二話 why?
「・・・え、ちょっとまてノエラ」
どこから言えばいい、と我ながらかなり間の抜けた質問をしたと思う。
最初からでいいじゃんか俺、と自分で自分に突っ込む。まさか自分で自分に突っ込む日が来るとは予想外だった。
少しの間、うーんと考えて考え付いたようにぽん、と手を打ったノエラが奴にしては珍しくわくわくした様子で
「覚えてるところ、全部だ!」
とかいってきたものだから普段のあいつのイメージとあまりにもかけ離れていてちょっと吹いた。
夜もまだ長いしそれぐらいは大丈夫かと頭の隅で考えつつじゃあ、と話し出す。
「あれは俺がガキのころ―とはいってもまだガキなんだけどな。
まあそのころの話からだ。」
ノエラ、龍には種類がある、のは知っているな?
赤い龍、ようするに俺のようなのが紅龍。
青い龍が蒼龍、そうだな、某アニメに出てくるような緑色をしたのが土龍って奴だ。
形態は自由に変えられて、蛇みたいな長い奴―俺の生まれたところではそっちが主流だったが西のほうの国の翼があるやつにしている。
何だかんだで飛びやすいからな。
前置きはここまでだ。
あれは今から何百年ぐらいか前のこと、だったか。
俺のいた世界は龍は各地に散らばっていて、ある東のほうの国の街で生まれたんだ。
ああ、龍は人と同じで赤ん坊の見た目で生まれてくるんだ。最初から龍でも大変なんだぞ―大きい屋敷とかにに一人暮らしでも狭く感じるんだからな。
ただし、小さい羽がしっかりくっついてるけどな。
成長したら羽を出し入れできるようになる。
大抵の奴は髪の色はお前のような人間に多い黒で、目はその種類―さっき話した赤だか蒼だかの色なんだが、俺はこの通り生まれたころからこの赤眼だ。
こういうのは珍しいから龍の間でも別格の存在らしい。
しかも俺の生まれた街は龍信仰がかなり篤かった。
それはもう俺が生まれたと知った途端街の大人が群れを成して俺の実家にお祝いの品だの何だのを持ってきて大変だった、ってガキのころに愚痴られたぐらいだ。
そうやって小さいころからちやほやされて生きてきたんだが、学校ではそうもいかなかった。
むしろ子供までそうだったら俺はその街から速攻で逃げてた。気持ち悪いし。
学校で受ける陰湿ないじめ。
物隠しから始まり、陰口や待ち伏せなども普通にあった。
もともと俺の髪は切っても切っても腰ぐらいまで伸びてくるのだが、そのことについて指摘されたこともあった。そんなん俺に言われても、困るんだがなぁ・・・とか当時は暢気だったんだが。
何かこう、お前男なのに女みてーな格好してんじゃねーよ、みたいな。そんな感じだな。
そうやって数年たったあるころ、
そしてエスカレートしていったある日、俺は屋上に呼び出された。
俺の周りには数十人の男子生徒がいて、各々が包丁やらの武器を持っていた。
ごく普通の生徒。じゃあ勝てるだろう―と思ったところにそのリーダーらしき人物が掴んでる人物を見て血の気が引いた。
その人物は俺の兄だった。
兄、といえど養子で俺の家にきた人間だ。
黒い髪に人間にしては珍しい透き通った藍色の目。
華奢な体は男子生徒に羽交い絞めにされていて、顔も見るからに苦しそうだった。
そしてそれを見た瞬間、俺の理性は吹っ飛んだ。
手当たりしだいそこらへんの生徒を蹴って殴って投げて、蹴って蹴って蹴って。
後のことなんて考えずに、教師の対応なんて考えずに。
そもそも俺がこんな目にあっているのを知って知らずか見てないふりをしている教師なんざ死んでしまえ、とすら思う。
気が付いたころには兄と俺以外、立っている人間はいなかった。
緋炎、と俺に近づいてきた兄は
突然俺を抱えて「馬鹿が」と一言呟くと俺を抱えて外に放り投げた―。
騙された、と気がついたときにはもう遅く、固い床に叩き付けられていた。
あまりの衝撃に意識を手放してしまった。
だが俺は入院していて退院するのが遅かったらしい―
俺が回復して、退院したころには、本物の兄も、母も父も死んでいた。
当時国中で動き回っていた謎の組織が俺達の力を恐れ、俺ら龍を殺してしまおうと考えて俺の家に押し入り、俺の親と守ろうとかばった兄を、そして親を殺したそうだ。
なんともばかばかしいことだ。そんなことで俺の家族は死んでしまったのだから。
俺は病院にいたから事なきを得たんだが、俺は突然天涯孤独になってしまった―というわけだ。
そうなったらもう俺はこの街にいる理由も必要性もない。
だから俺は街をでて旅をすることにした。
前々から見たかったところは沢山あったし、まあいいかなってそんな理由。
ああ、ちなみにまだ続くからそこらへんは覚悟してくれ。
お前から話せって言った手前、やめろなんていわないでくれよ?