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第15話(蛍の逃亡)


「救世主を甘く見たな。慌てて逃げ帰って来たわけか」

と、レイはピシャリと言った。その視線の冷たさは、怒りか、悲しみか。それとも絶望か嘲笑か。

 どん底の蛍に、レイは詰め寄った。しかし蛍も持ち前の強さで言い返した。

「甘く見ているのはレイ様の方です! 救世主の力、とくと見て来ました。初めて見た時は何も出来ない ただの小娘だったくせに……」

と親指を噛む。パッと顔色を変えた。

「レイ様! チャンスを! 私に救世主の始末を!」

 もはや蛍に余裕の よの字も見えなかった。切羽 詰まった人の顔で あった。

「……いいだろう。だが もしまた失敗したなら……役立たずは去れ」

と、蛍の横を通りすぎた瞬間、鋭いモノでスパッと切られたような傷が蛍の頬に できた。血は、出ないが……。

 その傷を押さえ、目の前を睨んだ。

(救世主、殺す!)



 レイは、いつもの暗室へ来た。氷づけのハルカの居る部屋だ。

 いつものように部屋の中央の椅子に もたれかけた。目の前の氷の作品を眺めて。

 そっと、誰かが現れる。

 四師衆の一人。レイの世話兼付き人である、さくらだった。

「さくら……」

と、レイが呼んだ。

「レイ様。だいぶ お疲れのようですわね」

 さくらがレイの横に立つと、レイは さくらの手をとり寄り添った。

 さくらは、それを愛おしそうに見た。

「救世主は……成長していますわ。レイ様、いかがいたしますの?」

「……放っておけ」

と、ただ一言 言うだけであった。

 さくらは、レイの考えを理解したかった。だが、どうしても わからなかった。

(もしやレイ様……救世主を倒しに行かない理由……救世主の そばに、セナ様が居るから……?)

とも考えた。

 しかし、普段のレイの態度から見ても それは何だか信じられない。氷の性格に そんな情があるのか。

 愚問である。




「メノウも一緒に行く!」

「だからダメなんだって! お願いだから、ちゃんと隣の家の おばちゃんの言う事 聞いて おとなしくしていてくれ。絶対そのうち帰ってくるから」

「嘘! メノウ、知ってるもん! お兄ちゃんセイリュウ倒しに行くって! すごく危険なんだって! 隣の おばちゃん言ってたもん!」

「メノウ! ワガママ言うな!」

「やだあ! お兄ちゃんと もう二度と会えなくなったらやだあ! メノウも連れてって! ちゃんと言う事 聞くもん……」

 終いにはビービー泣き出した。それを見てOH! NO! 状態のカイト。頭を抱えて「弱ったなあ」とか呟いている。

 明朝、私達は旅立つ事にした。七神捜しの旅の再開だった。残りの三神を見つけるために。

 で、そんなハードな旅にメノウちゃんみたいな小さい子を連れて歩くわけにもいかない、というカイトの意見により、メノウちゃんは隣の親切な おばちゃんに預ける事にした。で、さっき その事を話した所……言い合いに なっちゃったってわけ。

 メノウちゃんは一応、状況は把握できているようだ。青龍は倒しに行くんでなくて封印または復活を止めに行くんだけれど。危険に変わりはない。だから、こんなについて行きたがるのだろう。

