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4章4話 一方的な判決

「なぜそう思うのかね?フェルグライト殿。」


 ガルディスが、不敵な笑みを浮かべて問う。まるで…この状況を待っていたかのように。


「まず…本人がいないのに審議を行うとはどういうことだ!それにその魔道具だって、魔法印もお主がヴィンセントを陥れようと…」


「…私はガルディス殿はどうして其方がヴィンセントを庇う必要があるのだと聞いている様に聞こえたが…?」


「陛下…」


 この場に居るものは皆…息を呑んで、その光景を見つめていた。表向きでヴィンセントとフェルグライトの繋がりは無いらしい。さらにはこの大舞台にて披露した魔法印。それらが仮に嘘だとしてそれをする理由がガルディスには無いのだ…そう、この国有数の貴族であるガルディスには。


「まぁ…お答えしようか。」


 ガルディスが、審議場の入口に目をやる。そこから…ガラガラと荷台を引いたガルディスの従者、クロウが入ってくる。その荷台には…拘束されたヴィンセントが、乗っていた。


「さて…自ら自供してもらおうではないか。第一王子、レヴィン殿…其方は確か、『精神干渉魔法』を扱えるのでは無かったか?」


「……あぁ、そうであるな。」


 まさかのまさか、ガルディス様は第一王子すらをも巻き込まんとしている。私はそのことに驚いた。だって、多分あの二人とつながっているのは第一王子だと思っていたから。


「陛下、殿下のお力を借りても?」


「構わぬ。」


 レオンフリートの一言によって、審議台に座らされたヴィンセントに、『精神干渉魔法』、つまり…強制的に自供させる魔法を、レヴィンが使った。


「ではまず…其方は、人体操作魔法の研究を行ったか?」


「………はい。5年程前から。」


 ざわめきが、起こる。その言葉には賢人二人が関わっており信憑性が高い。私の証拠…要らなかったんじゃ…というか第一王子…なんか、ノリノリじゃない?


「ほう…次に、それは誰かからの依頼だったのか?そして、その者の名は分かるか?」


「………アーカナ侯爵からの依頼です。自分が親身になっている第一王子の王位を確実にしたかったと伺っております………私的にも研究にはお金が必要だったので、貴族の協力はとても助かっていました。」


「あぁ、なんということだ!」


 観客席のざわめきで声が届かなくなる前に…第一王子が、悲壮感を持った声音で、言った。まるでこうなることが分かっていたように…


「お爺様は私が不甲斐ないばかりに王位を憂いて下さったのですね…?」


 その言葉に、フェルグライトが目を輝かせた。どうやら第一王子とアーカナ侯爵には血縁関係があるらしい。レヴィンの言葉は助け船を出されたみたいで…それが罠とは気づかずにフェルグライトは食らいついた。


「あぁ、あぁ、そうなのだ。私は…方法までは指定しておらん!確かに手段を選ぶなとは言ったかもしれんが…あくまでそいつ!ヴィンセントが勝手にやったことなのだ!」


「…と、言うことは本件、そしてヴィンセントと関わっていたことは否定しない。それで合っていますか?お爺様。」


 あ…私、この人が嫌いな理由…分かったかも…あからさまに…全部の言葉に嘘が混ざってるから…そしてそれで人を陥れることにためらいが無い…


 叔父に似ていたからだ。


 -----------------


「罪人、ヴィンセント・アルカナ。其方の功績は認めるが…禁忌の魔法を使用、研究したため禁固10年、『賢人』の称号をはく奪する。」


「…」


 精神干渉の反動なのか、生気の薄い顔をしていたヴィンセントはそのまま騎士らしき恰好をしていた人達に連れていかれた。そして、次の標的であるフェルグライトへと視線が向く。


「さてフェルグライト卿…其方はヴィンセントの研究に関与した。つまりは共犯だ。…他にも余罪が無いかを確認した後、判決を言い渡そう。連れていけ。」


 有無を言わせぬ言いようによって…フェルグライトは連れていかれた。ちなみに一番協力的に拘束していたのはすぐそばに居た従者である。なんか恨みでもあったのかな…


「そして……第一王子レヴィン。……お前は、何も知らぬのだな?」


「えぇ…陛下。私程度では知ることも出来ません。この身にあるのはこの魔法の知識だけであります。」


「…そうか。」


 それだけ言うと、陛下はもう何も言わなかった。あまりにも出来過ぎた展開に私は言葉を失った。なんというか、ムズムズするのだ。これ全部が…思惑通りに進んでいる気がしてならない。


