第40話(血戦の終結とその後・壱)
出発の日。まさに旅立ち日和とでもいった風に、快晴だった。
すっかり支度を終え、私達は いよいよ出発する事となり、城門で国王と最後の握手をした。相変わらずの無愛想で、国王は固く私の手を握った。
「世話に なったな。勇気」
「こちらこそ。こんなに食料と お金もらっちゃって……」
……
そう。国王は私達の旅立ちを聞くと すぐ、持ちきれるだけの食料や防具その他 諸々の生活品と、多額の お金を用意させ私達に くれた!
最初そんな お宝(!?)を目の前にして、色めきたった私達だったけれど何だか上手い話……という事で気が引けてしまった。で、断ろうとしたんだけれど。家臣や兵の人達が目をウルウルさせて懇願してきた。
「そんな遠慮しちゃいけませんよ! これでも まだ足りないくらいだ!」
「そうです そうです! 我々が こうして生きているのも、あんた達が あの恐ろしい黒い男達を追っ払って下さったからだ!」
黒い男とは、全身 黒ずくめタイツを着ている鶲の事だろう。
「先に逝っちまった奴らも これで浮かばれるってもんだ! 恩に きるぜ!」
「しかも、平穏に民族紛争が止められた! あんた達は俺達に とっちゃ本物の神様だぜ!」
「ああ! 国王の機転と あんたらの活躍の おかげで、この国も安泰だ!」
「民族紛争の せいでオラぁ、まだ新婚ホヤホヤだったってのに くぅ……!」
「でも もう終わった! これで村へ帰れる!」
「ああ! 久しぶりに おっ母の所へ帰れるんだ!」
「帰れる!」
「ヒャッホウ!」……
と、後は祭りのように賑やか。話に すっかり花が咲き、どうにも断る事が できなくなってしまった。
「……まっ、いいんじゃねえ? 買い出しに行く手間が省けたし」
「そうそう。これで すぐに北へ向かう事が できる」
「わーい! 北へ行くんだねっ!」
と、私の肩に手を置いてセナが、後に続けてカイトとメノウちゃんがニコニコと はしゃいでいるんだけれど。私とマフィアは肩を竦めるばかり。終いにゃ、「まっ、いっか」と口を揃えて言う始末。
私達が呆れていると、いつの間にか話は進み、何と本当に私達の門出を讃えて大宴会を始めてしまったのだ。
セナとカイトとメノウちゃんは、夜遅くまで騒いでいて。ぐっすりと寝入ってしまっていた。
おかげで、翌朝の早朝に出発の予定が。だいぶ日が高くに なって今に なってしまった、という訳で。
……
「じゃ……もう行きます。お世話に なりました。どうか ご無事で……」
と一礼して、国王と握手していた手を離した私だった。すると国王は、腰に着けていた光頭刃を外し私の前に出した。
「え?」
「私からの餞別だ。持っていけ」
仰天する。
「な……そ、そんな訳には いきません!」
と、私は差し出された光頭刃を押し戻した。
「これが ないと、また奴らが国王の体の中の鏡を狙って来た時、歯が立たないじゃないですか! もらう訳には いきませんよ! いくら何でも!」
私は断固 拒否。私の後ろに居たマフィアも うん、と頷いた。
しかし国王は出した手を引っ込める事は ない。
「もう よいのだ。自分の身は自分で護る。私は今回、いかに自分が この剣に頼りすぎていたかが よく わかったのだ。それに……」
と、国王はチラ、と横に控えていたサンゴ将軍を見た。すると彼は「はい」と言って、部下から何かを持って来させた。紫色の布に被り、小台の上に のせられていた物……金色の鉱物だった。
「これは……?」
見せられた物を見つめる。手の平に のるくらいの大きさの金の塊……のようだけれど、よく見ると透けているような……。
「ピロタの泉の近くの鉱山で、これが採れるように なったのだ。この大陸一帯に伝わる昔話の中で出てくる幻の鉱物……オリハルコン」
