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第39話(心の開花)


「勇気!」

 遠くで声が する。まだ息が あった。

 あの声はマフィアだ。


「勇気! しっかりして!」

「勇気!」


 薄く、目を開けた。

 心配そうな顔をしたマフィアが私を抱き起こした。後ろでセナの顔も あった。

「蛍……!」

 キッと、マフィアが蛍の方へ顔を向ける……私はボンヤリとした視覚の中で、蛍の方を見る。

 途端、蛍はガックリとヒザを落とし「う……うわああああッ……!」と泣き崩れて伏せた。マフィア達も私も驚いていた。何も かける言葉が なく、蛍の泣き声が皆の内に反響する。

 すると しばらくして、蛍の斜め後ろにスッと(ひたき)が現れた。

「やったじゃない。蛍。さ、早く取り出せば。七神の連中なら僕らに任せてよ」

 紫の横には紫苑が姿を現した。

 たぶん、隙を見て こっちに来てくれたセナとマフィアを彼らは追いかけてきたんだろうけれど……。

「……」

 蛍は顔を覆っていた両手を離し見つめ、苦々しい顔をした。涙でグッショリとなった顔と手の平を見た鶲は、(いぶか)しい目を投げかける。

 そして言葉で叩きつけた。

「早くしなよ。こんな所で2つも鏡が手に入るんだ。ラッキーじゃない」

「……」

「レイの復活も間近だしさ」

 !?

 その言葉に反応したのはセナだ。身を乗り出し、「何だと!?」と大きな声を上げる。

「あれ? ご存知じゃない? レイは復活のために眠っているのさ。力を蓄えてね。いや……力をつけてる、と言うべきかな」

と、鶲は指で口先をいじくりながら意味深な事を言った。

「力をつけている? どういう事?」

 マフィアの問いかけに、ニッコリと満足そうな笑い付きで鶲は答えた。

「レイは力を温存して、さらなるパワーアップをめざしてるって事さ。紫苑に頼んで その眠りに ついているってわ・け。今は代わりにハルカが指揮をとって、それで動いてるんだよね」

 腕を組み、足でリズムをとりながら小歩きをしてみせる。私達の真剣な顔が面白くてたまらないんだろうか。憎らしい。

「パワーアップって……さらに強くなるって事か!? 一体、何故!?」

「さあ? 悔しかったんじゃない? 救世主に してやられたのが」

 それを聞いたセナは視線を逸らし、難しい顔をした。「ハルカの指揮……」

「そう。ご愁傷様。昔の友達同士で戦ってるんだもんねえ。風神のセナ君?」

と、ク、ク、と笑いを漏らす……。

 セナは舌打ちした。

「蛍。早くしなよ」

 鶲の手元に、なかったはずの邪尾刀が現れた。そして しっかりと片手に握った鶲はブンブンと刀を振り回し……セナとの攻防が始まる。

 セナと鶲、マフィアと紫苑だ。それぞれを相手に、戦った。

 セナとマフィアは苦戦する。鶲は邪尾刀を使うが故に。紫苑は妙な技を使うが故に。


 鈍い金属音と、風の音と。飛び交う中、蛍は ゆっくりと(そら)を見上げた。涙は放ったらかしにされて……。


「勇気は……敵で ある私に優しくしてくれた。殺そうとしたのに……『一緒に行こう』だって。バッカみたい」

 光る雫は頬を伝い流れ落ちて。横たわっている私――勇気を見て、寂しげに微笑む力の ない少女。

 優しそうに……優しそうに。

「勇気は言った……裏切る、っていうのは、気持ちを180度 変えちゃう事だって……何も変わってない。私の心は……勇気の事を好きだって……この気持ちは」

 震えは声の中にも。



「――変わってないのォッ! …… 」



 ……


 蛍の叫びが皆の動きを止めさせた。

 蛍の小さな体から、心の中のものを全て吐き出すかのように。ありったけの力と想いを込めて叫びへと変え、解き放たれる。……

 動きを止めたセナ達や鶲達、見守っていた兵士達や国王も、風や音も。世界の あらゆるものが動作を止め幼き黒い少女に注目する。

(蛍……)

