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4章3話 審議

「儂は認めん」


 そう言った男は議員席に居た。つまるところどこかの領主で…私はその容姿に、少し見覚えがあった。

 薄い赤色に、黄色の瞳。体型等は少しふくよかでそこは違うが…私の知るあの人に似ている。

 そう、アルカナリス治癒院院長の…グランツェ様に…


「…審議はまだのはずですが?それに名乗りもなくとは…」


 …段々…頭が冷えてきた。さっき例の男が口を挟んだおかげでギャラリーも静かに、状況を見つめている。ようやく…落ち着いて…『対話』が出来そうだ。


「フェルグライト・アーカナ。アーカナ領の領主である。先の件、審議するまでも無い、そう言っておるのだ。お主のようなまだ成人すらしていない、その上貴族ですらない平民だろう?お主の言葉に信憑性などあるものか。」


「なら先ほど見えた『竜』については?それに…私は確かに平民です、ですが『賢人』の選考基準には身分は関係ないはずですが?」


 あぁ…なるほどね…この人が…ヴィンセントの、第一王子の裏に居る人…それでいてグランツェ様を苦しめた…兄、ということか。

 だから絶対に私を否定したいんだ。でも生憎、相手は私を否定できるような材料は無いらしく中身のない、それらしい否定を突き付けているだけ…悪あがきでしかない。


「…どうせ魔法を使ったのだろう!お主はガルディスの庇護下にいる。ガルディスが何か…魔法を使ったんだ。それしかありえないだろう!『竜』など…いてたまるか!」


「僕は何もしてないんだけどねぇ…」


 あ、ふーん…身分のことは否定しないんだ。それにガルディス様の否定を信じれないなら…今、見せてあげよう。


「おいで。」


「キュウ…!」


 私が、手の甲を天に高く上げると…そこに、小さな白き『竜』が着地した。その光景に、歓声が沸く。

 …というか今までどこに居たの…私の声に反応して空から飛んできたけど…

 何はともあれ『従えている』ということは嘘でないことを証明した。後は…


「ケガさせちゃ駄目だからね。」


「キュウ!」


 私が指示をすると…件の男の元へ向かい、そしてその頭に留まった。


「なっ、おい、離せ!」


「どうでしょう?それで…魔法かどうか、詳しく分かるのではないのですか?それとも分からないほどに魔法が…下手?なんですか?私平民なのでよくわかりませんが…」


 正直私も知らないけど、魔法が得意な人達みんなしっかり生きてるって言ってたし、こういう時は強気に言えば割と信じてもらえるからね。

 案の定といったところか、男は顔を真っ赤にさせ『竜』をとっ捕まえようとわたわたしている。


「……どうやら反論も無いみたいなので…国王様、開会の宣言をお願いできますか?」


 前哨戦はおわりだろう。これ以上続けても…貴方が恥をかくだけだよ?と、クスリと男の方を笑いかけると何か言いたそうだったけど既に反論の機会は失われた。


「そうであるな。では、これより…『賢人選定審議』を行う。司会進行は私、レオンフリート・ヴェルディアが務める。」


 国王の宣言によって、新たなる『賢人』を決める審議が始まった。


 -----------------


「今審議は現議員である私、そして四大領地の領主の投票により『賢人』、言わば国の頭脳として認められるかが決定する。まずは…せっかくだ、シルヴァーナ伯、治癒士リンの功績を読み上げたまえ。」


 スッと立ち上がり、ガルディスが書状らしきものを取り出した。そして…ゆっくりと、それを読み上げていく。


「まずリンは…私事、にもなりますがルナリスの治癒士が治療不可としていた病の治療に成功している。現に私が今尚健在なのは見て分かるだろう?」


 自身の身体が治っていることを徐に見せつける。どうやらガルディスの身体が危うかったのは貴族会でもかなり有名な話だったらしい。それに納得するものもいれば、驚愕するものもいた。


「次に…アルカナリス治癒院付き孤児院の再建だ。知るものは知っているだろう。アルカナリスには孤児院があった、だが数年前に管理者は治癒院へと移った。だがどうしてか…治癒院自体の職員が足りなくてな、その孤児院は随分と酷い有様で…極めつけはアルカナリス南東に移転されていたそうだ。」


 ざわめきが起こる。それほどまでに、アルカナリス南東のスラム街のひどさは有名らしい。


「そこへ派遣されたリンが、経緯はここで語るには長くなるが…再建に成功したらしい。さらには孤児たちの教育カリキュラムまで用意したらしい。これを見てくれ。」


 ガルディスが紙の束を乱雑に観客席へと配る。それは以前派遣を終えた後ガルディス様に向けて作った報告書…を魔法で念写したものである。それを見た者達の反応は様々であるが…少なくとも議員である四大領主の者達には伝わったらしい。


