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序章4話 魔物の群れと1人の天才

魔物(まもの)は災害である。魔力に飢えた生命体、その無尽の欲は全てを喰らう。

 古よりヴェルディアの地に蠢く影狼の牙は肉を裂き、毒蛇の霧は大地を腐らせ亡魂の闇は心を狂わせる。一匹が人の魔力を食めば更なる群れを呼び、群れは嵐となって村、果てや都市さえも呑み込む。

 …千年前、かのセレンディス・エーテリアは魔力を持ち人を喰らう生命体を『魔物(まもの)』と呼称し人が排除すべき唯一の災害と宣言した。


 -----------------


「逃げろ!」

「絶対に手を離すな!」

「こんなの知らない!一体……何が……」


 喧騒で目が覚めた。一体何が起きているのだろうか。というかそもそも今夜は外に出るなって……


「いやぁぁぁぁ!」

「クソっ!こいつら!」


 大人たちの声だ。それと……狼のような、生き物の鳴き声。


『多分、魔物の群れじゃないかな。』


 ……エリカの言葉を思い出す。


「魔物……か。それも聞こえる声からして……被害が出てる。」


 行くべきか迷う。この村の人たちとはまだそこまでの面識は無い。それ故に……見捨てることは、まだ出来る。


「お父さん!お父さん!どこ!」

「っ──────────」


 それは、昼間私と話して目を輝かせていた少女の声だ。そして、お父さん、と呼んだ。彼女の父は多分私が治療した中にいた……一人。


「ああもう!」


 動く理由が出来てしまった。何せ……


「患者には寿命以外で死ぬことは許さない。」


 それが、私の矜持だから。


 -----------------


 繰り返しになるが……佐藤凛は天才であった。

 医術……人を生かすこと、そして、その逆に関しても。裏社会で生きるためだった。その為に叔父から教えを乞い身につけた。これもまた凛にとって……『医術』なのだ。


 -----------------


「お父さん!どこにいるの!?」


 エリカは闇夜の中父を探していた。寝る前は一緒の布団で寝ていたはずなのに外の騒がしさで目を覚ますと消えていたからだ。


「おと、う、さん……うう……」


 エリカの中にとてつもない不安が生まれる。周囲からの喧騒。魔物と戦っている大人達を見れば少女にも察しが付く。きっと父も……


「お願い、生きてて、お願いします……」


 少女は母を魔物によって失っていた。だから、今度こそはと神に祈る。


「助けて……!」




「分かった。」


 その少女の祈りに対しリンは淡々と答えた。


 -----------------


「分かった。」


 状況を冷静に見極める。とりあえずエリカが無事でよかった。ほかの人たちは……


「なるほどね……人手が足りない……って感じなのかな。」


 一人、確かリュイと呼ばれた青年が多数を討伐している。ただあまりにも数が多すぎる。だから村人達も協力して……ってところか。


「エリカ。」


 泣きながら祈りを捧げている少女の名を呼ぶ。


「エリカは怪我した人たちを1箇所にまとまるように言っておいて。出来れば……ミレーヌさんのところ!」


 そう言って私はナイフと、糸を取り出した。


「え……」


 困惑している。それも当然だろうけど今はぼーっとしている暇などない。


「早く!」


 私が大きい声を出したのが良かったのかすぐさま動き出してくれた。良かった……やっぱり……


「肝が据わってる。少なくとも私よりかは。」


 さっきの声が想像以上に響いたからだろう。複数の魔物が私目掛けて詰め寄ってくる。


「さて……どれだけ通用するかな。」


 案外と余裕を持って構えられた。

 今の私は……強い。だって……人を助けるために動いているから。


 -----------------


『狼型の魔物2体。蛇型の魔物一体。名称不明のためそれぞれ狼A、狼B、蛇Aと呼称。』

 ナイフを握り、狼Aの突進をかわし首に振り下ろす。ドクリと血が噴き、倒れる。

『狼A、首の動脈、急所。致命率80%。』

  狼Bが吠える。縫合糸を足に投げ、絡めて転ばせた後ナイフで心臓を刺す。……動きが止まる。