 私の視界は(にじ)んでいた。これは涙のせいだと、言わなくても わかる。

 私は心底 嬉しかった。嬉しい……それだけで身体が満たされる。そして熱く、熱くなってきた! ……

「紫!」

 急に紫を睨む蛍。その向けられた目は憎しみでは ない。怒りだった。

「私を殺しなさいッ!」

 命令を下した。

 決意。怒りは紫では なく、自分自身に向けたもの。

「なっ!?」「!」

 その場に居た全員が仰天して動揺で どよめく。

「何だって!?」

 同じ反応を鶲は した。

 鶲は信じられないものでも見た形相をして、刀を下ろして蛍を見た。ドサリ……と、腰を落として正座して、力無く顔を傾ける蛍。とても疲れた顔をして、涙だけが忙しそうに流れている。その何かを悟りきった表情は、皆の胸を締めつけた。

「私は勇気達の進む道には邪魔に なるの……早く、紫。お願い」

と、黒い瞳は何処か……紫では ない何処かへと泳いでいたのを見せた。

 蛍は自分の両の手を組み、祈りを捧げる真似をする。

 紫は眉一つ動かす事は なく、ジリ、と前に踏み出して片手で兵士の剣を構えた。……

「……お望みと あらば……」

 紫の、トーンを下げた少年の声からは感情が ない。

 紫は剣を握る手に本気の力を込めた。



「やめて! 紫くん!」



 今にも近づき蛍に斬りかかろうとした所を制したのは、……私だった。

 ヒョイと手をついて起き上がり、難なく紫の方へと駆け出して。紫の手に掴みかかったという。

 紫は呆然だった。当たり前だけれど。

 おかげで優に紫を止める事が できた。

「勇気!」

「お前、平気なのか体は!?」

 当然、マフィアもセナも そう呼ぶわけだけれど。こっちは それに答えていく余裕は ない。それどころでは なかった。よって無視。

 私は紫を押しとどめたまま、蛍に向かって叫んだ。

「どの世界にも、邪魔者なんて居ない! だから死なないで!」

 必死だった。

 どうか届いてと願いながら。


 やがて蛍はキョトンとして呆れた顔を……涙を拭かず、コクンと頷き、微かに笑った顔に変えた。

 私には それだけで満足だった。

 蛍の言葉は私には嬉しかった。胸が熱くなったの。もう、それだけで充分よ……。

 蛍は わんわん泣き出して、何と私の元へと やって来てくれた。胸の内に飛び込まれて! ……泣き続ける。

 気がつくと、鶲や紫苑の姿が なかった。


 しばらくの静けさの後……カイトが城内の廊下を懸命に走って こちらに合流した。

「おい。どうなったんだ? 紫苑が突然 現れて、さくらと一緒に消えちまった……け、ど?」

 精一杯に走ってきたカイトの目に映る光景は、私の胸の中で ただ ひたすら謝り泣き続ける蛍。カイトに したら異様な光景だったろうと思う。ハテナ、という顔で首を傾げるばかり。

「ごめんね、ごめんね……」

「もういいよ。よく頑張ったね」

と、私は蛍の背中をさすってあげた。

 同じくして。

 マフィアが国王の元へと歩み出た。負傷し動けない国王を気遣い、「大丈夫ですか国王」と声をかけた。すると国王は息を整えて、こう言った。

「民主主義……民との話し合いか……悪くないな」

 少し笑う。

 何かが国王の心にも生まれたのだろうか。

 私は国王の言葉を聞いて……優しく2人ともに微笑みかけたのだった。




 数日が過ぎた。

 四神鏡を狙って また奴らが襲ってくるかもしれないと思われ、しばらく滞在していたけれど。あれ以来、全く そんな気配は なし。

 そこで、私達はココで ずっとジッとしている訳にも いかないと、そろそろ旅立ちの準備を始めていた。

 国王は もう すっかり元気に なり、他に負傷していた家臣や兵士達を見舞っていた。滞っていた書類などの整理にも追われて休む暇も ないと思われていたが。何と私が呼び出される。

 豪華すぎる国王の仕事部屋、というものを想像しまくっていたのだけれども。アテは外れて普通の、何処ぞの大きな家にでも ありそうな規模の書斎へと通される。

 横に広く、書類や本、ファイルなどで埋め尽くされようとしている仕事机が窓際に。部屋の中央には丸いガラス製の小さなテーブルを囲むように2人掛け、1人掛けの高級そうなソファが。そして国王 専用なのか特別仕様と思われる装飾の ふんだんに施された、頑丈で ゆったりとした椅子に、国王は足を組み威勢よく堂々と座って私とは向かい合っていた。

