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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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翻訳しかできない無能と蛮族の王に生贄にされましたが、うるさい魔物を「クレーム処理」していたら、いつの間にか溺愛されてました 〜今更国が滅びそうと泣きつかれても、契約期間外ですので対応いたしかねます〜

掲載日:2026/02/04

「第七王女セシリア。先ほど、其方を蛮族王への『貢ぎ物』とすることが決定した。異論は許さん」


 壮年の国王が私のことを睨みつける。

 広間にはすべての王子王女が集結しており、全員が侮蔑の視線をこちらに向けていた。


「北の蛮族どもが国境に出没していてな。侵攻されたくないのであれば貢ぎ物を出せ、と。ゴミ共と争っても良いが、我が騎士団を消耗させるのもな……。そこで今回は、応じてやることにした」

 

 ノダニア王国の王・ゼッペキン。

 彼を父と思ったことはない。

 セシリアとして過ごした十七年——

 彼と親子らしいことをしたことは、一度たりともなかった。


「其方のギフト『翻訳』だったか。王国の汚点だと思っていたが、存外蛮族相手では役立つだろう。奴らは訛りの入った言葉を話す。其方となら意思疎通できるだろう。いや、でぎるんだべや?」


 変顔でふざける王。

 王子たちがブハッと噴き出す。

 もう我慢しきれないといった様子で笑い転げている。

 その様子を眺めがら、私は前世の日々を思い出す。

 何社か就職したけれど、いつもクレーム処理係に回された。

 電話対応から始まって、他の社員のミスの謝罪、お客様の怒りに対して頭を下げる。

『お前のとこの商品ぶっ壊れてるぞボケ!』みたいな言動は日常茶飯事。

 大抵は充電不足か電池を入れてないだけだ。

『女はいいよなぁ、こんな仕事で金もらえて』みたいに、露骨に女を下にみる客も多かった。

 ストレスを溜めながらもコーヒーとエナジードリンクで頑張り続けた結果、心臓発作であっけなく死んだ。


「私の出立は、いつ頃になるでしょうか」

 

 質問すると、王は鼻くそをほじりながら、またしてもふざける。


「いずでも、いいっべよ。恥さらしははやぐ消えてげろぉ」

「クハハハッ! 父上、馬鹿にしては可哀想でげろぉ」

「ふふふ、お兄様、やめてくださいでげろぉ」


 王も私以外の子たちとは、波長が合うらしい。 

 顔を見合わせて、大爆笑している。

 唾飛ばしすぎでしょう。

 私は両手で顔を覆ってみせる。


「あらあら、泣いてしまいましたわ! 可哀想なセシリア!」

「ふむ。死ぬまで蛮族の慰み者にされるのだ。大いに泣け。気が済んだらもう出ていけ。手配は済ませてある」


 よくもまあ、ここまで冷たくできるなと驚きだよね。

 立場が弱いのと、母はすでに他界しているのも大きいのかもしれない。

 ちなみに私が顔を隠したのは、ニヨニヨしてしまうのを隠せないから。

 そりゃ、嬉しいよ!

 こんな蛮族たちと離れられるのだから!

 私は出口に向かいつつ、横目で王子たちの顔を確認する。

 彼らと前世のモンスタークレーマーたちの表情がリンクする。

『潰すぞ! 今すぐ家に来て土下座しろや!』

『説明書なんて読むやついんのかよ! 製品に書いとけよッ』

 うぅ、理不尽だったなぁ。

 同じ日本語なのに、なぜか言葉が通じない人がいっぱいいた。

 

「待てセシリアよ。なにか一言、言い残すことはないのか?」

「……では。グリフォン、アーマースネーク、ブリザードボアとの今後の交渉はお任せします。モンスタークレーマーですので、お気を付けてくださいませ」

 

 ぽかん、と口をあける一同。

 意味が伝わっていないようだ。

 王女が鼻息を鳴らす。


「あぁ、セシリアをお許しください。現実逃避で、おかしくなってしまっただけなのです」

 

 ドッと。

 また笑いが巻き起こる。

 面倒臭いので踵を返して、室内から出て行く。

 この国はモンスター級だらけで嫌になるね。


 ☆

 

 蛮族の首都、エルギハイム。

 長く馬車に揺られ、ようやく入り口の門に到着した。

 すでに待機者がいて私を出迎えてくれた。


「セシリア様ですね。ようこそ、おいでくださいました」

 