『狼B、心臓、左胸下3センチ。致命率90%。』

 蛇Aが霧を吐く。布を手に巻き、霧を払う。ナイフを頭に突き立てる。蛇が崩れる。

『蛇A、頭部、脳幹、急所。致命率95%。』

ズプリと、ナイフを蛇の頭から引き抜き、血を払う。

『3体、死亡確認。サンプル採取。完了……』


 まだまだ魔物はいる。夜は……長いから。


 -----------------


「……ふぅ……」


 ようやく、一息つける程に魔物が減った。既に夜明けが近い気がする。


「怪我人の対応に行こう。多分……もうあの人に任せれば大丈夫なはず。」


 あの人……リュイはまだ動けてる。しばらくは彼一人に任せても大丈夫……なはず。


「正直今の私が何をしようとしても邪魔になりそうだし、ね。」


 ミレーヌさんの家に戻ろうと、踵を返した……その直後。


 ドサリ、と……背後で嫌な予感のする音がした。


 -----------------


 何が起きた?背後から何かが倒れる音。音の大きさ的に……成人男性ぐらい?まさかリュイが?何があったこの一瞬で?私はどうすべき?助けに行く?怪我人の治療は?そっちはミレーヌがいるから……まずは……


「危険の視認。それと要救護者の救助。」


 振り向き、状況の把握を開始する。


『要救護者視認。男性、20代前半……血色が悪い。恐らくは毒物の類もしくは失血によるもの。前者ならば血清か、ポーションが必要。後者ならば……』


 カルテが組まれていく。自身の次の動きを示すために。


「正急な止血。消毒が必要。」


 そしてついにリュイとの距離が触れられる程のところに来た、まさにその瞬間。


「離れろ!」


 その叫びはリュイから発せられたものだ。まだ生きていることに安堵しつつ私はステップで距離を取った。


「っ……誰だか分からんが……この場は離れろ……こいつが、俺を喰ってる間に……皆を……」


 リュイの体が不自然に起き上がる。…いや、これは…何かに持ち上げられている?

 リュイは首に手をやり力を目いっぱい入れている。そしてさっきの少ししゃがれた声からして…


「何かに首を、それどころか全身を締め付けられてる。」


 その結論に至った。ただ問題はその何かが見えないこと。タイムリミットが刻一刻と迫っていることだ。

 リュイの顔色は芳しくない。遠目からでも流血が見えたのだ。首を絞め落とされずとも失血で死ぬ可能性も十分高い。


「…危険だけど、やるしかない。」


 私は…ナイフを地面に捨てた。その瞬間、その『何か』は地を這い接近してくる。

 これはさっきも魔物たちが音に反応したことから有効だと考えたからだ。


「ここまでは推定通り…後は…!」


 見えない相手。それの相手などしたことはない。それでも予想できることはある。


「…後手に回るべきではない。」


 相手の隙を突いてのカウンター、など論外だ。その相手も見えないのにどの隙を突いてどの相手に当てるというのだ。だから私は糸を巻き付けた針を適当な位置へ投げる。当然これが当たるなんて思っていない。これもまた…


「この場合は私とどっちを優先しているのか。」


 それを確かめるため。私が息を潜め…唯一頼りとなる敵意に対する直感を張り巡らせる。


『シャァァァァァ!』


 その直感が働いた時、その鳴き声が静寂に響き針の方へ紫色の液体が放たれた。


「っ…!?」


 一瞬にして針が溶ける。そして…その液体を放った存在を視認した。


「鳴き声、特徴、そして毒液…やっぱり…」


 ある程度の予想は付いていたが…私が相手をしていたのは毒蛇の魔物だった。それも…さっき狩ったものとは比べ物にならないほどの大きさの、まさに…大蛇とよべるほどの、である。


 -----------------


 リンは冷静に、本当に冷静に状況を見始めていた。ようやく身体の使い方が馴染んできたからである。


『…音に反応する。これは私の居た世界の蛇にも似ている部分がある。そしてこの状況。目の前に私がいるのにも関わらず反応は薄い。恐らくは目が悪いんだろう。後はあの液体。酸性のものか、毒…もしくは私の知らない物質のもの。ここでは毒液と仮呼称。毒液を吐いた瞬間に姿が見えた。つまり…』


