頭を掻いた。
「ワマ民族は変血 民族。感情が高ぶると、ご覧の通り動物に変身してしまうんだ」
と、説明する。
ははあ……そういう事なの。だから さっきの牛と鶏も、か。
「まさか あなたも……?」
と、横でマフィアが尋ねたが。それを無視して先を促すヒナタ。あれ?
「早く来い。村長の家は村の中央だ」
藁葺きで屋根が こしらえられた木造りの家。内装は2階と あるけれど、吹き抜けて上の階は壁際 外回り状の床で寝室だけ だった。
一階の、囲炉裏を囲んで私達は座っている。上座に家主で ある、村長が 座っていた。
「ほう……七神 探しの旅を……それは ようこそ我が村へ おいで なさった。だが……コホン」
わざとらしく咳払いを一つ。
「失礼の事とは お思いでしょうが、我が村では よそ者を毛嫌い しとります。お早めに この村を出て行かれた方が、よろしいかと」
顔中を白い毛のモジャモジャに させた小さな老人。この人が村の長老でも あり、村長でも ある。濃いモジャモジャの白毛の せいで表情は よく読めないが、豆粒ほどの小さな目の光が奥でキラリと光っている。
私は出された お茶を一口 飲むと、静かに置いた。そして……一番 聞きたい事を言った。
「隣の、イルサ民族 廃村の事ですけど」
ブ厚い村長の眉の片方がピクンと動く。
「何故あの村は滅びたんですか? 一体、光神様の光って……何なんでしょう?」
私の質問に大きく反応する。
「何故それを?」
「すみません。俺が つい漏らしてしまいました」
私と村長の間に、ヒナタが割って入ってきた。彼は あぐらをかいて、私の向かいに座っていた。
村長は、そうか……と。仕方なさそうに話し出した。
「数年前……まだココ最近の事ですが……ある日 突然、光神様が現れたのです」
「光神が!?」
「凄まじい光が、イルサ民族の村の上空で発生しました。それは、ワシらの村からも見えた……光が おさまり、村の者がイルサの村を訪ねると……今の ような状態に なってしまっていたのです」
今のような……?
「その光が原因で、村が あんな影張りに?」私は聞いた。
「そうです。そこに居るヒナタを残し、村は滅びたのです」
私達は驚いて いっせいにヒナタを見た。ヒナタは俯いて ずっと静かに していた。
……つまり、ヒナタは村の生き残り……? ヒナタは、イルサ民族なの……?
「ヒナタは、イルサとワマの混血なのです。イルサに母親が。ワマには父親が住んでおりました。母親は その光のせいで死に、父親は病気で死にました。一人に なった こやつは、ワシの元へ仕えて暮らしておるのですよ」
「そうだったんですか……」
「あの光をワシらは光神様の災い、と呼んでおります。何故 突然、あんな事が起こったのか。ワシらにも わかりません。偶然あの場に居たヒナタに聞いても記憶を失くしていて わからない。ワシらは とりあえず、再び光が現れるのを恐れ、祠を作って祀っているのです」
「ほこら?」
「もう少しココを出て村の奥へ行くと、湖が ありましてな。そこへ作らせたのです」
村長の話は、そこで終わりに なった。他に村長から聞き出せそうな事は もう、ない。私達は顔を見合わせながら、これから どうしよう? と困ってしまった。
するとヒナタが立ち上がって言った。
「救世主一行 様。とにかく そういうわけだ。今日は隣の俺の家に泊まるといい。明日の朝一番に、この村を出て行ってくれ」
冷たい態度で。
彼だけじゃなく、村の雰囲気や人々、皆が。
よそ者 嫌いの村。謎の光に怯える村……。
私には、かわいそうに思えて仕方が なかった。
私達がヒナタの家に泊まる代わりに村長の家でヒナタは泊まる事にして。同じく木造りの、よく似た構造のヒナタの家の一階で。私達は床に並び、毛布だけを借りて雑魚寝する事に した。
寒くはないし、これで充分。荷物を室内の端に固めて置き、私の横にマフィア、蛍、メノウちゃんと女子グループ。少し離れて男子グループだ。それぞれ分かれて休んでいた。
寝る前に、これからの事を相談している。
「……で、どうする?」
と、まず話を切り出してきたのはセナ。床に うつ伏せに転がってヒジをつきながら。
