第14話(幻遊の間)
暗闇の部屋には、背もたれの出来る大きめの椅子と……氷づけの少女。美しい金髪と整った気品あふれる顔立ち。例えるなら、フランス人形だった。
名を、ハルカという。
たまにレイは この部屋を訪れ、どっかりと椅子に腰かける。そして目の前のガラス細工の如き人間……氷づけのハルカを見つめるのだ。それから、ゆっくりと仮眠をとる。
今日も いつもと同じ、少しだけ仮眠をとった後。部屋を静かに出て行った。
(レイ……)
と、ハルカは心の中から語りかけた。氷づけのため、目も口も手も足も動かせないでいる。しかし心の目で見ているのだ。
(そばに居て……あなたが そばに居てくれるなら、私、このままでも構わないから……)
心の中に ある景色が映る。
レイとハルカと……楽しげに おしゃべりをしている姿が。レイが監獄に居た頃の2人の姿だった。
「これで青龍復活に一歩また近づいたわけね。ふふっ、救世主……サークの森では とんだ恥さらしちゃったけど。一体あれから どうしたのかしら?」
と、王座の前の台に飾られた魔神具の一つ……水神の秘宝と呼ばれ、メノウの魂を使い奪った……『魔道経』を見ながら、蛍は横に居る紫に話しかけた。
ボロボロの巻き物……中身は固く封印され、結ばれた藍色の紐の上に札が貼られている。コレには四神鏡の力を復活させるための呪文が書かれているのだという。
しかし、青龍復活に必要な四神鏡は、まだ一つも見つからないでいた。
それもそのはず。四神鏡は一枚ずつ世界中に散らばっているし、しかも鏡があるのは人間の体の中なのだ。即ち、世界中の人間の中から鏡を持つ人間を見つけねばならないのだ。非常に見つけるのが難しい。
そこでレイは、四神鏡を持っているか持っていないのかを判別するための道具を何処からか持ってきた……これがあのライホーン村人を斬り刻みまくった もう一つの魔神具、『邪尾刀』で ある。
コレのおかげで。わざわざ死体を心臓から内臓からバラバラにして調べる必要が なくなったのだった。
だが一つ欠点がある。
あまりに長時間使い続けると、すぐ錆びてしまう。そのため村一つ、街一つずつが限界だった。使い終わった後は四師衆の一人――レイの側近、さくらの術を使い錆びないようにする。コレを繰り返し行うのだから、相当な時間を用するのだ。
レイはイラついていた。そのイラつきを抑えるため、ハルカの居る部屋へ行き落ち着かせるのだ。不思議と、騒ぐ心はハルカの前では おさまるからと……。
「救世主は、ノジタ国に居たと さっき鶲様が漏らしていました。どうやら七神を集める旅に出ているようです」
と、紫は蛍に返した。
「だーかーらっ! 紫ってば。あんな奴、鶲様なんて呼ばなくてもいいわよ。呼び捨てで充分でしょ。ああムシズが走る……」
蛍は そういって腕をさする。鳥肌を撫でた。
「救世主はノジタ国か……」
と呟くと、背後からコツコツと足音が聞こえてきた。振り返って見るとレイだった。
「救世主……さァどう動く? たっぷりと楽しませてもらうぜ」
と言ったかと思うとクックッと笑い出した。やがて その声は段々と大きくなり、しまいには高らかに笑い出した。
「ハハハハハ!」
と、笑い続けるレイに蛍は尋ねた。
「レイ様、あいつらを放っておくんですか? 今のうちに殺してしまった方が……」
するとレイは、ピタリと笑うのを止めた。そして『魔道経』に そっと触れる。
「いや。四神復活は確実に近づいている。もがく ねずみを見ているというのも面白い」
「しかし! ねずみでも猫を噛むという事は あります!」
蛍が なおも意見し続けると、レイはチラリと蛍を見た。メガネのズレをカチャリと直して、
「……安心しろ。噛まれたら……百倍にして返す」
と……不気味に目を光らせた。言った後、蛍は口唇を噛んでギュッとスカートを握り締めた。
(レイ様は狂っておられるわ……)
俯いた。床に自分の歪んだ顔が浮かんだ。
レイの表情は明らかに前とは違っていた。前は あんなに気味の悪い……蛍さえも脅かすような顔は しなかった。青龍復活が近づいてくる事で、どんどんと天神への復讐心が蘇ってきたのか。
それとも、青龍復活の欲望に心奪われているのか……。
(やはり出る芽は摘んでおくべきなのよ。砂利や雑草といえど少しでも危険な存在なら……)
と蛍は考え込み、
「紫!」
と紫を呼んだ。
「はい」
と紫は呼ばれて返事をした。
天神の神子騒動から2日後。
神子様の言った通り、魂の戻ったメノウちゃんは目を覚ました。
鶲の策略で罠にハマッたメノウちゃん。何と七神の一人・水神であるカイトの たった一人の妹。代々家に伝わってきた『水神の秘宝』。実はコレ青龍復活に必要なアイテムだったのだ!