 恭しく頭を下げた彼を見て、私の描いていた蛮族に対するイメージは破壊された。

 服装も小綺麗で、所作も洗練されている。

 これを見て蛮族と思う人はいない。

 首都に関してもそうだ。

 我が国より洗練されており、活気も溢れる。

 人々の会話には、特に訛りなどもない。

 国王は思い込みで話していたのだろう。

 王が馬鹿なのは、いつものことだけどね。

 私は、城の玉座の間に案内された。

 椅子にはまだ誰もいない。

 代わりに、体長3メートルほどの漆黒の狼がいた。


『グルゥゥウ——ガアア!』 


 明らかに威嚇している。


「あれは陛下の眷属です。陛下以外には絶対に懐かないので、近づき過ぎないように」

 

 そう言われたものの、ずっと吠え続けていて耳がビリビリとする。

 このままじゃ、私の鼓膜がダメージを受ける。

 ちなみに彼が訴えている内容はこうだ。


『腹減ったって言ってんだろって! 朝の肉、全然足りなかったぞボケェ!』

 

 私のギフト『翻訳』は、なにも人間だけが対象じゃない。

 ある程度の知能がある生物なら、ほぼすべて翻訳することができる。

 有名な話だと、カラスは『カアカア』言ってるが、ちゃんと意味があったりする。

 それを人間の言葉に変換できる。

 ノダニア国では、全容は黙っていたが。

 アホな王や王子たちに利用されるのはゴメンだものね。

 

「彼、お腹空いてるみたいです。朝の肉、少なかったようで」

「……ん? なぜ、朝に肉をやったと??」

「私、特殊な力がありまして。彼と話をしてもいいですか」

 

 彼からしたら意味不明すぎて固まっている。

 私はゆっくりと狼との距離を詰める。


「いま、ご飯を用意してもらうからね」

 

 私が伝える意思を持てば、こちらの言葉が相手に翻訳して伝わる。

 ギョッとした様子の黒狼。

 人間に話しかけられたことなんて、初めてだからだろう。

 

『お前、話せるのか。人間の癖に?』

「そうよ。彼らに肉を持ってこさせるから、私の言うことを聞いて」

『……牛肉だぞ』

 

 首肯して、待機している彼に声をかける。


「牛肉が食べたいそうです。合ってるなら返事して」

『アォオオオオオ——!』

 

 月まで届きそうな遠吠えを行う。

 これを聞いた案内人は腰を抜かした。

 口をぱくぱくさせたのち、走って広間から出て行ってしまう。

 入れ違うように入ってきたのは、明らかにオーラの異なる人物だ。

 まだ若くて、美しい顔立ちなのに、目は射殺すように鋭い。


『あ、主人がやっと来た』


 間違いなく王だろう。

 私は片膝をつき、胸に手を当てたまま、目線は下方向へ。

 これがこの国での挨拶だと聞いている。


「小国ノダニアの貢ぎ物だな。俺がこの国の王、アルバートだ。顔をあげろ」

「はい」

 

 言われた通りにして、彼を見る。

 日本の女子が大好きそうなクールで、それでいて強引さを持ちあわせたような顔つきだ。

 

「自分の立場はわかっているな」

「もちろんでございます」

「貴族などと婚約できると思うな。貴様は幽閉、または貧民の妻とする」

 

 このアルバート様は、ノダニア王国が心底嫌いなのだろう。

 敢えて、そういうポジションにすることで、ノダニアなど歯牙にもかけないと主張するのだ。

 と、ここで先ほどの案内人が戻ってくる。

 肉をのせた大皿を持って。


「へ、陛下!? これは失礼しました!?」

「……その肉はなんだ?」

「こちらは、グリード様に食べさせる肉です」

「グリードには朝にやっただろう。次は夜だ」

「ですが、そちらのセシリア王女が、肉をもってこいと」


 アルバートは怪訝そうな顔をこちらに向けた。

 あの……。

 案内人の方、言葉足らずではありませんかね。

 私、とてつもない変人に思われてるよ。

 仕方ないので、説明する。


「私は魔物も含めた多くの生物と意思疎通が可能です。彼は、朝の肉が足りなかったとクレームを入れていたのです」

「クレームだと? 俺を馬鹿にするか。グリードは俺以外の者には絶対に懐かないのに」

「触っていい?」

 