「どうするも こうするも。明日、村を出て行くしかないんだぜ。たった一晩で光神だの何だのって、謎が解けると思うか?」
「そんな事 言ったってさカイト。別に私達は謎を解きに来たわけじゃないんだから。光神さえ見つかればいいのよ……ノーヒントだけど」
「ねえ、マフィア」
と、私はツンツンとマフィアの肩を突いた。
「なあに勇気」
「ずっと引っかかってたんだけど……その、災いの時。ヒナタ……は、イルサの村に居た、のよね?」
それを言うと、起き上がったカイトがポンとヒザに手を打った。
「そう。それだよ。何で あいつだけ無事だったんだ。その場に居たんなら、奴も影だけに なって消失するはずだろ?」
カイトの その ひと言で、皆が騒ぐ。
「それが無事って事は……」
「何? あの子が今回に関係してるって事なの?」
「でも。ヒナタは その時の記憶を失くしてるって。聞いてもムダなんじゃない?」
マフィアに そう答えると。皆 行き詰ってしまったようで、急に静かに なった。埒が明かないからとセナが締めくくる。
「お手上げだな。カイトの言うように、一晩じゃ何も できやしない。とりあえず、朝にココを出よう。で、イルサの村に もう一度 行くか……それとも、他の村に行くか、だな。周辺には まだ、ええと……トリ村かカイ村だか、あったしな」 ……
旅の疲れも あって皆はグッスリと後、寝入ってしまった。
時々、イビキも聞こえてくる。寝言も。皆は相当お疲れみたいだった。
私も そう。そのはずだ。
なのに……。
おかしい。
砂漠を ずうっと歩いてきて、ヘトヘトな はずだったのにだ!
何故だか目をつぶっていても、一向に眠れない私だった。
試しに目を開けてみた。パッチリと。まあ美しいクリアな視界。
はあぁ……この分じゃ、朝、寝不足なんだろうな……ぐっすん。
(ん……?)
……ふと。外に気配を感じた。
ココの壁は薄いからだろう。微かだけど、誰かが外を歩いているような気配を感じた。
寝ている皆を起こさないようにして、私は起きてソッと小窓に寄る。外を覗き込んだ。
誰かは暗くて わからないけれど、確かに何者かが村の奥へ奥へと移動していた。
(村の人……? ひょっとしてヒナタさん?)
私は とにかく、後をついて行ってみる事に した。どうせ眠れないしと。
家を出て、人影を追った。もう何処かへと消えてしまっていて、私は見失った方角へと突き進んでいった。辺りは真っ暗に ほぼ近く、家の明かりが点いている所は一つも なかった。
村の奥へ。村長の話だと、奥には湖が あるって言ってなかったっけかな……。
そのうち、岩がゴロゴロと転がっている所へと出た。もっと進むと、岩山が そびえ立つ。
湿気を含んだ空気のニオイが する。もしかして この向こうが。
「あ……」
岩山と岩山の隙間から顔を覗き込ませる。見えたのは湖だった。やはり。
「うわあ……大きな湖! これかあ……」
どうにか岩山の小さな所を見つけて、手をかけ足をかけ飛び越えて、湖の ほとりへと近づく事が できた。ふう。
風がヒンヤリと、汗を乾かしながら吹いてくれている。雲や月を映す水面。キラキラと、遠く水平では光り輝いて とってもロマンチックだった。
「あ、あれ? あんなとこに穴が……」
水平線を目で辿っていくと、やがて洞窟らしきものを発見した。ココからなら岩の上を右回りに水際に沿って行けば、辿り着けそうだった。
さらに私はピンと一つ思い出す。
「あそこに祠が あるんじゃない!?」
と。村長の話を記憶の底から掘り起こしたのだった。
張り切って さっそく私は向かう。大きな岩が連なったり積まれている地面を転ばないように気をつけながら、足場を確認しながらだ。
しかぁーし。
もう あと わずか、という所でだ。ツル! っと足を滑らせて、ドボン! っと派手に湖へと落ちてしまったのだった。
しかも。
足が つかないと きた!
(……グガボボォゴボッ……)
一瞬パニックに陥りかけたけれど、ゴンと手に硬いものが触れて、それが岩だと わかった途端に急いで掴んで這い上がる事が できた。
無我夢中だった。
はあはあと、少し飲みかけた水を吐き硬い地面の上で空気を吸う。呼吸を取り戻し、さっき自分が落ちた後ろの水面を見た。
……あれ? ココ、階段に なってる?
