第29話(攻防戦)
頑固者を説得するほど難しいものは ない。一つ事を決めれば、何が何でも やり通す。仮に それが、偽りの正義だったとしてもだ――。
「どうした? 手が震えてるぞ」
変わらない冷ややかな声の調子で言うレイ。
私は、まんまと奴の策にハマッてしまったのだ。こいつの頭の中では、常に張り巡らされた策で いっぱいなのかも。セナだって何度か言ってた。レイは、頭が いいとか天才だって……冷静で徹底主義で、粗が ないって。その頭脳で、大人でさえ言いくるめてしまうって。
レイは私にココへ来るように仕向けた。一人で来たのは たまたまだったけれど、恐らくセナ達と一緒に入り口をくぐったとしても。何らかの方法で結局 私を単独で行動させようとしたんだろう。私達の行く先々の村や街を襲っていたのも、そのため。私が、レイを心底 憎むように。そして、レイの元へ来るように、仕向けた。
悔しい。
悔しいわ! 何で それぐらい気が つかなかったの!
いつかカイトが疑問に思って こぼした事はあった。何で、レイは私達の先回りをしているんだろう、って。少し頭には引っかかっては いたけれど。
レイは ただ闇雲に四神鏡を探しているのだと思っていた。なのに、そんな裏が あったなんて。結局 私はそんな深く考えていなかった。
「どうして私と戦いたいの? 私が“救世主”だから?」
怒りで震えているのを堪えて聞く。レイは私の最初の攻撃をかわして、私の背後に居た。
「お前の本当の力を見たい。蛍と戦った時の、あの“力”を……」
レイは言った。瞬間、私はドキリとする。
その事は、ずっと触れないで心の奥に しまっておいた事。蛍が まだ敵だった時、私と一対一で戦った。せっかくカイトから もらった人形をダメにしてしまい、カッとなって私が放った“攻撃”の事だ。あれで私、丘を一つ消してしまった。オボロゲにしか、覚えていないんだけど。私は てっきり、セナにもらった指輪の おかげなんだと思っていた。今も そう思っている。けれど……。
「私は一般人。何の力も持ちは しない。おあいにく様ね」
ニヤリと笑ってやった。本当は足も、ナイフを持つ手も震えているんだけれどね。何とか踏ん張って強がっている。怖いけれど、だけど……!
レイは顔色一つ変えず、いきなり指をパチンと鳴らした。すると、私の背後にパッと何かが現れていった。
それは大きく、映写機とかで映されるスクリーンのようなもの。しかも横並びに3つ。パッ、パッ、パッ。
驚いたのは、中央のスクリーンには この城の入り口らしき映像が映し出されていて、セナ、カイト、蛍、紫の4人の姿が あったのだ。
「セ、セナ……皆。来てくれたの……」
ナイフを持つ手が緩んだ。あまりの感激に顔も ほころびた。
セナの真剣な顔……セナとは、ケンカ別れ風になってしまった。てっきり怒っているんじゃと思っていた。でも、来てくれた……嬉しい。
ところが、私の そんな姿を見て、レイは また口元をニヤつかせた。
「何処を見ている救世主。セナ達は、ココへは来ないぞ」
「え……?」
一瞬だけレイの方を見て、またスクリーンの方を見た。すると どうだろう。セナ達の進む先には、3本の分かれ道が。おかしい、私が通ってきた廊下では分かれ道なんて なかったはずじゃ。どういう事なの?
とにかく、声は聞こえないんだけれどセナ達は集まって少し話し合った後に。3手に分かれ、それぞれ道の先に向かって歩き出していった。セナは右の道に、カイトは中央の道へ、蛍と紫くんは左へと。それぞれが歩き出し、各スクリーンで個人を追うように映し出されていった。
まさか そのために用意されたスクリーン?
「救世主ともども。単純で楽だ。わざわざ別行動をとるとは。よっぽど救世主のおかげで焦っているのか、考えが足りない」
レイが愉快そうにスクリーンを見て一笑する。レイの言葉は私の胸にチクチクと針をさすよう。
単純で悪かったわね! ああそうですよ、考えなしですよぉ!