「では…本審議を終える。今日を持って新たなる『賢人』の誕生を宣言する!」


 ぱぁっと、魔法の演出が入る。私に向けられたスポットライトのようなものだ。そして、いつものように歓声が湧いた。


「二等治癒士リン。其方の道に春があらんことを祈っている。」


 審議を〆る言葉。えっと…なんて返すんだったっけ…えっと…うーん…


「あ、ありがとう、ございましゅ!」


 ……ここぞというときにやらかしてしまった。どうやら声が小さすぎて観客にまでは届いていなかったらしいが。


 -----------------


「…まさか其方から私に会いに来るとはな。」


「はぁ…まぁ、はい。」


 私は今…王城内の、第一王子の客室を訪れていた。ガルディスに頼み込んで、ここまで繋いでもらったのだ。第一王子は今尚『竜』による負傷があったためそれを診に来た…というのは建前で、私自身確認したいことがあった。

 だから私は二人きりの部屋で、対面する。


「さて、私に問いたいこととは?なんでも聞こう。其方に逆らうと恐ろしい目に逢いそうで仕方が無いからな。」


 恐ろしい目というのは言わずもがなだろう。まぁなんとなく…建前が無くてもこの人は好奇心で動いてそうだし聞いてくれそうだけど…


「協力者というのは貴方のことですね?」


「はて………何のことやら…?詳しく聞いても?」


 長い沈黙の後、そうあっけらかんととぼけて言った。はぁ……何度私を試すつもりだ?

 私はジッとその藍色の瞳を見つめ、告げる。


「傍から見れば貴方は巻き込まれた哀れな第一王子…でしょうが、そうなるとおかしいんですよ。」


「…どこが、だ…?」


「貴方は賢い『賢人』様なのでしょう?賢い賢いあなたが…自分の周りで起きていることを認知出来ていないことが違和感ですし、そもそも私達の妨害していたわけです。そして今回の審議の流れからして…貴方的にはどちらに転んでもよかったのでは?」


「…ふむ、噂に違わぬ洞察力…やはり…か。其方は随分と恵まれているのだな。」


 腕を組み、ソファにふんぞり返って、呟く。…私が恵まれている…?どこが…?聞いた話じゃミレーヌに会うまでで一回死にかけてたらしいし…今も色んなところを行ったり来たりで襲われたり『竜』と出会って…とにかく大変なんだけど?

 まぁ…優しい人達に出会えたことは、否定しないけど…


「正解だ。どうせ父上も気付いているだろうしな。さて…其方は私がヴィンセントに関わっていたことを白日の下に晒すのか?」


 その気ならば潰してやろう…そういう気概を、感じ取った。だが私は…それに怯むことなく、レヴィンを見据え答える。


「いいえ。貴方に言及出来るほどの証拠がありませんし…貴方とは関わりたくないです。」


 これは本能的に…命が、危ういときに働く本能的な直感から出した答えだ。この人と関わること自体が私の危険に繋がる、そんな予感が働いている。


「ほう……そうか。残念だ。其方の知恵は使えると思っていたのだがな。」


 その言葉を聞いて、私の脳裏に嫌な言葉が蘇った。


『こいつの知恵は使えると思っていたのだがな。捨てておけ。』


 …かつて、私が死んだときに叔父が私に向けて言っていたあの言葉。あぁ…やっぱりこの人は…

 私が、一番苦手な…優しくて怖い人だ。

 …でも、怖くても…今の私は…


「………そうですか。どうもありがとうございます。…それでは…」


 一方的に話を切り、私は部屋の出口へと向かう。もう聞きたいことは聞き終えたし、関わらないことを約束した。もうこの人とは話すことが無い。


「…よくも…ここまでの知恵を身に着けたものだな。リン。流石…」


 私が手を戸に掛けた時…何か言おうと、レヴィンが口を開いた。…だが私は…決別を表すように、乱暴に開き、部屋の外へ出た。


 -----------------


 …あぁ、言い損ねた。


「はぁ…何度も機会はあったが…どうにも私は…あの母親にも嫌われていたみたいだしな…」


 脳裏に映るは一人の女。かつて従者だった…ただの、平民。

 気まぐれだった。研究が行き詰った時…気まぐれで、私は…


「……皮肉なもんだ。自分の子供にさえ嫌われるとはな。」


 反抗期…ではないだろう。そもそも認知すらされちゃいない。勝手にこちらが…

 いや、なんとなく、察している気はする。容姿は私とそこまでかわらない。その上…あそこまで賢ければ…


「だから、嫌ったのだろうがな。」


 もうあの子には既に大事な者が出来たんだろう。あの女は生きているのだろうか。…ダメだろうな。私の追跡魔法で追跡したのだ。既に…


「……正解だよ。リン。お前の判断は…」


 私は、鉄仮面の下の素顔で、ニィっと笑う。

 もう…未練など無い。邪魔になりうる者共は潰した。後は…一直線に進むだけだ。


「そもそもの話、私が第一王子なのだ。普通に考えれば…王位など待っていればこちらに来るものだろう?」


 しかも、それが優秀なものであるならば猶更、である。






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