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第11話(人形の館)


「ったく。戻って来る……って言ったろ。何で俺の後 追って来たんだよ」


 ……だなんて。絶対、セナは言うと思っていたのに。セナは、私達が後を追っかけて来た事を責めなかった。ただ、いつも通り愛想よくしているだけ。

 セナは あの“時の門番”でレイの過去を見て、何を思ったんだろう。


 私には あれだけじゃ、ちっとも わからない。ヒントと言えば? ……

 レイはセナと別れた後、天神という人の所へ行って、そこで仕えて? ……ある日誰かとケンカして出て行った……ような、それだけ。

 セナに聞いてみたかった。でも、聞けない。だってこれは2人の問題だし……部外者の私が入っては いけないような、そんな気がした。もちろんマフィアも。

 特にマフィアったら、気が強いし結構ズベッと物を言うタイプだ。きっと この事を言ったら即セナに尋ね倒すに違いない。そんな事になって、もし万が一3人の関係を崩す事になってしまうのは嫌だ……まだまだこれから先、旅の道のりは遠いっていうんだからさ。


 私は このまま黙っておこうと思う。

 レイの過去もセナのそれも、私は何も見なかった。そういう事にする。

 あの金髪の少女も……。


「あっ、見えたよ! あれがコンサイド大陸だ!」

「えっ!?」

 ぼお〜っと、この客船のオープンテラスで ゆっくりと午後のひとときを楽しんでいた私達。テーブルに突っ伏していた私をマフィアが揺さぶった。

 マフィアの視線を追うと、確かに遠く うっすらと向こうに陸が見え出していた。あれが私達の目的地、コンサイド大陸に違いない。


「……あのバルーン、何……?」

と、私がマフィアに尋ねる。陸の上空にチラリと……ココの距離から計算しても とても大きいようなバルーンがフワフワと……空を泳いでいた。風に、揺れている。

「百貨店だよ、お嬢ちゃん」

 たまたま そばを通りがかった船員さんが教えてくれた。どうやら積荷を運んでいる途中。

「港から出るとノジタ国っていってなぁ、大陸の3分の1をも占める王国……大国があるんだ。商業の盛んな所で、あのバルーンは国一番の百貨店『ル・アーゼ』の広告用バルーンだ。ま、お前さん方も武器防具を揃えるなら、試しに行ってみな」

 へえー。百貨店かあ。

 ココの世界にもあるのね。日曜とか祝日になると混んじゃったりとか、イベントがあると値段が安くなったりとか、そういうのもあるのかな。

「ライホーン村の村長から もらった補助金もあるし。ちょっと行ってみるか?」

と、セナが言い出した。

 もちろん、私もマフィアも賛成。これからレイや その刺客達ともビシバシ戦う事になるだろうしねー。



 コンサイド大陸に第一歩を踏み出した。思えば長い道のりだった。

“時の門番”からライホーン村へ帰って来て、村長さんや村人達に別れの挨拶をした後、再び村を出た。そして荷馬車に乗っけてもらいながら、マイラ港町から大陸行きの定期船へ。……結構な日にちが かかった。

 船は やっとこさ次の目的地へ着く。

 コンサイド大陸はラジェータ大陸の東南あたりにある。何でも、温泉が湧いたために始め弱小だったノジタ村は稼ぎに稼いでノジタ国へと急成長したんだとか。王様が城に住んでいて、その王様は商業を大切にし国は大いに発展しているという。チラホラとあった村や町を吸収して、今や大陸の3分の1にも広がった。