私はアッカンベーでも してやろうかと思ったが、さらにバカさをアピールしてどうすんだと引っ込めた。
「あ……!」
気が ついた。それぞれの道先には。
敵が、立ちはだかる。
右の廊下を突き進んで、何処かの部屋へと入っていったセナの前には、鶲が。中央のスクリーンでは同じくして、何処かの部屋へと入っていったカイトの前には、さくらが。そして、左のスクリーンに映し出された蛍と紫くんの前には……お坊さん?
「蛍が言ってた……紫苑、ね」
頭はツルピカ。毛は生えていない。無表情に見えるが、落ち着き払ってまるで存在が感じられない雰囲気が漂う。沈黙を肌に感じる奇妙さが伝わってきた。
それぞれが、それぞれに。対面していた。
「大事なゲスト達だ。最高の もてなしをしてやろう」
言ったレイは邪尾刀を叩きつけるようにブンッ! っと下めがけて一振りした。
ビシィィイッ!
軽く振っただけなのに、床に亀裂が走る。斬れ味、絶好調とでも言いたいんだろうか。風圧だけで硬そうな床に大きな傷が。
(殺される……)
嫌な汗が背中を伝う。ナイフを構えて体勢は とってはいるけれど、内心ビクビクしていた。さっきの怒りは。悔しさは、何処へ行ってしまったの?
どうする私……本当にレイと戦うの? 確実に殺されると わかってて?
確実に……なんて言ってしまったけれど。勝てる自信が ない。
そうじゃないのに。
こんな、武器で取りあうために来たんじゃないのに。
「どうした? かかってこないのか? なら、こっちから行くぞ」
ハッと、気がついた時は もう遅かった。
私の緊張と恐怖で固まった体は、瞬時には動いてくれるはずもない。
レイの刀は私の胸を刺した――。
セナと鶲は睨み合っていた。いや、睨んでいたのはセナだけで、鶲は さも面白そうにセナを見ていただけだった。しばらく両者とも、相手の出方を窺っている。
「どいてくれ……つっても無駄だな」
「無駄だね」
そう即座に返す鶲の言葉にハァ〜……と大げさな ため息をついた。これまで、鶲には えらい目に遭わされてきている。今回も そうなんですかと、セナは うなだれた。
しかし勇気の事も あったので、セナは焦っていた。鶲には決して見破られたくは なかったので、精一杯の余裕を見せるよう胸を張っていた。
「そういや、お前と こうして戦うのは初めてじゃなかったっけ」
などと話しかけたりした。
「そうかもね。僕、争いごとは あんまり好きじゃないんだ。大椅子にでも座って机上で空説だの理論だの、述べている方が好き。だって僕の役割は業師。今回の この戦いの組み合わせは、僕が決めたんだよ。レイが どうしても救世主と戦いたいって言うからさ。ま、しょーがないって感じでね」
ステップを踏んだりして おどけてみせた。セナは眉をひそめる。
「レイが勇気と戦いたい? 何故だ?」
セナの疑問に答えながら、首を回したりして準備体操を始めている。
「あの人は僕と違って戦いが好きなんだよ。救世主の行動を監視していて、大いに興味を持ったんだろうよ……ただの直感かな? それとも」
「だから、襲う所の対象を俺達の目指す場所にしたんだな。俺らを誘ってやがったのかレイの奴……!」
軽く舌打ちをして歯を食いしばった。鶲を見ておらず、横目で部屋の白一色の壁を睨んでいた。
「レイに とって、救世主なんてどうでもいいのさ。利用するだけ利用するつもりらしいけどね」
すると鶲は、おしゃべりは この辺で おしまいとでもいう風に手のひらをセナに見せるように前に広げた。
ボコ、ボコボコボ……コ。
床が見えない力で砕かれて、大石や小石へと割れていく。そうして なった破片や塊は、すう、っと個々 上昇し鶲を中心に。鶲を囲んで浮かんで いった。
その数は増えていく。浮かび ある程度に まで いったら静止して。増えて、増えて……。
「これはレイの技だよ。四師衆は皆、レイから技を教わったんだ」
段々と小石は また その数を増やしていく。