 カイト達には身寄りは無いらしい。たった一人の肉親が危険とわかっている所に行こうとしていたら、普通は大人でも引き止めたりするわよね……。

「絶対行く! 青龍倒しに行く!」

と、泣きながら連呼した。

 カイトはヤレヤレと肩をガックリ落としている。

 2人の言い合いを黙って見ていた私達。すると ふいにセナが私の腕をつっついた。

「何か言ってやれ。ガツーン、とさ」

と、コソコソと言った。


 ……とは言っても。泣きじゃくる子に何言えってんの? 何か何を言っても泣きが ますますひどくなるような気がするんですけど……。


 ま、仕方ない。

 救世主として。やってみよう。

 私はメノウちゃんの前へ来て しゃがみ込んだ。


「ちゃんと言う事 聞くって言ったよね? 今」

と言うと、メノウちゃんはコクリと頷いた。

「じゃ、お兄ちゃんの言う事を聞こうよ。お兄ちゃんだって、仕方ないんだよ?」

「……」

「大丈夫。本当に すぐ帰って来る。それまで いい子で待ってて。お土産も買ってくる。世界中の話も いっぱい聞かしたげる」

「……」

 メノウちゃんは何も言わず ただ黙って下を向いていた。


 説得できたんだろうか。

 すると、メノウちゃんはポツリと こぼした。


「……メノウは、邪魔なんだね」

と、自分自身に言い聞かせるように。下を向いたまま。


 私の胸が痛む。

 メノウちゃんの言葉が突き刺さる。


 本当に これで いいの?

 メノウちゃんを置いて旅して……メノウちゃんは、どんな女の子に成長するんだろう?

 何だかまるで私と同じ立場なんじゃないか……?

 お兄ちゃんに邪険にされ、懸命に生きてきた私……この子にも、私と同じツライ目にあわせても、いいっていうの?


