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序章9話 ケツ叩きのプロ

「リン……お前は凄い。」


 今でも記憶に残っている……お父さんやお母さん……そして、叔父がよく言った言葉だ。


「お前なら出来る」


 そう言われたからやろうと思えた。


「お前にしか頼めない。」


 だから頑張った。なのに……


「あぁ、そうだよ。全部……利用するためさ。」


 なんでそんな、酷いことを言うの?


 -----------------


「っはぁ!」


 揺れる馬車の中、私は目を覚ました。久しい……夢を見た。気分の悪さが半端じゃなかった。


「大丈夫かい。うなされてたみたいだが。」


 ミレーヌは何か読み物をしていた。それでいて酔わないのだろうか……と、変な疑問が浮かぶがすぐに頭を切り替える。


「う……はい。着替えはありますか?寝汗が……ちょっと、酷いみたいで。」


「ん。」


 顎で指すと再び読み物へ戻る。適当なものを取ってそそくさと着替えた。


「……ふぅん、悪かないね。」


 突然ミレーヌがニヤリと笑った。その、読んでいた紙を見て。


「えっと、何がですか?」


「あんたとの契約についてだってさ。自分で読むかい?」


 手渡された紙は一目見て契約書と分かるものだ。多分、エレナが言っていたやつだろう。


「ざっと見た感じあんたに不利な内容は無いね。それどころかあんたを庇護下に置きたい。そういう意図を感じる。」


 私も一通り流し見たが……ミレーヌの言っていることに間違いなかった。


「それにあの小娘に詐欺まがいなことが出来るなんざ思えないしねぇ。信じてもいいと思うぞ。」


「……」


 何度も、何度も内容を読み返すもやはり騙したり、その類の内容は無い。つまり……


「善意100%で私を助けようと?」


「ま、逆に怪しいのは同意だよ。」


 カカっと笑う。人が思い悩んでるのを見て毎回笑うのやめてほしい。


「ただ善意だけじゃないさ。あんたへの礼も兼ねてって話だからね。まぁ、よく考えることさね。あの村で生きるか……外に出るか。私ゃどっちでもいいよ。あんたが決めた道なら応援してやる。」


 そのぶっきらぼうな物言いには確かな優しさがあった。


「ありがとう、ございます。」


 私は馬車に揺られながらひたすらエレナとの契約について考え続けていた。


 -----------------


 村につくと体調が戻った男衆が出迎えてくれた。


「おぉ!この子がリンちゃんかい?」

「こんなちぃせぇのにすげぇのぉ!」

「魔法みたいな手捌きだったって聞いたぞ!」


 ミレーヌを迎えに来たのかと思っていたのだが気付けば私の周りに沢山の人だかりが出来ていた。絶望である。


(今すぐ、逃げ出したい……)


