裸体談話会
タグで勘の良い方は分かってしまうかもしれませんが、暇な方はどうぞ。
本作品は全てフィクションです。
二人の男は談話していた。
そこにはその二人の男以外は、誰一人いなかった。
別に話題は特に何でも良かったし、それが特別重要な訳でもなかった。
「なぁスミス」
「なんだいテッド」
テッドは言った。
「日本の銭湯について、どう思う?」
「どう思う? と聞かれてもね……まあ……湯船に浸かる事はいい事ではないだろうか」
スミスは少し困った表情を見せた。確かに、突然銭湯の話題を出されても、何をどう答えればいいのかが分かるはずもない。
「そうか、僕はねスミス、いくら男同志であろうとも、他人に裸体を晒すというのは、よくないんじゃないか、と思うんだ」
「ほう、テッド、それは何故だい」
テッドは答えた。
「裸というのはね、言わば急所を晒しているようなもので、弱点を他人に見せるのは、あまりいい事ではないと、思うんだよ」
「なるほどテッド、しかし、日本には『裸の付き合い』という言葉がある用に、お互いの弱点を見せ合って和解しようという考えも、否定は出来ないのではないだろうか?」
スミスはそう言った。そしてテッドは頷く。
「確かに、そんな行為を動物が行っているのを、昔テレビで見たような気がするよ。でもねスミス、それでも誰だか一体分からない人間の前では、やはり裸でいるべきではないんじゃないだろうか? スミス、君が言ったその言葉は、お互いに理解のしあえる仲だからこその事ではないのだろうか?」
「一理あるかもしれないね、もしかしたらただ日本が平和なだけかもしれないね。でも、それならテッド、君は裸でいる事がこれまで以上に規制される事になるんだぞ。法律以外にも、自分の身を守るという事自体に常に精神をおかなくてはならなくなるんだぞ。悪いがテッド、僕には無理だ。そんな事は出来ない」
テッドは少し微妙な表情をした。
「そうかいスミス、ならば逆に考えてみよう。裸でいていい条件とは、何かだ」
「なかなか深い話になってきたね。そうだ、よく考えてみれば、本来の人間の姿は裸なのに、今の世の中は服を着ている時間の方が長いね」
「ああ、服も人間の一部って事さ、スミス」
「服を脱ぐ機会なんて、まず無いのかもしれないね」
テッドは言った。
「いや、ならばだスミス。どのような条件ならば、裸でいる事を受け入れられるかい?」
スミスは考えた。
「そうだね、とりあえず法には触れたくないものだよ。ならば、愛する人と行為に及ぶくらいしかないものだ」
スミスは冗談混じりに言った。
「ふむ、つまり愛する人と近くにいる場合は裸でいてもいいと?」
スミスは首を横に振った。
「それも少し違う気がするな。愛する人になら、見られても構わない、そういう事ではないだろうか」
「つまり、人間が裸になる機会は本当に僅かだという事だね」
「そうだテッド。僕には着替えるときか、体を洗うとき以外考えられないよ」
「愛する人と行為に及ぶとき、もだろ? スミス」
「ああ、そうだった」
二人は軽く笑いあった。
「まあ、確かに裸は愛を告げるにはとても有効な手ではある」
スミスは言った。
「ああ、むしろそれ自体が愛の告白と言ってもいいだろう」
テッドは言った。
二人の会話は一度止み、数分の時間が流れた。
一息ついて、口を開いたのはスミスだった。
「ところでテッド」
「なんだいスミス」
「どうして君は裸なんだい?」
「……スミス、あ」
テッドが口を開くとほぼ同時に、すかさずスミスは言った。
「服を着てくれ、テッド」
お読みいただきありがとうございました。