 ……なんていう話を、港に居た洋服屋が話してくれた。そこでも買い物をし、軽く食事をとりながら、私達はノジタ国へ入った。関所で簡単な身体検査をした後でね。

 港も活気 溢れていたけれど、こっちはもっと活気づいていた。

 ちゃんと整備されたピンクの煉瓦道。所どころ木とかが植えてある。

 道の両端までズラリと店・店・店が並んでいる。

 そして人・人・人だった。

 進みたいのに なかなか滞っていて進めず。私はマフィアを見失わないように しっかり後ろをついて行った。こんな所で迷子になってたらシャレにならなーい。


 数時間後。

 せっかく……百貨店『ル・アーゼ』の前まで来たっていうのに。私達は……そこへ入る気を失くす。

 ……だって、比べられないほど、ココもまた混みあっているんだもの……。

 おばさん達の戦場の場だよ……。

「どーするぅ……? 何か、大変そうだよ」

と、私が困り果てる。2人とも こりゃダメだ他を行こう、とお手上げ状態。

「はいはーい。押さないで下さーい」

 ワイワイガヤガヤ。

「すみませーん。タオルとかって、何処に ありますかぁ?」

「これ、カード払いでお願いします」

「プレゼント用に包んで下さい」

 ワイワイガヤガヤ。

「ただ今、全品5%引きでーす!」

 ワイワイガヤガヤ。

「きゃ、買うわ買うわ。そのキナコ餅」

「このマフラーとの色違い ありませんこと?」

「サイズが合わないんですけどー」

 ワイワイガヤガヤ。

「はーい。すみませーん! 押さないで押さないで! 順番にお願いしまーす!」

 息が詰まりそうで苦しい感じだ。店員さん達も頑張っているけれど、ありゃ相当キツイわな。

 私達は『ル・アーゼ』を諦めて、道中の店で欲しい物を買う事にした。夕方近くなって道いっぱいに近いほどの人混みが、少し減ってきた。私達はホッと胸を撫で下ろす。とにかく、買い物 買い物。

「考えてたんだけど。武器いるか?」

 セナが聞いた。私はウーン、と腕を組んで考える。マフィアが先に答えた。

「薬は十分にあるし。食料も水もちょっと買い足せば大丈夫……武器、か。私のムチはまだ新しいからいいし。セナは? いらないの?」

「俺は軽装主義だから。荷物もココ(縮小自在ポケット)に入れてるし。風の力で弓とか作れるし……必要ねえな、俺は。……じゃ、勇気は?」

 私は まだウウーン、と唸っていた。

「武器、持ちたい、かな」

 私もあんまり重いのは嫌だけど、と付け加えた。

「んじゃ、勇気の物 何か見に行こう」

 そうして、私達は順調に買い物をこなして行った。

 まさに こなす……そんな感じ。買い物に費やす労力が通常より何倍にも感じた……行く前に、もう見るだけで疲れてくるな……んにゃ、まだ若いっ!

 無理矢理テンションを上げた。

 ある古い武器屋に入って……私は女性用のアーミーナイフを買った。柄に龍の絵が彫ってある。これから青龍を相手にしていくんだもの。ちょうどいいよね。

 私はそのナイフをスカートと腰の間に挟んで、上の服に隠れて見えないようにした。いざっていう時のための武器。料理にも使えるかもしれない。

 んふふふふ。買い物って楽しい。買うつもりは無くても、見るだけでも結構楽しい。変わった物が多いからなぁ。……混んでなければもっといいんだけれどね。

「お嬢サン。風船ヲ、ドウゾ」

と、言われ振り返ると、ピエロが居て私に赤い風船をくれた。

「わあ、ありがとう」

 私は大喜びで風船をもらう。チラっと横を見ると、小さな古ぼけた造りの建物があった。見た目、ドールハウスみたい。木造りで、色んな柄が彫られている。どうやら店のようだ。

 入り口の上を見ると、『人形の館』としっかり書いてあった。

 じゃあ、やっぱりドールハウスなのね。って事はこのピエロさん、客寄せしてるんだ。店の前で。

「面白そう。入ってみよっと!」

と私はセナとマフィアを呼び、一足お先にそのドールハウスの中へ。中には色んな西洋人形、日本人形?、からくり人形、くるみ割り人形……などなどが、並んでいた。店内の照明が ちょっと暗めな具合がいい。人形の存在感がアピールされている感じがする。

 私は人形を見ながら、奥へ奥へと入って行った。すると、行き止まりになってしまった。行き止まりに、特別大きい人形が置いてあった。


「人形……?」


 にしては……と、私は目の前の人形に他とは別の、違和感を感じた。椅子に座って、西洋風のドレスを着て、白い大きな帽子を被っている。そのせいで顔は下を向いてよく見えない。

 手足はダランとしている。黒い髪が少し長い。赤い靴を履いている。人形だと思ったけれど、よく見たら人間の子供じゃないのかなぁ……?