「邪魔なんかじゃ、ないよ……ゼッタイ」

と、私が言うと、「勇気、どうした?」とセナが私の様子を聞いた。

 私がセナに言う。


「メノウちゃんも連れてっちゃ、ダメ?」




 世界地図で、南に位置する大陸・コンサイド大陸。その西南に、シュル村という村がある。

 とりあえずココに行ってみる事にした。

 ノジタ国を出てすぐだし、なんせ七神捜しは容易ではない。こんな広い中、ちっぽけな人間をあと3人見つけろっていうんだから。

 ノジタ国を南口から出てシュル村へ行く。それから東のタミダナの街へ行く……という行程。

 シュル村で2手に分かれ、東南のアサバ村へ行く班を決めれば一応大陸中は行った事になり、見つかりゃ儲けもん、居なけりゃ残念……ってな感じ。

 あは〜、ノンキだなあ……と我ながら思っちゃう言い方だけれど。根は真剣で焦ってます、ハイ。え? そうはやっぱり見えないって? あ、そう……。

「……うなよ。わかったか? 勇気」

「え?」

と、ハッと我に返る。

 どうやら考え事をしていてセナの言う事を聞いてなかったみたい。

「だから、一応 地図はあるんだから、迷うなよって」

と、セナは私のオデコにデコピンした。

「ああ……はいはい。ごめんごめん。えーっと、ココは……」

とセナに言われ地図で確認。さっき買ったばかりの新品で、とっても色彩 豊かで見やすい。セナが持っていた地図は白黒で見えにくかったからねー。

「ねえ、何処行くの? 勇気お姉ちゃん」

と、私の横にメノウちゃんが寄って来た。

 昨夜、私はメノウちゃんに味方しちゃって。メノウちゃんも旅に参加する事に なったのだ。

「こういうのを、『ミイラとりがゾンビになる』って言うんだよな」

 ……それを言うなら『ミイラとりがミイラに』だが。

 わざとらしくセナがボケたのを、誰も何もツッコまなかった。

 どうやら、その一件でメノウちゃんに なつかれちゃったみたい。

「んとね。シュル村。すぐそこだよ」


 そう。

 絶対 迷うはずがない……そう自信を持っていた。

 地図は前より見やすいし、シュル村へは ほとんど一本道だ。だから。迷うはずはない……。

 でも……あるはずのない森に、迷い込んじゃったのよね……。

 気がつけば、日は高くなっていた。

 お腹も すいてきた……。

「なあ。ココ、ルッダの森じゃないか?」

と、最初に切り出したのは、カイト。

 実は皆、薄々思っていたんだけれど……私を信じて声に出さずにいたようだ。

 でも、私の次の一言で皆「は?」という顔になった。

「あ、やっぱり?」

と、頭を掻いた。


 皆、コケた。


 セナは すぐ起き上がって私に詰め寄る。

「ルッダの森って……全然 行き先の方向と違うじゃねえか!? 地図貸してみろ、地図!」

と、私の手から地図をぶんどった。

 最初 冷静に見ていたけれど。次第に持つ手がワナワナと震え出した。

「ぜんっぜん違う……」

 セナはガックリ! と肩を落とした。ついでに地図も落とした。

 マフィアが それを拾って見る。

「アラ? ほんとだ。ノジタ国の南口から出て南へ歩いてたのに……いつの間に東へ それてたんだろ? コンサイド大陸に森は一つだけよね。って事は どう見ても、この『ルッダの森』ね」

と、見ながら現在位置の確認。

 キョロキョロと辺りを見回し始め、何処かを指さした。

「あ……あれが塔ね。『摩利支天(まりしてん)の塔』か。あれを目印にして、方向と距離を推測すると……」

「推測すると?」

と、身を乗り出した私に後ろからポカッとセナのゲンコツが きた。

「迷ったって事だ!」

と怒っている。

 ひーん。

「大丈夫よ。あの塔を目印にしてココから真っ直ぐ右へ行けばタミダナの街に着くと思うわ」

と、正しいルートを指示するマフィア。

「ったくもー」

 なおもブチブチ言うセナ。

「イヤな予感は あったんだよな」

 ううう……カイトも私を責める。

「お姉ちゃんのドジ〜」

とメノウちゃんまで。

 皆から責められ、小さくなる私。もちろん地図は取り上げられ先頭はマフィアが進む事に。マフィア、私、セナ、それからメノウちゃんとカイト。再び森の中を歩き出した。

 何て情けないんだろう……ちゃんと地図を見てたっていうのに。

 先頭に立って歩くんじゃなかった……。

 後悔あとをにごさず……あれ? 違う。まあいいや。


 森の茂みをかき分け歩いているもんだから、あちこち擦り傷だらけ。

「あ。川だ」

と、先頭のマフィアが言った。

 後に続いて そこへ行くと、確かに小さな川があった。幅は5メートルくらいかな。キラキラと日の光に輝きながら流れている。

「ちょうどいいわね。この辺りで ひと休みしましょ」

というマフィアの提案により、ランチする事にした。

 マフィアはセナの持っていた鍋(例の『縮小自在ポケット』から取り出した)で、山菜鍋を作り始めた。セナやカイト達は他に食べられそうなものを探しに。ついでに焚き木も。

 私は水くみ係になって、入れ物を持って川へ行った。

 川の水の冷たさが疲れた手足をヒンヤリとさせて、癒してくれる。

 アクシデントあり、だったけれど。何とか先へ進めそうでホッとした。

 マフィアみたいにもっとしっかりしなきゃね……トホホホホ。

「よし、っと」

 バケツ位の大きさの器に いっぱいの水をくんで、来た道を戻ろうとした、その時。

「あれは……」

と、水の流れてくる川上の方を見た。バシャ、バシャと音がする。誰かが近づいて来る?

 よくハッキリと見えないんだけれど。誰かが川沿いに歩いて来るようだ。

 しばらく様子を見ていると……段々と姿が わかってきた。

 誰かと思えば!


「げ、幻遊師、蛍!?」


 私は びっくりして大口を開けた。よくよく見たら、体の至る所にカスリ傷。血は出ていないけれど、一体何が あったんだ!?

