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泣き虫の羽化  作者: みりん
変わりたくて
16/21

伝えたいこと

お待たせしました~。

ちょっと私ののスマホが言うこと聞かなくってですね、遅れてしまいました…。


修学旅行といえば、班別研修とか自由行動ですかね。

 二日目の朝。

目が覚めて重たい身体を起こして障子を開けると、心とは裏腹に澄んだ明るい空が広がっていた。


「ん~っ」


ぬいぐるみを膝にのせて気晴らしにぐいぐいと背伸びをしていると部屋の皆も起き出した。


「んぁ、あれぇ、桐原さん早いねぇ…」

「おはよぅ、泪ちゃん…ふあぁ~」

「よく寝たー」

「んぬぅ…まだ、………」

「あー、絵里がまだ寝てるぞ!」


皆思い思いに起き出して布団の上をごろごろ、掛け布団を取り合ったりしだしたと思えば、なかなか起きない同室の絵里さんを囲んで何やら話始める。


「泪ちゃんも、ほらこっち来て、一緒に」


腕を引かれ訳もわからず側によると、ほらこうやって…、と絵里を擽りだした。


「「「「おきろーっ!!」」」」


「っうぁ、!?ひゃぁあっ!?」


驚いて飛び起きた絵里にみんなで追いかれられる。


「あははっ」


一緒に笑って、しかしそれが柚と一緒ではないことがどうしても頭から離れなかった。





 先生とガイドさんに連れられて、ぞろぞろと長い列を作って色々な場所を見学している間ずっと頭の中は柚のことばかり。

いつもならきっと目を輝かせるだろうものもくすんで目に留まらない。


このままじゃ駄目だ

全然楽しめてない

どうしたら楽しめるだろう


「いつか仲直り出来たときに…お土産話みたいなの…したいな……」



そんなのはいつになるか分からないけれど、話している様子を思い浮かべるとワクワクしてくる。

だって私は諦めてなんかいない。

今日の自由行動は諦めても、一生を諦めたわけではないから。

伝えることを諦めたわけではないから。



「……ぁ、いろ…すごい………」



改めて回りを見ると先程までよりずっと色鮮やかにみえた。


「泪ちゃん?何か言った?」


隣を歩くクラスメイトが首をかしげて目線をあわせてきた。


「ううん、なにも」


それに小さく返す。


すでに見学を楽しむというスイッチが入っていて、皆が見ていないところまで見に行きたい衝動に駆られてうずうずしていた。






 班別行動も終え、沢山のお店が立ち並ぶ通りで解散して自由行動が始まった。


早速クラスメイトと歩き回る。

ひとりになったらどうしようかと心配していたけれど、何度か話したことがある人に一緒に行っていいかと声をかけると仲間に入れてくれた。


「あれ、柚と一緒じゃないの?」

「泪ちゃんと柚ちゃん、最近何かあった?」


ふと思い出したように言われて目が泳ぐ。


「う、…ええと…その、ちょっと喧嘩みたいなの…しちゃったの…」


「えぇ!?」

「すごく仲良しだよね、びっくり。でもそういうこともあるよ」

「仲直りできるといいね。なんか相談とかあったら聞くよ?」

「どうしたんだろうってみんなでって言うかもうクラスのほとんどが心配してたんだよ」

「うんうん。なんかすごく、いつも以上に目立ってたし。二人とも苦しそうだから、ねぇ」

「そうそう」



私の知らない間に柚と私の様子がおかしいことにクラスから心配されていたらしい。

その規模に驚きつつ、そんなに目立っていたのかと恥ずかしくなる。

それにみんなが心配してくれているのが嬉恥ずかしい。

心配の内容は何にせよ、それだけ私はクラスに馴染めているんだ。

これも柚がいてくれたから。


あぁ、また伝えたいことが増えた


「あのね、柚に、お土産買いたいの。…お店色々みたいんだけど……その、どんなのがいいかとか…アドバイスみたいなの、欲しいの。……いいかな…」


おずおずと尋ねる。

自分ひとりで探したいと思っていたけれど、多分私には難しい。

それに柚が作り出してくれたこのクラスとの関係を楽しみたくなった。

いつの間にかクラスメイトと話せるようになっていたことが嬉しい。

それが柚がいてくれたからだということがもっと嬉しいから。


「もちろん!!」

「私達も色々みるから一緒に探そ!」

「そうだ、ペアになるものとかどう?」

「ご当地もの?」



みんなが私を囲んで歩きながら一緒になって考えてくれる。


私の背が低くて威圧感が…とか思っていたのに囲まれても全然怖くない。それどころかとてもあたたかい。


「この前栞が欲しいとか言ってたような……」


一日目同室でくすぐられていた絵里がぽつりとこぼした。


「…栞?いいなぁ、私も本好きだし…ペアにできるかな…」


そういえは最近はまった小説があるとか言っていたような気がする。

今度貸してくれるって言っていた。

すっかり忘れていた。


思い出せたことが嬉しくてふにゃっと笑ってしまった。


「「「「「 !!!!! 」」」」」


「そ、そうしよう!」

「可愛いのとかご当地っぽいのあるんじゃないっ!?」

「探さなきゃ!」


突然みんなが固まって、なぜか慌てているような喜んでいるような、よく分からない反応をしだした。


どうしたんだろう?


不思議に思って首をかしげると、手を引かれた。


「ほら、行くよ!」

「泪ちゃん!ぼけっとしててどうすんの!」


「え、ぼ、ぼけっ…」


わいわいと五人に囲まれて歩きだした。



 みんなとまわる大阪の街は魅力的なものがたくさんでわくわくした。

お土産屋さんだけでなく食べ物屋さんも少し覗いたりして1つ買ってみんなで分けて食べたりもした。







 ホテルに到着し部屋に入ると買ったばかりの栞を取り出す。

自分用のと、包んでもらった柚に渡す分。

みんなが一緒に探してくれたおかげでとっても素敵な栞を見つけることが出来た。

鞄の中からもうひとつ買ったお便りセットを取り出す。

これは柚に栞を渡すときに一緒に手紙も渡そうと思ったから。

きっと慌てて話したいことの半分も言えないんじゃないかと思って。


今日泊まるホテルは昨日の旅館と違って2人1部屋で、班ごとで割り振りがされている。班が違う柚が泊まる部屋はちょうど向にある。


早く渡したい

いつ渡そうか…

受け取ってもらえるかな


そんなことを考えながら便箋に文字を綴っていく。


書いているうちにあれ、と思考が止まった。


「これってずるいのかな………」


拒絶されたのに手紙で『私はこう思ってます!』って伝えるだけ伝えるのって図々しい、かな。

でも伝えたいし、勘違いされたままとかしたままとか嫌だ。


「これもチャンス?……受け取ってもらえたら、そのとき話ができる…聞ける…」


あぁ…話したい


ぐるぐると考えながら便箋に目を落とす。

そこには自分の思いがたくさん綴ってある。


だけどなんだが物足りない。


一言で伝えたい


そしてゆっくり話がしたいな




そう思って書いたばかりの便箋を折り畳んで仕舞った。

一応とっておかないとうまく話せなかったら困るから。




そしてもう一枚取り出してあの一言を書いた。

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