やがて堰をきったように鶲が呪文を唱えた。「“飛礫”!」
そう唱えると、浮かび上がった小石や破片は全てセナに向けて発射された。スピードが かなり かかっている。
だがセナは この技を知っていた。というより、話に聞いていた。レイが この技で、3人の人間を殺してしまった事を……だから予想できた分、護りが速かった。
「“風車”!」
鶲が先ほど攻撃したのと ほぼ同時ぐらいに、セナは呪文を唱え強風を起こした。強風は円や弧の形を描き、飛んできた無数の小石を残さず全て弾き返していった。弾き返された石は、鶲へと数個、数十個と当たっていく。
鶲が放ったよりも さらに倍以上のスピードをつけた石は弾丸と化し、幾つかは鶲の体をも貫いていった。
「っつ……!」
思いもよらない反撃に、ひるんだ鶲の隙を突いてセナが次の技を唱えた。
「“剃刀”!」
風が横一文字の無数の刃となって、鶲を襲う。
「うわあっ!」
容赦ないセナの攻撃に鶲は傷を全身に受けつけ、倒れた。ガックリと首を地面に打ちつけ意識を失う。
近寄り、なんと一つも呼吸を乱す事なく黙って鶲を見下ろした後。先を急ぐべく出口を探そうと周囲を見渡すセナ。
何よりも、勇気の事が心配で たまらなかった。
……レイに胸を刺された勇気。ところが。
刀は刺さっては いなかった。
「何だ それは」
レイは弾かれた刀を引っ込め、勇気の胸元をしかめっ面で注目した。勇気は“してやったり!”という顔で刺して破れた制服の布をめくり、見せてみた。
「私の お兄ちゃん愛用の まな板よ! 全ー然っ、気が つかなかったでしょ!?」
そう。
勇気は、制服の下に いつの間にかセーターを脱いで まな板を仕込んでいた。まな板があろうが あるまいが、あまり変わらないという悲しい事実を利用した勇気の大機転であった。
見事に だまされたレイ。ひょっとしてレイ史上、初では ないだろうか。
「どうだ! レイ!」
まるでネコのような顔で小バカにしてみせた。
「……」
レイは無言で、無表情だった。
そしてトドメに。
「地球っ子をナメんなよ! 負けないんだから!」
と、ビシイッ! とレイを思いっっきり指さしてやったという。
中央の通路の行く道を阻む さくらの術で、金縛りにあっているカイト。
「ぐわっ……! あああっ……!」
ただの金縛りでは ない。高圧電流が まるで、弄ぶかのようにカイトの体を蝕むので あった。一歩も、一挙一動も身動きが とれないでいるカイト。さくらは、それを面白そうにウットリと見つめていた。
「……諦めなさい。レイ様には会わせませんわ」
手に持った扇子を広げて顔の下半分を隠し、陰で口元が笑う。妖艶めいた目つきで相手を見下すようで、カイトは それが とてもムカついた。
(余裕綽々だな。女のくせに……やったら強え奴だな)
体に激烈な痛みを全身に感じながらも、カイトは今ココから どうすべきかを必死に考えていた。
(隙、だ……隙を作るんだ)
カイトの考慮など知らず、話し続ける さくら。
「レイ様は今、救世主と戦って いらっしゃるの。きっと今頃……救世主を なぶり殺しにしていらっしゃるわ。やっと会えたんですもの。念願の……レイ様念願の、救世主との一対一の対決。ああ、私も見とうございましたわ……レイ様の華麗な、あの動きを……」
「……ふっ」
「何が可笑しいんですの?」
「レイ様レイ様って。お前、奴の何なんだ?」
上目で さくらを嘲笑うかのように見た。さくらの整った眉がピクリと動く。カイトは それを見逃さなかった。
「親か兄妹か友達か……恋人か?」
電流に痺れ、意識が段々と遠くなっていきそうに なるのを堪えながら、さくらの出方を待った。
「レイ様は……私の……主ですわ。私は ただの下の者……」
薄れゆく視界の中、さくらの悲しげな顔が浮かぶ。
(こいつ……レイの事、好きみたいだな。ちょっち罪悪感もどき……なあんて、言ってられますかぁ? 人間、時には非情なり!)