 私はソファに座って、出された紅茶を飲みながら。緊張しつつも、国王と対談していた。

 対談……。

 各国 首脳 会議じゃないんだから……。

 国王の背後、壁際に召使いのような人が一人 立って居るけれど。

 こちらの話に一緒に加わりませんか? つまんないでしょ立ったままじゃと。

 聞きたくなるくらい、緊張なんて飛んでいったくらい。私と国王は仲良くなっていった。


 これぞ救世主の力なんだろうか……。

 ただの世間話にも見える話の内容だったんだけれどね。


「……とまあ、選挙というものが ありまして。その地区の代表を選ぶために投票してですねえ……」

 とか かんとか。最初、見てきたココの街の様子や外観とかの話から始まって、話は私の居た世界での学校生活とか暮らしぶりなんてのになり恥をさらしつつ(もう暴露していいやと諦めてトホ)。

 流れは政治の方向へと。私の知っている限りになってしまうけれど、よく お兄ちゃんがテレビを見ながら言っていた好き勝手な暴言も参考にと……まあ、想像に お任せします。

 私の拙い知識と言葉でも、国王には理解が できるらしく しきりに頷いていた。さすがだなぁ……。

「ふうん……選挙して投票か。なかなか斬新だな。面白い」

 お、面白いんですか、そうですか。

「いいな それは」

 んん?

「さっそく私の国も……と言いたい所なんだがな」

 ええ?

「問題が ある」


 国王は言うと、紅茶の入ったバラの絵の描かれたティーカップを持ち、静かに一口、もう一口と優雅に飲んだ。

 問題?

 私は国王の様子をずっと窺っている。国王の考えている事は掴みきれなかった。

「なあに? 問題って……」

 国王は紅茶に浮かぶバラの花びらを見て、そして同じく浮かんで映る自分の顔を見ているのか……それとも 何処も見てなくて、考えに(ふけ)っているだけなのか。しばらく黙っていたが、やがて口は動き出した。

「家臣や兵士、民を説得させたり仕組みを根底から変えるなどという事は、そう容易(たやす)い事では ない。相応の覚悟も いるし、しかも、今現在に起きている民族間の紛争なり戦争なりも止めなければ いけない。何も聞いてはくれぬだろう」

「……」

 いきなり気が重くなる。でも それも仕方がない事だ。そうだよね……。

「そうだね……規模も規模。人数も人数だよね……」

 そう言いながら、私は ちょっと引けてしまっていた。向かう先が大きすぎて、手に負えない気が勝ってしまって。ついつい、自分は救世主なんですけど? って、忘れてしまいそうになる……世界を救おうとしている救世主の方が規模が大きいはずなんだけどなぁ……あれえ?


 国王の重そうな話は続く。

「今まで縛っていたものが、いきなり自由になどなって。きっと皆 困惑するに違いない。そこでだ」

「へ?」

 国王は私を見た。国王は意味ありげに私を見ているが、私は自分を指さして目をパチクリとしているだけだった。

「協力してほしい」




 国王が言った『協力』……一体、何だと思う?

 ははははは……まあ、いいから。

 私達一行は、国王の命により民族紛争の起こっている ある地へと運ばれた。

 ピロタの泉と呼ばれる、周りを堆積岩で囲まれた自然のままの泉。この泉を巡って、タルナとバリという民族が争っている。

 私達が着いた所は、下一面に泉が一望できるほどの高さの崖の てっぺん。崖谷の底に ある泉が広がる風景は壮大だった。ところが、泉の周辺では民族がお互いを見張るためか矢倉や陣営がポツポツと見受けられ、小さく人間は多人数と見られた。

 てっぺんから、彼らの居る下までは距離が だいぶある。岩肌はゴツゴツとしているが、なかなか登りきるのも骨だろう。

 と、色々辺りを見渡して。私は下方の兵達を見下ろしながらドキドキしてきた鳴り止まない心臓を落ち着かせようと頑張っている。

「じゃ、始めようか勇気」

 ドッキーン。

 セナに声をかけられ、私は逃げようかと体が傾く。

「こら、何処 行くんだ今さら」

 私の頭をこづいたのはカイトだった。マフィア、蛍に紫、メノウちゃんと。皆が居てくれている。安心、してい、る、よ、一応……。

「大丈夫。この辺り一帯は、岩に囲まれている おかげで よく響くから。さぞかし声は通りまくると思うよ。拡声器も あるし」

と、カイトは適当に設置され準備万端なさまを説明してくれる。そうやって私から緊張をとろうとしてくれているんだけれど……。


「もう! やるわよお!」


 ファイト一発。

 私は『用意』された舞台へと上がった。舞台、即ち下が見渡せる岩の上へと。

 私の今している服装は、国王が用意してくれた。ヒラヒラと薄く透き通った薄い桃色の羽衣を肩にかけ、下には原色に近い赤と金、白で織られたチマ・チョゴリ、もしくは仙女を連想させるような格好だった。

