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アンデッド・スター  作者: 詣り猫


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第7話『欲動』

アーレス 魔法使い パーティー内での年長者

ドルゲン 戦士 元戦災孤児

リリカ 僧侶 聖女カイラの血をひく


⚔️ 


 リリカの両手から放出された清い魔力が『聖女の幸玉』に注がれた。するとただの丸い石だった幸玉が、徐々に白く発光し、辺りを照らしていった。


 リリカの顔にも、幸玉の光が照りつけられる。彼女は、光の中に慈悲深い温もりを感じ取っていた。本能的にそれが『聖女カイラ』の心だということが分かった。


「素晴らしい……。これが、『聖女の幸玉』の光!!」


 そう叫んだアーレスの顔面は、完全に崩壊している。見開いた両目は血走り、口角を極限まで引き上げ、歯茎を全部見せて笑っている。強欲の権化のような顔をしていた。


「さあ、リリカさん。『聖女の幸玉』をこちらへ!」


「せ……? 先生……」


 リリカの知るアーレスでは無かった。


「あんた、なんて顔をしてるんだ……」


 ドルゲンが思わず漏らした。


 アーレスは邪悪を貼り付けた顔のまま、「さあ、さあ」とリリカに迫る。


 リリカは『聖女の幸玉』を隠すように抱えたまま、後ずさりする。


「埒があきませんね……」


 アーレスが消えた。しかしその直後、リリカの目前に突然現れた。


 怯むリリカ。アーレスはお構いなしに手を伸ばし、彼女から『聖女の幸玉』をぶん取った。


「さあ、『聖女の幸玉』よ! 私の願いを聞きなさい! 今こそ世界中の人々を、私の信徒にするのです!!」


⚔️


「おい……先生。あんた今なんて!」


 ドルゲンが慌ててアーレスに聞いた。リリカも一緒に訴える。


「先生は、魔王を倒すために『聖女の幸玉』を取りに来たんじゃないんですか!」


 二人の声が空を切る。彼には、二人の声など興味がない。


「おかしい……なにも起こらないではないか……」と、アーレスは独り言のように呟いた。


「やはり、『聖女カイラ』の血筋でないと使いこなせないのか……」


 顎に手を置き、ブツブツと独り言を続けたあと、リリカの方をじろりと見た。


「リリカさん。私の願いを叶えてくれませんか?」


 そう言って、リリカの手の中に『聖女の幸玉』を押し戻した。


「あなたがこの『聖女の幸玉』を使用して、世界中の人間が、私の信徒になるように呼びかけてほしいのです」


「嫌です……」


「どうしてですか?」


「そんなの無理です!」


「先生、分かんだろ……。魔王を倒すために聖女の幸玉が必要と言われたから、リリカはあんたに協力したんだ」


 ドルゲンは沸々とした怒りを抑えながらも、アーレスに向かって感情をぶつけた。


「ドルゲンくん、私はなにも魔王を倒さないとは言っていませんよ。信徒たちを使って、魔王を倒せば良いじゃないですか」


「なにを言ってんだよ……。あんた狂ってるよ!」


 ドルゲンは唇を噛んだ。目の前には知らない男が立っている。目を血走らせ、涎を垂らしながら欲望に赴くまま行動する、ただの中年。それが今のアーレスだ。優しくて博識。そんな父親のような存在だったアーレスは、もういない。


(やる、しかないのか……)


