3章1話 宣戦布告
「少し、派手すぎませんか…?」
「そんなことありません!リン様、とってもお似合いですわ!」
キャイキャイと、楽しそうにエレナがはしゃぐ。……久しぶりに会ったと思えばどうしてこんなことに……
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始まりは、唐突だった。いや……急にシルヴァーナに戻ることになったのもそうだが……
「孤児院での活動、実にご苦労であった。詳しい話が聞きたいので後日私の屋敷に招待しよう。」
アルカナリスでの活動報告をしたらこれである。……飛んだ手のひら返しだよね。私の魔力評価が酷かったから仕方ないけどさぁ……
とまぁ、そういうやり取りがあって私は屋敷に招待された。今は、その時に来ていくためのドレスを見繕ってもらっている。
私は普段着ている治癒士の服でいいかと思ったのだがどうやらこれは個人的な誘いであるらしくそれは失礼に当たるらしい。ましてや準備期間を与えたのに、ということだ。
「お似合いです!」
「え、えぇ…」
私が来ているのは髪の色に合わせた黒に近い藍色のドレスだ。装飾は可能な限り無くして軽くしてもらったがリボンのレース等、可愛らしいものは残っている。
……似合ってると言われても不安で仕方ない。
「あのぅ……えっと……」
そして私の着付けのすぐ近くでもう1人、ドレスの着付けが行われている。
「動かない。装飾がズレる。」
「はい……」
まるで私のような返事をするのはアラキナである。彼女も元孤児ということもあってかこういうのに慣れていないらしい。
フィオナは淡々と作業を進めているがそれも関係あるだろうか?
アラキナが着ているのは私と同じようなリボンのレースの着いたドレスで、水色の瞳の色に合わせた色だ。私から見てもよく似合っているが……あぁ、なるほど。こういう気持ちなのか……
エレナが私を絶賛する気持ちを理解しつつ……身支度を終えた。
「ほ、ほんとに僕も行くの?ヴィンセントが居るんだよね?」
馬車に揺られている最中、弱気なことを言い出すアラキナ。確かに言ってることは最もだがこれは私からすると好機でもあるのだ。
「恐らくなんですが、ヴィンセントは未だ私を『敵』と認識してないと思うんですよね。」
「認識……」
一見、想定外から狙われる方が良いとも考えられるが……そうでは無い。
「なので水面下で宣戦布告してやろうかなと。正面から来てくれた方が……やりやすい、ですから。」
私だけが狙われるならいい。ただ仮に私が邪魔だと感じ、私を排除するなら……私であれば、周りの人間を巻き込むことを厭わないだろう。ヴィンセントもきっとそうだ。
だからこその宣戦布告。敵は『私』だけだと認識させる。正面から打ち勝つために。
「リスクも、あるよね?」
「当然。そもそも敵地に乗り込むんですから当たり前です。」
アラキナの存在は恐らくヴィンセントも秘匿していたはずだ。禁術を扱える人間だし、人体操作魔法の痕跡も残っている。
だからそのアラキナを見せれば私の滞在中、刺客をけしかけてくるかもしれない。それを承知の上で……私は先手を打つと決めた。
「さて……そろそろ着きますよ……覚悟の準備は……」
「ねぇ、リン……体調、大丈夫?」
「いつものです……」
心の準備は出来てても、馬車酔いだけは、待ってくれないのだ。
うぷっ……
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ヴィンセントの屋敷はシルヴァーナ領北の、アルカナリスに近い位置にある、あからさまな豪邸だ。
私と貰っている給金そんな変わんないと思うんだけどなぁ…?治癒士は国からお金を貰うので階級ごとに違えど大きな差は無いはずだ。まぁ、元々の身分差だったりで変わるらしいが。
聞いた話によればヴィンセントの実家はアルカナ伯爵家という、アーカナ侯爵の分家らしい。
…結局お金って、どんな世界でも大事なんだね…
「こちらが招待状です。」
「ルナリス治癒院二等治癒士リン様ですね。確認しました。…そちらの方は?」
門を越え、屋敷に入る前の確認で従者らしい恰好をしている女性がアラキナを見て問いかける。
私はあらかじめ用意していた回答を口にする。
「シルヴァーナの、ではなく…私の従者です。これから顔を見せることも多くなると思い、ヴィンセント様にもご紹介しようかと思いまして。」
「そうですか…念のため、所持品の確認をしても?」
「どうぞ。」
私は招待状を渡しただけで済んだが、アラキナはしばらく従者に色んなところをまさぐられていた。
荷袋の中身も確認し、仕込んでいるものがないことを確認できてようやく満足したらしい。疲れた顔で私の方へ寄ってきた。
「ヴィンセント様の執務室に案内致します。」
「ありがとうございます。」
礼を言い、従者に付いていく。屋敷の中には絵画やら、高そうな花瓶やらが飾ってあり下手に動き回ると壊した時の弁償代がやばそうだ。大人しく、事が終わればいいんだけどね…
「私室は三階の、一番東のところ。」
こっそりとアラキナが教えてくれたがそれでどうしろと?物理的に排除するの?