それを狙って、鶲が やって来たというわけ。
「ン……」
と、ベッドに寝かされたメノウちゃんが目を覚ました時。カイトは笑顔で それを迎えいれた。
「おはよう、メノウ!」
メノウちゃんはパチクリとカイトを見た。
「……メノウ、何か長い夢を見ていたの。悪い奴が居てね……」
とメノウちゃんは目をこすって大あくびをした。カイトは頭をポンポンと叩く。
「そうか。でも それは全部夢だよ。さ、朝食出来てるぞ」
カイトの言葉に、「うん!」と反応し、ベッドから飛び出して走り出したメノウちゃん。すると ちょうど部屋に入ってきた私と ぶつかった。
「……? お姉ちゃん、だあれ?」
とメノウちゃんは私を見上げた。目が輝き、元気で生命力 溢れる普通の子供の顔だった。
「お兄ちゃんの友達。遊びに来てるんだよ」
と、後ろでカイトは説明した。メノウちゃんは「フウン……」と首を傾げて、
「お姉ちゃんの お名前は?」
と聞いてきた。
もちろん私はニッコリとして「勇気。勇気って呼んでね」と言う。
「勇気お姉ちゃん! ご飯食べた? お兄ちゃんの料理、おいしーんだよ。いい奥さんに なれるよね」
「……」
「……」
私もカイトも、後で大爆笑してしまった。
「君らには すごーく感謝しているよ! どーぞ この家に泊まってってくれ。メノウもあんなに喜んでたし!」
というカイトの強い希望もあり、私達は お言葉に甘えココで何泊かする事に。
あ、ココは『人形の館』の奥の部屋。ココはカイトの店なんだって。人形作りが好きで、店にある人形は全部 彼が作ったそうだ。
富豪の家に生まれ、生活は とっても裕福なんだって。だから自分の好きな仕事に就いて、こうやって人形を飾って売ってるんだとか。あまり売れないけれど、生活に支障は ない。自分の好きな事をやっているんだって。
要するに、金持ちの道楽?
「そうだなぁ……確かに、何不自由なく暮らしていたから他人から見たら すごく嫌な感じかもしれない。でもさぁ、俺 人形作りに手は抜かない。一応苦労も してるつもりだ」
カイトは毎日一体ずつ人形を作っているらしい。でも一日一体のペースに なるまで、様々な苦労や修業が あったという。
人形を作る……そんなに簡単に出来るもので ないんだね。
店に飾られている人形達を見る。
フランス人形、ほか西洋人形、民族衣装を着た人形、日本人形、ネジ巻き人形。目が動いたり、口が開いたり。からくり人形なんてのも ある。ぬいぐるみも ある。ふわふわ、だぶだぶ、ふにゃふにゃ。
コレを全部 一人で作ったんだね。
まだ18歳だっていうし……まだ若いのに すごいや(私の方が年下だけどさ)。
『人形の館』の そばにあるプレハブ小屋のような建物の中で、カイトは今日もカーンカーンと音をさせながら人形を作っている。横で ちょこんと座って様子を見ていた私。
「私が居て気が散ったりしない?」
「別にぃ。俺、集中したら周りの事 見えないし。あんたの事は石像だとでも思ってるから。あ、石像というよりタヌキの置き物って感じかな」
「たっ……」
……悪かったわね、と小さな声で呟いた。
「あんた、救世主なんだよなぁ」
「え? うん、そうだけど」
「やっぱし、俺も旅に参加するんだろうね。あの伝説どーりに」
会話をしていてもなお、人形を作る手は休めない。
「……嫌だったら、ココに居てもいいよ。残りを集めて、またこっちに戻って来るしさ。その時に協力してくれたらそれで……」
「誰が行かないって言ったよ」
カイトは そう言うと、ハー……と ため息をついた。
「ココの人形達も、そろそろ増え過ぎたなって思ってたんだ。でも捨てない。旅のついでにさ。人形を売るぜ、世界中に」
