2章11話 人の縁
2章ラストです!嬉しいことにブックマークが増えていて作者ホクホクしてます。
追記 なんか最後らへんの文章飛んでて急いで加筆したので少し雑かもです……申し訳ない!
アラキナの手により全ての魔法印は解除されたらしい。その際にスラム街にて何人かの子供を回収することができた。無論、中には……死んでいる者もいたが、それでもかなりの数の子供を救えたというのは不幸中の幸いだろう。
「…よかったのよ。まだ生きてる子が居てネ。」
ビルグレイも少し、安堵していた。ただ、やはり全員を救えなかったことは悔やんでいるようだったが。
これはビルグレイの気持ちの問題だろうし、いずれは解決することだろう。
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「こちらがこの度私のお付きの従者になったアラキナさんです。皆さんご挨拶を。」
「アラキナです。よろしくお願いします。」
アラキナは私の従者として新たにシルヴァーナから送られた人…という設定で皆には紹介した。
命がけで殺し合って利害の一致したから助けましたなんて言ったらとんでもなく驚かれると思うし、正気を疑われるかもしれない。
というか実際にガルディス様は椅子から転げ落ちたと魔道具で通話した際にフィオナから聞いた。
「よろしくお願いしまーす!」
アラキナの挨拶にとても元気のいい挨拶が返ってくる。授業前の紹介ということもあって皆とても元気に溢れている。
ただそんな中、アラキナを見て少し肩を震わせている人がいた。…ビルグレイである。
「…私はこれから授業を致しますので、ビルグレイさんとアラキナさんは少し外で待っていてもらえますか?」
「ありゃ、邪魔だったかナ?」
「…失礼します。」
二人が、勉強部屋を出ていく。無駄な気遣いだっただろうか。一応話には聞いていた。アラキナは元々孤児院のただの一人の少女だったと。ビルグレイの方が覚えているのかもしれない。二人だけで話す時間を上げてもいいだろう。
「じゃあ授業を始めます。今日は…」
ちゃんと、話せたらいいな。
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「………」
「………」
二人は勉強部屋を出た後、別の空き部屋にて向かい合って座っていた。
そこに言葉は無く、沈黙がしばらく続く。
「えっと、お茶でも入れてこようか?」
気まずそうに、ビルグレイが言った。それは会話を始める合図となった。
「…ミルク。」
「分かったよ……あったかいのだね?」
アラキナが要求するとさらに察したようにビルグレイは言葉を重ねた。アラキナが頷くとビルグレイはキッチンの方へと向かって行った。
「爺ちゃん…」
落ち着かない様子で部屋を見回すアラキナ。
少しは成長しているが、特徴的な髪の色や瞳の色は何も変わっちゃいない。
「待たせたネ。はい。ミルク。」
ビルグレイが覚束ない手つきで湯気の立つマグカップをアラキナの前に差し出す。
きっと、ビルグレイも緊張しているのだろう。
「……」
「……」
お互い、飲み物を啜り、またも沈黙が訪れる。
「……ごめんネ。」
「っ…」
話を切り出したのはビルグレイだった。その謝罪には、様々なものが込められている。
罪悪感、後悔、そしてアラキナを心配していたという気持ち。
「あ……爺ちゃん……」
「君や、他の子達には悪い事をしたと思っている。本当に……ごめんネ。」
再度、謝罪の言葉を口にし……深々と、頭を下げた。思わずアラキナは目を見張り、首を振った。
「爺ちゃんは、悪くなんて…」
「僕はね……僕みたいな先の短い老体よりも治癒院の、ちゃんとした人達に任せた方がいいと思ったんだ。ただ……そのせいで、君たちを不幸にした。本当は僕が最後まで面倒見るべきだったのに……」
アラキナは何も言えなかった。ビルグレイの言ったことはその通りであるから。でも、責める気にもならなかった。ビルグレイのやったことは結果的に良くないことになっただけでその本質は自分達を思ってのことであるから。
「というのは、言い訳だよ。本心は……僕はね、怖かったんだ。僕がもし仮に死んだ後……残された君たちがどうなるのか、考えるのがネ。だから……僕は逃げたんだよ。君達から。」
