バカと美女
「ザシュ、ザシュ」
僅かに木洩れ陽が差す森の中、オレはゴブリン達の間を駆け抜ける。ゴブリン達は動きを止めその目は虚空を睨む。
「カスッ」
指を鳴らすオレ、この際音が出ないのは気にしない。
「「「グギャァ!」」」
と言いながらゴブリン達は膝から………崩れ落ちずに、
「ゲギャ?」と言う風に斬られた筈のところを確認し傷が無いのがわかると再びオレに襲い掛かってくる。
「やっぱりかぃ!クソっ!こうなったらあれしかねぇ。たっ、たすけてぇ。ナタえもん!!」
オレは近くで休憩しているはずの仲間の下へ一直線に駆け出した。
「はぁ、はぁ、ありがと。ナタえもん!」
「バカっ!ユキヤほんともう、バカっ!役立たずなんだから、ちょっとはジッとしてて!休憩中に魔物を引っ張ってこないでよ!!」
無残にも燃えカスとなったゴブリンを尻目にナタリーは怒鳴る。
「まぁ、まぁ、イイじゃんゴブリンぐらい。怒んなって。小皺が増えるぞっ。いや、待って嘘です。ほら!えっと、笑ってる方が可愛いよ。」
ナタリーの背後から何かオーラの様なものが浮かび上がるのを見てオレは必死になって誤魔化す。
「うぅ、ユ、ユキヤはそのゴブリンから逃げてきたんでしょ!……はぁ、もういいや、」
おやおや、そんなに赤くなるまで怒るとは、優しさが足らんね。たかがゴブリンを10回や20回引き連れてきただけで。
カルシウム不足かい?小魚食いなさいよ。
そんな冷たい目でみても無駄よ。寧ろ御褒美よ。
「じゃぁ、とりあえず帰るよ。依頼も達成したんだし。」
「あいあ〜い。」
街に入るとオレたちは注目を集める。だって、オレたちAランク。まぁ、正確にはナタリーが人目を引いてるんだけどね。
ナタリーは美人だ。キラキラ輝く金髪に透き通るような青い瞳。顔の造形もちょっとどころではない。街ですれ違えば10人中10人が確実に振り返る。
さながらオレは黒髪黒目のモブ顏A君だ。
いいんだよ。別に男は顔じゃ無いし。度胸だし、あれ?これ女だっけ?
「ねぇ、ユキヤその格好やっぱ、辞めない?皆ジロジロ見てるし、目立つよ。そんな格好他に居ないし。もっと普通のさ、装備にしようよ。」
「ふむ。………だが、断る。」
横でがっくりとうなだれるナタリーどうやらオレの格好が注目されてるとおもったらしい。確かにオレの装備は珍しいよ。黒い服に赤いラインの入った漆黒の鎧、黒い刀身の刀の鞘は実用的でかつ、美しさがある。その上に金の刺繍が入った黒いマントだ。
特注品だぜ?トータルで金貨1000枚くらいの価値がある。日本円でやく10億だ。特に刀なんて有名な魔工が鍛えた最高傑作とまで呼ばれたものだ。
これを外せと?無理だ!最高装備だろ!性能そして何よりこの色合い。
「その色合いが、問題なんだよ。真っ黒で変だよ。」
ナタリーはオレがブツブツ言っていたのが聞こえたのか、そんな訳のわからないことを言う。全くセンスの無いやつだ。装備といえば中二心くすぐるクロだろ。
君は普通すぎるよ、ワトソン君、茶色の革ズボンにワンポイントで青が入った革鎧、節くれだった杖、その上に灰色マントとは普通すぎないかね。性能がいいのは知ってるんだけどな。
そんなこんないう内にギルドの窓口に討伐証拠を提出する。
「はい。グリフォンの討伐完了、確かに確認しました。こちらは報酬の金貨50枚です。素材はどうなさいますか?」
オレは「あっ、買取お願いします。」と受付のお姉さんの胸に目をやりながら、革や牙を取り出し渡す。ちょっと、ナタリーちゃん!痛い。オレの足踏んでるから!
「おいおい!ナタリー、いい加減そんな役立たずほっといて、俺達と組もうぜ。」
後ろから声を掛けてきたヤンキーは、誰だったか?確かこの街のもう1人のAランクだった気がする。
「やだって言ってんだろ。しつこいのよ、あんた。こっち来んな。」
「そう、邪見にすんなって、お前もその役立たずに飽き飽きしてんだろ。お前の後ろに引っ付いてレベルの上がっただけの攻撃力もない木偶の坊によ。」
いや、確かに敵を惹きつける撹乱しかやってないけどね。なにも本人の前で言わなくてもいいんじゃない?
