嘘と嘘と勘違い
感情ってなかなか自分自身でも手懐けられないと思う私です。
「……はぁ………」
一段落ついた部屋のなかに柚のため息が響く。
私はそれに肩を揺らさざるを得なかった。
ベッドにもたれ掛かるように座っている柚はほっとしたような、疲れたような、何か悩んでいるような表情になっていた。
きっと悩んでいるのも疲れているのも私のせいだ。
「…ご、ごめん、私のせいで…大事な用事だったのに…」
私は居たたまれなくて、こんな自分が嫌で柚を見ながら言うことが出来なかった。
そして私は体が怠いせいで次の柚の言葉に顔を上げることが出来なかった。
「そう、そうだよ…ほんとにそうだよ!!」
私は体を震わせた。
突然の大声に固まることしか出来ない。
「い、何時も何時もこんなのでっ!泪の体のことばっかりで普通に遊べないし、今日だって!!」
柚の言葉が突き刺さる。
「それに泪はいっつもはっきりしない。泣いてるときも泣いてないときもうじうじしてばっかり!!自分一人で何も決められないし、何も出来ない。そんなだからいつまでも泣き虫のままなんだよ!!!!」
そう
ほんとうにそのとおり
なさけない
さみしい
わたしはなにもできない
ただのなきむし
次に来る言葉は大方予想がついた。
「泪の泣き虫!!もう知らない。泪なんて大嫌いだ!友達になんてならなきゃよかった!!!!」
柚は肩で息をしていて。
私は『何で』と聞くことはしない。
私がこんななのが悪いことくらい聞くまでもないのだから。
こうなってしまうまで迷惑をかけ続けたのは私だから。
柚は今まで我慢してくれていたのだから。
「ごめん」
代わりに口から出たのはそんな言葉だった。
何のことを謝っているのかは自分でもよくわからなかった。
分からないくらい沢山のことを謝らなければいけないと思った。
「そう、だね…ほんとうだね…。ごめん。…ごめんなさい…」
嗚呼、私はまた失うんだ。
また一人になったんだ。
じんじんと胸が痛む。
「…っ………ぁ…」
落ち着いたはずの涙がまた込み上げてくる。
こんなときでも私は相変わらず私だった。
だめだ。
今これ以上迷惑はかけられない。
今度こそ隠さなければ。
「ごめんなさい」
どうしたらいい
「ごめんなさい」
どうしたらいいの
考えている間にも苦しさは酷くなって体が痺れていく。
「あ、……るい…ご、ごめん!言い過ぎた…あの、ほんと、ごめん」
またも突然に柚が言う。
なんで、どうしてあやまるの。
私がわるいのに。
頭のなかがごちゃごちゃだ。
「…柚はわるくない。わたしのせい」
「る、泪、ちがうのっ!私、言いすぎてっ…」
だめ、これ以上はむり。
くるしい。
涙がでちゃう。
「…ひとりに、して……」
「泪、」
「看病してくれて、ありがとう」
荒れそうになる呼吸をどうにか堪えて声を出す。
私は兎に角柚に見られるわけにはいかなかった。
どうせもう拒絶されたのだ。
今更言い方がきついなんて考えても何も変わらない。
どうにかそう思い込ませて。
「帰るときは、気を付けてね」
「る、」
顔をそらせていても柚が戸惑ったのがわかる。
けれどそれがどうしてなのかよく分からない。
私らしくない言葉に言い方に驚いたのか若しくは私を拒絶したわけでは、ないのか……。
いいや、それは私の願い。
もうそんなこと望んではいけない。
私は顔を背け続ける。
「……わ、分かったよ。…帰るね」
私は顔を背けたまま柚が帰る支度をする音を聞く。
「……じゃあね…」
「…………うん」
柚が出ていって静まり返った部屋のなか。
私はひたすら涙を拭って嗚咽を堪えながら泣き続けた。