序章3話 悲報:魔法使えなかった
「『魔法至上主義』……って、何ですか?」
不安を胸に、尋ねる。知らない。知りたくない。嫌な予感が……する。から。
「……『この世界の全ては魔力を持つ。』」
誰かの声真似のようなものをして、ミレーヌが呟く。
「かの有名な原初の魔法使い『セレンディス・エーテリア』の残した言葉さ。」
セレンディス・エーテリア……?
「つまり、全ての人は魔力を持ち魔法を使える、皆平等に歩もう……ってことらしいが、今の世はどうなのかねぇ……」
皆が、魔力を……持ってるの?なら、私も……
「ま、そんなことはどうでもいいさね……魔法至上主義ってのは魔法は『神』から与えられたものであり全てにおいて尊ばれるべきものとする考え方……みたいなもんさ。この国で生きるものは言葉より先に親からそれを教えられると言われてる。」
だから驚いたんだ。と、一人で納得しているとミレーヌは立ち上がり人差し指を伸ばした。
「『ミル・ヴェルミリオン』」
何も無い、指先から炎が起こる。暗い部屋に光が灯り熱を感じた。
「これが魔法さ。皆、料理したり、薪に火をつける時に使ってるはずなんだがね……あんたの親は少し変なことばかり教えたみたいだね。」
火を一瞬で消しながらなんとも言えない顔を向けられた。同情のような……心配のような、そんな感じの顔。
「……仕方ないさね。」
何も言わず突然部屋を出ていく。待つこと数分、何やら分厚い本を持って部屋へ入ってきた。
「魔法史について少し載ってる。後、使い方もね。この国のガキはこれで勉強するものなんだよ。こいつやるから勉強してきな。」
ドスンと、机の上に本が置かれる。パラパラと少しめくってみる……
「文字、読めた。」
読めないと思っていたが……どうやらこの子の親も流石に読み書きは教えていたらしい。一安心だ。
「ありがとう、ございます!」
これを使えば……私も、魔法が……使えるのかな?
少し、ワクワクした。
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結論から言おう。
…………使えなかった。
しかも、原因が考えたくはないが……
「……この子の身体、もしかして魔力が無い?」
魔法には3つのステップがあるらしい。
魔力感知、魔力制御、発動である。
魔力感知が体内の魔力を意識し現象のイメージをする。
魔力制御が感知した魔力をイメージに沿って形作るらしい。
そして発動で形作ったものを現実化する。という分かりやすい説明であるのだが……どうにも1つ目の魔力感知すら出来た感じがしない。
「1つ目の時点で詰んで……る?」
魔力を全く感じないのだ。もしかしたらやり方が間違っているのかもだけど……
「というかこれ、説明がふわっとし過ぎてる……何?グッと力を込める、とか目を瞑って集中とか……意味あるの?」
そもそも正確な説明がない。だからどちらかと言えばセンスが問われるタイプの技術なんだろうか。
「順調かい?」
うーんと首をひねらせていると背後から声が掛けられた。ミレーヌだ。持っているお盆にはコーヒーと焼き菓子のようなものがあった。
「もう半日近く籠っているんだ。流石に何か進展が……」
「あのぅ……」
本当は知りたくない。でもこの世界で……この国で生きるなら分かっておかなくちゃ……
「ん?なんだ?分かんないとこでもあったのかい?」
言わなくちゃ……言わないと、伝わらない……から。でも、もし言って本当に魔力が無かったら?怒られる?殴られる?捨てられる?私は……どうなる……の?