凄い怒気をはらみながらナタリーが杖を構える。
「黙れよ。あんた焼き殺してやろうかっ?」
ヤンキーも多少怯んだものの、流石Aクラス悪い笑みを浮かべ言い放つ。
「おっ!?やんのかい?なんどでも言うぜ、そこのパッとしない役立たずなんて捨てて俺と来い。」
「………そうか、そんなに死にたいか。なら私が消炭にしてやる!」
これはマズイ、周りの人達もこの剣呑な空気に威圧され隠れている。そもそもギルド内での乱闘は禁止されてるはず。
コラッ!そこに隠れているギルド員のおっさん!仕事ですよ!ゴリラとナタリーが暴れるとエライことなりますよ!
「まぁ、まぁ、落ち着いて。ね、ナタリーも落ち着いて。これでも食べてなさい。あんたも落ち着け。このままだと資格を取り上げられるぞ。」
仕事をしないギルド員のお姉さんに変わりナタリーを落ち着かせようと先ほど買った小魚をナタリーの口に放り込む。
「若いツバメに慰めて貰って嬉しそうでちゅねぇ、天下のナタリー様も落ちたもんだ。」
ヤンキーが再びナタリーを煽る。
「ユキヤ離して、こいつやっぱり燃やす。殺してやる。」
落ち着き始めたナタリーが再びキレる。
「ほう、なら勝負だ。だが、俺だって資格剥奪は辛い。だから決闘にしよう。負けた方が一つなんでもいうことを聞く。そうだな、俺が勝ったらお前は俺の奴隷だ。条件はここに書いてある。サインしな。」
ヤンキーが契約書を取り出した。準備周到な奴めこれを狙ったな。
ナタリーは怒りのあまり内容も見ずオレの静止も効かずにサインをして
「私はあんたにして欲しいことはない。そのまま焼き殺す。」
と言い放ちギルドを出て行く。
「おお、おお、怖え怖え。」
ヤンキーは、馬鹿にしたように肩を竦め自分もサインをして、隠れているギルド員のお姉さんに
「じゃぁ、これ頼むな。日時は明日の正午、場所はギルドの闘技場だ。逃げんなよって伝えときな。」
と、契約書をギルドに預けた。
「おい、ヤンキー、ちょっと待て!」
オレはヤンキーを呼び止める………。
その日の宿での夜。
「ナタリー。なんであんな決闘を受けたんだ?明らかに怪しいだろう。」
「だって…….、あいつが……。」
「馬鹿にされて腹に立つのは分かるよ。オレもそうだし。でも、決闘まではやり過ぎだ。万が一負けたら奴隷にされるんだぞ。」
決闘は合法化された私闘だ。元々は騎士のしきたりの流れをくむもので、正式な立会人も付く、敗者は勝者の要求を一つ飲まなくてはならない。
「心配してくれるの?」
「当たり前だろ?これまで一緒にやってきたんだ。心配するさ。」
「そっか、えへへっ。ありがとう。でも、大丈夫!絶対負けないから。」
「はぁ、ったく、仕方ねぇな。負けるんじゃないぞ。」
「うん!しっかり燃やしつくす。」
「いや、ナタリーさん。それは止めとこう。一応あの人達も冒険者だし。半焼けで止めとこう。」
「えぇ〜、やだ。」
……大丈夫だよね?殺したりしないよね?明らかナタリーさんのが強いんだからイジメちゃだめよ?なんかヤンキー可哀想になってきた。
などと考えながら、ドアに手をかける。
ナタリーのちょっと棘の入った声が聞こえる。
「ユキヤどこ行くの?最近夜良く出かけるよね。」
「えっ、いや、ちょっとお酒でもと思いまして。」
「ホントに?そっか、私てっきり娼館かと思っちゃったよ。こんな日に行くはずないのにね。」
「ばっ、バカだなぁ、も、もちのロンよ。娼館ってなによ?オレ知らない。」
やっべぇー、これ知ってるよ。ナタリーさん。最近週2で俺がミリーちゃん所に通ってるの知ってるよ。
そんな馬鹿な?!いつバレた?!