地面は削られて整えられた石造りの階段に なっている。それが水の中にまで続いているみたいだった。つまり、階段の下部が湖に沈んでいると……はあ。
なるほど。私が掴んだのは階段だったのね。もし落ちた所が悪かったら、石に ぶつけて割れていたかも頭。危ない危ない。
階段の先に続いているのが例の洞窟だ。何とか辿り着けたわね。
私は びしょ濡れに なった服を一回 脱いでから、ぎゅうっと絞った後に再び着た。帰ってから着替えて乾かそうっと。今は我慢しておいて、せっかく来たんだから ひと目 祠を拝んで帰ろうと思った。
人が2・3人は一緒に入れそうな大きさの洞窟に入る。
すぐに行き止まりだった……けれど。
そこには祠なんて なかったのだ。
「あっ……?」
代わりに『居た』のは、人間だった。予想外の展開に戸惑う。
居たのは女性。目を閉じて正座だ。黒髪の長髪で、長い まつ毛。日本人形みたいで端整な顔立ちだ。巫女みたいな格好をし、背筋が伸びて姿勢が いい。
女性の たもとには手の平に のるくらいの大きさでロウソクの灯りが点いて置いてある。時折 炎は揺らめきながらも消えずに女性の姿を照らし続けていた。
ゆっくりと、目を開ける……。
私は緊張して近寄れず身が固まったままだった。
沈黙。
光に照らされた顔と、背後で炎の揺らめきに添って動く女性の大きくなった影。
私はゴクリと息を呑んだ。
すると、女性は突如 笑顔に なった。んん!?
「初めまして。私、ソピアっていうの。よろしくね!」
と、私にオイデ オイデと手招きした。
「まあ こっちに来なさいな。何も取って食おうなんてしないんだからさ。あれっ、ひょっとして濡れてるの? ははあ、さては さっきの音! 湖に落ちたんでしょ!」
と、言われ。私は ひとまず隣へと腰かけた。
ソピアと名乗った女性の口は、まだまだ止まらず。
「ごめんなさいねえ。ココには何にも なくて。火も起こせやしないのよ。灯り程度しかね。ま、あったかいから大丈夫よね。ところで あなた見かけない顔。名前は? ココへは どうして?」
明るい顔で、ニコニコと笑う。私は頬を掻きながらも答えを探した。
「ええと、私は松波 勇気で……実は、コレコレシカジカ」
そうしたら。急に声を張り上げ興奮し出した彼女……ソピアさん。
「救世主!? あの千年に一度やって来るっていう!?」
私をジイッと見つめた。て、照れる。
「えっ、じゃあ今! 七神 捜し やってるってわけなんだ! わああっ、勇気ちゃん、すごい! あなたが あの伝説の救世主だなんてっ! 感謝 感激アメアラレよね! うわあ、どうしよう!? サインちょうだい! ああ でも、書くものが ないわ! 何て事なのぉ〜!」
ソピアさんは……立ってチョコマカと動き回り、ガッデム! と頭を抱え、キラン! っと目を光らせ、ガシッ! っと私の手を両手で掴んだ。
動作の多い人だった。
落ち着かないかなあ……。
「せめて……せめて握手だけでも……!」
と、息を荒げて握った手をブルブルと震わせている。私は勢いに圧倒されて「はいィィィィッ!」と言いながら顔が青ざめていた。掴んでいた手をいったん離すと、今度は握手へと切り替える。しっかりと手を握られ、ブンブンと上下に振られて私は頭がクラクラと めまいを起こしそうだった。「くうぅ……! 涙が出るゼ……!」とソピアさんは言って、やっと手を離してくれた。
「ありがとう。ごめんね、あまりの嬉しさで、つい……ね。くふ……うふふふふ」
私は少し背筋に冷たいものが通った。隣に居るのは危険なんじゃないだろうか。アニメショップに通いつめる ちょっとオタクな人とかと同じ電波を感じる。気のせいなんだろうか。
「ふう。怖がらせちゃって ごめんなさいね。私、すぐ熱くなっちゃうから……村の子と小さい頃、オニゴッコとか するじゃない? 私がオニに なると、皆 嫌な顔するのよね。で、やっぱり違う遊びしようって事に なったりで。かくれんぼ、高オニ、色オニ、警ドロ、ポコペン、田んぼ、あやとり、折り紙、ケンケンパ、縄跳び、ゴム跳び、だるまさんが転んだ、花いちもんめ、かごめかごめ、ドッチボール、トランプ、カルタ、花札、ドンジャラ、五目並べ……えーっと えーっと……」