辺りを見回した。人形達が皆、カイトを見ているような気がした。
「人形は、作った人の思いや魂が込められているんだ。俺には聞こえる。こいつらの声が」
その中の一体をとる。両手サイズの可愛らしい男の子の人形だった。
「コレやるよ。ほら」
と、カイトは私に それを渡した。
「……私も、声が聞こえるようになるのかなぁ」
私は その人形をスカートのポケットの中に そっと入れた。
セナとマフィアは買い物。カイトも人形作りに精を出している。
暇だったので、私はメノウちゃんの遊び相手に なっていた。
いい天気なので近くの丘へ行って、ゆっくり寝そべって ひなたぼっこ。メノウちゃんは蝶を追っかけたりして走り回っている。時折 吹く風が気持ちいい。
(一生こんな幸せな気分で いられたら……)
なんて思わせる気持ち良さ。
(今までの辛い事とかも ぜーんぶ忘れて……ゆっくり できたら)
サワサワと草木が揺れる。風を感じる。
まるでセナの優しさのようだ、なんちって。
ついウトウトと眠りに入る。花畑の中、私が一人、そこに居る……。
「俺はセナ・ジュライ。年は17。風神だ」
振り返ると、少年が私を見つめて立っている。どう見ても5・6歳くらいの男の子。
あ……知ってる。『時の門番』で覗き見た、昔のセナの姿だ。
「セナ」
と、少年の後ろに もう一人少年が。青い髪の、いかにも賢そうな少年だ。この子も知っている。
レイだ。レイ・シェアー・エイル。年は18。闇神だった。
2人は肩を叩き合って笑いながら走って行った。その先に、ある少女が立っていた。この子も知っている……けれど、何者かは わからない。金髪で赤い瞳。幼くても気品のある振る舞い……。
「レイ。セナ」
と、少女の口から そんな言葉が出た。綺麗な澄んだ声。だけれど、何処か寂しさの満ちた声。
「ハルカ。一緒に遊ぼう」
とセナが言う。
3人は仲良く手を繋いで去って行く。
(ハ……ル、カ?)
セナとレイと一緒に居た少女は、ハルカという。
(何……? ハルカさんって……レイやセナと どういう関係? 今、何処に居るの?)
謎の少女……夢は、次の声でブッツリと切れた。
「久しぶりね。救世主」
何処かで聞いた声だと思った。
ガバッと起き上がる私。目の前には違う少女が立っていた。
「あなたは……」
「今日こそ あんたの首をとりに来たの」
意地悪っぽく笑う黒ずくめの少女……確か、幻遊師・蛍。初めてマフィアと出会った時、森で出会ったレイの手下だ。レイの手下には四師衆とかいう奴らが居る。鶲も蛍も それだ。
「あれをご覧なさい」
蛍は斜め右後ろを指さした。すると。
蛍の付き人っぽい少年・紫が居てメノウちゃんを捕まえていたのだ。
「お、お姉ちゃん……」
メノウちゃんはガタガタ震えて私に助けを求めていた……今の私には、頼りとなるセナ、マフィア、カイトの どれも、居ない。
ううん、人に頼んないで自分で何とかしなくちゃ……。
私は とにかくドキドキしている心臓を落ち着かせた。あくまでも冷静に、蛍に話しかけた。
「その子は関係無いでしょ。離してよッ」
と。とにかく言ってみた。
「いやあよ。紫、救世主をやっちゃって!」
蛍が私を指さしたのと同時に、紫は掴んでいたメノウちゃんの手を離した。
「メノウちゃん……逃げて」
一歩一歩と近づいて来る紫を睨みながら、チラリとメノウちゃんの方を見たが、メノウちゃんは まるで石にでもなったかのように首から下が固まってしまっていた。
「逃げて!」
と私は叫んだ。しかし どうもメノウちゃんの様子が おかしかった。
「お姉ちゃん! ……ダメなの、体が……動かないの。おかしいよ!」
と、苦しんでいた。
一体どうして?
