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4章2話 支配者の戦い

「第一王子…」


 …この人が…?この、気品はあっても人をどこか見下していそうな目をしている人が?

 それに服装も…藍色のローブに旅装。私と似たようなもので…


「やはり…似ていると思っていましたが…」


「ふむ、そちらはシルヴァーナの従者か。確かに一度訪れたな。」


 ナ―シャは面識があったらしい。なら本当に…第一王子、なのだろうか。


「まぁ私が第一王子だろうとなんだろうとどうでもよいのだよ。私がお前たちの足止めに参ったという事実は変わらんからな。」


 …やはり…この男、間違いなく…ヴィンセント側の人間。しかも『賢人』を名乗った。その実力は先ほどみたままだ。


「別に今から王都へ向かっても構わんぞ。まぁ入れんだろうがな。」


 はっはっは、と笑って言いのけるレヴィン。うわ…性格悪…

 でもその通りで…奴の言っていることとアラキナ達の反応を見るに…結界が貼られたことは間違いあるまい。


「まぁ、ゆっくり話でもしようじゃないか。何、ほんの丸一日だ。」


 …最悪だ。最悪の足止めを、喰らってしまったらしい。


「…リン、あいつの魔力さえ尽きれば結界は消えるかも。あの結界自体、あいつが貼ったものだし。」


 アラキナが提案する。私はすぐに首肯し…再び向き直る。根拠無くとも…やるしかないだろう。それに…ちょっと、レヴィン見てると腹立つし…


「ほう…そちらのは魔法使いか。よく分かっておる。その通りだ。あの結界は私の魔力が尽きれば消えるだろうな。」


「随分と優しいんですね。答えを教えてくれるなんて…」


「さて…ならばこう付け加えるか?信じるかどうかは…お前ら次第、とな。」


 …何にせよ、この腹立たしい男を殴ってしまおうじゃないか。いい、暇つぶしになるだろう。


 この状況を俯瞰して見ていた『竜』が一匹。状況は、一変する。


 -----------------


「はぁ……っ…」


「ほれ、まだまだ私の魔力は尽きんぞ。」


「てやぁっ!」


「見え見えの足技はもうやめたらどうだ?」


「ノヴァ…」


「上級はやめておけ。仲間ごと巻き込むつもりか?」


 ありとあらゆる技に、対応してくる。最初の方は私の医術を活かした戦闘術には驚きはしていたもののすぐに対応された。そして魔法使いとしての格が違う二人も同様で…私達はただただ、疲弊していた。このままでは…本当に……まずい…


 嫌な考えが、頭に浮かんだ。その時…である。その瞬間、辺りの空気が揺れ…一瞬、静寂する。肌がひり付き、呼吸さえも許されているのか思考することを許されているのか何もかもが分からなくなるああもうだめだああ…

 私は知っている。一度この感覚を身にもって感じたから。


「は」


 レヴィンが何か言うよりも先に、その爪はレヴィンに襲い掛かった。どんな魔法も、蹴りも防いできたその『結界』は機能したが…圧倒的力を前に破壊され、レヴィンの肉を抉った。衝撃が走り、レヴィンは吹き飛ばされる。


「まて、なんだそれh」


 よろよろと立ち上がったところに、追撃の尾が放たれる。ただでさえ飛ばされたところをさらに飛ばされ、何度も地面に叩きつけられ…やがてどこかの木に激突した。


「グルルルルル……」


 白の『竜』は…木に激突し、尚も生きている男を睥睨する。その様子からは確実な『怒り』を感じた。

 レヴィンは地に跳ね返る際、防御魔法を器用に展開していたためまだ命はある。既に…風前の灯、であるが。


「っ……まさか…現代において『竜』が見られるとはな……流石に分が悪い…」


 レヴィンは何か魔道具らしきものを取り出し…詠唱を開始した。

『竜』はトドメの一撃を放とうと…口をもごもごさせている。これは、もしかして…


「『座標転移(テレポート)』」


「ガァァァァァ!!!」


 一瞬にして姿の消えたレヴィンの位置に、青色の炎が放たれる。まさしく、息吹…竜の象徴ともいえる、それだ。

 それは辺りの平原、そして大きな木を燃やし…溶かした。離れたここでさえ熱を感じる、それほどの所業。


「…………約束…」


 色々言いたいことはあるが…これならば…何とかなるんじゃないんだろうか?