「オリハルコンだって!?」
オリハルコンと聞いて声を上げたのはカイトだった。身を乗り出し、間近で鉱物を眺める。その見る目も同じくらいに輝かせて。
「こ、こんな所で見る事が できるなんて……! 感激だ!」
「一体、そのオリハルコンが どうなの?」
訳の わからないマフィアがイライラして聞く。するとカイトがキラキラした瞳でマフィアを見る。
「物の価値を知れい! 話せば長くなるが これは昔、勇者アバドンが精霊王から祝福を受けた時に一緒に授かったという、光の剣のだなぁ……」
「そんな長い話は いいから、つまりは これが どういうものだって言うの!?」
眩しがっているマフィアが さらに厳しく言う。おお怖ッ。
「自然界の中で、最も硬い鉱物だ。竜で さえ一撃で済まされるという」
興奮しているカイトの代わりに国王が説明してくれた。なるほど。
「って事は……」
「つまり?」
「どういう事でしょう?」
国王は少し笑みを浮かべて言った。
「光頭刃ほどでもないだろうが、私は これで剣を大量に造り、皆に持たせるつもりだ。そして私自身も技と腕を磨く。お前達に持たせた武器なども、オリハルコン製なのだぞ」
そう言われ。私達は それぞれが持っていた武器を見た。紫くんは長剣で、その他の皆は短剣(マフィアはムチも)を一つずつ所持していた訳だけれど。よく見ると、刃の先までスッキリと その鉱物と同じ種類の物だった。
マジマジと見つめ、「しえー……」と ため息を漏らす。
「でも、これだけで充分じゃ? その上 光頭刃まで……」
恐る恐る聞き返す。しかし国王は首を振った。
「邪尾刀とやらを防ぐには、やはり、神の造りしものには神の剣で立ち向かわなければ。格好つかんだろう?」
そう言って、グイと私の胸元に剣を無理矢理 渡した。
「……ありがとう ございます……国王……何から何まで……ホント……」
感激の あまり涙が出そうに なった。
「あ、そうそう。それから」
と、国王はポケットの中へ手を突っ込んで、ゴソゴソと何かを取り出した。
私達 全員、「まだ何か出るのかっ!?」と身構えてしまう。
ノンキだったセナ達も顔が引きつっているのが わかる。おかげで びっくりして私の涙は引っ込んじゃったけれど。
「これを」
国王は一枚の紙切れを渡した。
そこには読めない字で10行ほど書かれていた。
「これは?」
「私のサイン入り通行 手形だ。これが ないと、国の関所は抜けられんだろう?」
と、聞くやいなや。私達は脱力。
そうそう、そんな事 考えてなかったわよねー。
「また……青龍を封印したら、立ち寄ってくれ。歓迎する」
国王は また、口元に微かな笑いを含み優しい目で私を見た。
「うん。絶対 見に来るよ。変わった……この国を」
短い間だったけれど、色んな事が あったね。
きっと……忘れない。あなた達の事。
「絶対 来て下さいね! マフィアさん!」
と、急に横のサンゴ将軍が目の端に涙を溜めて、マフィアに向かって大声を出した。マフィアは苦笑いだった。
「それじゃ!」
「ああ」
「お達者で!」
「生きて帰って来て下さーいっ!」
「絶対ですよー!」 ……
また お祭りに なりそうな雰囲気。
私達は いつまでも いつまでも こっちに手を振って笑いかけている国王や家臣、兵士達の姿が小さくなっていくのが少し寂しかった。何度か振り返っては、何度も笑った。
……さあ、行こう。
北へ。
旅の再開へ。
レイの元へ……そして、青龍の封印へ。
途中、ユリ砂漠で3日ほどキャンプし、『国境の壁』という所に辿り着いた。
『国境の壁』……何か大げさだなぁと思う?
そうじゃない。前方 上方、見渡す限り『壁』なのよ!
