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第37話(繋がり・弐)


 クローゼットの どけられた、後ろの壁から発見された抜け穴。普通なら、見つかるはずは なかった。

 ハルカは迷わず開いた先へと飛び込む。回転式となっていた壁の一部がドアとなり、開いた隙間を抜けて。この先に何が待ち受けていようとも、ハルカは全然 考えもしていなかった。

 この退屈な空間から脱出したかった。それだけだ。


 入ってすぐハルカの前に、下る階段が現れた。10段程度の階段を冷たい石造りの壁に手をつきながら一歩一歩と、まずは慎重に、足元と行く先を確かめて。部屋の明かりがまだ届いている おかげもあって、少し先まで視界は行き届いていた。

 そこでハルカは いったん部屋へと戻り、粗末な燭台を一つ手に持って。明かりを頼りに再び、階段を同じくして下り歩いて行った。

 道は長そうだと思った。明かりが なければ、不便だっただろう……。


 一度も分かれ道が なかったのが幸いし、手を壁に つきながら、ハルカは道なりに進んで行った。そして やがて進行方向に突如『壁』が出現する。

 行き止まりかと思えば違った。上、ハルカの頭上にポッカリと『穴』が開いていた。

 燭台を近づけて見てみると、穴の内側面には上へと真っ直ぐに伸びる錆びた鉄バシゴが あった。そこを上って行けと言わんばかりに。


 ハルカはハシゴに手をかけた……届かなくとも、自分で自分に覚えたての魔法をかけて。その おかげで難なくハシゴを上る事が できた。そして硬いなと思った出口の塞ぐ物をずり動かしてみると それは退ける事ができ、ハルカは何処かの地上へと頭を出す事が できた。

 突っかかる事もなく障害に悩む事もなく。ハルカは自分の能力と幸運に感謝した。


 地上に立つ……。

 外だった。ヒンヤリとした夜風が吹き、ハルカの髪をさらう……。

 懐かしい、見覚えのある情景だと感じた。何故だろう、と。

 ハルカは考える……そう、きっと、うんと小さい頃。母親が まだ生きていてココに来たんだと。ハルカは そう納得させた。夜の中に野原が広がる。草木は静かに呼吸をし、寝息を立てて眠っているのだ。

 風は草木とハルカをあやすだけの力で さ迷い、夜の中を駆け抜けていく。


 ハルカは歩いた。ゆっくりと。城内の、あの部屋 以外の空気を吸ったのも久しぶりだった。

 時折 吹く風を新鮮だと吸い、夜空を彩る天然の宝石である星々。誘い込まれそうなほど輝く三日月。静かにヒッソリと立ち並ぶ遠めの家々には、明かりは ほとんど点いてはいない。

 自分 以外には誰も この場に居ない。でも それで よかった。

 自分が王女だと わかってしまったら、どんな事を言われたりするか。わかっている。口では綺麗事を言いながら、心の中で妬み、身に覚えのない恨みを言うのだろう。

 ハルカは、ひとりぼっちだった。

 自分は呪われているんだと思った。

 そして まさに今も、その事を思い、歩いてきた。ずっと歩いて、歩いて……無意識のうちに、野原の外へ行き着いてしまっていた。


 茂みや、多くの木々に隠されて。ある建物が見えていた。

 石で できているのだろう その建物は古ぼけてはいるが、ヒビ割れや欠けなどは見られず、ハルカの首が90度上に傾ききってしまうほどの大きな建造物だった。夜だから明かりも少なく、静寂が余計に建物の存在を不気味がらせていた。

 不気味。何故だか そう思えてしまった。

 ハルカは近づく……高いフェンスが木々の向こう側で隙間なく立ち並んでいる。

 それは どんな大男でも登れない高さで、フェンス全面に有刺鉄線が張り巡らされ、触る事すら拒否していた。しかも、首を伸ばした視線の先、フェンスの上部には時々ビリッと音が聞こえ、電流が流れている。