 毒液を吐くことと透明になることは同時には行えないと考えるべきだろう。そこが付け入る隙だとリンは考察した。


『問題はその隙を何で、どうやって突くか。』


 リンは自身の装備、そして身体を改めて観察し、思考する。


『10~12代女子。身長は目測から140㎝、体格は少し小柄。体重もその分軽い…はず。手持ちはナイフ残り三本、針は5本、糸はまだ幾らでもある。でも…それだけ。』


 体格の小ささ…それが一番の問題だ。力が足りないことが決め手に欠けることに直結する。それはどれだけ綺麗に、的確に急所を貫いたとしても、だ。


『鱗の部分は硬い…と思う。狙うなら眼、腹部、胸部。ただしどれも正面から動く必要があり…現実的ではない。』


「ギャアアアアアアア!!!!」


 リンの思考が纏まるよりも早く、大蛇が痺れを切らした。大蛇は口を大きく開き身体をぐっと伸ばした。そして…


『毒液を吐くつもり…?』


 あれをまき散らされては周りへの被害も…リンが近づくことも出来なくなる。だから…


『考察…一瞬の喉の膨らみを視認。投擲…命中確認。』


「ァァァァ!!!ァァァァァ!!!」


 鋭く研がれた針は突くべきところを突けば死に至る。が…それは人間が相手の話だ。大蛇は痛みにより暴れている。巻き込まれないためにリンは急いで距離を取る。


『観察…毒液の吐出阻止成功。鱗のない部位になら針は通ることを確認…急所は喉、眼、胸部と想定。』


 ようやく、リンの中で結論が下りる。スッと態勢を低く構え目の前の大蛇を見上げる。


『疲労度80%。私にも余裕はない。だから…10秒で、終わらせる』


 糸を巻き付けたナイフを投擲する。その瞬間から…リンにとっての勝負の10秒が始まった。


 -----------------


 疲れているはずなのに、思っているよりも身体は軽い。そんなことを呑気に思考しながら静かに様子を伺う。蛇が動いた時が…仕掛ける時だ。


 そのナイフが地面に着地した瞬間、静寂に金属音が響く。


「シャァァァァ!!!!」


 大蛇が動いた。私は即座に大蛇目掛けて動く。大蛇は想定通りナイフに向けて毒液を放とうと一瞬喉をふくらませた。


『喉の膨張確認。投擲。』


 残り一本のみ残し針を全て投擲する。確実に当てるために。ここまでで、2秒。


『ギャァァァァ!!!』


 痛みから大蛇の身体が揺れる。その振動に紛れて私は接近し糸を大蛇の身体と結びつけた。これをするのに3秒


『縫合糸接続成功……!後は、対軸を安定させてから……』


 暴れる背中の上から最後の1本の針を投擲する。狙いは……目だ。これに、1秒。


『ァァァァァ!!!』


 怒りと痛みで大蛇の体は暴れ出す。もはや自身の身体の上だろうと構わず私目掛けて毒液が放たれようとしていた。でも……


『喉膨張確認……本来よりも速度半減。狙える。』


 確信を持って私は大蛇の身体を踏み台に心臓目掛けて……ナイフを突き刺した。


 ズプリと、嫌な触感がした。それでも私は確実に仕留めるために内部でナイフを捻った。


『心臓へ到達。致命率90パーセント。即座に、離脱を……』


『ギャァァァァ!!!ァァァァァ!!!!ガァァァ!!!』


 最後の抵抗と言わんばかりに凄まじい力が放たれた。すぐさま逃げようと、足に力を入れた……瞬間……


「あれ……?」


 全身から身体が抜けていく。まずい。疲労が……体力が既に限界で……このままじゃ……


「『フラム・エッジ』!!」


 私が意識を失う直前。誰かが私を抱えてそのまま大蛇の首を炎を纏った刃で切断した。


「名前も知らない嬢ちゃん、助かった。」


 青年が何か言っていた気がするが……私は耳に届く前に気を失った。


ご覧いただきありがとうございます!4話ではリンのカッコイイの部分を頑張って書きました!

最近ではpv数見るのが日課になってて毎日書くのが楽しいです!次回もお楽しみに〜

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