隙あり! と言わんばかりにカイトは最後の力を ふり絞って、口にした。
「“津波”!」
唱えた時、さくらとカイトの間に高い壁が できた。透き通る、水の壁。徐々に壁は高くなって、うねりを上げ、さくらに高波となって襲いかかる。
「キャアアアアアッ! レイ様ァーッ!!」
声も波の轟音と共に かき消された。途端に全身の力が抜け、その場にカイトはバタリと倒れ込む。
「へへへ……ざまあみろ……い」
重い まぶたを閉じる。さくらが どうなったか、今の自分が どうなっていくのか。全てを忘れ、疲れを身に預けて意識を失っていった。
「てあッ!」
カキン!
ナイフと邪尾刀の交戦の音。
すっかり調子を戻した勇気は、積極的にレイに食って かかった。だが やはり、レイは強いのだろう。まるで大人と子供のよう。無駄な動き一つ なく、勇気の勢いにも動じないレイ。
(くう〜……何か、手は ないのかしら……)
レイに攻撃しながら一生懸命に考える。充分わかっていた。自分は、レイの相手などには ならない事を。
「お前の力は こんなものか」
「こんなもんです!」
ガキンッ!
レイの邪尾刀が、勇気のナイフを飛ばした。ナイフは勇気の手から離れ空中回転して、遠くへと。どうやら床に叩き落ちてしまったようだ。武器を失くしてしまった勇気……その瞬間の虚を突いて、レイが攻撃する。
「“燕”!」
邪尾刀を構えたと思ったら素早く呪文を唱え、剣道でいう『突き』を連発する。その速さが風を生み、勇気は何が何だか わからなくなって、顔を護る体勢をとった。風は肌に感じるが、痛みは なかった。だが息つく間も ない豪風だった。
その状態が約10秒ほど。風が止み、恐る恐る目を開けると同時にゴト、と重い物が床に落ちた……それはボッロボロの布になった勇気の制服から落ちた、まな板であった。
さっきの攻撃で、防御を失ったので ある。
そんな『制服ボロボロ事件』の さなか、左の通路で紫苑に行く道を阻まれている蛍と紫。ちょうど最悪の状況であった。紫苑の作り出した“蜘蛛”の幾重ものの糸に絡められ、引っ張り吊り上げられている2人。まんまと紫苑の用意していた罠にハマッてしまったらしかった。
「くっ……! 紫苑……っ!」
と、蛍は悔しそうに紫苑を見下ろす。ただの糸では なく、粘りつき、とても弾力性の ある糸だった。体の自由は利かない。しかも糸は、蛍の幻遊師としての力も吸いとってしまっていたのだった。
なすがままの どうにでもして状態とは このような時の事を言うのだろうが、人道的な紫苑は ただ、
「事が収まるまで、そうやって おとなしくしていろ。殺しはしない」
と、冷たい床に座禅を組んで そう言った。
「殺しは しない、ですって……?」
紫苑の その一言に気に食わない様子を見せる蛍。
「紫苑! たとえ あなたが私の親代わりだとしても……今は生死を決する敵同士よ! トドメを刺しなさいよ!」
「蛍様……」
紫が蛍の横で名を呼んだ時、「あっ……」と思わず漏らす蛍。
(今……私……紫苑を『敵』って言った……?)