 魔法を試してみようかとも思ったが、疲れていたので止めておいた。さあ もう帰るかと思って後ろに向こうとすると、微かだがフェンス越しの向こうから人の声がした。

 見ると、誰かが建物から やって来た。しかも2人。暗がりの中、背丈からして子供だった。

 コッソリと隠れるようにソロソロと こっちの方へ向かって来た。何やら、話しながら。

「……んとにドジだなセナは。そんなに大事なら、部屋に しまっておけよ」

「何言ってんだって。部屋なんかに置いておいたら、誰かに盗まれるだろ」

「だったら俺に言えば、いい隠し場所が あったのに」


 ……と、仲のよさそうに少年2人がヒソヒソと会話をしていた。辺りの草むらの中を、キョロキョロと何かを探しているようにウロついていた。

「今日は月が あってよかった。鏡は反射するからな。たぶん見つかるだろ」

と、片方は言った。

 ハルカは その時ちょうどフェンス越しのすぐそばに、キラッと光る物を見た。ペンダント状の、先に卵くらいの大きさで鏡が ついていた。2人の会話から察するに探し物は これに違いないと確信した。

 片方の少年がハルカの方に寄ってきた気配だったので、声をかけた。


「探し物はココだ」


 2つの影は同時にピタッと動きが止まった。そして、近寄ってきた方の少年が疑わしそうに口を開いた。

「誰、だ……?」

と……。


 その時。雲に半分 隠れていた月が、綺麗に その姿を現した。

 その光のせいで、自分と、その少年の顔が明るく照らされハッキリと見えるようになった。

 フェンス越しに お互いを……見つめ合う。

 その少年は自分より少し年上に見えて、泥で汚れた白い服に半ズボン姿。裸足に木で できた靴。髪は青色、目の色は……たぶん黒と。キリリと締まって意志が固く強そうである。

 ハルカは初めて見る年の近い男の子に少し ためらったが、負けじとグッと怖さを引っ込めて いつもの調子で言う。

「ハルカ・ティーン・ヴァリア。……お前達は、何者だ? 何故、ココに居る?」

 すると もう一人の少年も近づいて来た。

 こっちも年上らしいが、比べて子供っぽさが ある。服の格好は2人とも同じで、薄紫な髪の色をしていた。

「ココは監獄だぜ。知らないのか?」

と、その少年が先に口を開いた。

「監獄? お前達、何か しでかしたのか」

 2人は顔をいったん見合わせる。

「そんな事は どうでもいい。それより あんた……王女だろ?」

 青髪の方が言った。ハルカはギクッとして視線を逸らした。

「知ってたか」

「ああ。ヴァリアっていったら国王の名だ。それに その高価そうな服。こんな時間に こんな所へ、そっちこそ何で居るんだ。とっとと帰れ」

 一気に責め立てるように青髪の少年は(まく)し立てる。

「おい、レイ。少し言いすぎだろ」

 そっぽを向く青髪の少年をレイと呼んだ少年は、そのまま続けて説明してくれた。

「俺が落とし物したんで、部屋を抜け出して探しに来たんだ。だから、すぐ戻らないと」

と言って、草むらで自分はココだ、ココに居ると主張しているかのように光る鏡のペンダントを拾い上げて、少年は愛想よく微笑んだ。

「私も城を抜け出して来た。こんな所に監獄が あるとは知らずに来た。……そうだな。私も帰るか。縁が あったらまた会おう」

と、フッと顔を曇らせて下を見た。そして「じゃあな」と言って立ち去ろうとした。

 すると……。

「二度と来るな」

と……追い討ちをかけるように。青髪の少年は言った。

 ハルカには、振り返る勇気が なかった。



 それが――3人の出会い。

 本当なら、再会など有り得なかっただろう、お互いの境遇。城内に閉じ込められた少女と、監獄の中で過ごす少年達――だが、再会は すぐに また やって来たのである。


 ハルカは久しぶりに国王と面会した。いつものように日の当たる机に向かって読書していると、国王が部屋を訪れた。厳かな国王は、ハルカを見る目だけは優しさを秘めていたように思われる。