つまり、どういう事かっていうと。雲まで届く巨大な黄色いレンガ造りの壁がズラー……っと、左右にも広がっているわけ。その あまりの巨大さと いったら。
「どうやって こんなの造ったんだろ……」
カイトが首をほとんど直角に曲げて上を見上げていた。
ほんと。何のために こんなの造ったんだろ? やっぱり他の国から自分の国を護るため……だろうなぁ。でも、それにしては費用も人手も かかりすぎるんじゃあないの? なんて気が してくる。
「あれが関所なんじゃない? ほら、馬車とか人が並んでる……」
と、マフィアが指さす方向を見てみると、確かに一列に人や馬車なんかが並んでいる。
壁にポッカリとトンネルが。この壁の巨大さからして ちっぽけな穴だけれど。4トンだろうが10トンだろうが、トラックでも易々と通れそうだった。
トンネルの前で兵の男が数十人居て、通ろうとして並んでいる人や荷物を入念にチェックしているようだ。一人に対して時間が結構かかっている。
「とにかく並んで待ちましょうか……」
マフィアが並んでいる人数を眺めながら、仕方なさそうに言った。
それもそう。
蛇の道みたいに、結構な人数の人が並んでいるからだ。それこそ何十人居るってんだろうか。これを全部 荷物とか、身元とかを調べていくわけ? 厳しいなぁ。
列に並んでいる待ち人達はシートを敷いて座っていたり、はたまた寝転んで昼寝していたり。こんな所でも商売していたり、笛を吹いて音楽を楽しんでいたり歌ったりしている。
セナとカイトは眠たそうに あくびしているし。
私達は最後尾に並んだけれど、まだまだ これから時間が経過していく事を考えると……ゆううつに なってきそうだった。
何か ないかなぁ……と。私はキョロキョロと周囲を見回した。すると。
「ん?」
関所の辺りから、上へと続く階段らしきものが あるのを発見する。
何だろうか、と階段の先を目で辿っていくと……壁に沿って続く階段は、ある程度に上まで行くと折り返して また上へ。そして また折り返して上へ。ジグザグに見えた。
壁と一緒に、てっぺん は雲に隠れて見えなくなっている。
私はピンと閃いて、思わず走り出してしまった。
「えっ、おいっ。勇気、何処 行くんだよ!?」
後ろからセナが慌てて呼んでいる声が した。
しかし言う事を聞かず。というか聞いて おらず。私は列から外れて壁へと走って行ってしまっていた。
「セナ、あんた行ってきなよ。どうせココから動けないし。退屈だろうからね皆。私が並んでるから」
と、マフィアが言ってくれていた。
「すまない」
セナは それだけ言って私の後を追いかける。
「俺らも居るし。メノウ、退屈だったら適当に遊んできてもいいぞ」
「うん、後で行く」
「暑いわねえ。テント張らない? どっかで」
「向こうの日陰に張りましょうか……」
と、カイト達や蛍達が相談したりしているのも全く知らず。
私は お先に関所に居る兵士に話しかけていたのだった。
「ねえ。ひょっとして、この階段……てっぺんまで行ったら、上から向こう側が見れるの!?」
いきなり袖を引っ張られて興奮気味に私に尋ねられた兵士の男は、びっくりした顔を私に向ける。やがて落ち着いて笑いながら言った。
「ああ。一応 展望できるよ。そうだなぁ……ま、往復4時間は かかるかな。どんなに急いでも」
「4時間……」
腕を組みながら考える。
上まで行って帰ってくる時間と、検問での待ち時間。どっちが早いかなあ。でも空まで上ってみたいし。そこから見える景色なんて想像できない。せっかくのチャンスなんだけれどなあ。
諦めかけて残念がっていると、背後からセナの声が した。
「行けるよ。てっぺんまで」
そんな事を言う。私は目を丸くしてセナを見た。
「へ!? だって4時間も かかるんだよ?」
腰に手をついて、平然としているセナ。何その余裕。