 ドルゲンはもう、背負っている銀の斧に意識を向けるしかなくなった。


 リリカは小刻みに声を震わせながら、硬直した表情で、アーレスに詰め寄る。


「先生は言いましたよね。魔王の力を封じ込めるために、『聖女の幸玉』が必要だと」


「はい」


「だったら、どうしてですか!」


「あのねリリカさん。考えてみてください。魔王を倒すためだけに、その力を使うのはもったいないでしょう」


 アーレスはリリカの顔など見ていない。目線の先にはずっと『聖女の幸玉』がある。


「信徒を増やせば、何億人もの力で簡単に魔王を倒せますよ」


「それでは普通に生活している方まで傷ついてしまいます!」


「まあ、そうなるでしょうね。しかしそれは、世界を平和にするために必要な犠牲ですよ……」


「そんなの嫌です!」

「俺も反対だ!」


 アーレスは、大きなため息を吐いた。


「頭が堅い人たちですね……」


 そのまま彼は、面倒臭そうに説明を続ける。


「信徒が増えれば、私とパーティーを組んでいるあなたたちも幹部のポジションです。世界の上に立てるのですよ」


「そんなの望んでいません!」

「俺もだ!」


「望もうが望まないが、周りが上の立場に押し上げてくれます。お金も名誉も勝手に付いてまわるのですよ」


「いい加減にしてくれ! 俺もリリカもあんただから付いてきたんだ!」


「先生は不幸な境遇のわたしたちを拾ってくれましたよね! わたしもドルゲンさんも、先生に恩を感じているから一緒にいるんです!」


「そんな事を今持ち出しますか……」


「おい、そんな事って! 命の恩人に恩義を感じちゃダメなのかよ!」


 アーレスは淡々と述べる。


「あなたたちは捨てられていました。私はそれを拾いあげ、再利用したまでですよ」


「なっ……!!」


 ドルゲンは絶句し、リリカは「ひどいです!」と涙を浮かべた。


「さあ、リリカさん早く! これは、世界のための仕事です!」


「この期に及んで……」


 ドルゲンは呟き、自分の左頬にある大きな傷に触れた。


 一瞬目を瞑った。



 七年前──


 森でオークに襲われたとき、とっさにアーレスを庇った時に出来た傷だ。


「ドルゲンくん、大丈夫ですか!」


 アーレスは、あの時心配そうな表情を浮かべてくれていた。


⚔️


 ドルゲンは、再び目を開いた。


「あの時、心配してくれたのも嘘なのか……」


 ドルゲンは、銀の斧を構えた。


 アーレスの目が据わった。


「ドルゲンくん……。あなた、自分がなにをやっているのか分かっていますか?」


「ああ、俺があんたを正すよ」


「冗談……という目はしていませんね」


「俺が元に戻してやるよ! 先生!」


 ドルゲンが銀の斧を抱えたまま、アーレスに突撃する。アーレスも無言で魔法の杖を構えた。


「ドルゲンさん、それは止めて!」


 リリカが慌てた様子で叫んだ。しかしドルゲンは止まらない。間合いを詰め、アーレスの前で、銀の斧を振り上げる。


 アーレスが薄く笑い、消えた。直後、高熱に包まれた。


「うわあああ!!」


 ドルゲンの背中を炎が焼いた。


 瞬間移動魔法──


 ドルゲンの背後に現れたアーレスが、彼の至近距離で炎魔法を放ったのだ。


「先生、やめてください!」


 リリカが訴えるも、アーレスは冷たく「正当防衛です」と言った。


 ドルゲンは振り返りざまに銀の斧を薙いだが、アーレスはまた瞬間移動魔法で回避。


 気づいた時には、アーレスは離れた場所に立っている。


「まだやりますか? そもそも近接戦闘向きのあなたに、魔法は相性が悪い」


「まだ……やりますよ」


 アーレスはドルゲンの真っ直ぐな視線に、舌打ちをした。


(この反抗的な目。あいつにそっくりだ……) 


「──そうですか。それでは優秀な仲間を、またひとり失うことになりますね」


 アーレスは口角をいっぱい上げ、妖しく笑った。


「それがあんたの本性かよ!!」


 ドルゲンはぶち切れ、駆けた。


「煩いですね……あなたはもう、ジッとしておいてください」


 アーレスは魔法の杖を振るった。


 大きな植物のツルが、何本も床を突き抜け飛び出す。それらが伸び、ドルゲンを即座に捕縛。彼は銀の斧を床に落としてしまった。


「くそっ……」


 四肢を拘束されたドルゲンが、ジタバタする。


「さあ、リリカさん! 話をしましょうか!」


 リリカは首を横に振る。そのまま『聖女の幸玉』を抱き締め、走り出した。


「言うことを聞かないのなら、あなたを魔法で操ることも出来るのですよ!」  


 アーレスが魔法の杖を前に伸ばした。先端の宝石から、いくつもの黒い糸が放たれる。 


(ダメっ……捕まる!)


 リリカの背に、黒い糸が到達しようとした時だった──


 光の剣が、黒い糸を断ち切った。


「なっ……何故あなたが……ここにいるのです!?」


 アーレスは唖然とする。


「あなたはさっき、殺されたはずでしょう!」


 アーレスは、ギリギリと奥歯を噛み締めたまま怒鳴りつけた。


 一方、リリカの目からは涙が流れ、安堵の声でポツリと呟く。


「ラドクリフ……」


 そこには、光に包まれた少年が立っている──


 それはアンデッド化する前の、ラドクリフ少年であった。彼はリリカに強い眼差しを送り、無言で頷いた。



第8話に続く


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