 向かいあう2人。しかしハルカは二コリとも笑わなかった。ただ、目の前の国王である父を真っ直ぐに見つめるだけ。やがて国王は口を開いた。

「毎日 退屈だろう。今日は庭にでも出て遊ぶといい。私は これから出張だがな」

 ハルカは顔色一つ変えない。

「体に気をつけてな」

 国王は そう言い残すと、伸ばした白い髭を触りながら部屋を出て行った。部屋の中に侍女と2人きりに なった。

「珍しいですね。王様が突然あんな事を……」

 侍女は そう言って首を傾げた。ハルカはドアから視線を読みかけの本に戻した。

「新しい女でも見つけたんだろう。違う香水をつけていたみたいだしな。いよいよ私も お払い箱というわけだ」

 到底 子供の発言とは思えない その口調に、侍女は少し顔をしかめた。

「それで、どうします? せっかくああ言って下さったんですから、庭へ散歩でも。私が付き添いますけれど……」

「いい。私一人で行く。一人で散歩したい」



 見渡す限り花畑。カランコエ、スイートピー、バラ、ハイビスカス、ビオラ……多種様々に咲き乱れる。花で埋め尽くされた中庭。中心には円状の、銀造りの噴水。女神が壷を肩に担ぐ像が あり、壷からはサーッと清い水が流れている。

 国王の趣味で造られた この庭の手入れは雇われた技師・庭師がしている。おかげで、花はスクスクと健康に育ち その生命力を開花させている。

(人の手で形づくられたものなど、私には興味が ない)

 ハルカは花に見向きも しなかった。歩いているだけ。

 するとシャクヤクの花が並ぶ前に、人が居た。長いオレンジ色のストレートヘアの、ハルカの3つ年上である姉。城内に一緒に住んでいるにも関わらず、あまり顔を合わさない。

 ハルカが立ち止まると、向こうも こっちを振り返ってハタと目を合わした。手には いっぱい、シャクヤクの花を持っていた。

「あら、あんたがココに来るなんて珍しい。こんな所、似合わないんじゃあないの」


 ハルカを見るなり、暴言を吐く姉。

 この女だけではない……ハルカの兄姉達は皆、ハルカに対して中傷の言葉を浴びせる。上の14人達は皆 仲は いいが、ハルカだけは別の目で見ていた。

 何、あの髪の色。何、あの瞳。あの子、薄気味悪い。どうして お父様は私達より、あんな子を可愛がるのかしら。私達には、あんな優しそうな目をして下さらないわ――

 シャクヤクを手に抱きかかえ、目が そう言っていた。万事が万事この調子だから、ハルカも もう慣れきっていた。

「この庭の花には触らないでくれます? お父様の大事な、私達に とっても大事な場所ですもの。あんたなんかに触られたら、せっかく咲いた花も台なし。あんたなんて、一歩も部屋から出なくてもいいのよ」

 ハルカは姉の目をジッと見た。燃えるような、熱い瞳。姉は ますます それが気に食わなかったようだ。

「本当に気味の悪い子」

と捨てゼリフを言いハルカの横を通りすぎようとした時、わざとドンと体が ぶつかった。ハルカは不意打ちを受け、デンと尻もちをついた。

「アラごめんなさい」

と、フンと鼻で笑いながら、スタスタと向こうへ行ってしまった。

 座り込んだままのハルカは、しばらく ずっと地面を見下ろしていた。レンガで造られた道。レンガの冷たさが体に伝わる。

 動かなかった。怒りや悲しみというよりも、何も言い返したり反抗したりしない自分の冷静さが情けなく思えた。

 物心ついた時には もう、こんな事は日常茶飯事。自分は異母兄姉である人達に軽蔑されるがままで、無抵抗で、心の中で彼等(かれら)を蔑み、馬鹿扱いしている。

 反抗しないのは、してもムダであり、馬鹿らしいからだと思っている。

 数分ほど座っていた後、音も なく立ち上がった。パンパンとスカートに ついた砂を払う。そうすると……。


 ガサ。


 ハルカの背後、数メートルほど行った所の茂みの中から、何かが動いている音がしていた。しかしハルカは どうせ犬か何かだろうと思い込み、落ち着き払っていた。最初 振り向く事も せずに、砂を払っていた。

 そこに現れた『彼』には、気がつかずに。


「あれは お前の姉か?」


 そこで初めて振り向くハルカ。ビクッ、と肩で反応して声の した方に勢いよく振り向いた。目を見開いて驚きの表情を示す。

 そこに居たのは……つい この前、監獄のフェンス越しに出会った少年――決して微笑んだりも しなかった、青髪のレイと呼ばれていた方の。一人、だった。

 何でココで あなたと出くわすんだと言わんばかりに彼を見つめた。

 彼はハルカの顔を見て、心中 察しているかのように言った。

「なあに、気まぐれだ。暇つぶし……と言ったらいいか」

と、ふ、と笑う。

「どうやってココに入った? 門には兵が居るし、塀は高くて見張りが大勢 居るはずだが……」

 ハルカが動揺を隠せず冷や汗を流していると、彼――レイは自分の右手を胸前に出し、人指し指を立て両目を閉じた。そして精神を一点に集中させると、ものの数秒のうちに突然フッ……と。姿が消えてしまった。