「えっと…………魔力、感知が、出来ません。」
言ってしまった。ドクドクと心臓が高鳴る。怖い。怖い怖い怖い……
「あぁ、やっぱりね。皆そこが分からないもんさ。それこそ私たちみたいな平民は魔力が少ないからね。」
思っていた反応とは違った。でも……どうなんだろうか。不安は、消えない。
「コツはね、お腹の下あたりから……ん?あれ?あんた……」
私の腹に手を当てた時、ミレーヌが妙な顔をした。
「なんだい……こりゃ、本来あるはずの魔力の塊みたいなのが無いねぇ……」
魔力の、塊……
「本当ならそこから流れを教えるのが定番なんだが……もしかすると、もしかするかもしれないね。」
嫌な予感。最悪が想起される。不安で心臓が爆発しそうだ。
「……たまにいるんだよ。魔力を持たずに生まれるか、魔力の器が欠損しているのがね。」
全てを察したような口ぶりでミレーヌが教えてくれる。それでも、不安は尽きない。
「あんたがどっちだろうと構わんさ……改善方法も無いからね。それよりも、そのことは決して口外しないように。」
「……言ったら、どうなるんですか?」
知らない方が心の安寧は保てるが……知っておかなければ危機感が持てない。だから、聞いた。
「……運が良けりゃ金持ちの奴隷として生きられるだろうね。大抵のやつは殺されるか、どこか別の国でひっそりと暮らしてんじゃないのかい?少なくともまともな暮らしは出来ないだろうよ。」
それは無情な話だった。必ず言わないと決心し……これからどうするかを考えなきゃいけない。
「……ミレーヌさんは、どうするんですか?」
私は覚悟を持って尋ねた。最悪の場合は……
「……そんな怖い顔で睨まなくたって、大丈夫さ。私ゃ慎ましく生きたいのさ。わざわざ売ったりしねぇし助けもしねぇよ。」
カカっと笑ってそんなことを言った。まるで……宥めるように。
「あ、りがとう、ございます……!」
涙を流しながら私はお礼を言った。ちゃんと言えてなかった気もする。それほどまでに、安心した。
「ったく、泣くな泣くな!私ゃあんたがどうでもいいだけだ!心配してる訳じゃない!」
悪態を付きながらも布巾で私の涙を拭う。その行動が、言葉が暖かかった。
(私に、何が返せるだろう。)
この暖かくて優しい人に。詳しいことも聞かずに助けてくれる……お人好しな貴方に。
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「全く……世話の焼けるガキだ。」
どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。昨日も散々働かせた訳だしそれもあるのだろう。
「ほんとは働けなくなるまでこき使ってやろうと思っていたのに……ダメだね、私も……随分と甘くなった。」
毛布をかけてやりながら呟く。
「……魔力ゼロ、しかし医術においては私をも凌駕する……か。どういう育て方をしたんだ……全く……」
頭をガシガシと掻きむしる。この子を拾ってからどうやら私の止まっていた時間が動き出したみたいだ。
「ゆっくりと余生を過ごしたかったんだがね。」
経った4日前。そこからだ。山の中で散歩していた時、瀕死の家族を見つけた。父親は既に死んでおり子供も瀕死……母親はその亡骸を抱いて泣いていた。その、母親が言ったのだ。
『お願いします。この子を……この子を、救ってください。私は、いいから……』
ここまで言われて無視できるほど人間をやめちゃいない。だから最低限、働けるようになるまでは面倒を見てやろうと、そう考えていたのだが…
「あんたとは長い付き合いになりそうだね。」
なんとなく、だ。何、女の勘は当たるもんさ…
「それに、あんたは魔法が使えないことを憂いていたみたいだけどね…魔法なんて大したもんじゃないんだよ。」
暖炉に火を付けながら、独りつぶやく。
「その医術さえあれば問題ないよ。元医者の私が保証してやる。」
そう言い残し私は部屋を出る。
(ここからだろう…?面白いものを見せてくれるのはね。)
フッと笑みを浮かべて。
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「おじちゃん、買ってほしいものがあるの」
凛はもじもじと指をこねながら自身の養父となった叔父にねだる。叔父はこれが初めて凛からされたおねだりだったため驚きながらも笑顔で尋ねた。
「ほしいもの?なんだい?言ってごらん。」
しゃがんで視線を合わせる。この人はみかけによらず笑顔が優しかったし態度もきっと怖くないように繕ってくれてた。だからこの時の私でもまともに話せた人だったんだと思う。
「あのね、本が欲しいの。」
「本…?」
もっと年頃のおもちゃやらを欲しがると思っていた叔父は少し怪訝そうな顔をしたが喜んで了承した。
「なんの本が欲しいんだい?」
「お医者さんの本。お父さんとお母さん、寝たきりなんだよね?私が、元気にしてあげるの。」
この時では珍しく凛が自身満々な口調で胸を張って言った。
「…そうかい。分かったよ。今度買ってくるね。」
「ありがとう!おじちゃん!」
凛は嬉しさのあまり飛び回っていた。
この笑顔が嘘だなんて疑うこともなく。
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なんだか、懐かしい夢を見ていた。
「ぅ……うぅん……んんぅ?」
重いまぶたを頑張って開きながら身体を起こそうとした。が、身体が重く動かない。
「……金縛り……?」
の割には部分的には動くから……何か重いものが乗ってる……?