完全に気配を消して出かけたはずだ。尾行もなかった。しかし、オレはあきらめん!マイエンジェル!待っててね。
「だよね。最近ねミリーちゃんって子が
、「最近よく来る黒髪黒目の客がマジ、キモイの。変な事まで求めてくるしさぁ、変態かってぇの。」って言ってたから気になっちゃってね。可哀想だよねミリーちゃん。……あれ?ユキヤどうしたの?座りこんで?」
「………い、いや、なんでもない。ちょっと今日はお腹痛くなってきたから。お酒飲むの止めとこかな。」
「そう?大丈夫?お薬飲む?でね、ミリーちゃんもっとヒドイこと言うんだよ。」
「いや、大丈夫。でも、もう寝るわ。話聞けないけどゴメンな。お休み。」
そのまま、ナタリーの横の自分ベットに入り枕を濡らす。み、ミリーちゃんあんなに好きと言ってくれたのに。もうオレ商売女なんて信じない。グスッ。
「………ばかっ。」
夢と現実の間でナタリーが何かを言った気がした。
翌日正午、冒険者ギルド闘技場の石でできた四角の舞台の上でナタリーとヤンキーと4人の取り巻きが睨みあう。
「へへっ、逃げなかったみたいだな。」
「馬鹿じゃない?あんたみたいな雑魚相手にどうして逃げなきゃ駄目なの?」
「くっ、その鼻スグにへし折ってやる。おい、ギルド員始めるぞ。」
「はっ、はい、それでは条件を確認させて頂きます。勝者要求がヤンキー様はナタリー様を奴隷にする事。ナタリー様は……ヤンキー様を消炭にすること。双方間違いはないですか?」
「「ない。(わ)」」
こう見たらすげー決闘だな。勝者要求がどちらも凄いこと言ってるし、まぁ、契約書にサインした以上それが絶対なんだけどな。
てか、ナタリーさんマジで消炭にするんですね。怖えぇ、絶対怒らせないでおこう。
「では、続いて戦闘条件です。ナタリー様は一名、ヤンキー様は5名での対戦となります。降参は双方の同意においてのみ。他に特別条件はなしです。」
オレは慌てて口を挟む「おいおい、待てよ5対1ってなんだ?卑怯だろ?」
「外野はウルせぇんだよ!ちゃんと契約書にも書いてある。確認しなかった。ナタリーが悪りぃんだろ。」
クッ、ヤンキーめ、だからあの時さっさとギルド員に渡したのか。オレは当事者ではないから立会人に契約書を見せて貰うことができない。
どっちにせよナタリーがサインした時点で双方の同意がなければ条件を変更できないが。
「ユキヤ、大丈夫見てて。」
「……………分かった。気を付けろよ。」
普通に闘えばこれでも、まだナタリーが負けることはないだろう。しかし、あのヤンキーがこのまま普通に決闘するとは思えない。
「それでは、始め!!」
立会人の掛け声とともにヤンキー達がナタリーに突進して行く。
ナタリーは、ヤンキー達の攻撃を躱しながら詠唱を唱える。
「ヘルファイヤ!」
うわぁー、ナタリーさんマジで全員焼く気ですね。炎系最大の魔法を唱えましたよ。
しかし、魔法は初級魔法のファイヤぐらいの小さな火が出ただけ。
ナタリーは驚愕の顔をしている。
「なっ、なんで!?!?」
「ははっ、結界魔法だよ。今この闘技場は魔法の効果を著しく低くする結界を張ってる。そういう魔道具を会場にしかけたからな。遺跡であの魔道具を見つけたときは、運命だと思ったぜ!ナタリー!!」
ナタリーの魔法をここまで減退させるとは、その魔道具はアーティファクトクラスの魔道具だろう。
それにしてもあの屑野郎っ!!正々堂々が暗黙の了解として存在する決闘でアイテムを使いそんな結界を張るとは!