ビルグレイの本心である。人一倍思いやりがあるからこそ……人の、子供達の気持ちに敏感だった。
「アラキナ、君がどんな人生を歩んできたか、僕には分からない。だから恨み言も、どんな罵詈雑言も聞こう。君にはそれをする権利がある。」
これはビルグレイの贖罪。そしてその覚悟を示した。それに対して、アラキナは……
「爺ちゃんに罵詈雑言も、恨み言も、無いよ……ただ……」
立ち上がり、ビルグレイに抱き着いた。
「ちゃんと、お別れを言いたかった。なんで、急に居なくなるんだよ…… 」
ビルグレイに抱きつく力は強まり、段々と、アラキナから嗚咽が漏れ出す。
その様子をビルグレイは黙って、見ていた。アラキナの言葉を嚙みしめるように…
「アラキナ、すまなかった。」
頭に手を伸ばし、白い髪に触れながら、3度目の謝罪。それでもビルグレイの瞳には後悔が残り続けている。
「もう……居なくなんないでくれよ……お願いだからぁ……」
嗚咽混じりに、懇願する。もう二度と、孤児と先生という関係にはなれない。この先、アラキナは大きい争いにも巻き込まれていく。
それでも……今、この時間だけは……2人は昔の関係と何も変わらなかった。
だから、ビルグレイは……
「あぁ…今度は……必ず……」
守ってみせる、そうビルグレイは静かに誓った。
わんわんと泣くアラキナが泣き疲れて寝るまで、そう時間はかからなかった。
アラキナが起きるまでビルグレイはずっと傍で見守っていたという。
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「余計なお世話じゃなかったようで…安心しました。」
授業も、食事も終え、やるべきことを終えた私は私室にアラキナを呼び出した。
…今日、少し話し合う必要のある案件が飛んできたのだ。
部屋に入ってきたアラキナの目元は少し腫れていた。…先ほども言ったが、自分の気遣いが無駄にならなくて、本当に良かった。
「…ありがとう。こうして僕が生きて、爺ちゃんに会えたのは…紛れもなく、リンのおかげ。だから、ありがとう。」
二人で何を話したかは野暮だし聞かないでおくべきだろう。
…本当に、会えるのはこれが最後になるかもしれないし…しっかり話せたのならそれでいい。
ここからが本題である。
「…アラキナさん。本日お昼頃にルナリス治癒院から戻ってくるようにと連絡がありました。なんでもアルカナリス治癒院付きの孤児院の再建についての褒章を与えるとか。」
「流石…早いね。昨日の今日で…」
昨日、グランツェの魔法でアラキナの人体操作魔法を解除した時点である程度予想はしていたが…早馬を出してまで動いてくるとは思わなかった。
ただ、これはこちらにも悪い話ではない。今一度、シルヴァーナに戻って状況を確認したいところだった。
「フィオナさんに連絡は済んでいるので明日の朝、出立しましょう。準備の方をお願いします。」
「分かった。」
「あと…私はこの後急用外出しますので、それに付いていただきたいのですが。」
「すぐね?それも分かったけど…僕じゃなくて、ほら…ナ―シャさん、だっけ。そっちじゃなくていいの?」
「ナ―シャさんは少し用があって少し前から外してもらってます。なので、お願いしますね。」
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話し合いの後、私はアラキナを連れてアルカナリス治癒院へと向かった。
多分当分はここには来れないだろうし、世話になったグランツェに挨拶をと思ったのだ。
「グランツェさん、いらっしゃいますか?」
いつものようにドアを叩くと慌ただしい足音が聞こえ、堀の深い顔が見えた。
「リンか…すまないな。今少々立て込んでいて…」
「お忙しいところ、申し訳ありません…どうしても話さなければいけないので…」
深々とお辞儀をして断りを入れる。急ぎで来たためアポも入れていなかった。
少し考えた後、グランツェは私達を部屋に招いた。そこには想像通り…否、想像以上に散らかっている書類の山があった。
「先日、唐突に仕事を任されてな。なんでも王都付近の街で魔物の予兆があり治癒士が出ているそうだ。」