 ハルカは慌てて彼の居なくなった辺りを探した。すると「ココだ」と……ハルカの真後ろに現れた。

 呆気に とられたハルカだったが……やがて閃く。

瞬間移動(テレポート)……魔法か」

 言うと、目が楽しげに笑ってレイは「そうだ」と答えた。

「人に教わった。セナも知らない。まあ……近距離しか できないし。たかが しれてる力だ、自慢できやしないさ。ココに来るには、充分な力だがな」

と、フーと息をつき、噴水の前の石段に腰かけた。そしてハルカの後ろの方で咲いていた、真っ赤なバラの群集を見て、「まるで血のような色だな。見事だ。よく世話されているらしい」と声に漏らした。

 ハルカは視線をバラに向けた後、またレイの方を見た。そして尋ねる。

「……さっきの一部始終、見ていたか」

と、話を最初に戻した。

 レイはヒザの上に両ヒジをつき、指を組んで口元を隠していた。ハルカを見ている。

「ああ」

「私を憐れむか。それとも お前なら、他人事だと たいして気にも とめないか」

と、皮肉そうに笑って見せた。兄姉達に向けた目と同じ目をレイにも向けた――だがレイは気にする風でもなく。

「別に。憐れんでほしいなら、そう言え。そうじゃないなら どうでもいい……少し、気になったからな。あの時の、お前の表情(カオ)……王族の暮らしとやらを見てみたくなった」

 あの時とは、初めて2人が出会った晩だ。セナも居た。ハルカの態度と顔から、気にかかったとレイが言う。

「世間知らずの馬鹿お嬢様とは違うらしい。同年くらいで、セナ以外の理解力の ありそうな奴に会えたのは初めてだ。そうだ、クイズを出してやろうか」

と、ずっと気持ち楽しそうに話している。ハルカは黙って頷いた……。


「綺麗だが、近づくと攻撃する。何故なら、2つになると崩れてしまうからだ。さて、これは何か?」


 レイは言った後、ハルカの様子を(うかが)った。ハルカは少しだけ眉をひそめ、腕を組んで小声で繰り返した。

「綺麗で、近づくと攻撃して……2つになると崩れてしまうもの……」

 何だ それは……ハルカは悩む。解いてやろうという気が あった。

 レイは言葉に付け足した。

「ヒント1。俺の言葉にヒントが ある」

 チラ、とレイを窺うと彼は考え込むハルカを愉快そうに見ている。さあ どうだ? と その顔が言っている。こうなるとハルカも、解けないまま降参したくはない。自分のプライドに かけて、と思っていた。

 とりあえず落ち着いて考えてみるに至る……。


 ハルカは綺麗だと思うもの、思われるものをピックアップしてみる事にした。

 まず、花。そして装飾品、宝石。景色、絵画、光、言葉、女……。

 普段、綺麗だと思うものなど そう周りにあるわけはない。だから、花、宝石あたりが妥当だと思ったが……とはいっても、両方とも種類は多い。


 ……いや、待てよ?


 ハルカは自分の頭の固さを馬鹿みたいだと思った。

 彼の言葉に だまされるな。近づくと攻撃する花だなんて……発想でピンと来ないか? 何を真面目に考えていたんだろうと。

「まだヒントが ほしいか?」

 レイが そう言うと、ハルカは慌てて首を振って制した。

「大丈夫。答えは わかった」

 ハルカは自分の後ろを見る。そして視点を集中させ、 ソ レ を一本、ブチと手を使わずに見えない力で茎を千切った。そのままスウっと自分の所へ運び手で持ち、レイの手前に さし出した。


「……正解だ」


 冷静に装ってはいたが、驚きを浮かべていた。それは、問題が解けたという驚きではなく、手も使わずに摘んだ その『力』に対してのものである。レイは ソレを受け取ると、またハルカを見た。

