第4話(旅立ちて)
この世に四神獣 蘇るとき 千年に一度 救世主ここに来たれリ
光の中より出で来て 七人の精霊の力 使ひて これを封印す
完璧に覚えてしまった文だった。もし暗記テストだったら、一字一句間違える事はないだろう。
この文の意味……この四神獣っちゅうもんが現れる時には、千年に一度現れるって言われている救世主が光の中から やって来て、七人の精霊の神……風神だの木神だのを七人揃えて、そのそれぞれの力を借りて、復活した四神獣を封印する……と。
まぁ、そういうわけ。で、何が何やら わからないまま、私は この神話通り光の中から出現し、救世主なんじゃないかって自分でも半信半疑に思いながら、こっちの世界に居る。
途中、セナっていう風神とマフィアっていう木神と出会った。
マフィアは自分の立場上、村から出るわけにもいかない為、結局またセナと2人旅を する事に。
セナは美顔で女顔。とっても綺麗な男の人。ちょっと ひねくれ的な所もあるけど、結構優しい。今の私の頼りになる唯一の人。さっきも言ったけど風神といって風を操る力がある。この力の おかげで私は何度か助かった。
そして。
森で私たちを襲ってきた人たち……蛍っていう意地悪っぽそうな女の子と、その お付きって感じの暗い男の子・紫。森の精霊を操ったりして、性格悪いったら! だったんだけど。その黒幕というか、陰の人というか……2人のバックには、意外な人が居たんだ。私にとっても、セナにとっても……ね。
セナの旧友・レイ。とっても冷たいっていうイメージが あった。2人の会話の様子からして、何だか ただ事じゃなさそう……。一体、レイの身に何があったんだろう、って思う。
そういえば、セナの旅の目的って、何だったんだろう。私と出会ってからは自分のその旅は放っぽっているし。急ぎじゃないから、って言っているけど……。
……きっと そのうち、明かされていくんだろうな。
うーん……ははは。あらすじ がてら まとめようとしたのに。余計に、こんがらがっちゃった。
馬鹿よねー。
「おい。どした? 変な笑いして」
と、セナが私の顔を覗きこんだ。私は つい焦ってしまって、ますます変な顔に……。
「えっ? いやぁ、別に。ねぇ……」
セナは、眉を ひそめた。“何だ こいつ……”とでも、思っているんだろう。
仕切り直して。セナは、
「目の泉って、結構 遠いよな。地図だと近そうだけど……。砂漠のド真ん中だろぉ? 水、多く持って行かなきゃなぁ」
と、ブツブツ言いながらメモしている。
メモには、水、食料、服、油、薬……と書かれている。
「油? あーー、灯りって事ね。え、じゃあ、この服ってのは?」
「お前の服だよ。それと俺の服も。いつまでも2人とも、この服を着っぱなしっていうのはなぁ。この、俺の服はまだいいけど。お前、女のくせに男もののトレーナーに そんなスパッツ履いて。夜は冷えるし、もっとマシなの買ってやるよ」
それを聞いて じーーん……輝く瞳 攻撃で、セナを見た。セナは、気がついていないけど。
……そうよね、いつも この服じゃ……っていうか。寒いもんね、この格好。パジャマよりは あったかいと思って我慢してたけど。
セナって、ほーーんと、いい奴だなぁ……。
しみじみとしてしまう。
ちなみに、ここはマフィアの店の居間。朝に起きて食事をした後、この村で最低限必要なものを揃えてから目の泉とやらへ向かおう、という事で。今セナが その買うものをメモっているのだ。
お金を出すのはセナである。だって私は一文無し。
大丈夫、いつか働いて返すわ……と、内心、思ってはいるんだけど、ねえ。その“いつか”は、あまりアテにはならない。
「よしっと。こんなもんか。じゃ、行ってくる。お前、ここで待ってろよ」
と、セナがメモを持って立ち上がった。
「えっ、何でっ!? 私も行くっ!!」
と私が立ち上がると、セナは声を張り上げて言った。
「ダ・メ・だ!!」
「なんでよぉーーーっ!?」
「余計なもん買いそうだからだっ。言っとくけど、俺だって金無いのっ!! そうそうアテにされちゃ困るっ」
と、よく わからん事を言い残して、プイと行ってしまった。
彼の言う事も、もっともかもしれないけどさ……。私、そんなに物を欲しがったりしないもん。昔っから欲しい おもちゃがあっても買ってって ねだったりしなかった。
何よ何よ……私だって、好きで一文無しでいるわけじゃないわっ。
と、ヤケクソな事を考えながら、縁側の廊下へ出て、庭を前にして座った。今日は いい天気で、ポカポカしていた。
目を閉じると、色んな事を思い出した。
お兄ちゃん……お父さんとお母さんが死んで、一人で働いている お兄ちゃん。私の事は そっちのけに なってしまった。私だって、力に なりたかったのに。邪魔だって言って、手伝わしてくんなかった。私が、普通の中学生で いられるように。普通の女の子で いられるように……。
きっと、お兄ちゃんは そう思っているんだ。
何で そうやっていつも自分だけで全部を しょいこむの……。
私は、あの日の事も思い出した。こっちの世界に来る前に、お兄ちゃんと その彼女らしき人と、口論になっていた事……。「私と妹と、どっちが大事なのよ」と……確か、そう言ってた。お兄ちゃんは、何も答えられずにいた。
…………あれ?