 頭には金色の王冠。化粧も少々。髪まで外ハネに、整えられている。私は誰だ。

「おい……! あれは何だ!?」

 私の被っている王冠は よく太陽の光に反射して光っている。パアア……。

 下で休んでいた兵士の一人が気が ついてくれて、私を指さして叫んでくれた。

 おかげで、泉の周囲の人達は皆。何だ何だとドヤドヤ騒ぎ出した。

「人だ!」

「誰だ!? 誰なんだ!?」

 次々と騒ぎは大きく、うるさいほどに広がっていった。

 そろそろ いいかな?

 私が横目で目配せすると、その場に居たセナが精神を集中しコソコソと呪文を唱え始める……。


 大突風が巻き起こった。


 ビュウウッ!


「うわあああ!」

「ぎゃああ!」

「剣が!」

「わああ〜!」


 ビュアアアアアアア……ッ!


 目下では風が四方八方吹き荒れて。剣も鎧の一部も飛ばされる飛ばされる。兵士達は一挙に大混乱に陥った。身構えたり、そばの枯れ木に つかまってみたりと。とにかく飛んでいかないようにと大慌てだった。

 別に それを愉快に思うわけじゃないよ。ただの演出だった。

 私は、大きく深呼吸。そして大声で叫んだ。

(しず)まれえい!』


 ぴた。


 声と同時に、風も兵士達の騒ぎも止まった。ほんと、思っていたよりココは声が よく響き通るみたい。ちゃんと下まで聞こえているらしかった。

 そうそう、私は自分の世界じゃ放送部員。発声練習は最近サボっているけれど、それなりに やってきていたもんね!

 何だか自信が ついてきた! これならイケるぞ!

『私は天神に召喚された救世主だ! よく聞け、愚かな者ども! 私は醜い争いを終結させるため、この地へ来た!』 ……

 間が空く。

 兵士達は段々と また、騒ぎ出していった。

「救世主……だと?」「あの噂の?」「まさか!」「嘘だろ、決まってる!」 ……

 そんな言葉が飛び交った。

 すると今度はカイトが私の背後で意識を集中し、ピロタの泉の水を盛り上げた。

 ザパアアァァン、グルグル、と。大きく盛り上がった水は回転して渦となり、竜巻となって暴れた。もちろん、兵士達はパニックだ。

『黙れ、こわっぱが!』

 私、野次に向けて言い放つ。ちょうど言った後に水が そんなもんになった訳だから、兵士は水が私の力で動いているのだと勘違いしてくれている。よしよし。

 しかし“こわっぱ”って。言い過ぎたかなあ? まあいいか。

『肌の色は違うけれども、髪の色は違うけれども、誰かのために護るという精神は同じもの。お互いが血に染めあっても、何も解決は しない。どの世界でも、平和を願う心は ひとつ。同じだ……』


 シーン……と静まり返った戦場。気分は爽快だった。ノッてきた。

『見るがいい』

と、サッと手を上げた。

 次に。マフィアが気を集中させ、泉の周りに。たちどころに緑色の雄々しい木々を作り出した。映像を早回ししたように木々は みるみる生長し、岩肌の この場所は緑で囲まれた泉になってしまった。

 どよめく現場……「神だ!」「神の力だ!」「奇跡だ、本物だ!」と、兵士達の気迫は上がったようで、それぞれ顔を見合わせ今 目の前に起こった事を素直に認めていた。


『こんな血で濡れた所でも緑は育つ。その生き様は、まこと素晴らしいものだ。その生命力を前にし、くだらない争いをしている うぬらを……恥ずかしいと思わんのか!』


 シーン……


 再び静かになった空気を、一人の兵士が一歩前に出て打ち破った。

「それでは救世主様! この泉は一体、誰のものなのですか!」

 私は答えた。


『全てだ』


 ……


 ……偶然にも、ちょうど雲と雲の隙間から。いつの間にか隠されていた太陽の光が、さす……。

 全てが私の味方に ついたみたいな気分に なった。救世主ハイ?