「いや、もう それ以上は」
「そう、そうね。とまあ、違う遊びしてもよ? 私がオニに なったり順番が回ってきたりすると、何故か その場の空気が変わったりするのよね。何故かしら……って考えてみると」
ソピアさんは腕を組みつつ難しそうな顔をしていた。
「たぶん、私が あまりにも真剣に なりすぎるんじゃないかと……」
まだ難しい顔をしている。
「そんなに?」
私が聞くと、はあ〜……と深あーく ため息をついた。
「色々と思い出すわ。オニに なって、追いかけるじゃない? 追いかけられた子で泣き出す子が居たしね……それに縄跳びなんて夜まで延々と跳び続けたわ。最高 記録、前跳びで2万3692回……でも あれは長老が止めたからよね。本当は もっと伸びたはず」
……すごい。
「折り紙は紙が もうボロボロに なったっけね。ドッチボールはケガ人が出るし。カルタも。警ドロでも、お前は警察官に向いている、って大人に褒められたっけ……って、あれ? 何の話をしてたっけ?」
「すぐ熱くなっちゃうって話じゃなかったっけ」
「そうそう。そうなのよ」
しかし まあ、居る居る。そういう人も。周りとの温度差が激しい人。運動会とか、イベントもので結構 居そう。あんまり熱すぎると、周りの人は かえって困ったり……ね。
……でも。今の話を想像してみると、笑える。追いかけられた子の気持ち。怖かったんだろうなあ……物すごい形相でオニが追いかけてきたらと思うと。
それに、ボロボロに なった折り紙も かわいそう。いや、そこまで遊んでくれて折り紙としての使命を果たせたんだから いいのかな?
「それにしても旅か……いいねえ」
と、フッ……と顔を曇らせたソピアさん。
私は やっとこさ聞きたい事を聞いた。
「どうして、あなたは こんな所に居るの?」
ソピアさんの豪速球のような話で聞けなかった質問を今やっと。はあ。
……でも。ソピアさんは相変わらず下を向いたまま。
あれれ? 元気は何処へ行ってしまったんだろうか……?
私が出方を待っていると、やがて顔を上げて口を開いた。
「お願い、勇気さん……ヒナタを」
「え!?」
思いも よらない人物の名前が出て驚く。ソピアさんは私の手を また強く握って懇願した。
「ヒナタを……ヒナタを救って!」
容赦なく熱を放射して燃える太陽。日の光に焼けつく乾いた地面。
ココだけ、亜空間なんじゃないかって思ってしまう とても不気味で異質的世界。その存在。
イルサ民族 廃村。
すっかり廃墟と化した村の外れに。手入れの ない風化されつつある崩れかけた茶色い土造りの家が ある。
外壁に、くっきりと残された人と木の影。
影の通りに細い木が かつて そこに立っていて、そばで誰かが立っていたんだろう……。
影の ついた壁の下に、供えられたばかりの花束と、一人の少年が居る――
少年……ヒナタが屈み込み、手を合わせていた。
彼は毎日ココに来て、こうやって拝んでいるのだ。そう……自分の母親を。
「その影が あなたの お母さん?」
ヒナタはハッとして振り返った。
居たのは、私達。私、セナ、マフィア、カイトとメノウちゃんに、蛍と紫くん。
ヒナタは私達が近づいていた事に全く気がつかず、ずっと屈んで熱心に前しか見ていなかったみたいだった。
朝に村で見送ったはずの私達――救世主一行を見て、少し安堵して返事をした。
「……そうだ」
ヒナタは視線を落とし、壁の方を向いた……悲しそうに。
「行きましょう。私達と一緒に」
私は一歩前に出て、片手を出して誘う。
「何故……?」
当然の如く そう聞いてくるヒナタ。でも振り返ったりしなかった。
私は ひと呼吸だけ置いて、再度 語りかける。
「だって あなたは光神だから」
《第43話へ続く》
【あとがき】
ポコペンで相手をつつき過ぎるというのはどうでしょう。よい刺激に……(無理?)
※ブログ第42話(挿絵入り)
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-107.html
ありがとう ございました。