 私がグリードに話しかけると『少しな』と返してくれた。

 そこで頭を撫で撫でしてみる。

 その間、グリードは唸ることもなく大人しくしていた。

 

「——ッ!?」

 

 あんなに端正な顔立ちのアルバート様が、思いきり顔を歪めている。

 口を開け、目を忙しなく瞬かせる。


「グ、グリード、どうした!? 誇り高きお前が、なぜ俺以外の者に懐いている?」

『なあ人間、主人はなんて言ってるんだ?』

 

 二人の間に確かな絆はあっても、言語の壁は超えられない。


「私と仲良くしてるのがショックみたいよ。でももう、私たち友達だよね」

 

 チラッと案内人の持つ肉に目をやり、グリードの視線誘導を行う。

 グリードは前脚を私の肩に乗せた。

 お手みたいな感じで。

 

「——ッッ!?」

  

 またしてもアルバート様がショックを受けてしまった。


『あ、おれ、こんなこと主人にもやったことねえ。まーいいや』

 

 細かいことはあまり気にしない性質らしい。

 私が肉を運んであげると、待ってましたとばかりにそれにかぶりつく。

 体は大きいけれど、犬とあんまり変わらないね。

 可愛いので頭を撫でると、アルバート様が大声をあげる。


「触るな」

「し、失礼しました」

「……もういい。この者を部屋に案内してやれ」

「牢獄、ではないのですか?」

「……客室の間でいい。一応は、他国の王女だ」

 

 おそらくだけど、最初は投獄する予定だったのかもしれない。

 首の皮一枚繋がった気分で私は広間を出ていく。


『またな』

 

 グリードが一度顔をあげ、私に挨拶してくれた。

 こちらは笑顔で返事をした。


 ☆

 

 さすがに出しゃばりすぎた……。

 あとになってから後悔する。

 結局、私が次に呼ばれたのは翌日の午前だった。

 体を丸めて居眠りするグリードの横で、アルバート様が口を開く。


「きたか。セシリア・ノダニア」

「私はもうノダニアではございません。王女でもないのですから」

「ではセシリア。お前はどんな魔物とも意思疎通ができるのか?」

「相手にもよりますが、意思を読み取り、伝えることができます」

「……凄まじい力だ。なぜ、そんな者をノダニア王は手放した?」

 

 納得いかないといったように眉間に皺を寄せている。

 スパイと疑いをかけられている可能性もある。

 慎重に言葉を選ばなくては。


「その、私はあまり愛されておりませんでした。ギフトについても、派手ではないので、周囲には理解されておらず……」

  

 信じられない。

 そういった様子で、彼は首を横に振っている。


「無能が集まる王国だと思っていた。俺の予想を超えて酷いな」

 

 そうなんです。  

 腐敗権力の権化みたいな国だ。

 王族や有力貴族が腐りきっている。


「見せしめとして惨めな目に合わせようと思ったが、止めだ。お前のことを試させてもらう」

「私などに、試す価値があるかどうか」

「謙遜するな」

 

 ここでテンポの速い足音が近づいてくる。

 兵士が慌てた様子でアルバート様に報告する。

 

「王都南西の見張り塔に、ワイバーンが二体出現しました。現在、交戦中です」

「セシリア、ついてこい」

 

 早速、試されてしまうのかもしれない。

 兵士たちに囲まれながら、南西の見張り台に向かう。

 王都に四つある見張り台は通路で繋がっており、足場もそれなりに広い。

 そこで兵士と、二体のワイバーンが戦っていた。

 基本、ワイバーンは高い位置を飛行。

 時折、急降下してきて人間を襲う。

 キギィーといった甲高い声が、ワイバーンの特徴だ。


「グリードのように、奴らとも意思疎通できるのか」

「可能だと思いますが、私の声が届きません」

「拡声の魔道具を持ってこい」

 

 アルバートが兵士に命じる。

 わずか数分で、私の元にそれが届いた。

 地球にある拡声器と形は結構似ていて、声を増幅して遠くまで飛ばす効果がある。

 私は耳を澄まして、彼らの会話に集中する。


『チキショウ! なんであいつら、攻撃してくるんだよ!』

『おれらの肉を食いたいんだろ。みんなはどうして、来ないんだ』

『本当に待ち合わせ場所、ここで合ってるんだろうな?』

『合ってる気はするけどな』

 