 しかも、一人だけ。連れの紫は居ない。

 私の元まで辿り着き、そのままヨロヨロと倒れそうに。思わず私は蛍の体を受け止めてしまった。

 ただ事じゃない。

 誰かに襲われでもしたのだろうか。

「私……レイ様の元から逃げてきたの。この前の失敗で、殺されそうになって……」

 そう言った後、パッタリと気絶してしまった。



 セナ達を呼びに行って、とにかくマフィアが昼ご飯を用意している場まで蛍を運んだ。

 見るからに蛍は衣服ごとボロボロだったけれど、一つ一つは軽傷だ。たいしたケガでは なかった。

 私達はこの展開をどうすべきなのか、話し合っていた。するとやがて、蛍は目を覚ます。

「あ、起きたみたいね」

と、マフィアは起き上がった蛍に山菜の入った鍋から具をよそい、お椀に入れてハイどうぞと渡してあげた。

 お腹は すいていたみたいね。

 蛍は黙って。お椀を受け取って ゆっくりと温かそうに食べ始めた。

 もちろん私達も一緒に食べている。そしてキレイに鍋の中はカラッポ。さすがマフィアの料理だと、いつも感心する。

「あんた達ってノンキね。敵が そばに居るっていうのに」

と、蛍は食べ終わった後。いつもの意地悪っぽい調子で笑う。

「こいつが伝染(うつ)ったんだろ」

とセナは箸で私をさした。私は何も言えません。

「そういえば紫は? いつも一緒に居るじゃん」

というセナの質問に、グッと詰まる蛍。そしてポツポツと語り出した。


「紫は……レイ様に殺されたわ」


「……!」


「レイ様は……狂ってしまわれたわ。私達 四師衆をお作りになった時は、あんなにお優しかったのに……」


 私達は静かに聞いていた。皆、どうやって答えたらいいのか迷っていると思う。

 私は。始め紫の事を聞いて衝撃も受けたが。そういえばレイはどうやって蛍を含む四師衆を作ったんだろうかと。ちょっと横道に それて考えていた。

 まあレイは闇神だし魔力も強いらしいから。何とか どうやってかして作ったんだろうけれど。まさか ただの趣味じゃあるまい……ダメだ、そんな風に考えちゃ。いかんいかん。


「私は最後に作られたんだけど……最初は、まだ何も。何の力も満足に無かった。失敗作なんだって思ってたわ……でも。レイ様は。そんな私に色々な術を教えて下さったの。私が こうして術を使えるようになってきて……レイ様は とても喜んで下さっていたわ。なのに……なのになのに!」


 顔を伏せて うずくまった。


 信じられないものを見ているような顔をしていた私達だけれど。徐々に じんわりと胸が熱くなってきていた。

(そうか……まだ この子は子供だったんだっけ。まだ小さいのに……レイのために、頑張ってたんだろうなぁ)

 蛍の親はレイなんだ、いわば。そのレイの元から逃げてきたんだ。大事な紫を亡くして……。

 私には蛍が身寄りのない孤独な少女に見えた。


 うん……敵とか味方とか、この際 関係 無いよね!

「私達と一緒に行こうよ! そしていつかレイの所へ説得しに行こ!」

という私の意見に、皆は驚いたが。すぐに賛成してくれた。

「レイは悪い奴じゃない。本当は悪い奴じゃ無いんだ……きっと気がつくさ。自分のしている事に」

と、セナ。

「……話せば わかる奴かもしれないしね」

と、マフィア。

「よく わかんないけど。とりあえず そうしたら?」

と、カイト。

「むにゃむにゃ……ローストチキン……」

と、そばで昼寝をしていたメノウちゃん。

 あんまりタイミングがいいもんだから、どっと笑いが起こる。蛍も いつもの意地悪っぽさは無く。普通の子供みたいに笑っていた。



 日が暮れた頃。

 まだ私達は森の中に居た。

 地図で確認しながら、なおかつ あの目立つ塔を目印にしながら進んでいるのに。いっこうに森の終わる気配が なかった。

「変ね……何だか、同じ所をグルグルと回っているみたい。塔と逆方向に ちゃんと進んでいるっていうのに。これは、もしかしたら……」

「魔物の仕業か?」

「……かもね。あるいは この森全体に魔力が かかっているのかも」

と、マフィアは考える。

 マフィアとセナの会話を黙って聞いていた私は、ちょっぴりホッとした。

 だって私が方向音痴じゃなかったって事になるもんねー。

 そうよ、魔物よ。この森で迷ったのは、魔の力なのよー!

