第10話(最終話)『未来』
アーレス 魔法使い 闇魔法を駆使する
ドルゲン 戦士 左頬に傷がある仲間想いの男
ラドクリフ 剣士 聖なる力で光体になった
リリカ 僧侶 白い光の浄化魔法を使う
⚔️
「貴様ぁああ!!」
アーレスは怒り狂いながら、顔のついた無数の人魂を飛ばした。人魂はうめき声を上げながら、リリカに向かって飛んでいく。
ラドクリフとドルゲンが同時に叫ぶ。
「「リリカ、逃げろー!!」」
しかし、リリカは逃げない。
リリカの放った白い光が人魂に触れると、それらは穏やかな表情に変わり、そのまま白い光に変わった。
より大きくなった白い光が、アーレスに直撃した。
「ああああぁ!!」
断末魔の叫びを上げるアーレス。かと思ったが「な〜んてな」と、ニヤリ。
リリカは「そんな……」と脱力し、両膝を床についた。
ラドクリフとドルゲンも唇を噛んだ。
「忘れたか? お前の浄化魔法は人には効かねぇ。惜しかったな。デビルフェイスに撃ってれば効いたかもしれねぇぞ」
アーレスは笑った。一緒にデビルフェイスも「キヒヒ」と笑う。
「リリカ、これはお前の判断ミスだぁ〜」
アーレスは下品に煽った。
「どうやって、この人に勝てば……」
リリカは両手で頭を抱えた。
絶望の空気が三人に漂う。聖女カイラの力を借りたラドクリフや、聖なる力を秘めたリリカでも太刀打ちできない。
諦めかけたその時──
「キーヒッヒ」と大笑いしていたデビルフェイスが、突如ピタリと止まった。
「ア、ア、アア……」
デビルフェイスは焦りだす。
「どうした……デビルフェイス?」
デビルフェイスの頭部が、徐々に白い光に包まれ、見えなくなっていく。
「何だあれ……?」
「どんどん白くなっていってる」
ドルゲンとラドクリフは状況が掴めず、声に出した。
やがてデビルフェイスは、絶望に満ちた泣き顔のまま、完全な白に取りこまれ消滅した。
「どういうことだ? デビルフェイスに何があった……!?」
アーレスも焦り始めた。
「がっ……!!」
ドクン──彼の心臓が脈打った。
アーレスは、左胸を手で強く押さえた。その後すぐ彼の体は、白く発光していく。
「何をしやがったぁあ!!」
と怒鳴りながら、アーレスの体から逃げるように影が飛び出た。そいつが床でのたうちまわる。
のたうちまわりながらも影は、アーレスに手を精一杯伸ばす。
「俺の……俺の体ぁああ!! 返せぇえ!! せっかく見つけた体ぁああ!!」
言いながら白い光に侵食されていき、やがて断末魔の叫びを上げて、影は消えた。
⚔️
アーレスは、白い光に浄化されながら思い出した。
ラドクリフ・ドルゲン・リリカと冒険した日々を。
魔法を倒すため、なにより彼らを守るために、自分は努力した。古今東西駆け巡り、強い魔法を手に入れようとした。
その結果、自分は間違ったようだ。
アーレスは三人を順番に見た。
左腕を失ったドルゲン。光体の体中を噛みちぎられているラドクリフ。純粋な目で静かに絶望しているリリカ。
(申し訳ない……)
心の底からそう思った。
「すみませんでした」
アーレスが口を開こうとした瞬間に、彼は完全に浄化された。
アーレスは消えゆく中、
(自分の犯した罪を許してもらおうなど、さすがに都合良すぎる)
そう内に秘めながら消滅していった。
彼はそう思ったのだが、三人は違った。
三人の目から涙が流れる。
「お前ら、最期の顔を見たか?」
ドルゲンが聞くと、二人は「はい」と頷いた。
「あれはアーレス先生でした。おれたちの先生です」
ラドクリフが言うと、リリカが「先生ー!!」と叫び、泣いた。
⚔️
【聖女カイラの間】に、光のゲートが開いている。
「もう行くんだな」
ドルゲンの言葉に、ラドクリフは「はい」と頷いた。
「先生を止めるのが目的でしたから。仕方ないです」
リリカはずっと俯いている。それを見たドルゲンがリリカの背中を押す。
「ほら、言いたいこと言えよ、リリカ。今逃したら一生後悔するぞ」
「そう……ですよね」
リリカは顔を上げ、ラドクリフの方に一歩寄った。
「ラドクリフ、会えて本当に嬉しかった」
「おれもだよ」
「いつになるか分からないけど、しっかり生きて、いつかそっちに行くから」
「うん。楽しみにしてる」
「それでさ……」
リリカは、五年前の姿のままのラドクリフをじっと見て、言いにくそうに続ける。
「もしわたしがお婆ちゃんの姿でそっちに行っても、嫌いにならないでね」
「リリカはリリカだろ。大好きさ」
それを聞いたリリカが紅くなる。それ以上にドルゲンが紅くなり、思わずツッコんでしまう。
「よくもまあ、そんな恥ずかしい台詞を第三者の前で!」