 小型の竜と言われるワイバーンは、記憶力はだいぶ悪い。

 言い方を選ばないなら、忘れん坊馬鹿って感じで。

 何度か会話したことあるけれど、次に会ったときは、前回のことを覚えてないこともままあった。

 多分、待ち合わせ場所も間違っている。

 そこで、拡声器を取って話かける。


「大空を滑空中のワイバーンのお客様、お客様──。当エリアは人間の領域となっており、飛行禁止区間でございます。従って、待ち合わせ場所ではありません」

『……兄者、あれマジ?』

『そう言われると、ここじゃない気がしてきたわ』

『マジかよ!? とっとと移動しようぜ』

 

 ワイバーン兄弟も間違いに気づいてくれたらしく、素直に別の方角へ飛んでいった。

 姿が見えなくなると、武器を持っていた兵士たちが驚嘆の声をあげる。


「あの人が、退けたのか……?」

「まさか。魔物に話が通じるわけがない。偶然だろう……たぶん」


 多くの者は半信半疑というか、信じてない寄りだった。

 でもアルバート様は完全に違った。

 私の目を十秒以上見つめたあと、半ば強引に肩を抱き寄せてくる。


「今日から俺の右腕として働いてもらおう。エルギハイムも、お前のことを歓迎しているぞ」


 ワイバーンを退けたことで、認めてもらえたようだ。

 それは嬉しいのだけど、距離が近すぎて胸がドキドキしてきたかも。


 ☆

 

「グリフォンの襲撃です! 町中で暴れ回っております!」


 セシリアが出ていって一週間もしない内に、悲報が町中を駆け巡る。

 無論、王の耳にも今回の事態は届いていた。


「丘のグリフォンはなぜ、急に凶暴になったのだ! いままでは大人しかったというではないか」

「ハッ。平民の話では、魔物が懐いていた人物がいなくなったらしいのです」

「そんなもの、すぐに呼べばよいであろう!」

「それが、難しいのです」

「なぜだ! 金なら払う。すぐに呼べッ!」

「──セシリア王女なのです!」

「……な…………に……?」

「グリフォンに定期的に餌付けをしていたと、複数の目撃者がいます」

「ならば、餌付けをすればよかろう!」

「ダメなのです。なにを出しても受け付けません……」

 

 クラクラッと、ゼッペキンは目眩に襲われた。

 グリフォンは討伐が難しいことで有名なのだ。

 仮に討てても、騎士団内で死者が出るのは必至。

 追い打ちをかけるように兵士が二人駆け込んでくる。


「緊急の報告です!」

「今度は何事だ!?」

「ブリザードボアとその手下らしき魔物が南門を破壊しております」

「な、な……」

「こちらも報告です。侵入したアーマースネイクが、菓子店を襲っております。そこには第一王子と第二王女もいた模様です……。現在、どのような状況か確認が取れておりません!」

 

 ゼッペキンは立ち上がり、すぐに突っ伏すように倒れる。

 持病の高血圧が悪さしたのだ。

 

「あう、あうう……。セシ……セシリ……」

 

 痙攣しながら、セシリアを呼び戻せと言いかけ、そんなことは不可能だと唇をかむ。

 

 その日、ノダニア王国は甚大な被害を受けた。

 恐ろしいのは、その次の日も、また次の日も、魔物がひっきりなしに押し寄せてくるのだ。

 耐えきれず、ゼッペリア王はアルバート王に書状を出した。

 一時的にでも良いので、セシリアを国に呼んでくれないかと。

 返事はすぐに返ってきた。

 

『セシリアは俺の妻にする。なぜお前らの国に送る必要があるんだ。戯言を吐くな』

 

 その後、ノダニア王国がどうなったかは言うまでもない。


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― 新着の感想 ―
国崩壊ww まぁ、仕方ないよね
キャラもテンポも良く、めっちゃ面白かったです(*≧∀≦*) 『暴れん坊馬鹿』の身も蓋もないパワーワードよ笑笑 祖国が物理的に悲惨な結末になってる感じもスカッとしました〜! 続きが読みたいです! 3話…
おもしろいです。私も連載版を読みたいです。
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