そんな顔をしていると、蛍が高らかに笑い出した。
「あら、あの子は大事な人質だもの。仲間を呼んで来られちゃ厄介よ。逃がすわけないわ。あはははは。おあいにくさまね。私は幻遊師。モノに魂を吹き込んだり形造ったり、人をああやって操る事が可能なの……ま、人を操るのは人間2人分が やっとってトコだけどね。でもあんたを殺すには充分よ」
そう言うと、蛍は真剣な顔つきになり精神統一をした。そしてニヤリと笑う。
途端、私の体も動かなくなった。まるで金縛りにでも あったかのよう。目や口は動かせるけれど、肝心の手足は動かない。蛍の言ってた人間2人分の術……メノウちゃんと私に かかっているんだ。
「くっ……卑怯者!」
あの子は関係ないじゃない、と思った。このままじゃ。
「紫! 早く殺して!」
術に余裕が無いのか、いつもの皮肉ぶった顔も顔じゃなくなっている。
紫の手が私の首を掴んだ。そして もう片方の手を構えた。
「やっちゃえ!」
「お姉ちゃん!」
後ろで蛍とメノウちゃんの声がする。私は覚悟を決めていた。
(セナ、お兄ちゃん……皆、ごめん!)
ギュッと、目をつぶった。
思えば、何の取り柄も無かった私。
家でも学校でも邪魔者扱い されてた私。
この世界に来て、セナやマフィア達と出会って、自分が必要とされている事が すごく嬉しかった。結局私、レイの説得も青龍の復活の阻止も、元の世界に帰る事も出来ないままココで死んじゃうんだ。思えば13年間というホントに短い人生だった。トホホホホ。
今、終わっちゃうんだ――。
「セナ……!」
と、本当に小さく呟いた。
紫の手が私を襲う!
……!
……
……しかし、その時だった。
いつの間にか空に暗雲が。いや雷雲だった。
そこから、勢いよく光がココへ落ちてきた!
「!」
「きゃあ!」
「紫!」
「お姉ちゃん!」
ドンガラピシャ−ン!
ゴロゴロゴロ……。
……一瞬、何が何だか わからなくなった。
気がつくと、私も紫も倒れていた。ただし、私は無傷で紫は重傷。紫は焼き焦げていた……。
「む、紫! 紫!」
と、蛍の悲鳴。
私とメノウちゃんの呪縛は解かれていた。
自由に なった体から、ポトリと何かが落ちた。
よく見るとカイトが くれた男の子の人形……だった。まるで身代わりにでも なってくれていたかのように真っ黒に焦げていた。まだプスプスと、中の詰め物が燃えているのか焦げつく臭いがした……。
あの雷は……ただの偶然? それとも……君が雷を呼んでくれたの?
人形の顔に そっと触れた。よく見ると、面影が何だかセナに似ている気がした。
セナが私を守ってくれたの?
すると人形が しゃべり出した。
「ユウキ、死ンジャ、ダメ。コノヨ、スクウ……」
……それだけだった。でも、私の心を打つには充分だった。
涙がポタリと人形の顔に落ちた。
そして、カイトが言った言葉を思い出した。
『俺には聞こえる。こいつらの声が……』
私にも聞こえるように なるのかな。そんな事を言っていた気がする。
今、確かに聞こえたね。
人形の思い……人形の言葉……私を守ってくれて、励ましてくれたね。
「ごめんね……」
私は涙を拭いた。
フツフツと体の中で何かが湧いてきた。……
「 幻 遊 師 ! 」
と私は大声で叫ぶ。
蛍は「ヒッ!」と驚いていた。私を見て、さらに顔色を変えた。
「む……紫!」
なおも紫を呼び続ける。だが紫は倒れたままでピクリとも動かなかった。さっきの雷が相当効いたようだ。
「な……何よ! ……何なのよ! め、目の色が違うわよ!」
蛍は そう言って、負けじと私に立ち向かった。
「覚えておく事ね。私は、本物の救世主だっていう事!」
と、言った後。内から膨らんでくる力と精神に身を任せ、何と手から すさまじい光の塊を生み出した。そして それを……。
「死ね!」
と、……ぶっ放した!
そこにあるものを、全て吹っ飛ばすくらいの勢い!
