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泣き虫の羽化  作者: みりん
変わるその先
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泣き虫の鼓翼

 「あのさ泪、いつ聞こうか迷ってたんだけど…」

「ん?なぁに?」


上から降ってきた柚の声に首をかしげる。

柚は私の前の席の子の椅子を引いて私の方を向いて座った。


「あの日、私がストーカーにつけられた日のことなんだけど…。泪はどうして私の居場所がわかったの?」


疑問を浮かべた柚に私はどう説明したものかと苦笑する。


二人で寄り道したりお話したりしたくて朝早く登校する私たちの他に人はいない。

そんな教室は何処か特別な場所に思えて好きだ。

昔見つけた窓の外の特別な世界と二人の特別な時間が一度に味わうことが出来るこの場所は今の私のお気に入りのひとつ。

あの頃にはあんなに怖いばかりだった学校が今では柚と一緒にいられる大切な場所になった。




「えーっと、実は…その事なんだけど…」


少し恥ずかしくてうずうずしてしまう。

恐怖は無い。

柚は信じてくれる、受け入れてくれると思っているから信じているから怖くない。


「あのとき柚の声が聞こえたの。私の気持ちに混じって柚の気持ちが流れてきたの」



「なっ、なにそれっ!?うそっ!?すごい!……っていうか、はずかしい…」


柚が怖がっていないことが私にはわかった。

信じていたけれどほっとしつつ、何が恥ずかしいのかと不思議に思う。



考えていると柚が机に身を乗り出して顔を真っ赤にしながら口を開いた。


「も、もしかして……普段も聞こえてたりする…?」


いやなんて、本当に少しも思っていなくて、けれど柚の口から出てきた疑問に私は笑ってしまった。


「な、まさかっ!?ちょ、えっ、そんな!」


私に心が全部見られていると思って恥ずかしがっているのだ。


「っ、ふふっふはっ…だ、大丈夫だよ、全部は聞こえてないから」


「よ、よかっ……ってえっ?ぜんぶは、って」


ほっとしたのも束の間、慌てる柚が面白くて可愛くてしょうがない。


「私が柚にびっくりさせられたときに、柚が『どうだっ!!』って嬉しそうにしてるのとか…」


「うえぇっ!?そっ、それは、だってあの、そのっ……」



ふははっ!


堪えきれずに笑うと柚が真っ赤になったまま、もうっ!、と怒ってくる。


「る、泪ばっかりずるいよ!あ、でも、あの日は本当にありがとう……来てくれて本当に嬉しかった。わ、私の声が泪に聞こえたのはすごく、うれしい。ありがとう。で、でも、それとこれはっ!!」


「でもさ、ずるいっていうけど、柚って私の考えてること大体分かってるよね」


「まあ、そうだけど?もちろん……あ、」


返事をして、はたと気がついた柚は口元に手を当てて目を真ん丸にした。


「そゆこと」


私が笑って言うと柚は悔しそうに、


「そういうことね」


言った。


「でも!私のは曖昧に、そうかなーって思う程度で…」

「私のはいつもじゃないもん。たまにしか分からないもん」



じーっとふたりで見つめあう。


「っ、くふっ」

「あはっ、はっ」


ふたり同時に笑いだした。

腹筋が痛くて涙がでる。


「「お互い様ね!!」」


可笑しくて、楽しくて、嬉しくて、ふたりでたくさん笑いあう。


最後のほうはふたりして、ヒーヒー言っていた。






―――ガララッ


「おはよー!今日も早いね~ふたり。……ん?あれ?どした?」


お腹を押さえていたところでクラスメートが入ってきた。


「ううんっ、ちょっと、ふっ、可笑しくてっ!!」

「そっ、そのうち、おさまるから、くふっ…」


力尽きてふたりで机に伏しながらそう言う。


クラスメートは鞄を置くと何処か満足げに教室から出ていった。







 「ふぃー。疲れたぁ」


 笑いもおさまってすっきりしたところで椅子をもとに戻して柚が立ち上がる。


「何だったんだろう、さっきの」


出ていったクラスメートを思い浮かべて柚に聞いてみると分からないと首をかしげた。


「そろそろみんな来るだろうし、私はクラス戻るよ」


学年が変わって違うクラスになった柚はそう言って出ていく。


「うん。じゃあ昼休みね、バイバイ、柚」


「うん、バイバイ、泪」



手を振りあって、柚の後ろ姿を送ると教室には私一人になった。


あの日柚の心の声が聞こえてから、柚が近くに感じられるようになった。

そのおかげか、私が少し変われたからなのか、前までみたいに離れるとすぐ不安になるということがなくなった。



「おはよー!二度目だけどー」

「あっ、里奈ちゃん、おはよう!どこ言ってたの?」


柚が出ていってから五分位経った頃にさっき一度教室にきたクラスメートが戻ってきた。


「ん~?気にしなくていいよ!うんうん」


やはり何処か満足げなクラスメートの里奈ちゃんに首をかしげながらもまあいいかとチャイムまでぼんやりと過ごすことにした。




 柚の言葉で私らしく変わろうと決意してから、学校で視野を広げるように心掛けてみると意外とクラスメートの私に対する目はきつくなかった。

それどころか何処か生暖かいものがあるような気もしてくる。


私がいつまでも怖がっていたから分からなかったことがたくさんあった。

怖がって接しようとしなかったから生まれてしまう誤解もあるのだと知ることができた。



それに、家族との関わりかたも、両親の気持ちも分かるようになってきた。


それもこれも皆、柚がいてくれるお陰だ。





柚や家族や沢山の人たちに支えられながら生きていると知ることかできた私は、もっと変わりたいと思うようになった。


変わっていくということは、たくさん、それこそ苦しいこともあるのだろう。


だけど間違ったりしない。

間違った苦しみ方はしない。


いまだ泣き虫でぬいぐるみを抱えていたりするけれど他にも変えられるところがあることを私はしっている。


「これからは、私も支えられるようになりたい。ゆっくり、ちゃんと変わっていきたいな」


小さく声に出してみると自身の声が背中を押してくれる。

たとえ周りの音に掻き消されようとも心にはしっかり届く。




「おはようございます。はーい!ホームルーム始めますよ、座った座った!」


先生の声で喧騒が消えていく。


今日もまた、新しい一日がはじまる。

新しい発見と、変化の種がたくさんの。






「起立!礼!」



「「「「「おはようございます!!」」」」」


















窓の外の特別な世界で、二匹の蝶々が優雅に舞っていた。

読んでくださった皆様、ありがとうございました。


強引な終わり方のような気もしますがなんとか完結できてとてもうれしいです。





思いが通じあった親友というのはなかなか作れるものではない気がします。

友達でいたくて、機嫌を取りたくて必死に合わせようとしている内にいつしか苦しくなって怖くなっていくのは辛いです。

どこまで自分らしくいられるか、どこまで信じているか、どのくらいの距離がいいのか……。


それを考えなくても自然と分かっていったときが、本当の親友を知るときなのではないかと私は思ったりします。

それが正しいのか、そもそも正しいって何なのか私には分からないですが、私もいつかそれを知るときが来るといいなと、思っています。

私も変わっていけたらなと、思っています。





今まで私の思いとこの物語に触れてくださった皆様へ


本当にありがとうございました。

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