 確かに1度治療した人は皆等しく患者であるが……やはりほとんど喋ったこともない人達に、しかも男性に、囲われるのはいい心地がするはずも無かった。


「失礼。道を開けてくれるかい。」


 ギャイギャイと騒がしい男衆の中から青年の張りのある声が通ってきた。


「あ、この声は……」


「やぁ、名も知らぬお嬢さん……いや、リンと呼んだ方がいいかい?」


 魔物の群れと戦った時の冒険者、リュイだ。そしてその肩には見覚えのある少女が乗っていた。


「あ、リンちゃん!久しぶりだね!どこ行ってたの〜?」


 エリカだ。あれから変わりなく元気で一安心ではある…


「……あ、エリカ……」


「おじさん達、離れてあげた方がいいよ。ただでさえ汗臭いのにこんなにいっぺんに話しかけられてリンちゃん可哀想。」


 エリカのえげつないその事実に男衆がようやく離れていった。


「これでやっと話せるね。ありがとう、エリカ。」


 リュイはエリカに礼を言うと私の視線に合わせるように少し屈んだ。


「リン……正直に答えてくれ。あの日あの夜、僕を助けてくれたのは……君か?」


 ドキリと、胸が高鳴った。


「……別に皆に吹聴しようってわけじゃない。ただ、礼も言えないのがどうにももどかしくてね。」


「そう、ですか……ですが生憎、私は知りません。寝ていたら終わっていたので。」


 いくらリュイが心を尽くそうとも……私は言う気にはならなかった。


「私、忙しいので……」


 それだけ言い残すと私はミレーヌの待つ宿屋へと向かった。


「へぇ……」


 その後ろ姿をリュイが何やら妙なことを考えながら見つめていることも知らず。


 -----------------


 宿屋に戻るとミレーヌが荷解きをしていた。


「た、ただいまです!手伝います!」


 入ってすぐ目につく場所でやるということはさっさと手伝えと暗に言われてると思い、手伝おうとした、がミレーヌはスっと手を出し止めた。


「あんたはいいさ。私の分は私でやるからね。」


「じゃあ、私の分は…」


「今はいい……やっと帰ってきたんだ。じっくり2人きりで話そうじゃないか。」


 ニヤリと、笑った。もう幾度となく見た裏に何かを隠している時の、笑み。



 適当な机を挟み私とミレーヌは向き合った。そして数秒の沈黙の後、ミレーヌが先に口を開いた。


「しっかり考えたか?」


 薄々分かってはいたが、やはりその話題。しかし何と言うべきか……


「はい。ですが……分かりません。私の中で、答えがハッキリ見えていないように、思えます。」


 未だに悩んでいる理由。どれだけいい条件でも疑ってしまう理由。それらがある限り私の足は前に進もうとしない。


「……別にそんな難しく考える必要なんざねえのさ。」


 呆れたようにミレーヌが言った。仕方ない小娘だ、とでも言いたげに。


「そもそも騙されることに怯えてる時点で行きたくないんじゃないのかい?」


「っ……」


「図星だね。……なんでそこまで考えるかは分からんがね……もっと単純に、表面だけ見て一旦決めりゃいいのさ。」


「表面、だけ……?」


 ここまで言わねえと分からんか?と言いたげにため息をついた後続きが口にされる。


「行きたいか行きたくないか。そこだけで考えろ。もっと言えばここで一生を終えるか……世界に出るか、だね。難しく考えすぎるな。」


「行きたいか……行きたくないか……」


 それが、分からないのだ。でも、例を出してくれたからか少しイメージが着いた。


「もし……そう、もしだ。もし行って、あんたが失敗して、また身寄りがなくなったらその時は……私があんたを拾ってこき使ってやる。」


 それは、遠回しすぎるが背中を押してくれた発言だった。


「今決めな。あんたは保留にするとずっと悩み続けるからね。」


 さっさとしろ、と契約書が目の前に置かれる。改めて、目を通したが……やはり、内容は私に有利なものしかない。それが罠なのか、はたまた別の思惑があるのか……考えてもしょうがなかった。だから、私は……信じてみたくなった。あの時の、エレナの笑顔を。


「……………行きます。行きたい、です!」


 長考の後、その決断を下した。


「……そうかい」


 ミレーヌはそれを聞いてどこか、嬉しいような……寂しそうな、そんな顔をした。


 -----------------


 ミレーヌとの話し合いの後、「じゃあ行きな」と荷解きのしていない荷物を持たされ外へ連れられた。


「悪いねぇ、待っててもらって。」


 ミレーヌが御者へ言った。というか、なんで御者がまだ……


「いえ……それに、決断してくれたようで何よりです。」


 御者が顔を隠していたフードを外した。そこには見覚えのある、赤い髪が……って


「フィオナさん!?」


「リン様、つい先日ぶりですね。」


 なんでここに……という疑問はすぐに彼女自身から告げられた。


「ミレーヌ様に言われたのですよ。どうせ好きに悩ませたら時間がかかる。ケツ叩いて今日中に決めさせる、と。」


「…………え?」


 ミレーヌに視線をやるとやれやれ、といった仕草でため息を付く。


「実際、その通りだったろ?」


 それには否定のしようがなかった。ミレーヌにあそこまで言われなければ行こうとも……それどころか、決断すら出来なかった気がする。


「……う……何が目的ですか。」


 こういうことをする時、ミレーヌには何かしら裏がある。だから、問い詰めた。


「……何か目的がなきゃ駄目かい?」


「……!?」


 少し、言いづらそうに、ミレーヌが頬をかいた。


「ほら、さっさと行きな!」


 バシッと背中を押される。かなりの力で叩かれたからかジーンと全身に痛みが響いた。


「……いいお方ですね。」


 一連の流れを見ていたフィオナがそんな感想を口にした。


「えぇ……そうなんです。とっても……お人好し、なんですよ。」


 それに私は同意しながら……再び、馬車へと乗った。


「行ってきます!」


 -----------------


 格好よく馬車に乗った矢先、案の定リンは馬車酔いし2日ダウンしたとさ。めでたしめでたし……




序章はこれにて終わりでここからは本格的にリンが革命に向かって進んでいきます!ミレーヌとの触れ合いが主なメインだった訳ですが内容が薄いような厚いような、作者もよく分からなくなってましたがどうでしょうか?次章へ行く前に序章に入れるには少し短めのストーリーをおまけとして何話か挟みます!次章も乞うご期待!

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