「片道2時間だろ? まあ順番が来るのも そんなくらいだろ。OK、シャシャッと行って帰って来ようぜ」
シャシャ……ってアンタ。
私は難しい顔をして「でも……」と尻込みしているけれど。
「おーい! マフィアー! ちょっと上まで行ってくる!」
大きな声でマフィアに呼びかけ、「さあ行こう」と私の手を引っ張り出した。
階段を上り始める。
私はズルズルと、セナに腕を引っ張られて訳の わからぬまま連れて行かれてしまった。
「し、死ぬ……」
「ほら、さっきまでの元気は どうした?」
先を行くセナのスピードは、落ちる事は ない。私は必死になって ついて行く。
そりゃあ最初は楽々と、調子に のって2段も3段もピョンピョンと飛び跳ねながら上っていったりしたわよ? でも段々と疲れてきて、一段一段 普通に歩くようになって、終いにゃ無口に なってきて……で、今は この有り様。
何度も何度も「もうダメ」とか「しんどい!」とか弱音を吐きまくり。それで そのたびに先を行くセナが励ます。
「オメー、俺より若いくせに体力なさすぎなんじゃねえ?」
ぐさっ。
こ、この野郎っ……。
「何よ! 私、女の子なんだから!」
と、ない胸を張って答えてみた。
「調子いい奴ー。こういう時ばっか女だからって言いやがる。フン、マフィアを見習え! マフィアをっ」
何とアッカンべーをしてスタコラサッサと前を向いて行ってしまった。
は、薄情な奴……出会ったばかりの頃の あの優しさは幻と消えたっちゅうんかいっ。
「あっ!」
セナを追いかけようとして、つまずいてしまった。ステンと前のめりに転ぶ……よかった、手で受けた おかげで段の角には顔が当たらなかった。
その代わり、角に当たった手の平がヒリヒリする。
「ったぁ〜……」
右ヒザも擦りむいたらしい。ちょっと皮が めくれていた。血は出ていないし、たいしたケガじゃないけれど……。
「……」
……何だか、情けなくなってきた。
さっきのセナの言った事が思い浮かぶ。
そりゃあね、マフィアは女なのに たくましいわよ。料理も できるし、初めて会った時、あの孤児院で子供達の面倒も看てた。マザーの看病も。それから、魔物や鶲達と戦う時だって、ひるまなかった。それどころか自分から向かって行ったもの。
南ラシーヌ国で鶲と紫を相手に大ピンチに陥った時、マフィアは私に「大丈夫。私が あなたを護る」って言ってくれたっけ。私、あの時ドキンって したもん。女同士なのに(変な意味で なく)。
私って足手まといだよなあ……助けられてばっかりだもん。前にも こういう事で悩んでいたような気が する。その悩みが今また、復活しちゃったかな……。
とにかく、これ以上お荷物に なるのはゴメンだ。
今なら間に合うよね。ココから下へ戻ろう。せっかく一生懸命 上ってきたけれどさ。
だって これから次の所へ行くっていうのに、疲れちゃったら余計な迷惑かけちゃうもんね。何で もっと早く気が つかなかったんだろう。
私ってホント、考えなし。レイの事、尊敬しちゃうわ……。
「何、そんな所で へたり込んでんだ。しかもボーッとしちゃって」
顔を上げると、セナが私の様子を窺っていた。
「……何でもない」
私は口を『へ』の字に曲げて立ち上がった。パンパンと服に付いた砂を落とすと、上では なく下へ向かって下り始めた。セナが当然 驚いて追いかける。
「おい。待て! どっち行ってんだよ!」
と、私の腕をグイと引っ張る。
「皆の所、戻る。下りは楽だし、それに私もう、疲れちゃったもの」
私はセナと顔を合わせず、そう言ってセナの掴む手を払いのけようとした。だがセナは さらに強く私の腕を掴んだ。
思わず「イタッ」っと声を上げて見ると、セナは真剣な顔で睨んでいた。私は何も言えなくなった。
……怖い。
そう思った時だった。
ヒョイと私を抱っこして抱え上げ、階段を上って行くではないか。えええっ!?