契約違反ではないので、反則ではないがとても褒められた行為ではなが、魔法使い相手に正々堂々とはとても言えない。
結界を壊してやりたいが、見物人は一切の試合に影響する行為を禁止される。
アドバイスも声援も禁止だ。
ナタリーはそれでも賢明に攻撃を躱すが、Aクラスパーティーが相手では厳しかったのだろう。手下Aに捕まり脇の下から手を入れられ抑えられた。
その後は、酷かったボコボコに殴られ息も耐えだえだ。
「ナタリーっ!降参しろ!お前はもう勝てねぇよ‼」
そう挑発的に笑いナタリーの顎を持ち上げるヤンキーに対して、ナタリーはヘルファイアで作った火の玉をヤンキーの顔にぶつけた。
「死ね。」
「上等だ、後からキッチリ教育してやる。」
ヤンキーはとどめとして、ナタリーの顔を殴りつけた。
「ユキヤ………、ごめんね。」
ナタリーはそう言ってオレに手を伸ばし倒れ込む。
「勝負あり。勝者ヤンキー様。」
立会人が苦い顔で終了をつげる。すぐにオレと待機していた治療師がナタリーに駆けつける。
「だっ、大丈夫かナタリー?!」
「君離れて!っっ!これはヒドイな。」
腕の良い治療師であったようで、ナタリーの傷はみるみる治っていくが、意識は戻らない。
「おい、役立たず!オレの奴隷から離れて貰おうか。そいつはオレの所有物だ。きっちり教育しといてやるよ。」
ヤンキーがあざ笑うかの様に声をだす。
その下卑たる声に怒り狂いそうになるが、深く一度深呼吸をしヤンキーに告げる。
「では、続いてオレとの決闘を始めようか。」
そう、オレはナタリーが帰ったあとコイツに決闘を申し込んだのだ。勝者要求はお互い金貨1000枚。条件はナタリーと一緒。ヤンキーは金貨1000枚に目が眩んだのか、ナタリーの前でオレをボコボコにして、さらにナタリーの心を折ろうとしたのかは知らないが二つ返事で了承した。
「けっ、ナタリーの前でボコボコにしてやろうと思ったのによ。まぁ、目を覚ましたナタリーの前に顔の腫れ上がったお前を見せるのも面白そうだ。」
「それでは、両者、勝者要求は共に金貨1000枚。戦闘条件は先ほどと同様。間違いありませんか?」
「「ない」」
「それでは、始め」
「うぉりゃあ!」
ヤンキーの手下どもがいっせいに飛びかかってくる。右から順にABCDだ。
俺は1番右から斬りかかってきた手下Aの攻撃を右上に飛び躱し、上半身を捻り右パンチを上から叩きつける。そのまま空中で上半身に遅れて回ってくる右足で隣の手下Bを蹴り倒し、そのままもう半回転して手下CDをまとめて左足で蹴飛ばす。
「ぜぁ!」
ヤンキーがすかさず攻撃を繰り出す。
ザンッという音がなりオレのローブの橋が切り裂かれる。
「なかなか強えじゃねぇか、ナタリーにくっつき回ってたおかげか?」
「お前の仲間は弱ぇな。ホントにAランクか?ゴブリンのほうがまだ強いぞ。」
「はっ、そいつ等はBランクだ。俺がいるからAランクパーティーなんだよ。それにその程度じゃ俺には勝てねぇぞ!」
そういいながら斧で斬り掛かってくる。
確かにナタリーの時と違い武器を使ってくるAランク冒険者に素手で勝つのは無理だ。
オレはヤンキーの攻撃を避けながら刀に手をかける。
「ははっ、お前の武器での攻撃でダメージが通らないのはバレてんだよ!さっさと死ねボケが!」
「誰がこれを使うっていった?」
斬り掛かってきたヤンキーにオレはそう言って、刀を投げ捨てアイテムボックスから武器をだす。それは只々でかい鉄の塊、普通の鉄の棍棒の2倍はあるサイズだ。
「ガキィン、」
大きな音をたて鉄棍がヤンキーの斧を受け止める。
「なっ、そんな重量の武器でオレの動きについてくるのか!?」
俺は、鉄棍ビュンビュン振り回しながら
「ゴチャゴチャうるせぇな、オレは怒ってんだよ。ナタリーをあんなにしやがって!お前はグチャグチャにして殺してやる!!」
「ふっ、ふん!お前の攻撃にダメーry、ぎやぁぁ!!な、なんで?」
「うるせぇって言ってんだろ。」
ヤンキーの右足をへし折った。
そのまま動けないヤンキーの左足をへし折り左手もへし折った。
そのまま頭を砕こうと鉄棍を持ち上げる。
「やっ、やめ、降参だ。」
「お前はコロス。さっきそう言ったろ!」
「なんでもする!なんでもするから命は助けてくれ。」
ヤンキーが、懇願してくる。
「なら、ここで契約書を作れ、ナタリーの返還と今回使用した結界魔道具の俺への譲渡を!!」