「どうした? 勇気」

と、セナとマフィアが後から来た。

「この人形だけ、まるで本物みたい。本当に作り物なのかな?」

と、私が指さす。マフィアが近づいて行って、下から顔を覗き込んでみた。

「作り物……にしては、精巧に出来すぎてる。目の膜とかも。でも、死体ならこんな状態なわけがないわ。腐ってもいないし、臭いも無い。やっぱり人形よ、これ」

 そう言いながら手を持って離すと、ブランと力無く下がった。

「脈も無ければ心臓も動いてないし。まばたき一つしていない。息もしてない。人間じゃないわ、完璧」

と、マフィアが その人形をくまなく調べ、結論を出した。

「そう……かぁ。じゃ、気のせいね」

 私はポリポリと頭を掻く。そうよね……こんな所で他の人形に紛れて、死体なんて置いとくわけがない。私の思い過ごしだったみたいね。


 私達3人は店を出た。私を先頭に、真っ先に店を出た。

 すると。

 誰かにドンと思いきり ぶつかってしまい、後ろにスっ転んだ。

「大丈夫!? 勇気!」

 マフィアが慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫。ちょっと腰打ったけど」

と私が腰をさすっていると、腰にさしておいたはずのナイフが無くなっている事に気がついた。

「ナイフが無い!」

「ええっ!? ……まさか、さっきぶつかった奴が!?」

とマフィアが言った瞬間、セナが瞬時に走り出した。何て素早い。

「セナ!」

「あっちだ!」

 マフィアも追いかけた。私はといえばボーゼンとして、座りっぱなし。やがて、ハッと気がついた。


 しかしその時すでに2人の姿は無い。

 私は一人、そこに取り残されてしまっていた。

「いっけない。私もスリを追っかけなくちゃ」

と、立ち上がった時だった。


 誰かが後ろから、私の腕の片方を掴み、そしてサッと私の体を軽々と何処かの馬車か何かの荷台へと放り込んだ。

 そして上体を起こす前に、扉は閉められる。

 ガシャンッ。


 突然の衝撃と暗闇。

 私は またボーゼンとしてしまった。

 その間、馬車は動き出した。

 我に気がついてどうにか出ようとするが、出口はビクともしない。


 ……どうなっちゃうんだろう? ……


「まさか、レイの手下? あのスリは わざと?」

 スリに目を行かせておいて、その隙に私を誘拐して……目的は何だ。何のために。

 考えたってわからない。

 セナとマフィアは今頃 私を捜しているんだろうなぁ……。


 いよいよ馬車は、ワイワイガヤガヤと さっきまで騒がしかった道を抜け、商店街から遠ざかったらしい。少しずつ周囲の音が小さくなっていった。



 ……どうやら私って、筋金入りの脳天気らしい。誘拐されたなんていう緊迫した時でさえ、寝こけちゃうんだから……。しかも、しっかり夢付きでね。

 さっきの特大人形が同じように椅子に座っている夢。その人形は、ゆっくりと上を向いて、真っ黒の瞳をこちらに向ける。そしてニッコリと笑って見せた。

 まさに人間そのものだった。

(あなたは人間? それとも人形?)

と、私が手を伸ばす。だが、その少女には届かない。

 少女から笑みが消えた。

 私が たじろぐ。すると少女は何やら悲しげな顔をしたのだ。


(私、メノウ。アナタ、救世主?)


と……カタコトの口ぶりで、私に尋ねた。というか、口は動かせては いない。テレパシーのように、言葉だけが聞こえるのだ。

(そうよ。私は勇気っていうの。あなたはメノウっていうのね。どうしてそこに居るの?)

 私が聞き返すと、ふいに沈黙が私達を包んだ。

 無言でいると、やがて少女の目から涙が……こぼれ落ちた。ポロポロと、清らかな宝石のような涙。真っ黒な瞳と、固く閉ざされた口。

 この少女が、私に何か訴えかけているように思えた。それは何か? わからない。

 ただ……夢は、段々と薄れていってしまった。



 目を開けると、部屋が横向きだった。つまり、私が横に倒れていたという事。

「ココは……何処?」

と起き上がって、ぼんやり考える。どうやら私は無傷で、両手両足は縛られていない。牢屋のような殺風景な部屋に閉じ込められているのは確かなようだ。たった一つの鉄製のドアはノブをいくらまわしてもガチャガチャいうだけで、ビクともしない。きっと外から鍵をかけてあるんだろう。

 ゆっくり後ろを見渡すと、部屋の奥、ドアの向かいにある小さな窓にはしっかりと鉄格子。四方にはヒンヤリとしたコンクリートの壁。時々隅にクモの巣。冷たいベッドが一つ。丸い粗末なイスが一つ……。

 ……そこで初めて気がついた。誰かが座っていた。

「あ、あなたは」

 おっかなびっくりに声を上げた。私とその人は目が合う。

 ちっとも気配を感じなかった。こんなに近くに居たのに。

 女の人だったのだけれど。見た目 白人ぽくて、髪はウェーブがかった金髪。肩まである。キリリとつり上がった端整な眉と、強固そうな瞳。ナイスバディで軽装。ジーパンを履いているけれど、骨だけなんじゃないかと思われるスラリと伸びた足を組み、先には赤いハイヒール。つい観察してしまう。

 気配を感じなかったので怖い。綺麗なんだけど、どこか……見ていて寒くなる。

 まつ毛はクルっとカールがかかっていて、目はガラス玉のようで中の瞳はスカイブルー。さっき人形の館で会った、人形なんだけれど人間みたいなのに比べ、こっちは人間なんだけれど まるで人形を前にしているかのように感じるよ。何でだろう?


