いや、婚約者じゃなくて、婚約を決めた当主に文句を言えよ。
名前を借りました
「ハトホル!お前とは婚約破棄だ!」
夜会会場のど真ん中で、婚約者の伯爵令息クヌムがやらかした。
隣には浮気相手の男爵令嬢セクメトがいる。
クヌムは、普段から、婚約者である私ハトホルがいるのにも関わらず、浮気相手と堂々とイチャイチャしていた。
「まぁ、理由をお伺いしても?」
わざと驚いたように言う。
「最初から嫌だったのだ!お前みたいな地味な女!真面目でつまらないし、笑いもしない。私とは話も合わないし、私に合わせようとしない。私に気を使わない。本当に女として最悪だ!」
「そうですか」
「それに、私はセクメトと出会い、真実の愛を見つけた。真実の愛の相手と婚約し直すのは当然だろう」
真実の愛なら婚約破棄しても許されるのかな?
それなら最後に言いたい事を言って婚約破棄しよう。
「そんなに婚約が嫌なら、最初から嫌だと言えば良かったんですよ。
婚約を決めた当主には何も言えないくせに、立場が弱い婚約者に当たるなんて最低ですね。
クズですよクズ。
私だって、当主に言われたから婚約したんですよ。
貴方が好きだったわけじゃない。
何で自分だけが悲劇のヒーローみたいな顔してんですか。
そんな最低男と婚約した私の方が悲劇ですよクズ!
婚約が嫌なら、私じゃなくて婚約を決めた当主に文句を言えよ」
あ、驚いてる驚いてる。
でも、終わりじゃない。
「こっちだって最初から嫌でしたよ。
貴方みたいな自己中男。
傲慢だし浮気はするし、エスコートはしない、婚約者を褒めない、贈り物も無い、婚約者に分かる話題を振らない。
何が話が合わない、よ。
武器職人の話が分かる令嬢はいません。
普通は共通の話題を振るんですよ世間知らずの常識なし。どんな教育受けたらそうなるの?教育者の顔が見たいですわね。
婚約者らしいこともせずに、偉そうに言って、本当に男として最悪。
政略結婚だったから、仕方なく婚約を受け入れたんですよ。
婚約破棄してくれてありがとう!
2度と私に関わらないで!」
他に、言いたい事は無いかな?
「え…?」
呆然と立ち尽くす婚約者。
言い返されるとは思ってもいなかったのだろう。バカにしている。
「え…でも、浮気相手は、ちゃんと…」
呆然としながら言う婚約者。
「『え〜っすご〜いっほんとですかぁ〜すごいですね〜』しか言ってないし、裏では『あんな話誰が分かるか』って言ってましたよ。その令嬢」
「「え?」」
婚約者と浮気相手の声が被った。
「話の分かる浮気相手とお幸せに!さようなら!」
当然、婚約者有責で婚約破棄され、婚約者は慰謝料を払う羽目になった。
家同士の契約なのに、勝手に婚約破棄を宣言したのだ。
しかも理由が
最初から嫌だったから。
当主は、嫌なら別の相手と婚約を結ぶ事もできると何度も言った。本人が何も言わないから婚約を進めたのに。
それなのに、最初から嫌だった、と言った。
そんな男は、もう誰も婚約してくれないし、仕事上の契約すらしてもらえないだろう。
元婚約者は、廃嫡され、領地に押し込められた。
次男が跡継ぎになり、後継教育を、急ぎ始める事になった。
セクメトは「廃嫡された男なんてお断りよ!」と元婚約者を絶縁した。
真実の愛は一瞬で終わった。
セクメトは難を逃れたと思った。
しかし『他人の婚約者を奪った女』『真実の愛の相手を、廃嫡されたからと捨てた女』として有名になってしまい、誰からも相手にされなくなった。
婚約しても、浮気するかもしれない。
友人になったら、婚約者を奪うかもしれない。
そんな女や家族とは関わりたくないのが人情だ。
セクメトは、領地でひっそりと暮らす羽目になった。
「バカな嫡男をもつと大変だね〜」
「バカな娘をもつと大変だね〜」
と、しっかりと噂されるクヌムとセクメトだった。
その後、婚約破棄を告げる者には
「いや、婚約者じゃなくて、婚約を決めた当主に文句を言えよ」
と言われるようになった。
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