俺は契約証書を出し余った右手で契約書を作らす。勿論これも暗黙の了解を破る行為だ。
おそらくオレもこのヤンキーもあとからその処罰をギルドからなんらかの形で受けるだろう。
しかし、今のオレには関係ない。こいつが先に汚い手でナタリーを傷つけたのだ。許しはしない。
「書いた、書いたぞ。血判も押した。」
「………よし。」
「ちょ、な、なんで、ぎゃぁぁあぁ!!」
オレは証書を確認したあとヤンキーの右腕を潰して降参を受け入れた。
「しょ、勝者ユキヤ様。」
木漏れ日が差し込む森の中オレはゴブリン達の間を駆け抜ける。
ゴブリン達はその場に停止するその目は虚空を睨む。
「カスッ」
オレが指を鳴らす。相変わらず絶好調だ。
「「「グギャァ!」」」
と言いながらゴブリン達は膝から………崩れ落ちずに、
「ゲギャ?」と言う風に斬られた筈のところを確認し傷が無いのがわかると再びオレに襲い掛かってくる。
「く、くそぅ!やっぱりか!た、助けてぇ、ナタえもーん!!」
オレは一目散に仲間の所まで逃げかえる。
「だから!何回言わすのよ!!ユキヤ普段役立たずなんだから、ちょっとは大人しくしててよ!なんで斬れないのにゴブリンにちょっかい出すの?…………でも、私のせいだね、また降り出しに戻っちゃったね。ゴメン。」
そうオレは刃物でモノを傷つけれない。この名刀を使っても。それは初めてナタリーと出会い救った時の祝福が原因。いや、あれは呪いだ。
鈍器を使うことにおいて圧倒的な能力を持つ変わりにその他の武器でモノを傷つけられない。
解放条件は5年間一切の鈍器での戦闘を禁ずること。
「気にすんな。またやり直せばいいさ。あとカリカリすんなよ、小皺、………小魚食え。ちょっかい出すのは剣術訓練。」
やっ、やべぇ、やべぇ、灰になるとこだった。
「ねぇ、なんで、そんなに刀にこだわるの?あの鉄棍じゃだめなの?それと、ゴブリンなら手で倒せるでしょ。なんで連れてくるのよ?」
「だって、どう考えたって刀の方があんな鉄の塊よりカッコいいじゃん。倒せるよ、でも、手で倒すとゴブリンの体液を全身に浴びるからヤダ!」
「ユキヤそんな理由でゴブリン引き連れてきてたの?!あんたねぇ、私は焼却炉じゃないんだからね!………あ、あと、私は鉄棍使うユキヤもカッコいいと思うよ。」
怒鳴るナタリーに耳に手を当て「あー、あー、聞こえない。」と言っているオレに何かを言った気がした。
「なんか、言ったか?」
「う、ううん。なんでもない。じゃぁ、依頼も達成したし、帰りましょうか!」
とナタリーが言う。
「そうだな。鬱陶しい奴らも居なくなったし。でも、あれを取られたのはつらいなぁ。」
結局オレたちの処罰は決闘で使ったアーティファクト級の結界魔道具をギルドに差し出すことで決着した。
ヤンキーはオレが折った手足はバキバキになっており回復はするものの冒険者生活は不可能しかも、あまり金を持っていなかったようでオレへの金貨1000枚はギルドが立て替えギルドからの処罰の金貨500枚が加わり借金奴隷に落ちた。死ぬまで鉱山で働いても全然足りない。ギルドは損をするものの結界魔道具の代金として納得しているそうだ。手下たちは追放処分だ。
「そうだね。あれ使われると私何も出来なくなっちゃうし。でも、また守ってくれるんでしょ?」
「あ?あぁ?そんときはな。」
そんなことより、今日街に帰ったらウフフフフッと考えているオレに、
「そういえばね、娼館で働いてるマーリアちゃん。お母さんが病気で仕方なく働いてるらしいんだけど、その話聞いて私可哀想になって治療費全部立て替えちゃった。マーリアちゃんには娼館やめてゆっくり返していいよ。って言ったらすっごい喜んでくれて絶対返すって言って街を離れたんだ。良いことしたなぁ。」
な、なんですとっ!!まさか、まさかまた?
つまりなんですか?マーリアちゃんはもうあの場所にはいないと?
あんたなんばしよっとね!
「でね、マーリアちゃんが言うんだよ。「黒目黒髪の奴には気を付けろ。あいつマジ変態でキモいから」って黒目黒髪って変な人多いのかな?」
ああぁあぁっ!!やめて!それ以上わ!!ちょっとアブノーマルなの頼んだだけなんです。
マーリアちゃんだって、もうエッチなんだからって言って笑ってたんですっ。
「ふふっ、……ばーかっ。」
悶え苦しむオレの後ろでナタリーが何か言った気がした。