ゴオオオオオ……
「きゃあああああ!」
と、蛍の悲鳴も、光のエネルギーの中に かき消された。
攻撃を放った瞬間、全身の力が一気に抜けた。
そして、気絶した。
気がついたのは、その日の夜だった。けれど意識は はっきりとしているというのに体が動かないし まぶたも動かせられない。まだ蛍の術に かかっているのか? ……いや、違う。これは ただの疲労だ。
あの、訳の わかんない力のせいで手を動かす力さえ失ってしまったのだ。
意識がある中、そばに居る人の会話が聞こえる。
「蛍に捕まって……それで?」
と、マフィアの声がする。
「うんっとね。どかあん! って、雷が落ちたの。そしたら、お姉ちゃんは大丈夫なの。でも、お姉ちゃんをやっつけようとした男の人はね、真っ黒になって倒れちゃって……」
このしゃべり方はメノウちゃんね。
それから……?
「それで?」
今度はセナ。
「んとね……メノウの体、動けるようになったから、お兄ちゃんたちを呼びに行ってね……んと……」
「わかった。とにかく、メノウは その後の事は何にも知らないんだな?」
と、優しい言葉をかけているのはカイト。
何だ、皆ココに居るのね。
「うん」
とメノウちゃんは返事をした。
フウーッと、誰かの ため息が聞こえた。
「そっか……やっぱり、勇気本人に聞かなきゃわかんないわね。その後の事」
そう言うとマフィアは、私の寝ているベッドに座った。
「そうだけど……聞くのも怖い気が するんだよな。あんな跡見ちゃ」
「うん……確かにね。あの戦いの跡を見てゾッとしたわ。明らかに強大な力を持った誰かの仕業ね。あの丘一つ消せるくらいの」
え……?
何、マフィア、セナ。丘一つ消せるくらいの力って?
つまり……あの丘、私のヘンテコな力のせいで 消しちゃったわけ!?
うそぉ……。
「でも勇気の力じゃねえよ。やっぱし あの幻遊師とかいう子供んちょが やったんだろ」
「でも、セナ。それは一体何のため? 勇気を攻撃するためじゃないの? でも現に勇気は無傷よ。コレって一体どういう事だと思う?」
というマフィアの尋問にセナは黙ってしまった。
「お姉ちゃん、泣いてたよ。お人形見て」
メノウちゃんは、バタバタと足音を立て去ったと思ったら また戻って来た。
「ほら、コレ。真っ黒 焦げの お人形」
「コレは……俺が渡したやつだ」
「泣いてた?」
「この人形、どうして こんなに なったの? 雷のせい? あ、もしかして。人形が勇気の代わりに……? まさか、ね」
「でも、そのせいで泣いてたって事なら、あり得るぜ」
と、そこまで会話が続いた時。急に変な沈黙が……。
「勇気の……力なのか? あれが。救世主の……本当の」
セナが言った。
瞬間、私の胸がズキンと音を立てた。
(丘一つ消し去る強大な力……あれが私の力。救世主の力?)
徐々に胸の痛みは広がっていった。
(私が蛍に攻撃する瞬間……)
少しずつ思い出してきた。
蛍は私を見て、目の色が違うって言ってた。私、確かその後……。
『覚えておく事ね。私は、本物の救世主だっていう事!』
そう。そんで次に『死ね』って言ったんだ。
ドキドキが大きくなってきた。
(『死ね』……? 私が? 何で そんな事 言ったんだろう?)
ダメね……自分の事なのに、訳が わからない。
わからないまま、再び眠りに陥った。
その頃。
救世主の攻撃をすんでで避け、逃げ帰った蛍。そして その蛍に支えられ運び込まれる紫。紫をベッドに寝かせる。
そして、その部屋から走り去った。
(悔しい……悔しいわ!)
と、ほんのり目に涙を浮かべ、冷たい廊下を走る。
(あんな奴に……あんな奴に!)
するとドンと誰かに ぶつかった。
びっくりして見上げると……レイだった。
「レ、レイ様……」
レイの顔は冷たかった。ギラリとした目を向け言葉で圧力をかけた。
「役立たずは……去れ」
《第15話へ続く》
【あとがき】
この時にもう1本の連載をしていますが、こっちがシリアスなのに対し、もう一本がコメディなんで……このギャップがまた何とも。
宇宙とミルキーウェイ星人に興味のある方はどうぞ。
http://ncode.syosetu.com/n4440d/novel.html
※ブログ第14話(挿絵入り)
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-50.html
ありがとうございました。