7話「ガライVS犯人」
「逃げんな!」
野郎に向かって大声で叫びながら、屋敷内を走り回る。
アイツ、氣力を纏って速度を強化してやがるな。しかも足に限定して氣力を纏ってやがる。
氣力は体に纏うことで身体能力を強化させることが出来る。また、打撃や斬撃、能力などの攻撃も氣力を纏うことにより耐性を上げることが出来る。その強化と耐性の値は、強化する本人の氣力の量で決まる。
更に、氣力を部分的に体に纏わせるのはかなり難しく、長年厳しい訓練を積んだ熟練の隊員がようやく辿り着ける領域だ。
少なくともあの犯人はその隊員達と同等のレベルはあるということだ。だがな、その程度の氣力と速度なら簡単に追いつける。
足に意識を集中させて走りの構えを取る。炎の力が足の裏側に溜まりきったと同時に、そこから一気に炎を解き放つ。
直後、ドンッという轟音が屋敷内に響く。
「うおおッ!」
「何ッ!?」
圧倒的炎の推進力を得た俺は、一瞬で野郎との距離を詰めて後ろから蹴り飛ばしてやった。蹴り飛ばされた衝撃で野郎は突き当りにあった窓ガラスに突っ込んでそのまま中庭に落ちていった。
二階から落ちてもコイツ位なら…まあ無事だろ。
犯人に続くようにそのまま中庭へと飛び降りた。
「クッ…なんだお前…」
庭に着地したと同時に野郎が起き上がり、俺に質問してきた。
「なぁに、ただの正義の味方さ」
「正義か…フッ、くだらねぇな…」
そういうと黒いフードをゆっくりと下ろした。その人物は見た目は20代程で、逆立った黒髪と淡い光を放つ白い瞳が特徴的な男だった。
「お前か?あの手紙を送ったのは」
「そうだよ、俺が書いて送った」
男は眉一つ動かさず俺の質問に対して淡々と、機械的に答えた。
「とりあえず、何で栄田会長を襲ったのか理由を聞かせてもらおう」
まあ、そもそも逃がす気なんてさらさら無いしこのまま捕まえるだけだがな。
「いいぜ、俺はな、この国を創り変える為に栄田を襲ったんだ」
ん?どういうことだ?手紙の内容と全く違うじゃねぇか。
「ちょっと待て、お前本当に手紙を送った犯人か?」
再度質問を投げかけると、奴はニヤリと笑みを溢した。
「ああ、本当だよ。栄田を襲う理由はさっきの説明が本当だが、わざわざ本当のことを書く必要なんてねぇしな。とりあえずそれっぽい動機書いとけば良いかなーって」
コイツ、そんなくだらない理由で栄田会長を襲ったのか?
「さて、話は終わりだ。そこをどいてもらおうか」
野郎は歩みを進める。それと比例するように奴の両側に氣力のナイフが一本一本空中に生成されていく。
「それは出来ねぇな、何せコッチは会長を守り切るのが仕事だからな。お前を倒させてもらうぞ」
「そうか…じゃ、テメェも殺すしかねぇな!」
うぉ、危ね!野郎、鞘から刀抜いてる途中にいきなり氣力のナイフを飛ばしてきやがった。畜生が、正々堂々戦えねぇのか?
流れるように奴は連続でナイフを飛ばしてくる。
が、既に会長に飛ばしたナイフと俺に飛ばしたナイフの速度は完全に見切っている。不規則に迫るナイフを易々と躱しながら奴の周囲に炎を放つ。
「そらよ!」
広範囲に炎を広げたことで奴を閉じ込める炎の檻をつくる。
そもそも俺は会長一家を守り抜きさえすれば報酬が貰える。だからこそ、ここでリスクを犯してまで奴と戦闘を継続する必要は無い。
「悪いとは思ってねぇが、増援が来るまで時間を稼がせてもらうぜ」
「くだらねぇ」
すると奴は両腕を胸の前でクロスさせ、少しだけ屈んだ状態になった。
「あ?何やって…?」
妙な違和感。何だこの既視感?まるで経験したことあるような…
思い出した。この屈んだ状態から一気に起き上がり、両腕を広げる動作。零人が昔俺に対して仕掛けたゲートの軍隊技、
「氣力炸裂!」
奴が両腕を広げたと同時に、奴の体から氣力の爆発が起きる。足から炎を一気に放出し、その推進力で距離を取った。
野郎、マジで危ねぇな。
さっきの爆発の影響で広範囲に放った炎どころか、庭の地面や屋敷の3分の1程を消し飛ばしやがった。
人は…良し、巻き込まれてないな。もし物じゃなく人が巻き込まれたのなら、スーパーで売っている様なひき肉の様に簡単にミンチになっていただろうな。
「今のを躱すか、しぶとい奴だ」
土埃の中から奴が姿を現す。
「なんでお前がこの技知ってんだよ?」
「さあ、何故だろうな?」
リスクがどうとかはもう止めだ、ここでアイツを倒して情報を聞き出す。
再び足から炎を放出し超加速で距離を詰めると、それに続くように奴もナイフを連続で飛ばすが、今度は無数に且つ、不規則に飛ばしてくる。
だがな、いくら不規則にばらまいたところでその速度はもう完全に見切ってる。
全て躱し、そのまま奴の顔面目掛けて刀を振り下ろす。
「甘ぇ!」
だが、返ってきたのは金属の硬い感触。奴の手元を見るとロングナイフを右手に、左手でそのナイフを抑えながら右膝を着いて俺の刀を止めている。
コイツ、俺が刀振り下ろしてる間にもう抜いてやがったな。
それでも強引に刀を下ろすが、地面がひび割れるだけで中々押し切ることができない。刀を一瞬で左手にのみ持ち替え、残った右拳で顔面に思いっきりフックパンチを浴びせる。
「グォッ!」
そのまま右拳を振り抜いてブッ飛ばしたが、直ぐに奴は起き上がり俺に向かって走る。
マジかよ、俺結構本気で殴ったんだが、こりゃ相当なタフネスだな。
高速で近づいてくる奴は、そのままの流れで俺に斬り合いを仕掛けに来る。
「ウオオッ!」
右、左上、左、下、上、右、右。防御や受け流しをしている内にコイツの攻撃のパターンを掴んでいく。次は下からの斬り上げ…ここだ!
「何!?」
下からの斬撃を上に飛んで躱し、刀を振り上げる。刀を峰の向きに持ち変え、頭に目掛けて一気に振り下ろした。直後、ガンッという鈍い音が響く。奴は後ろによろめいて倒れそうになるがギリギリで踏ん張る。正直今の攻撃で倒れないのは少し驚いたが、確実に決め手のハズだ。
「おい、もう止めとけ。今の大分キツいだろ」
「いいや…まだいけるぜ…」
奴が顔を上げる。
コイツ、頭に傷がねぇ。一体どこで受けた?
すると奴は左腕を上げる。その左腕には、痛々しい程の青紫色のアザができていた。
「流石に腕で受けなければ気絶していたな」
「マジでしぶてぇ野郎だ。次で終わりにしてやる」
すると奴は不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、次で終わりだな」
何だ?奴の姿が消え…
奴が姿を消したと同時に、いつの間にか俺の体には無数の斬撃が浴びせられていた。
「さあ、ラウンド2だ…」
__現在の時間 12時18分