 すると、その人は立ち上がった。音も無く。そしてこっちに近づいて来る。

 私はゴクリと空気を飲む。私と相手のその人とは距離が縮まった。

 ドキドキする。

 真っ直ぐに、そのスカイブルーの目に見つめられて。私は身動きできない。

 ドクンドクンドクン。

 私の真正面に来た。

 ドクンドクンドクン。

 立ち止まる。

 ドクン。

 ついに、口を開いた。


「あんた、救世主なんやってなぁ?」


 …………。


 え?

「手荒なマネしてスマンかったなぁ。実は、極秘プロジェクトやってん、これ。あ、わてはシノル、いいますねん。よろしゅうに」


 ……。

 ……言葉が……。

 私は、その場でズッコけた。

 何で関西弁なんだぁーっ!?


「……な、何で言葉が、じゃなくてえーと、何で私が救世主だって事を」

 私が体勢を立て直しながら聞くと、シノルとかいう その人は手を振って笑った。

「言うたやん、極秘プロジェクトやて」

「だから何なの!? その極秘何やらって!」

「極秘プロジェクト。わてら仲間うちでは、『トッシー』言うて愛称で呼んでんねんか」

 トッシー……?

 な、何か わからないけれど……そ、そうね。極秘極秘なんて人前では そうは言えない。別名をつけてそれで呼んだ方がいい……でも何でトッシー?

「で、そのトッシーの中身なんやけど。……ズバリ、“青龍復活阻止計画”や!」


 目を丸くした。

「“青龍復活阻止”っ!?」


と、声を大にして言ってしまった。シノルがポカリと私の頭を叩く。

「極秘言うとるやろーが!? 叫ぶなっちゅうてんねん!」

 さっきの私の声より大きい声で怒鳴るシノル。

 コレがツッコミですね師匠……なんてボケは あとあと。で、そのトッシーの中身って!?

「わてら5人組……あ、あと4人居るんやけどな。わてらは、ずっと救世主を捜しとったんや。そしたら、赤い服着た変わった格好の女がおる、女顔の兄ちゃんと長い三つ編みの女を引き連れてこっちに向かっとる情報があったんや。ウチらの一人に、そういう情報屋みたいなんおるねんけど、街を捜しとったら、ちょうど見つけたっちゅうわけや」

「何で私だけを連れて来たん!?」

と、言葉が うつってしまった私。

「知らんわ。あとの2人、勝手にどっか行ってもうたんやんか。でもなぁ、わてらに必要なんは あんただけやしな。それにあんな所でトッシーの事なんて説明できひん。何たって極秘やしな。何処で誰が聞いとるかしらん。しょーがないでぇ、仲間ウチで相談して、とりあえずさらってまおかっちゅう事で。ココに連れて来たんや」

「そこまで隠す必要があるわけ?」

 シノルは顔を近づけ、「ドアホッ」と私のオデコをペシッと叩いた。

「親にも周りにも迷惑かけたぁないねん。あくまでも極秘や。わてら5人だけの」

 好奇心で関わってきているんだろうか? だとしたら勝手だなぁ。こっちは青龍の封印なんていう大仕事、好きでやろうとしているわけでもなく。あんまり他人は好奇心なんかで関わってほしくないような気がするんだけれど。

「青龍が復活しそうやって情報が入ったんや。でも、封印には ある道具が要るんやって?」

「道具?」

 え、何それ。初耳。

 私は首を傾げた。道具って、あの邪尾刀とか? いやでもあれは封印のためにあるものじゃないし。じゃあ一体何の事だろう?

「“魔道経”や。どんなんか知らんけど、封印の呪文が書かれた巻き物や。あんたが持ってるんやろ? わてらに渡してくれへんか」

と、手を出した。

 ……と、言われましても。私には何の事だか。とりあえず、その手に握手。

 すると、バシッ! と頬を叩かれた。すっごく痛かった。私は いきなりで、倒れてしまう。

 シノルは私の襟首を掴んで睨みながら、笑いながら言った。

「あんたがココに来た理由はな、その“魔道経”とやらを頂くためなんや。サッサと渡せば、あの2人んトコに返したるで。カワイイ顔をボコボコにされたいん?」

 さっきまでのムードは何処へ。いっきに凍りついてしまった。

 これは脅し? ……やっぱり誘拐じゃないの!