「なっ……何すんのよ! おろしてよ!」
私は真っ赤な顔をしてジタバタと暴れた。
「ジッとしてろ!」
セナは怒鳴ると、無言で階段を上って行く。
表情を見ると、何処か遠くを見ているような目。
私は もう逆らわず、ただセナに運ばれて行くだけだった。
着実に、上から見下ろす景色が遠くなってくる。マフィア達の姿も もう、判別が困難だ。離れて行った先には、私達が3日かけて横切ってきた砂漠が見渡せ広がっている。何て高い所まで上って来たんだろうと思った。
南ラシーヌの城も見える。ポツポツと村や街も。今居る場所からでも充分に風景を見て楽しめそうなんだけれどなあ。
息が苦しくなってきたのは気のせいなんだろうか。セナは疲れてないのかな……? セナに抱っこされている おかげで色んな事を考えてしまうんだけれど。
あれ? セナの腕って こんなに太かったっけ……?
私は、セナの腕に注目してみた。
今まで何度かセナに抱きかかえられた事が あったけれど、その時に比べて、だ。細い事は細い腕なんだけれど随分と筋肉が ついた気がする。
……あ、そっか。
やっと わかった。バイトの成果だ! セナが合間に ちょこちょこ やっていたバイト!
バイト……って、確か工事関係だったわけよね? 完璧 肉体労働じゃないかああ!
そうか……それで こんなに体力が あるんだわ。そりゃ男だし、体力は元々ある方だとは思っていたけれど。一週間か そこらの期間の働き詰めのバイトで、さらに体力と筋肉が ついたのね!
うっわー、面白ーい! たくましーい!
私は吹き出しそうになるのを堪えながら、セナの腕をツンツンと つついてみた。
「? 何だ?」
私に好き放題に思われているのも全く知らず、セナは呼ばれたと思って私を見た。
「え? ううん。何でも なあい」
と、しきりにニヤニヤしている私の顔を見て不思議がっている。
セナには悪いけれど、おかげで悩みが どっかに行っちゃったわ! うふふふふ。
私という お荷物を抱え どれくらい時間が経過しただろう。
まだ着かないのかなあなんてノンキに考えていた私。すると ずっと黙っていたセナが話しかけてきた。
「お前さあ」
「え?」
表情からは何も読みとれない。でも何故か少し緊張して手に力が入った。
「俺が居なくなったら……どうする」
「え……」
嫌な感覚が襲った。一瞬の事だったかもしれない。私は自分の心臓の大きな音を聞いた。
どうして突然、そんな事を聞くんだろうか。
「どうする……って? そんな事 聞かれても」
「だからまあ、もしも だよ。そんなに深く考えなくてもいい」
「そりゃまあ……嫌だけど……でも……」
セナとの会話を続けていくうち、言葉の先が見えなくて どうしようという焦りが生まれた。ハッキリ返事が できない。
「俺ナシでマフィア達と一緒に、レイを倒しに行ったり青龍を封印しに行ったりとか、できるか?」
そんな事を言う。
「それは無理でしょ? 『七神創話伝』でも七神は、救世主と共に行かなくちゃいけないような事を言っていたじゃない」
「それは そうだけど、だから……もしもだよ。もし俺が七神の一人じゃなくて普通の人間だったとしたら……勇気は、一人で やっていけるのかって。そういう事」
……?
