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泣き虫の羽化  作者: みりん
出逢い
4/21

教科書

 授業、読書、授業、読書、授業、読書……




な、なんだか笑えてくる。


自分的には凄く充実しているのだけど小学4年生でこんなので将来大丈夫だろうか。


妙に落ち着いて考えてしまう。

きっと幼い子供のように泣き虫な分、思考が少し先に行ってしまうんだ。

そう考えると正にその通りな気がした。


本を開きながら、けれど読まずに考え事をしていると周囲が動き出した。


次の授業が始まるようだ。


私も本を片付けて授業の準備をする。

今回は算数。

そんなに得意じゃないけど結構好きな教科。








 後二分くらいかな


私は普段俯いたままの顔をあげて窓の外を眺める。

窓は閉じられているけれど風が感じられる気がする。




席替えをして窓側になって本当に良かった。



 あの席替えからもう一ヶ月。

特に大きな、例えば誰かと友達になったなんていう変化はないけれどそれでも私にとったら十分に大きな変化があった。


理由としては、窓側の席になったのが大きいだろう。


他人との必要以上な関わりを持ちたくなくてひたすらに俯いていた私はすっかり沈んでしまっていた。

下ばかり向いていると思考も暗くなる一方でそのうち不登校になってしまうのではないかと自分で考え出してしまうほどに。


ところが窓側の席になった途端、私は外から入ってくる光が気になって顔を上げずにはいられなくなった。



『わぁっ!』



初めて顔を上げて窓の外を見たとき、ため息が出てしまった。


きっとあの時の私は目を真ん丸にして口をぽかんと開けて何ともみっともない顔をしていたに違いない。

それくらいにびっくりした。


その日は晴れていて、蒼い空にぽつぽつと雲が浮かんでいた。

花が散ってしまった桜の木に生い茂る青々とした若い葉が太陽の光を浴びて輝いていて。

その輝きが魅せる透き通った浅葱色が空気に染み渡って幻想的な世界をつくりあげていた。


ちらりと教室内に目を向けると、みんな喋っていたりしてこの景色が見えていないようだった。

窓の外を眺めている人も2、3人いたけれど誰一人気付いていない。


まるで本当に窓の外が別の世界に繋がっているようだった。




何で誰も気付かないんだろう

こんなに綺麗なのに

勿体ないなぁ


だけど、それって

これをみられるのは私だけってことかな


私だけ知ってる

私にだけ見える




私だけのひみつ






いつの間にかこころが少し明るくなって、わくわくしていた。



こんな素敵なものをみないまま俯いているなんて勿体ない!



その日から私はふとしたときに顔を上げて窓の外を眺めるようになった。


天気が変わると窓の外の世界も変わる。

時間が変わっただけでも、昨日が今日、今日が明日になっただけでも。


顔を上げるようになるとこころが軽くなった。

あれ(・・)がいつ起こるのかと、学校で身体を震わせることが少しだけ、少なくなった。








「うぇっ!?」


 不意に誰かに左肩をつつかれた。

物思いにふけっていた私は椅子をガタンッと鳴らして飛び上がった。

びくびくと回りを見ると授業直前なのが幸いして周りの椅子の音に紛れたのか、私を振り向く人はいなかった。


あっ、そうだ

ひだりのひと


つつかれたことを思い出して俯きながら恐る恐る左をみやる。


隣の席にいたのは女の子だった。

周りを見ないようにしていた私はこの時初めて隣が女の子だと知った。

元々机は二人一組になるように隣同士ぴったりとくっつけてあると言うのに!


逆に私、すごいとおもう



「次って算数だよね。教科書忘れてさぁ。ごめん!授業のとき見して!」


女の子はそう言ってきた。

俯いているせいで視界を塞いでくる髪の毛の間から見える彼女は、顔の前で手を合わせて御茶目に笑っていた。

何でわざわざ右側の私にしたの……

そう思って女の子の左隣の子を見ると、

…男の子だ。

私は諦めて(左隣の子が女の子であったとしても私は断れなかっただろう)頷いた。

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