「とにかく今日中に抜け出すのは無理そうね。ココいらで野宿だわ」

 さっそく、夕飯の準備を始める私達だった。



 夕飯を終え、皆は寝入った。グッスリ朝まで眠れるだろうと思っていたが、少し眠った後に私は何故だかパッチリ目が覚めてしまう。

 変な時間に目が覚めちゃったなーと、横をチラリと見ると、一番 向こう端で寝ていたはずのセナの姿が無かった。

(あれ……? セナ?)

 起き上がって、少し辺りを捜してみた。すると向こうで人影が見えたので行ってみると。やっぱりセナだった。

 大きな岩があり、その上に座禅を組み。精神統一でもしているのか、静かに目を閉じていた。

「こんな夜中に……修行?」

 私は普通に近づいていって、正面から話しかけた。

「魔法を考案中なんだ。少しでも力つけねえと」

と、目を閉じたまま答える。

 何だ、近づいたのが私だって事が わかってたみたい。

 ふーん……と頷く私の真正面で、微動だにしないセナ。


 ……顔に落書きしちゃおっかな……。


 あれば油性のマジックで、と思った後で。いやいやいや、彼は真面目に やっているんだから邪魔しちゃダメよねと思い直した。

「何だよ お前。ニタニタ笑ったり急にマトモになったり。気が散るっつーの」

とセナに叱られた。

 アラ、目をいつの間にか開けて見ていましたか。

「いやあね、セナの顔に落書きでもしちゃおーかなああ、なーんてね。ふふふ」

と、またニタニタ笑う。

「何だそれ」

と呆れたセナ。

 そして、私に ある閃きが起こる。

「ね。私にも できないかな!」

「は?」

「魔法だよ。私にも できないかな?」


 一瞬 黙ってしまったセナだったけれど。すぐに首を横に振った。


「……無理。魔力が ないと。お前、救世主だけど普通の人間だろ? 自分で そう言ってたし。第一、魔力を持っているのは七神だけだ。蛍や鶲は例外だけどな」


 私にも魔法が使えないか……と思ったのは。

 数日前の出来事のせいだった。

 そう、蛍と紫が私をやっつけようと、やって来た時。私が「もうダメだ!」と思った時に突如 降ってきた雷。

 私には その雷が偶然なのか、それとも私が呼んだ(?)のかが、わからなかった。

 でも雷に打たれてしまったのは紫と……身代わりになってくれたのかスカートに入っていたカイト手作りの人形。

 そして……怒った私は無意識に……? 丘を一つ。消してしまったらしいと……。

 ……。

 私は目を覚ました後、セナ達に聞かれても何にも答えられなかった。丘だった所を後で見に行っても、何にも。

 わからない、何で そうなったのかが……と。考える事はもう、止めてしまったけれど。


 救世主って、特別なんだろうか。それも わからない。


 わからない事だらけだ。せめて魔法とか使えたり はっきりしてくんないだろうかって思う。


「そっかあ……厳しいね。じゃあさ。剣とかナイフの使い方とか! 格闘技とかは?」

 私は気を取り直して聞いた。

「そりゃ頑張り次第だと思うけど。鍛えれば、それなりに。でも何で そう いきなり?」

「まあいいじゃん。私だって戦いに参加したい。ね、教えてよ!」

 セナはヤレヤレといった感じで腰を上げた。

「教えてあげてやってもいいけど、真剣にやれよ。それじゃあまずパンチだ」

と、私の右手を指さした。

「パンチ? えー、もっとカッコイイのやろーよ。何か ない? ヤケに大げさな名前がついている技とかってあるじゃない。しょうりゅうけん! たつまきせんぷうきけん!」

 何か間違えたような気がしたけれどまあいいや。どうせ わかんない。

 私は言いながら片手を上に突き出して その場でクルクル回ってみせた。