変……その後の事が、思い返せない。何か、すごく印象に残るような事、言っていたと思うんだけど……。だめ……思い出せない……ま、いっか。
ついウトウトとしていると、トタトタと廊下の向こうから誰かが駆けて来た。
ミキータだった。
「お姉ちゃん。ヒマなら、遊ぼうよ」
「……ただいま。おい、勇気」
「ん……? あれ、セナ。おかえり」
目を こすって起きた。どうやら縁側で寝こけちゃったようだ。
「こんなとこで。風邪ひくぞ」
「あは。ごめんごめん。ミキータとママゴトとか色んな遊びしてたら、眠くなっちゃってさぁ……」
「まぁいい。ほら」
と、セナが私に一抱えほどのブ厚い大きい袋を渡す。何だろうと中を見た。そして、私は目を疑った。袋を落とす……ボトッ。
「何だ? 気に 入らなかったのか? 服屋で、勇気に一番似合ってると思うやつ買ったんだ」
と、セナは言うものの。私が驚いているのは気に入るか入らないかという問題じゃない。その服が問題だった。
「これ……私の学校の制服……」
そう。袋から取り出した その服とは。まさしく我が港中学校の赤いセーラー服であった……。
セナが買ってきてくれた その服を身に まとい、私は奇妙な感じが抜けなかった。
(一体、この世界は どういう世界なのよ……)
何故、こんな所に こんな服が。こんな偶然があるのだろうか。でも現に ここにあるし。
見慣れたボタン。赤いミニスカート。セーラーだけど少し形は変わっている。
そうそう。奇妙な事が さらに一つ。セナは何と、ルーズソックスを買ってきた。
私、しばし固まる。買ってきた理由というのは特になく、ただ勇気に似合いそうだから……と。……何だか、それを店で選んでいるセナのさまを思い……私は「ブルセラショップ?」が脳裏に浮かんだ。
いやいや、セナはモチロン変な意味で買ってきたわけじゃ……ないだろうけど、この奇妙な偶然は、本当に気味が悪い。
このまま、学校に行きそうだよね。
とにかく、制服に着替えた私はセナたちが休憩している居間へ向かった。マフィアが いれて
くれた お茶を飲んでいたセナは、私の姿を見て「うんうん」と頷いた。
「サイズもバッチリだな。よく似合っているよ。結構、高かったんだぜ、その服。生地が少し変わってっからなぁ」
とセナの言葉を聞いて(そりゃそうでしょ……こんな服、こっちの世界にあるなんて思ってもみなかったもんねっ)とツッコミを心の中で入れた。
「あれ? セナは服、買わなかったの?」
「え? あー、うん。お前の その服に使っちまったんだ。これから先の分も、残しておかなきゃなんねーし。まあいいよ。そのうち、どっかの お宝発掘か、バイトかで働いて貯めて買うしさ」
セナは、そう言って立ち上がった。
「さあ行くか。マフィアに聞いたら、目の泉までは徒歩で行くしかない。水とか食料とかも分けてもらったし。……用意は できたか? さっさと行こうぜ」
と玄関から出てった。私も それに ついて行く。そして、森の方へ向かった。
……いよいよ、旅の再開なのね。
急に寂しくなった。たった一日しか居なかったはずなのに。きっと、色んな事が次々と起こった後、のんびりしちゃったせいかな。もっと居たかったかも。
でもすぐに、今度はワクワクしてきた。
こっちの世界に来る前までは普通の中学生で、何時間も椅子に座りっぱなしで勉強、勉強、帰っても予習、復習と勉強、勉強で座りっぱなし。特に趣味も特技も無い私にとって飽き飽きしていた毎日……。
そんな平凡な私が、この世界では仮救世主(?)として存在し、旅をして、色んな事を知った。見るものは すべて新鮮。まるでゲームの世界に居る様な感覚。
私、今なら正直に言える。元の世界に、帰りたくないと。
「勇気。見ろ」
と、セナが私に声をかけた。私が え? として前を見ると、森の方から風がザワッと勢いよく吹いてきた。目を瞬間的に閉じて、そっと開けた。