よく、わからない。
「セナが普通の人間だったら……? そりゃ、一人で頑張るわよ。早く七神を揃えて……」
と、答えてみるけれど。
「口で言うだけなら簡単だけどな。でも実際は違う」
そんな風に返されてしまった。
……。
セナは言った途端、険しい顔に なった、また。そして私は何も言えなくなる。
繰り返しだね。何だか。
セナは少し ため息をついて続けた。
「例えば、この階段」
「階段?」
私と話しながらも、セナが休む事なく一段ずつ上っていく階段だ。時々折り返すだけで、常に上へと伸びる階段。先は霧……雲の中で、階段が壁伝いで ある景色は どれだけ行っても変わらない。
「この階段の先にレイが待ち構えていたとしたら、どうする?」
私は素っ頓狂な声を上げた。「ええ!? レイが!?」
「だから例えば だって。例えば、この道のりがレイに辿り着くまでの障害や困難だったとしたら、お前は さっきみたいに相談も なしに勝手に決めて引き返したりすんのか?」
「……」
「ちょっと つまずいたり疲れただけで止めちまうような、そんな生易しい旅は してないだろ、俺達は」
「……うん……」
「疲れたり悩んだり、しんどい思いをしてるのは勇気だけじゃないんだ。マフィアだって、ああ見えて重い体 引きずってんだぜ。カイトだって、俺らの知らない所で魔法の特訓したり人形 売ったりして稼いだりしてるし、メノウも旅の疲れ隠して無理してる。蛍や紫だって、レイに負い目を感じて苦しんでる。皆、辛いけど頑張ってるんだ」
「……」
「もちろん、勇気も頑張ってるよな。お前は お前なりに気を遣って。だから自分で やろうとするんだろう。
――でも、わかってほしい。誰に迷惑が とかは、あまり考えるな。迷惑なんて誰でも かかるに決まってる。じゃあ どうすれば最小限の迷惑で済ませられるのか――俺達に相談なり なんなりすればいいんだ。一人で落ち込まず、前向きに考えてくれ」
……。
……そっか。
私、自分の事しか結局 考えてなかったんだ。
何でも かんでも自分だけで決めちゃって。
この階段だって最初に見た時、いきなり走り出さないでマフィア達に相談すれば よかったんだ。それから、自分の体力の事をもっと考えるべきだった。早く気が ついてセナにも ちゃんと言ってみれば よかったんだ。……
セナの言うように……自分一人で考えていたってダメなんだ。一人で悩むより……誰かに聞いてみてからに すればいいんだよね。私の周りには、セナ達 皆が居てくれるんだしさ。
それに もっと周りの人達の事を考えてみたりしなくちゃ。マフィア達や蛍達……皆が それぞれ辛い思いをしてるんだって事、あまり考えた事が なかった。セナに だって、ヤキモチみたいなの やいちゃったりして。急に怒ったり落ち込んだりして……辛いのは、セナに だってあるのに。レイの事、ハルカさんの事……私の知らない事でも、悩んでいるのかもしれない。
勝手に行動して皆に心配や面倒かけてばっかりで。
でも後からグチグチ悩んでいたりしてさ。なんて進歩が ないんだろうか。
私、子供だ。子供なんだ。今ようやくハッキリわかった。
どれだけ背伸びしても。
大人には、なれない……なれないんだよ。
人の手を借りるしか ないんだ。……
「ごめんなさい……」
私は顔を埋めるようにして、泣きそうに謝った。
泣く?
ううん、泣いてたまるもんですか。
だって私は これから すっごい怖い青龍に向かって行くんだから!
救世主、なんだから!
セナの言う通り、前向きに頑張ろう!
ピタ。
「ん?」
セナの足が止まる。私は埋めていた顔を上げる。
セナは前方、そして地面の一点を見ている。
どうやら次の階段への折り返し地点なんだけれど、少し場が開けた所に出るみたいだ。
「どうしたの、セ……」
肩に手をついたまま、体をセナの視線の先へ。そこには。
「魔法陣だ……」
《第41話へ続く》
【あとがき】
セナの抱っこに慣れたか勇気。いいなぁ軽くて(そっちかい)。
※ブログ第40話(挿絵入り)
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-104.html
ありがとう ございました。