 こんなムード満点、ノリノリ状態 絶好調な私は、太陽を指さし笑いながら宣言した。


『この泉を開放する。今日をもって兵を退け。民族同士の争いの時代は終わりだ!』


 ……


 ……


 ……これまでにない長い長い沈黙の後。

 先ほど発言した兵士から、パンパン……と拍手が。

 そして それを機に。右から、左から、と。拍手が沸き起こり、音は次第に大きく重なって、鳥が一斉に飛び立ったかのように響いていった。

 それから。

「神様!」

「救世主様!」

「万歳っ、戦争が終わるんだ!」

「救世主様が来て下さった! もう安心だ!」

「救世主様!」 ……

と、“救世主様”コールが何度でも何度でも沸き上がる。

 私はと いえば。

 ジーン、と。達成感に酔いしれていたんだなあ。よかったあああ。

 ……


 と、ココで。説明をしておこうと思う。

 実は国王が言っていた、『協力』とは……。


“救世主”という私の立場を利用して、こうやって猿芝居をしてだ(何か そう見える)。神の存在をアピールする。国民は国王が神だと押しつけられていたわけだけれども。こうして神、救世主――が実際に救いに来たという事で。国民を安心させるのだ。

 それから日を置いて国王の演説だ。改めて、国民の前で救世主と共に国王 自らが平和宣言をするという。


『私の不甲斐なさで皆に迷惑をかけた。だが、今日から安心して暮らすが いい。そう、私は今この時をもって平和を宣言する。即ち。戦争の禁止という法を成立させる。これから私は国民のための政治をする事を誓う。そのため、平和の宣言と共に民族の自由独立をも約束しよう。不安がる事は ない。何故なら我々には、神の使いが居て下さるのだ』


 国王の演説の後。あの泉とは、比べものに ならないほどの大歓声が襲った。

 私と国王とは、民の前で握手をする。

 拍手と歓声と笑いと涙。全てがゴチャゴチャの、歴史にも残り得る演説は。こうして幕を閉じていった。


 ……



「しっかし凄かったなあ……あの人の数。俺、まだ耳鳴りが止まないぜえ?」

と、耳を押さえながらカイトは後で背伸びをした。

 夕食をとった後、私達は部屋で(くつろ)いでいる。

「うん……何だか感動しちゃったわね」

 マフィアが しみじみと頷く。

「しっかし、笑えるよなあ……勇気の あの格好」

と、クククと小声で笑うセナの頭にポカリと一発くれてやる私。プンと そっぽを向いてやった。

「国王様の提案だったのよ。仕方ないじゃない……ま、気分よかったけどさ」

と、思い出してみた。仙女の格好をした私……やっぱり体型が子供だよなあ……あんまり似合ってなかったような気がする。シュン。

「何は ともあれ。これで旅の再開だって事だな……あー、長い寄り道だったぜ。俺、本当、疲れたわ。もう寝る。どうせ出発は準備も あるし まだ少し先だろ? 寝るぜ。じゃな」

と、勝手にブツブツ言いながらセナは部屋を出て行ってしまった。

 カイトがポツリと言う。

「なーんか……変な感じ……」

 私はドキリとした。何故だか不明。そしてカイトの言葉は聞こえなかった事に した。


 あんまりセナの事を考えるのは よそう……。

 そう思っていたかった。


 それと。

 だいぶ時間が経って皆は忘れてくれているのが幸いなんだけれど。私の刺された傷。

 今は違う部屋で過ごしているはずの蛍達。紫に剣で刺された傷……。

 剣は光頭刃だった。私は覚えている。これが おかしいという事にも気がついてい……る。

 私は邪尾刀だろうが光頭刃だろうが、刺されても復活できるという事実を目の当たりにした。する事が できた。

 でも どうして?


 ……



 誰も答えては くれない。


 私は救世主……。

 改めて、自分が何者なんだろうかという不気味さを感じた。背筋に寒気すら感じた。

 そして それも胸の内へと しまい込む事に……した。



《第40話へ続く》





【あとがき】

 次回また分割な予感……という事は話数が増。増えるワカメ現象で最終は何話になるんだろうなあ。

 まさか100話なんて事は。ははは!


※ブログ第39話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-101.html


 ありがとう ございました。



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