紫苑が自分の敵なら、自然と自分はレイと対立する立場を とった事になる。勇気の元へ居るには居るが、決して『味方』に なったわけでは なかった。なのに、今自分はレイの敵になるという事を自分で認めてしまったのだ。
顔が赤くなった。そして、俯いて黙ってしまった。
そんな蛍の隣から、ブチブチという歯切れのよい音が聞こえた。え、と蛍が見ると最後の糸が切れ吊るされていた紫がスタッと下に降り立った。
「紫……」
体中に巻きついた糸を手で外しながら、ポツリポツリと口を開く。
「私の主は蛍様です。私の命は主と共に あります」
紫苑は黙って目を閉じて座っているだけだった。
「蛍様が あなたを敵とした以上、私は あなたを倒します」
そう紫が言った後、微かに紫苑は笑った。
「……面白い」
そう言うと、音も なく立ち上がった。手を前で合わせた。徐々に体の周りにボンヤリとしたオーラが見え始める。戦闘準備に入ったようである。
「売られたケンカは買えと、俗に言われているな」
と、今度は二コリと笑った。
すると なんと紫も、口元を二コリとさせた。
「行きますよ」
紫も戦闘の構えを。
(紫……!)
依然、吊られたままの蛍は そんな2人を少し悲しく見下ろした。
(私のせいで……ごめんね、紫。私は……助けたいの! ……あのバカを……)
くしゃみ一発。
「クシュン!」
制服をボロボロにされ武器と防御を失った私は、それでもレイを睨んでいた。
もう終わりだ、と思った。絶望だとも思った。
でも、負けたくなかった。
(負けない!)
キッと歯をガッチリと食いしばった時、指輪の力で風のバリアーが生まれた。あの おなじみの風だけれど、いつもより いっそう風の壁は厚くなっていたような気がした。
(こんな奴に、負けてたまるか!)
風は私を中心にグルグルと暴れ回り、部屋中を吹き荒らす。当たってパラパラと、天井や柱の破片も落ちてくる。
レイは腕で顔を風から護る。
そんな風に、レイを威嚇してみた。しかしレイを睨んでいた私の目は、突然ギョッとした目に変わった。と、いうのも。レイの後ろの方の暗闇が、まるで壁の……黒い皮をめくるかのようにベリベリと はがれ落ちていったからだ。
そして はがれ落ちていく さらに その向こうに、キラキラと銀色に輝くクリスタルが現れた。
「ハルカ、さん……?」
氷の中でヒッソリと立つ美少女、それは夢で見たままの、ハルカさんの姿だった。
「驚いたか」
その美しさに みとれ驚く私にレイは冷たく言う。
「この部屋も この城全体も。俺のこの闇の力で作った空間だ。どうやら、風で闇の一部が飛ばされてしまったようだな」
闇の力で作った? 城も……ああ、それで廊下が突然 分かれ道に なっていたりしたんだ。レイの思うがままに……。
「こんな近くに……」
私に一筋の汗が流れた。見えづらいとはいえ、気配も何も感じなかった。こんな近くに閉じ込められたハルカさんが居ただなんて。思いも しなかった。
「ふ……置物にしては、見事だろう? セナに見せてやるつもりだったんだがな。お前を倒した後で」
レイが嘲笑う。
「倒されるもんか!」
風のバリアーに包まれ、なおも意地を張る。レイは邪尾刀を構えて、ジッと私の出方を待っている。
どうすれば……なんて、ヒョイと考えた時。私の背後で声がした。
「勇気!」
思いがけない声の主に、私は振り返って また驚く。
セナだ。鶲を倒したんだ!
ドアを開けて……無傷だった。
「セナ! よかった、生きて……」
気が。少し緩んで、私を取り巻いていた風が少し弱まった隙を突いて。
ザシュッ! ……
何とも、気味の悪い音がした。
(えっ……)
頭の中が、真っ白に なった。
向き直ると低姿勢なレイの顔が すぐ近くに。
いつもみたいに、少し口元を歪ませて……。
気が遠ざかる。
私の心臓に、邪尾刀が、……刺さっている。レイの体に降りかかったものは……血だ。
私の……
私の……!
急激に全身の力が抜けて足腰が崩れて――
倒れ……る。
「勇気ィーーーッッ!」
意識が薄れていく。今度こそ、本当に。
……ヤバイかもしれない。
《第30話へ続く》
【あとがき】
フライパンもあったんですけどね。
身内とはいえ。あんまり持ち出したら兄、困るよ(同情)。
※ブログ第29話(挿絵入り)
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-82.html
ありがとうございました。