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2章10話 無慈悲だった闇医者

 その詠唱が響いた瞬間、昼間に見たラフィの腕から放たれたのと同じ、紫の光が暗闇で灯る。

 一体、何が起こる……


「……あ、あれ?なんで……」


 ……何も起こらない。つまり今のが、魔力吸収、ということか。図らずともこれがメリットとして活きたようだ。



「知ってしまったなら仕方ありません。」


 ただ、知られたならば都合が悪い。生け捕りにするつもりだったが殺すしかない。……それに術者だろうし、やるしかない、かな。


 躊躇のない、隙だらけの目に対する針。

 鋭く長い針が、女の眼をズプリと貫く。


「ぁぁぁぁぁ!!!」


 声にならない悲鳴が、響く。だが……手はとめない。追加の針で、今度は喉を狙った。


「『ミルぅアルカス』!」


 しかし……防御魔法により、はばかられる。


「クソっクソっクソっ……なんなんだ……お前……!なんで、僕の魔法が効かない……!」


 そのまま後ろへ距離を取りながら、恨めしげにこちらを睨んでくる。

 ……なんでと言われてもね。


「答えるわけないでしょう。」


 するりと、殺した視界の方から距離を詰める。

 当然それぐらいは読んでくるだろうが……それは、あくまで読みであり正確性の欠けらも無い。


 乱雑に放たれた魔力の塊を避けながら……女の右横まで近づき、そして背後へ回る。


 やはり、確実にやるならこうするしかない。


「がっ……ひゅ……」


 すれ違い様に引っ掛けた糸が今度こそ首をがっちりと絞めた。

 今回は2重どころか、持っている糸全てを束ねた。

 その上足場も安定している。これは、確実に貰った。


「いや……ぁ……」


 それでも、死という恐怖が女を突き動かす。ジタバタ、ジタバタと……とてつもない力で。


「う゛ぃん……せんと……さま……ぁ……」


「っ……!」


 完全に堕とす直前に着いた言葉……それが、一瞬手を緩めた。

 それによって女は死にきれず、今度こそ気絶し地に突っ伏した。


「……仕方ない、か……」


 私は手足を縛り解いた糸で口まで防いだ後、ズルズルと引きずりながら治癒院へと戻った。


 -----------------



「……ただいま戻りました……」


「む、大丈……夫か?」


 私の姿を見て少し驚愕している。まぁ、擦り傷だらけ、泥だらけで帰ってくればそりゃそうなるだろう。


「少し、危なかったですけどなんとか確保しました。」


「……もしや、其方……今はそれどころじゃないな。直ぐに治癒をかけよう。」


 グランツェが私に向けて治癒魔法を掛けてくれる。初めて掛けられたが……なんというか、温かいお湯に使っているような気分になる。


「ありがとうございます……こちらの方は、恐らくは件の刺客でしょう。少し気になることを喋っていたので……尋問したいと考えています。」


 手足と口は塞いだまま、柱に括り付ける。

 これならば動こうにも動けまい。ようやく落ち着くことが出来る。


「尋問か。ふむ……わかった。」


「心配しなくても……きっと吐いてくれますよ。えぇ……」


 なんとしても吐かせて、私の平穏を返してもらおうじゃないか。主に、いつ魔力ゼロがバレるか分からないという心の平穏を。


 -----------------


 交代でグランツェと見張りをしながら女が起きるのを待っていた。グランツェは私だけで構わないと言ったが……下手なことを言われる訳には行かないので私自ら買って出たのだ。


 数時間後、女はようやく目を覚ました。そこで私は口元の縛りを解いた。

 グランツェが言うには基本的に詠唱出来たとしても上手く標準が定められなければ意味は無いと言っていたから……それに、喋れなかったら意味無いしね。不意打ちじゃなければ反応できると思う。


「ぅ……ぅ……」


「おはようございます。」


「ヴィンセント様!お許しを!」


 まだはっきりと目が覚めていないらしい。堂々と主犯の名を喋ったよ今。


「残念ながら、私はヴィンセントではありませんよ。」


「ぇ……ぁ……っ……お前……は……」


「どうも初めまして。私は貴方を捕らえた治癒士のリンと申します。」


 治癒士と名乗っていいものか少し迷うがそう名乗る方が恐ろしいんじゃないだろうか。治癒士が、あそこまで動いて自身を捕らえたということになるから。


「なんで……僕を、生かした……どうせなら……殺してくれよ……」


 悲痛な表情で、そう呟く。そこには憎悪も、怒りもない。あるのは諦めだけだ。

 ……そういう訳にも行かないんだよね。


「なんで、という疑問に答えるなら貴方が私の求める情報を握っていると判断したからです。」


「情報……」


「……素直に吐くなら痛い目は見なくて済みますよ。」


「そうかよ……なんでも聞けよ……」


 やはり、諦めている。……何か違和感がある。

 騙し討ちするためのブラフ?それとも本当に…


「では、貴方はヴィンセントという人物を知っていますね?」


「あぁ…僕の……僕をこんな風にした狂人だよ。」


 頭を振るい……髪で隠れた目が見えた。その目は貫かれたはずが治ってきている。


「私を作る際に行っていた何かの魔法実験の影響らしいが奴はそれを見て喜んでいたよ。無限に使える実験体が産まれたってな。」


「そうですか。」


 聞く必要は無い。ヴィンセントの手先であるなら漏れなく私の敵と言える。それだけ分かればこの質問は十分。次へと進める。


「何故魔力が必要だったのですか?」


「ヴィンセントの、命令だ。」


「人体操作魔法と関係があるのですね?」


 一瞬驚き目を見張る。


「そうだ。ヴィンセントはこの街で活動していた時から孤児の魔力を吸収し続ける仕組みを作ってある。それも、我欲のための。今回はそれが1つ潰れたからグランツェの関与を疑ったらしい。」