「わあっ……」
まるで、花の幻想。ピンクの花弁が、風に踊るように散っていた。
高くなった太陽の光に反射して、キラキラと光っていた。その花弁舞う中心に、私たちは居た。何だか、祝福されているよう。
「勇気! 待って!!」
と背後から声が聞こえてきた。振り返ると、息を切らしたマフィアが居た。
「マフィア……お店は? 今時分、混んでるんじゃ?」
「ハアハア……勇気。店の中から……あなたたちの姿を見て……ハア……追いかけたの。昼食 食べて行くんだと思っていたわ。黙って行かないでよねっ」
「ご、ごめん。忙しいだろうと思って。一応、マザーに言ってからは出たんだけど……」
「それより、これ!」
と、マフィアは手で持っていた、小さな可愛らしい女の子の人形を私に渡した。
「これは……?」
「これ、小さい頃にマザーが私に くれたものなの」
「そんな大事なものを!?」
と躊躇すると、マフィアは首を振った。
「私は小さい頃、よく あの森で迷子になった。その度にマザーは大慌てで私を捜してくれたの。そんな時、この人形を くれた。私を悪い奴や深い闇から守ってくれますようにって」
「マフィア……」
「私はもう、十分守ってもらったわ。だから今度は、あなたたちの番よ。受け取って。そして、これを見て私を思い出して」
マフィアの目に、少しキラッと光るものが あった。それを見てしまって、私はマフィアの手を握りしめてウンウンと頷いた。
「行ってくるね。頑張ってくる。また、会おうね。六人揃えたら、また来るから……」
「うん。気をつけて! セナも、しっかりねっ!!」
と私は去りながら手を振り続けた。マフィアも、振り続けていた。
感動の別れだった。
「臭えーー奴ら……」
とセナは ため息を一つ。
地図を広げ、現在地を確認するセナが「あっ」と自分の頭を叩いた。
「えっ!? 何っ!?」
「こいつぁしまった。目の泉は村の反対側の出口から出ないと行けねぇ」
……この後、スゴスゴとマフィアの元へUターンしたのは、言うまでもない。
村を出て、テクテクと歩き続けた。
一本道が ずーーっと地平線まで続き、奥にはポツポツと建物が見えた。道の側には雑草がポツリポツリと あるのみで、とにかくなーんにも無かった。
歩いても歩いても道は途切れない。……少し疲れてきた。
「ふう……。少し疲れたな。昼飯にするか」
というセナの提案に、即座に賛成した。
昼食といっても軽いもの。携帯パンと、マフィアが いれてくれた紅茶。パンには たっぷりバターが塗られ、今まで食べた事のない甘みと、少し辛味もあった。美味しかった。紅茶に よく合う。パンは一つが手の平サイズで、袋に いっぱい詰め込んであり、計10個ほどであった。
荷物は全部セナが所有している。前にも言ったけど 左腕のひじ上に(いつも付けている所が違うけど)付けた腕輪は、縮小自在ポケットだ。何でも入る。どんな大きいものでも。しかし一応、30品までと決まっているらしい……。一体どういう構造なんだか。
そして昼食を終えた後、また歩き始めた。
テクテクテク。
こりゃあ結構キツイな……。しかも2人とも無言だから、余計にそう感じるのかも。
私はセナと会話を し始めた。
「前々から聞こうと思っていたんだけど」
「何?」
「セナの旅の目的って、何?」
するとセナは少し驚いた風に顔を つくったが、やがてポツリと呟くように言った。
「……人を捜しているんだ」
「人……?」
旅の目的が、人捜し? 一体何故にっ!? 興味が沸いた。
「誰を? セナの彼女? なんつって」
と、冗談で言ったが、何だかセナはノッてくれない。あくまでも冷静で、無表情。
「……さあね」
と、少し口元でフッと笑った。
何それ、どういう意味!? 図星だったの!?