「このような知恵をもってして、孤児院の再建へと繋がった。さて…最後、今回の魔物の異常発生だ。この件は皆も耳に新しいことだろう。」


 空気を読んだように『竜』がガルディスの肩に飛び移る。後から聞いたのだがこれは『竜』が魔力に吸い寄せられる習性を活かしたことだったらしい。


「先ほどリンも見せただろう。この小さき『竜』。その『卵』が魔物の異常発生の原因であったのだ。長年『卵』の破壊は不可能に思われたが…またしてもリンはそれをやってのけた。私は現場に居たわけで無い上本人も途中で竜が現れたために気絶していたようなので詳細は分からぬが…結果としてリンによって『卵』が排除されたことには変わらないだろう。」


 ガルディスの言葉には説得力があった。正直なところ根拠は怪しいものの…である。


「はっ、さっきから黙って聞いていれば…根拠の欠ける実績ばかりではないか!儂達を舐めるのも…」


「ヴィンセント・アルカナ。」


 反論しようとしていたフェルグライトの言葉を、突然陛下が口を挟んで阻止した。

 その名は…この場にいるものは皆知っている、欠席中の『賢人』のことで…


「もうよいだろう、このような茶番。この際だ。全てを白日の下へ晒してしまおうではないか。なぁ、ガルディス。」


「…陛下の御心のままに。」


 傍観者と…先ほどまで喋っていた代弁者が、同じように…嫌な笑みを浮かべる。

 議論が、次の段階に進んだ。


 -----------------


「ぐ、ぬ…ぅ…!」


 キッ…と、2人を睨み付けるフェルグライト。ただし反論はない。何故ならばこれに反応すれば庇う理由があると誰の目から見ても分かってしまうから。


「……皆の衆、聞いて欲しい。」


 ガルディスが、口を開く。そして…パチンと指を弾けば何やら空中に『映像』のようなものが流れた。


「いや、見て欲しいというのが正しいか…」


『映像』が移り変わる。映ったのは…拘束されているヴィンセント。


『えぇ、えぇ…そうですとも。私は『人体操作魔法』を研究しておりましたよ。無論…この世に蔓延る馬鹿共を粛清するためだからだ。お前もそうは思わんのか?』


 それは、ヴィンセントから誰かに向けられたもの。この『映像』はまるでその場にいる様な気持ちになる。


「これは新たなる魔道具、記録した場面をここへ保存するものだ。」


 カチ、と魔道具のスイッチみたいなのを押すとまたも先程の映像が再び流れる。


「これは私の協力者から得た情報である!かの賢人、ヴィンセント・アルカナは禁忌の魔法である『人体操作魔法』を研究していた疑いが掛けられてある!今審議の本題は…『ヴィンセント・アルカナ』その罪と裁定である!」


 観客席にざわめきが起こる。信じられないという顔をするもの。まさかと、疑うもの。


「さて…本件は、かの英雄治癒士リンによってもたらされたことがきっかけである。リン、意見はあるかね。」


 !?突然すぎる無茶振りに動揺が隠せない。

 …お、落ち着いて…落ち着いて…これがガルディス様なりのパスなんだ。頑張らないと。


「はい。……実の所、私は初めから疑っておりました。その証拠に…ヴィンセントが関わったとされる罪の、その根拠たる証拠を集めてまいりました。」


 アラキナへ目配せし…アラキナが、ローブを脱いだ。その真っ白な肌、真っ白な髪…水色の綺麗な瞳が露になる。全てを魅了しかねないその美しい少女は…自身の後ろ髪を掻き分け、うなじに記された『魔法印』を見せつける。


「この、魔法印はヴィンセントによって掛けられた『人体操作魔法』によるものです。私は、アルカナリス孤児院に所属していました…ですが、ヴィンセントによる、人体実験の被害に合いました。その件についての責任は治癒院ではなくヴィンセント一人にあると私は考えます。」


 アラキナが神妙な面持ちで語りだす。美貌によって、その言葉は全てを信じさせ兼ねない。


「これだけではありません。元々孤児院に暮らしていた子供達にも似たような魔法印が見受けられました。疑うのであればどうぞ、調べてください。」


 魔法印は魔力が残りやすい技術である。その技術を調べる術はこの国にいくらでもある。


「…これだけにありません。こちらの『転写』した魔法印全て、ヴィンセントの魔力による関与が見られます。こちらは魔物の異常発生地の『卵』に掛けられてあったものです。私の推測ですが…恐らくは、魔力を引き寄せる性質と、魔物を生み出す性質を持っていると考えられます。ぜひ、お調べいただきたい。」


 ナ―シャが、瓶詰にされている魔法印を取り出し、いくつかの魔法印を見せびらかす。それは見る人が見れば一目見れば内容が分かるものらしい。私にはまったく分からなかったが。


「全部、でっち上げだろう!」


 静寂の中……またも、老人が声を上げた。全く…ありゃ、従者の人も呆れてるや。尻尾出しちゃったねぇ…

 代弁者が、最高に悪い顔をしていた。

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