 随分と素直に吐く口である。最初の敬称が今は無いことを見るに……かなり、恨みを持っているように思える。


「それでグランツェの家を襲撃しようとしたら何やら待ち伏せてそうな子が居てね……黙らせようと思ったんだけど…」


「見事捕まった、というわけですか。」


「えぇ。」


 ……さて、どうしたものか。得られる情報はこれ以上無いように思える。とにかく、ヴィンセントの関与であることが分かったのならばそれでいい。


「……聞きたいことは聞けましたし……死にますか?」


「……」


「安心してください。苦しまず、1突きで出来るので……」


「好きにして……もう僕の人生はめちゃくちゃなんだよ。」

 

「そうですか。」


 静かなやり取り。私はこれ以上情を感じる前に仕留めようと、ナイフを手に恐らくは急所であろう心臓へと……振り下ろした。


「駄目ですね……昔であれば、人の目など気にせず淡々とやるべき事をこなしていたのですが……どうにも最近は人の機微に敏感になってしまったようです。」


 そのナイフは、女を縛っていた柱に刺さった。

 もちろん、意図的にやったことだ。

 私がそのナイフを刺す直前、名前も知らない敵である女と目が合ったのだ。そして……その目は物語っていた。


 何もかも諦めた。死んでいなくなりたい。でも……誰か、救って欲しい。助けて欲しい、と。


 憶測なのに確信を持てる。間違いなく……『助け』を求めた。


「……?なんで……」


「貴方が約束を守るのであれば、生かしてやりましょう。」


「いらない。どうせ生きて帰ってもヴィンセントに……」


「私は、そのヴィンセントを排除するつもり、です。排除と言っても、社会から、ですが。今はそのための証拠を集めています。貴方は、ヴィンセントの被害者であり証拠です。生かす理由はあります。」


 ……成り立っていない。もし仮にこの女が嘘をついていたとしたら?これは土台から崩れる理論だ。でも……その目を、気持ちを信じたかった。


 女は目をパチクリとさせ……唖然としている。


「正気か……?」


「私は貴方が約束を守るなら、と言いました。破るつもりならば容赦はしません。」


「……その、約束って」


 少し、その曇った眼に希望が宿ったような気がした。ここが、分岐点だ。私にとっても、この女にとっても。


「魔法印を全て解除すること。それとシルヴァーナに生涯を誓うこと、です。」


 短いが、重い約束だ。特に後者。結局のところ、誰かに使われ続ける存在になることに変わりは無い。

 ただ、それに加えこれだけは誓って言おう。


「仮に話を受けるのであれば……これは個人的な約束ですが、私が貴方を『助け』ます。この先、何があっても。」


 助けるのは得意分野だ。私は……医者だから。

 今回のは意味は違えど本質は同じだ。


「…本気で、言っているの?」


「はい。嘘をついているように見えますか?」


「……見えないよ。貴方、寧ろそういうのは下手そうだもの。」


 ハハッと、乾いた笑いが漏れ出る。どうやら……上手く、届いたようだ。

 女は、悪巧みをする時のような、ちょっと悪っぽい笑みを浮かべて、言った。


「僕はアラキナ。一緒に、ヴィンセントの野郎に土付けてやりましょう!」


 -----------------


 アラキナ人物紹介


 アラキナ(15)

 10の時、ビルグレイ経営の孤児院に居たところで治癒院に利権が渡り、ヴィンセントに実験材料として扱われる。2年ほど、ヴィンセントの任期が終わるまで苦痛の日々だった中さらに実験の後遺症を受ける。『再生魔法』という『治癒魔法』の上位互換の魔法印が偶発し、うなじの辺りに埋め込まれた。ヴィンセントは逸材とし手放さないべく既に幾らか不完全ではあるが人体操作魔法が各部位に使われており完全な自由が無い。

 そのためヴィンセントには従順なフリをしていたがメラメラと復讐の炎を燃やしていた。

 ただリンに負けたことで死を覚悟。様々な想いも、へし折られたがそのリンにより再起。今度こそ負けないと決意を固める。

 一人称は『僕』。珍しい淡い白い髪に水色の瞳、真っ白な肌が特徴。






こういう感じの相棒?的な枠の子は出したくて今回の話を作る時に考えました!アラキナちゃんは作者の癖が詰まった子です。ぜひみんなで可愛がろうね( ◜ᴗ◝)


リンが日に日に饒舌になってる気がする……成長だと思っといてください(^^;

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