三人は顔を見合わせ、笑った。
「本当に行きます」
「ああ、気をつけてな」
「ラドクリフ、元気にしてて」
ラドクリフは頷き、光のゲートの方に歩き出した。
途中で足を止め、彼は振り返った。
「ドルゲンさん、それにリリカ。おれは先生とあちらの世界で待っています。いつかまた逢いましょう……」
「ああ!」
「うん!」
ドルゲンとリリカが返事をした。ラドクリフ少年は光のゲートの中に入り、ゲートごと消えた。
⚔️
半年後──
【バルドサの洞窟】
ドルゲンとリリカのパーティーがいた。
ドルゲンの左腕は義手になり、左頬に刻まれた大きな傷は未だに残ったままだ。
魔物との交戦中──
ドルゲンが銀の斧を振るい、大サソリを叩き潰す。後ろにいたもう一体がお尻についた針で攻撃してきた。
「ドルゲンさん、気をつけてください! 大サソリの針には毒があります」
ドルゲンは素早く避けながら、同時に大サソリを叩きつけた。大サソリは「キシャーン」と声を上げながら仰向けに倒れて、複数の足をバタつかせた。
リリカがアンデッドの群れに浄化魔法を放ち、一斉に浄化させる。
「おいおい、容赦ねえな!」
「彼らは、ラドクリフじゃありませんから!」
(ったく、気が強くなったというか、急に逞しくなったな)
ドルゲンは嬉しそうにニヤついた。
戦闘が終わると、リリカが前に出て「先へ急ぎましょう」と歩き出す。
「おいおい、俺が先に歩くよ。お前僧侶だろ、前衛は危ないぜ」
ドルゲンがリリカの前に出た。
「いえ、一刻を争います。わたしたちが強くなって魔王を倒さないといけないんですよ。そのためには、まずレベル上げです!」
「そうだけどよ……。ちょっと生き急いでないか?」
「急がなきゃ間に合いません!」
そう言って、リリカはドルゲンを追い越した。ドルゲンはその背中を見て、小さなため息を吐いた。
「やっぱり二人パーティーだと戦いにくいな」
ドルゲンがなんとなく言うと、リリカが振り向いて「弱音は止めてください」とピシャリと言った。
(この調子じゃ、あっちの世界に行ったときラドクリフは尻に敷かれるな)
ドルゲンは心の中で嘆いた。
「助けてくれー!」
先から男の声が聴こえた。リリカとドルゲンは顔を見合わせてから、走った。
⚔️
リリカとドルゲンが駆けつけると、サーベルタイガーに襲われている二人の少年がいた。
「来るなら来いよ! おれが斬ってやる!」
顔から血を流している気の強そうな剣士が、サーベルタイガーに向かって言い放った。
サーベルタイガーは「グルル」と唸りながら、次の攻撃を仕掛けようとしている。
「リ、リアン止めなって……挑発しちゃダメだよ!」
気の弱そうな魔法使いが、物陰から声を出し叫んでいる。
「シューベル! 怖がってないで、お前の火魔法で援護してくれ!」
サーベルタイガーがいきり立ち、リアンに襲いかかる。
ドルゲンが前に割って入り、銀の斧でサーベルタイガーの左の牙を叩き割った。吹き飛ばされ地面に叩きつけられるサーベルタイガー。
サーベルタイガーはふらふらと立ち上がり、怒り狂い、地団駄を踏む。
「まだ、動けるか?」
ドルゲンが短く問うと、リアンは「当たり前っス」と答えた。その真っ直ぐな目を見たドルゲンは、彼にラドクリフを感じた。
再び向かって来るサーベルタイガーに、ドルゲンとリアンは息を合わせて攻撃を叩き込んだ。
サーベルタイガーは、白目を剥いて倒れた。
「やるな」
「あざっス」
ドルゲンとリアンがハイタッチをする。
一方、シューベルにはリリカがずかずかと近づいていった。
「ちょっと、あなた! 自分だけ隠れているなんて最低よ!」
「ご、ごめんなさい! 本当は私も援護したかったのですが、怖くて!」
彼の怯える目を見て、リリカは以前の自分を見ている気になった。それにどことなく穏やかな雰囲気が、アーレスに似ていた。
(これは、私が彼の根性を叩き直さないと!)
「ねぇ、あなたたち」
「なぁ、お前ら」
リリカの声にドルゲンの声が被った。二人は顔を見合わせてクスッと笑った。気持ちは一緒なのだ。二人はそれぞれ言った。
「わたしたちと一緒に冒険しましょうよ」
「俺たちとパーティーを組まないか?」
いきなりの事でリアンとシューベルはキョトンとしていた。しかし数秒後、リアンが笑って言った。
「あんたら強そうだから助かるよ」
それを見たシューベルも遅れてから言った。
「私も賛成です。二人だと心細くて」
四人は、こうしてパーティーになった。
⚔️
一行は洞窟を出た。
リリカは晴れた夕暮れの空を見上げ、そこにアーレスとラドクリフの顔を思い浮かべた。
(先生、ラドクリフ……わたし、頑張っていきます)
完