気になる気になる、ぶ〜〜〜……。
「勇気の居た世界って、どんな世界なんだ?」
と、セナは急に話題を変えた。「ごまかさないでよ」って言いそうなのを、堪えた。だって、きっと話したくない理由があるだろうから。無理には、聞かない方がいい……。少し、寂しいけどさ。まあいいや……気を取り直して、私は はしゃぎ出した。
「うーんとねぇ……どうしよう、何から話そうかな……」
私は、学校の事を中心に話し出した。まず学校というものの説明と、友達の事、先生の事、授業の事……。課外授業の内容も色々話した。お寺に遊びに行って蜂に追いかけられたO君の事や、その他……うーん、ノリノリで歌うT君の事とか理科の実験で顔に火がついたK君とか、水道のとこでノート落としてべチャべチャのグチャグチャにしたNさんとか。体育祭の横断幕を作るのに燃えていたOさんとか、顔が丸くて有名なM君とか……はは、何か人の事ばかり。
そう思って、自分の体験談も色々と話す。でも、やっぱり失敗談が多いんだよね、圧倒的に。小学校の頃、キレて椅子持って暴れまわった事とか、裏山のガケから滑っておりようとして つまずいてゴロゴロと転がっちゃったりとか、横断歩道を飛び出そうとして友達に手を引っ張られたおかげで危うく車に轢かれる所を助けてもらったりとか、男子と教室で野球をしていて先生に怒られたりとか、ただ単にハデに こけたりとか……ああ、何か悲しくなってきた。自分で自分を恥で追い詰めてるよな、これって……。ははは……。
でも、セナは笑いながら話を聞いてくれていた。話している時、俺も似たような事があったーって言ってくれた。思いっっきり人を追い抜かした後、目の前で滑って転んじゃったりとかね。
笑いは絶えなかった。ずっと笑っていた。
しかし、気がつくと村が もう そこに見えていた。
村の入り口に一人の おばあさんが立っていた。こっちを見て、話しかけて来た。
「お前さん方、旅の人かね?」
口をモゴモゴとさせ、しわがれた声で そう言ったので、私は「はい」と返事をした。
「疲れたじゃろうて。あの泉の水は疲れに効くと言うよ。飲んでみなさい……」
振り返ると、確かにポツンと小さな泉が あった。草木が少し繁り、真ん中に。
「本当だ。透き通っていて、綺麗ね」
と、そこの泉の水を手で すくう。そして、口にした。すっごく美味しいっ!
「へえ。どれどれ……」
とセナも飲む。2人して、のどの渇きを潤した。
すると突然背後から大きな叫び声が。
「おい! お前ら……!」
と同時に、金物が地面に落ちる音がした。空の両手鍋のフタがコロコロと転がって私の足元まで来た。
格好からして村人A。少しハゲた、おっさんだった。
「その水を無断で飲んだなっ!?」
と、血相変えて私たちに詰め寄る。
私たちが曖昧な表情を浮かべると、村人Aは他の村人たちを すぐに呼んできた。
静かだった空気は一変し、話し声で いっぱいになって。村人たちが大騒ぎする中、私とセナは顔を見合わせる。
何が何やら わからない……。一体、この水が何だっていうわけ?
すると そのうち、村の長らしき人が私たちの前に歩み出た。声を張り上げ、
「あんたら、大変な事をしてくれたな!!」
と怒り出した。私たちが びっくりして何か言おうとする前に、村人たちが私たちの手を捕まえ、後ろにやった。
何っ!? これぇ!?
「何するのよ!」
と私が怒ると、村長? は、あれよあれよという間に村人たちを従えて、私たちを何処かの家へ連れて行った。そして長い地下への階段を下りた後、私たちを牢屋に放りこんだ。
「何でよぉっ!? ここから出してっ!!」
牢屋には、ごっつい鍵が かけられた。鉄格子をつかみ、訴える。村人を2・3人後ろに率いて、村長は威厳のある声で叫ぶ。
「お前らの処分は、おって報告する!! 以上!!」
そして足早にサッサと何処かへ行ってしまった。
後に残された私とセナ。ただただ、唖然としていただけだった。
《第5話へ続く》
【あとがき】
やっぱ、制服でしょう! ラクだし(笑)。
昔に書いたノートを見て現代に直しながら書いているわけですが、「ルーズソックス」と書いてあるのを見た瞬間。
「……今は?」と……
……ものすごく不安になりました……。
ま、まだいいか。ルー君、死んでない(たぶん)という事で。
※ブログ第4話(挿絵入り)
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-36.html
ありがとうございました。