…逃走経路でも考えておこうかな。うん。他意は無いけど。
少し物騒な考え事をしていると部屋に着いたらしく、従者が足を止めた。
「こちらです……ヴィンセント様、客人でございます。」
「入れ。」
短い返答を聞いた後、従者が扉を開いた。私達のみ、部屋へと足を踏み入れた。
「ヴィンセント様、本日はお招き頂き…ありがとうございます。」
「構わない、ぜひ…楽にしてくれ。」
「失礼します。」
軽い挨拶を済ませ、椅子に腰かける。…うわ、かなりいい椅子じゃん。
アラキナの正体はどうにも完全には気付いていないようだ。多分化粧とかで雰囲気が変わってるからだね。実年齢よりもかなり大人びて見える。でもなんとなく疑っているのは、分かる。
「早速だが、報告書には目を通した。グランツェが随分世話になったみたいだな。」
「えぇ…ですが寧ろ私の方がとてもよくしてもらいましたよ。…色々ありましてね。」
「ほう…では私のほうからも礼を言っておこう。」
ヴィンセントがめちゃくちゃ笑顔なの怖いんだけど…なんとか私も取り繕えてる…よね?
ハラハラしながらも報告を終え、お茶が持ってこられた。まだ、話は続くようだ。
「ところで、そちらの者は?シルヴァーナの従者か?」
「いいえ、私の従者です。」
「シルヴァーナにそのような者が居た覚えはないが…新入りか?」
どうやら、まだ…気付いていない。いや、認めたくないんだろう。…自分の玩具が、自身に牙を向くなんてこと。
そのプライド、ぜひともへし折ってやろう。
「…実はですね、ここだけの話…アルカナリスにて拾ったのですよ。」
「…ほう?」
ヴィンセントの眉が、ピクリと動いた。
「何でも賊に襲われ職もなく治癒院を訪ねてきたのです。私…可哀そうで、つい声を掛けてしまったのです。」
我ながら上出来な演技だと思う。ヴィンセントはようやく理解したようであからさまな敵意がこちらに向けられている。しかしここには一般の従者もいる。すぐにすぐけしかけてくるわけもなく…
「治癒士として……大儀である。ぜひ、名前を聞いても?」
「アラキナ、と申します。以後、お見知りおきを。」
アラキナが声を発し、ヴィンセントの疑惑は完全に確信に変わった。
ギリギリと奥歯を噛みしめ、それでも尚笑顔は崩していない。…正直、その顔は傑作である。
「そうか……本日の要件は以上だ。ぜひ、泊って行ってくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
礼は言うが…そんなのお断りだ。何か仕掛けられることなど誰が見ていても分かるだろう。
だから、内心で…私は、呟く。
(いい気味です。どうでしたか?私の宣戦布告は。)
始めよう…魔法至上主義をこの世から無くすための闘いを。
短めですがキリがいいので…!