そのため、各地の治癒院に仕事が振られた…ということらしい。…少し、話に難いが仕方あるまい。
「えぇと……グランツェさん。」
「あぁ…話だったな。」
お互い座り、向かい合う。何度か仕事を手伝いに来ていたがこれで終わりとなると少し寂しいものがある。
「私、ルナリス治癒院に戻るように言われました。」
「………アラキナが関わっているのだな?」
「はい。」
察しがいい。すべてを離さなくても理解されるというのはやはり心地のいい感覚だった。
「なので、明日の朝にはアルカナリスを出立するつもりです。そのための引継ぎに来ました。」
「そうか…」
少し、険しい顔になっていた。私が手伝っていたから少しはマシになっていたのが仕事量が増えた上人まで減るのだ。心配である。
「この書面に一応私の仕事内容は書いてあります。孤児院の方は、ビルグレイという老人に任せてあります。ぜひ、合間に会ってみてください。」
「ふむ……よく、できている。分かった。そちらも話しておこう。」
なんというか、お互いに相手に合わせる感じがするのですごい気が合いそうだったのだ。まぁ、そうでなくても私の周りに孤児院を任せられるのはビルグレイぐらいなのだが…
今思えば少し数奇なものだ。この街にきて、初めて知り合った人とここまでの仲になるとは。
「それと…いくらか仕事を持ち帰らせてください。挨拶の用意も無かったので、それぐらいはさせてもらいます。それに…倒られるとすごく困るので。」
「………助かる。」
「話は、以上です。短い間でしたが…とても、とてもお世話になりました。」
私が治癒士として働いたかと聞かれれば少し疑問が浮かぶがグランツェにはとてもお世話になった。ラフィのこともそうだし、孤児院を私に任してくれたのもそう。アラキナを、拒まず、秘匿すると約束してくれたのも。
「リン……其方の道に幸あることを願っている。」
私達が帰る直前、グランツェが口を開き、そう言った。
これは、貴族の挨拶だ。この言葉には、決まった返答がある。
「ありがとうございます。…いずれ、貴方にも春が訪れること、お祈りいたします。」
自分も幸せになるから貴方も幸せになってね、という単純なものだ。
貴族の言葉遣いを勉強していてよかったと、心から思った。
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「では、参りましょう。リン様。」
ナ―シャがいつぞやかの旅装で、言った。
「はい…また馬車ですか…」
「仕方ありませんよ…ですが、私の運転ならば…リン様もナ―シャさんも無事に送り届けられます。必ず。」
私が馬車にげんなりしているとアラキナが励ましの言葉を口にする。孤児院の子達が見送りに来ているからか、敬語で、である。
どうやら馬車の運転はアラキナがやるらしい。ヴィンセントにこき使われていただけあってかなり多才なようだ。
「ねーちゃん、もう行くのか?」
「はい。戻らないとなので。」
「そっか…」
ルアンが心底落ち込んだ顔で呟く。…大丈夫、ちゃんとお別れするって決めたから…
「頑張って、ね。えっと…皆も、ちゃんとお勉強してね?」
「はーい!」
もっといいこと言うつもりだったがこれじゃあ田舎のお母さんである。…それも悪くはないか。
こんなにもいい返事が返ってきた訳だし。
「ふぉふぉ、全部、僕に任せて頂戴ヨ。今度は…逃げないからネぇ。」
白い髭を撫で、ビルグレイが言う。きっと彼になら任せて問題ない…はずだ。
もうそろそろ、いいだろう。これ以上残ると別れが惜しくなる。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
元気のいい声を受けながら、私達は馬車に乗り込む。
ルナリスへと戻るために……行きから1人増えた、帰路を辿る。
「しばらくお別れかぁ…」
寂しい気持ちを抱きながら。
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ちなみに、ちゃんと馬車で酔って死にかけたとさ。
次は恒例になってきた登場人物紹介です!いつもより人数多いので読む際にはお覚悟を。