 賢人審議まで、残り30分


 -----------------


 審議の場は王都の審議場、天井が開けていて主役となるものが中央にて話をする。そして観客席は中央に向けられ、中央を囲んでいる。さらに特徴なのは…天井が、開けていること。どうやら昔の昔、審議中いい場面で日の日差しが掛かるようにしたことが始まりらしい。


「うーん…リンちゃん、遅いね…心配だ…」


 ガルディスは既に審議の席に着いていた。開始時刻10分前。普通ならばとっくのとうに着いているはずなのだが…どうにも様子がおかしい。

 自分の向かいの席のアーカナ領領主フェルグライトが…何やらこちらをにやにやしながらちょくちょく見てくるし…何故かいるはずの第一王子の席が空席である。アーカナ領主と第一王子、そしてヴィンセントは繋がっている。推進派として。

 そのヴィンセントは今罪人としてガルディスの控室に置いているため当然欠席なのだが…にしても、欠席は多いし従者から何か言われたものがざわざわと騒ぎだしている。


 間違いなく、何かが起きている。それをガルディスはひしひしと感じ取った。


 そんな中…始まりを告げる鐘が鳴った。どうやら…リンちゃんは遅刻らしい。仕方あるまいと、ガルディスは自分が場を繋げようとした…その時


「ど、どいてくださーい!!!!」


 開けた天井から、もう聞きなれた声が聞こえた。皆の視線が…上空へと向く。そこには…


 伝説の白き『竜』の姿があった。


 -----------------


「ちゃんと聞こえたかな…」


 そう呟きながらも…『竜』に向けて高度を下げるように告げる。

 竜は頷くとゆっくり、ゆっくりとその穴へと向かって行く。


「これ…多分二度と出来ない経験だよね…」


「流石リン様…竜すらも手懐けるなんて…」


 二人は防御魔法で私達を覆うようにして落ちないようにしている。…私も思わなかったよ…まさかお留守番を命じていた竜が何故か馬車に乗り込んでいて、結果的に結界を破壊して乗り込むことになるなんて…


「きゅう…」


『竜』は高度を下げるに連れ、自身の大きさを縮めていく。どうやらサイズは自在に変えられるらしい。

 二人の見立てだと魔力で身体を作っているらしく本当の大きさはあの小さい姿、ということだ。


「…誰も思わないでしょうね。ですがこの際…しっかりと、英雄としてリン様を立ててやりましょう。『竜』すらをも従える『英雄』として。」


「うん…というかもうそうするしかない訳だし…腹括ってね。」


「うぅ…」


 どうしてこうなったのか……でも……なんというか、寧ろいずれバレる様な気がしていたことを良い感じに披露出来るのなら…いいのだろうか?


「もうそろそろですね。リン様、降りますよ。」


 私の身体がナ―シャに抱えられる。既に高度は審議場の中がはっきり見えるほど。

 私は一度深呼吸をした後…覚悟を決める。


「お願いします。」


「では、失礼して…」


 浮遊感が、身体に降り注ぐ。防御魔法と身体強化魔法を既に展開していると分かっていても少し怖いところだ。私達の着地点は丁度中央。審議台と呼ばれ話題の中心になる人物が立つところらしい。今回はどうせ私が立つことになるようなのでもう直接行ってしまおう、ということだ。


「うわぁ…人多…というかしれっと第一王子いるじゃん。」


 続いて竜から飛び降りたアラキナが観客席の様子を見て呟く。うわ、ほんとだ。しかも傷を上手いこと隠してる…あ、なんかこっち見てニヤッとした。


「はぁ…なんかあの人…」


 憎めないんだよなぁ…嫌悪感はあるのに、不思議なものだ。

 舞台は、審議の場へと移る。


 -----------------


 スタッと、スマートにナ―シャが着地した後、口を開く。


「遅ればせながら参上しました!こちら魔物の異常発生を解決に導き、かの伝説の『竜』さえも従えし二等治癒士、リン様です!!」


 張りのある良い声が、会場に響く。ついで、アラキナが隣に降り立つ。ローブを深く被り顔は見えない。さも不思議な感じをかもしだしている。二人が言うには強いものには隠れた強い従者がいるもの、ということらしい。


 と、何はともあれ…私の方に、一気に視線が向けられる。辺りを見渡せば議員席に各地の領主が、そして今回の審議を見に来た平民たちが観客席に座っている。これから…私が賢人になれるか、そしてヴィンセントを追放できるかの大勝負が始まる。緊張…してきた…



「……皆さま、ごきげんよう。…お紹介に預かりました。この度の厄災を解決し…『賢人』へと推薦された、治癒士のリンと申します。以後、お見知りおきを。」


 声、震えてないかな?ちゃんと届いてるかな?一応『拡声魔法』がここに仕込まれているらしいけど…

 緊張で胃を抑えたくなる中、皆の反応を待つ――――


「!!!!!!!!」


 歓声が、響く。天を突き抜けるほどの。反応は好感触…!ヨシ…次は…

 と、私が次のセリフを思い出していると…声を上げるものがいた。

 それは薄い赤色の髪に、黄色い瞳をしたガルディス様の向かい側に座っていた爺さん。あれ…なんかこの人…


「儂は認めんぞ!『竜』を連れた…そのようなガキ等…」


 正直、ありきたりな老害爺さんが出たなぁって…思っちゃった…ごめんなさい。






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