伝えたいのに
柚のことばかり考えている泪はもちろん、私自身も修学旅行の内容をよく覚えてなかったりする…。
というわけで短いです。
修学旅行が始まった。
あの日、修学旅行に全てを賭けようと思ってから私は少しでも体調が万全に近い状態で修学旅行に挑むため、ご飯をなるべく残さないようにしたり、柄になくポジティブに生活するように心掛けてきた。
“てきた”と言ってもここ三日程のことだけれど。
それでも希望が見えたおかげか幾分か体調は良くなった。
前もって決めていた通りバスの座席は柚と隣。
けれど早速そんな希望に影が射す。
当然と言えば当然なのだけれど、柚は隣に座っていても他の人と話し出した。
声をかけようと思っても何と言えばいいのか分からない。
そのうえ柚の心が全く分からなくて怖い。
今までなんとなく極当たり前に感じとっていた柚の心が全く感じられなくなっていた。
窓側の座席を選んだことが幸いして外を眺めていることが出来たが、逆にそのことが弱い私の逃げ道になってしまった。
外を見る振りをして窓に映る柚を見ると、時折私を見てうつむいていた。
そうこうしているうちに時間が過ぎて、結局1日目は会社見学で1日中離れることになってバスを出てからは話す機会すら無かった。
「…ゆず……」
呟く度に胸がちくり、と痛む。
旅館に到着し夕食もお風呂も終え独り廊下を歩いていると向かいから柚が歩いてきた。
「……柚…」
「あ、…泪」
私たちは俯いて互いに目を逸らした。
柚も俯いたということは柚は私のことを本当に拒絶したわけでは無いのではないか…、そんな期待を込めて、
「あの、柚、明日の自由行動……」
一緒に行こう?
そう言おうと顔をあげると、
「明日は」
そこには
「明日は、他の子と約束があるの」
私を拒絶する柚がいた。
「そっかぁ」
私は必死になって明るく言った。
不自然だったかも、しれない…くらいに。
そうだよね、私の思い上がりだよね
こんなの面倒くさいよね
もう、わたし、これでいいや
「じゃあ、柚の好きそうなもの見つけたらお土産に買ってくる」
静かだった。
寂しかった。
柚は少し驚いたように目を開いた。
「明日はいっぱい楽しもうね」
楽しまなくちゃ。
「せっかくの修学旅行なんだもん」
じゃあ、そろそろ、お休み。
そう言って私は部屋に戻った。
柚は何も言わなかった。
「るい………」
ひとり廊下に残った柚は泪の入っていった部屋を見つめていた。
「ごめん……泪…」
柚は先生が言っていた“時”というのが今だったのかと、いたたまれずに断ったことを後悔していた。
「泪は、…つよいなぁ…」
後悔してばかりの自分が腑甲斐ない。
そう思うばかりで柚は一歩を踏み出せないでいた。
「ごめん」
暗く長い廊下は二人を近づけまいとするようで手を伸ばせば硬く厚く冷たい壁が高く広く聳え立っているようだった。
「ごめん…」
その声は泪に届くことなく虚しく闇に消えた。