 しかしセナのノリは悪く、デコピンで返ってきた。

「ばーか基本をスっ飛ばすな。基本も ろくに できない奴が何を言う」

 私はシュッ! と自分の前に右手ストレートをおみまいしてみた。

「ダメだな。全然ダメ。話に ならない。遅すぎだし。隙だらけだ」

 ハッキリ言ってくれるセナ。

 うう〜。

「ええ? 嘘ぉ、これ以上速くなんて無理だよ」

 するとセナは私の3倍……かは知らないけれど倍以上の速さで、


 シュビッ


と、パンチを繰り出した。そしてピタッ! と私の顔の前で止めた。

 私、固まる。


 ……お見事。

「……っくりしたぁ。全然見えなかった……」

と、おっかなびっくりな私に、そのままセナはデコピンを放った。

 パチンッ!

「だから。お前にでもできるように簡単なの教えてやる。技の名前は……そうだな。『大砲パンチ』だ」


 大砲パンチ。

 だ、ださい。


「速さは置いといて。普通のパンチだ。ただ殴れりゃいいってもんでない。いいか。受け身のパンチをするんだ」

「受け身?」

「相手が自分の範囲内に来るまでジッと待つ。んで、相手が飛び込んできた所をガツーン! とな。相手が速く来れば来るほどダメージはデカくなる。仕方は こうだ。できるだけ相手に対して真っ直ぐ」

と、お手本を見せた。

「この技は反応が大事」

と、延々とセナのコーチは続く。

 たかがパンチ。されどパンチ。

 どうやっても上手くいかずで、セナから何撃もデコピンをくらうハメに。

 痛い。

 楽しい。……顔に出すと、怒られちゃうけれどね。


「うーん。まあ、そんなもんか。今日はココまで。あとは実践という事で……頑張れよ」

「お、おお〜」

と……ヒザをついてゼーゼーと、息をついた。

 ……厳しい。ちょっと、甘かったかもしれない。

「無理すんなよ。お前は黙って俺らに護られてりゃいいの」

 セナが言いながら仁王立ちで私を見下ろす。その顔を見上げると とても意地が悪そうな。しかも笑っていた。

 あはははは……と私は引きつった笑いを。

 何かこの人、楽しんでいるわね。完璧に。

 まあいいさぁ……私も汗かいて、しんどくても楽しいと感じたし。

 と、そんな風にイイ顔をしている時だった。


 向こうで、鳥が騒がしく鳴き出し飛んでいった。

 あっちはマフィア達が寝ている方向だ。「な、何?」と胸騒ぎがする。

 急にセナが険しい顔になってグイと私の腕を引っ張った。


「戻るぞ。嫌な予感がする」




 セナの予感は当たっていた。

 戻ってきてみると、寝ていたはずのマフィア、カイト、メノウちゃん、蛍。皆、居なくなっていた。荷物は置きっぱなしだ。

「やられた……」

と、セナが それを見て呟いた。

「ど、どうして」

 まさか魔物の仕業なの!?

「やっぱりマフィアが言ってた魔力を持つ……」

と私がオロオロして周辺を捜すと、

「いや、違うな。あれ見ろよ」

 セナが前を指さした。

 セナが指さした方向。そこの先の木には。

 枝で一枚の紙を刺し、留めてあったのだった。

「『摩利支天の塔で待つ』……人間の言葉だぜ。魔物じゃねえよ」


 だと……したら。

 私は一つ、心の奥の方で押ししまっておいた可能性を掘り起こす。



 まさか蛍……が?




《第16話へ続く》




【あとがき】

 後悔先に立たず。身に染みます(うぎょー)。


※ブログ第15話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-51.html


 ありがとうございました。




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