「し、知らないわ。本当よ!」

と私が言うと、シノルは私を突き飛ばした。

「嘘ついたって無駄やで。あんたの連れの2人のどっちか、『水神』なんやろ!?」

 2人ってセナとマフィアの事よね? セナは風神でマフィアは木神……え? 水神?

「“魔道経”はトッシーみたいな愛称や。本当の名は、“水神の秘宝”言うんやで。代々、水神が それを守ってるんやって。あんた、持ってんねんろ? “魔道経”!」

 水神の秘宝!?

 代々、水神が守ってきているもの!?

 しかも、封印のための道具だあ!?

「持ってません!」

 私はキッと睨み返した。

「セナは風神、マフィアは木神! 私は救世主だけど、ただの人間! 七神っていって、全部で7人いるんです! 水神にはまだ会っていません! そんな道具なんて、今初めて聞いたんだから!」

 私は精一杯訴えた。

 しかしシノルには全然信じてもらえない。私を思いきり今度は蹴飛ばした。

「きゃあ!」

 ゴロゴロと転がり、壁に ぶつかった。蹴られた所が ひどく痛む。

 さらにもう一蹴り、という所で。誰かがドアを開けて入って来た。


「これ。シノル。やめなされ」


 老人の声がした。

 カツカツ、と杖をつく音がする。

「総裁。でもこいつ、なかなか しぶといねんか」

 総裁……? 5人いると言った、そのボス?

「こういうのはな、信頼じゃよ」

 痛みを堪えて目を開けて人物を見ると普通の、ハゲた頭で細身の おじいさんに見える。

「最初は優しーしてやってんで。でもこいつ、段々腹立ってきてん」

 私を指さした。私が倒れたまま顔を上げて老人を見ると、ニコニコ顔の老人は話しかけた。

「救世主さんな、わしらはトッシーを進めてきたんじゃ。世界には青龍復活の兆しが見えて、すでに苦しんでいる所がある。わしの故郷もその一つ。トッシーを企てている若者達が あと3人おってな……わしもそこに混ざって色々と調べてきたんじゃ。その中で“魔道経”……それがあれば復活は止められる。代々水神が守っとるそうなんじゃが、あんた七神を従えておるんじゃろ? その水神とやらを、ココに呼んでくれんかね」

 ……だから水神も何も知らないっての! どうして私が こんな目に遭わなきゃいけないの? 腹が立ってくるじゃない、いい加減!

「知りません!」

と、私は その老人を真っ向から否定した。老人はヤレヤレといった感じで、

「シノル、仕方ない。また かわいがっておあげなさい」

と言って去ろうとした。

 シノルが私をもう一蹴りした。今度はお腹に。うずくまる……。

「知らないとは言わせませんよ。情報は確かなんですからね」

 じゃあ、その情報が間違っているわよ! と言いたい所だが蹴られたお腹が痛くて声が出ない。

 老人は出て行った。そして行き違いに違う男が入って来たようだ。

「シノル。そのへんにしておけよ。そいつ死んじまう。マイナも帰って来たし、トウヤも もうすぐ帰るだろ。ココいったん引き上げて、来い。作戦会議だ。新しい情報が入った」

「何か わかったんか?」

「ああ。どうやら、この近くに水を使う不思議な力を持った奴が居るってさ。そいつが水神である可能性が高いぜ」

 それを聞くと、シノルは私の足を踏んづけて、

「お仲間が迎えに来たんやろうよ。ええ仲間 持ったやんか、救世主はん」

と言って唾を吐いた。私の頬に かかる。

 そして2人とも、ボロボロになった私を置いて何処かへ行ってしまった。もちろん、厳重な鍵をかけるのを忘れずに。


 電気も灯りも無い真っ黒な中で、横たわったまま体中に伝わる痛みを必死に堪えた。頬もジンジンするし、お腹も両足も動かない。

 私は一生懸命、シノル達が言っていた事を思い出した。

 確か この近くに水神が居るって言ってたなぁ……七神の一人が……。

 ウトウトと、そのうち眠りにつけた。



 ……鉄格子の窓から、木の上で。さっきの部屋での一部始終を見ていた者には、全然 気がつかずに。



《第12話へ続く》





【あとがき】

 服と食品の売り場が同じかという疑問。

 まあいいんじゃないですか(遠い目)。


※ブログ第11話(挿絵入り)

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-45.html


 ありがとうございました。



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