「この力は初めて人に見せた」

「……」

 無言に なるレイ。だが口元だけ、少し歪ませる。

「……お互い、普通とは違う力を持つ者だったというわけか……面白い。こんな面白い奴は貴重だ」

と、親指と人差し指で つまむように持ってクルクルと回して遊んだ。すると、指と指の隙間から、つー……っと細く赤い血が流れた。

『綺麗だが、近づくと攻撃する。2つになると崩れてしまうもの』

 レイの手に持っているのは、さっき彼が さりげなく褒めた真っ赤な『バラ』だった。クイズを出す前から、正解は呈示されていたのだった。

 昔からバラは綺麗な女性に対して慣用され、“近づくと攻撃”するのはトゲのせい。2つに なると崩れる……というのは、崩れて『バラバラ』に なってしまうという意味だろう。

 難しく考える事など なかったのだ。ただの なぞなぞ だったのだから。

 それでハルカは彼の思惑に添って、後ろに あったバラを一本摘み、渡してよこしたというわけだ。

「俺はレイ・シェアー・エイル。あの相棒はセナ・ジュライっていう奴だ。お前は……何だっけ」

「ハルカ・ティーン・ヴァリア」

「悪いな。他人の名前など覚えないクセがあるもんで。ハルカ、だな。俺はレイで いい」

 レイは立ち上がった。軽く腰を回す。

「レイ」

「何だ?」

「……いや、やっぱりいい」

「何なんだ。言いたい事が あるなら早く言え」

 ハルカは間を置かず素直に。

「今、“また そっちに行ってもいいか”と聞こうとした。だが、お前なら こう言うだろう。“来たければ来るがいい”と」

と……言うと、レイは一笑した。

「ははは! やはり貴重な奴だ。よく俺の心理が読めた事で。全く その通りだな」

 ハルカは え? と心中で呟いた。別に自分はレイの考えを読むつもりなど なかった。それが自分に できてしまった事に驚かされた……。


 ひょっとして この人と居ると、もっと何か発見できるのかもしれない。


「さて。そろそろセナが心配するな。セナは俺の力の事も知らないし、まさか監獄を抜け出しているとは思いもしていないだろうよ。帰るとするか」

と言いながら、さっきまで指と指の間で遊んでいたバラを手の平で包んで持ち、グッと握りつぶした。花弁は形を変え、整っていた形は失われ、グシャグシャと まるで使い古した紙を丸めたようになってしまった。茎ごと。

 そのせいでトゲが容赦なく刺し、握り締めたコブシからはポタポタと血液が滴り落ち地面に降った。

「あいにく、もらっても仕方ないんでね。監獄(あそこ)では」

と、パッと手の平を広げた。同時に、握りつぶされたバラは無残な『形』となり地に落ちた。

 ハルカは落ちていくバラを見ていた。

 バラ、バラ、バラ、……頭の中で、何かが引っかかっているような感じを覚えた。

「来るなら昼 前後か日没後に しろ。来た時、目印として……そうだな、あそこの一番大きな木……下から5メートルほど上の所の枝に、白か黄色系の目立つ色の布でも巻いておけ。そしたら、俺らの部屋から それが見れるだろう。それを合図として、俺が辺りを見回すから」

 そう言い残して、レイは早足で歩き去って行った。

 ハルカは見えなくなるまで、背中を目で追う。


 ……奴は何しに来たんだ……?


 こんな所、気まぐれや暇つぶしで来れるような所では ない。だとしたら、何のために? 私に会うために? 何故?

 この前の態度は あまりにも冷たいものだった。私の存在を邪魔扱いした。それが何故ココに来るという結果に なるのだ?? ……と。


 腑に落ちない。


 レイの一挙一動、そして会話の内容は疑問ばかりだった。

「わからない」

 呟いた。

 瞬間、ビュウ、と ひと吹きの風が吹き抜ける。冷たいレンガ造りの地面の上で おとなしく横たわっていたバラの残骸は、風に さらされ転がっていった。

 …………バラ。


 彼の意図は おそらくバラに ある。

 そんな気がして ならなかった。



《第38話へ続く》





【あとがき】

 1万文字を過ぎると作者、執筆中に焦る(かなり)。

『繋がり』壱と弐を繋げたら軽く超えて1万7千文字ほど。

 長すぎ! そこで分割マジック! (てやあ〜)


※ブログ第37話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-98.html


 ありがとうございました。



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