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いや、婚約者じゃなくて、婚約を決めた当主に文句を言えよ。

作者: 井上さん
掲載日:2026/06/07

名前を借りました

「ハトホル!お前とは婚約破棄だ!」


 夜会会場のど真ん中で、婚約者の伯爵令息クヌムがやらかした。


隣には浮気相手の男爵令嬢セクメトがいる。


 クヌムは、普段から、婚約者である私ハトホルがいるのにも関わらず、浮気相手と堂々とイチャイチャしていた。


「まぁ、理由をお伺いしても?」


 わざと驚いたように言う。


「最初から嫌だったのだ!お前みたいな地味な女!真面目でつまらないし、笑いもしない。私とは話も合わないし、私に合わせようとしない。私に気を使わない。本当に女として最悪だ!」


「そうですか」


「それに、私はセクメトと出会い、真実の愛を見つけた。真実の愛の相手と婚約し直すのは当然だろう」


 真実の愛なら婚約破棄しても許されるのかな?




 それなら最後に言いたい事を言って婚約破棄しよう。




「そんなに婚約が嫌なら、最初から嫌だと言えば良かったんですよ。

婚約を決めた当主には何も言えないくせに、立場が弱い婚約者に当たるなんて最低ですね。

クズですよクズ。

私だって、当主に言われたから婚約したんですよ。

貴方が好きだったわけじゃない。

何で自分だけが悲劇のヒーローみたいな顔してんですか。

そんな最低男と婚約した私の方が悲劇ですよクズ!

婚約が嫌なら、私じゃなくて婚約を決めた当主に文句を言えよ」


 あ、驚いてる驚いてる。

でも、終わりじゃない。


「こっちだって最初から嫌でしたよ。

貴方みたいな自己中男。

傲慢だし浮気はするし、エスコートはしない、婚約者を褒めない、贈り物も無い、婚約者に分かる話題を振らない。

何が話が合わない、よ。

武器職人の話が分かる令嬢はいません。

普通は共通の話題を振るんですよ世間知らずの常識なし。どんな教育受けたらそうなるの?教育者の顔が見たいですわね。

婚約者らしいこともせずに、偉そうに言って、本当に男として最悪。

政略結婚だったから、仕方なく婚約を受け入れたんですよ。

婚約破棄してくれてありがとう!

2度と私に関わらないで!」


 他に、言いたい事は無いかな?


「え…?」


 呆然と立ち尽くす婚約者。

言い返されるとは思ってもいなかったのだろう。バカにしている。


「え…でも、浮気相手は、ちゃんと…」


 呆然としながら言う婚約者。


「『え〜っすご〜いっほんとですかぁ〜すごいですね〜』しか言ってないし、裏では『あんな話誰が分かるか』って言ってましたよ。その令嬢」


「「え?」」


 婚約者と浮気相手の声が被った。


「話の分かる浮気相手とお幸せに!さようなら!」






 当然、婚約者有責で婚約破棄され、婚約者は慰謝料を払う羽目になった。


家同士の契約なのに、勝手に婚約破棄を宣言したのだ。


 しかも理由が



最初から嫌だったから。



 当主は、嫌なら別の相手と婚約を結ぶ事もできると何度も言った。本人が何も言わないから婚約を進めたのに。


それなのに、最初から嫌だった、と言った。



 そんな男は、もう誰も婚約してくれないし、仕事上の契約すらしてもらえないだろう。


元婚約者は、廃嫡され、領地に押し込められた。



 次男が跡継ぎになり、後継教育を、急ぎ始める事になった。




 セクメトは「廃嫡された男なんてお断りよ!」と元婚約者を絶縁した。

真実の愛は一瞬で終わった。


 セクメトは難を逃れたと思った。

しかし『他人の婚約者を奪った女』『真実の愛の相手を、廃嫡されたからと捨てた女』として有名になってしまい、誰からも相手にされなくなった。



婚約しても、浮気するかもしれない。

友人になったら、婚約者を奪うかもしれない。



そんな女や家族とは関わりたくないのが人情だ。


セクメトは、領地でひっそりと暮らす羽目になった。




「バカな嫡男をもつと大変だね〜」


「バカな娘をもつと大変だね〜」


 と、しっかりと噂されるクヌムとセクメトだった。






 その後、婚約破棄を告げる者には


「いや、婚約者じゃなくて、婚約を決めた当主に文句を言えよ」


 と言われるようになった。



読んでいただきありがとうございます

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― 新着の感想 ―
内容よりも、 登場人物の名前がエジプトの神様なのが気になってしょうがないです。
婚約が嫌だったなら婚約を決めた当主に言え、まさにその通り。 況してや婚約するかどうか自由意志を渡されていたにも関わらず、最初から嫌だったとかそれこそ貴族にそぐわないガキの我儘じゃんね。 嫌になった時点…
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