「あ!リンちゃん起きた!!」
………………………………!?
「ど、どどど……どど、どちど……」
火事場の馬鹿力が働いたのだろう。上に乗っかっていたらしい少女を跳ね除け部屋の隅まで逃げて毛布に包まる。
「リンちゃん、芋虫みたい!」
少女はキャッキャと楽しそうに笑っている。……これ、どういう状況……?
「寝起きなのに随分元気じゃないかい。リン。」
「!」
まさに天の救いのようだった。ミレーヌが部屋の戸にもたれ掛かりニヤニヤと楽しそうにこちらを見ている。
「リンを起こしてくれてありがとうね。エリカ。」
「お易い御用だよ!」
エリカと呼ばれた天真爛漫な少女はえっへんと胸を張り得意そうに言った。
「あ、あの、ミレーヌさん、なんで……」
色々と聞きたいことがある。この少女のことも、その対応で慌ててる私を見て笑ってることも。
「その子がお礼したいってさ。せっかくだし歳の近い子との交流もしてみな。私みたいなのとばかり話してたら老けるぞ。」
それだけ言うと部屋を出て行った。お前の意見は聞くつもりは無いと言わんばかりに。
(置いてかないでぇぇぇ!!!)
思わず手を伸ばしそうになった。でも……
「……!」
めちゃくちゃ期待のこもった眼差しを向けられ、私は腹を括ることにした。
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着替えやらの支度を済ませた後私はエリカちゃんとテーブルを挟んで向かい合っていた。
「えっと、エリカ……さん、はお礼、がしたい……って……えと、身に覚えが……」
無いと、言おうとした……が被せてエリカが口を開いた。
「エリカでいいよ!リンちゃん!あのね!リンちゃんのお陰でお父さん元気そうなんだ!前よりも身体の調子がいいって、昨日も肩車してくれたの!あとね!あとね!」
1度開いた口は止まることを知らない。私が口を挟めるはずもなくエリカが10数分話し続け、ようやく一息つく。
「つまりね!めちゃくちゃありがとうってこと!それにすごいよね!ポーションも使わずに治しちゃうなんて!魔法みたい!どうやったの?」
「え、えっとぉ……」
ここで口を開かなければまたしばらく言葉を発する権利が奪われてしまう。別に会話できないのはいいがもう中身があるように見えて同じような内容を繰り返す会話はこりごりである。
「どういたしまして……」
自分に出来る限りの笑顔で告げるとパァっとエリカの顔が明るくなった。
「リンちゃん、笑うと可愛いね!」
「!?」
突然褒められ顔が強ばる。なんで……?いや、さっきからも延々と褒められてたけどそれは医術のことだから……
「あ、そうだ!そういえば!お礼だったね!」
やっと本題を思い出したようで私の思考は断ち切られる。
「といっても……何も考えてないんだよね。ミレーヌさんは相手してやってくれとしか言わなかったし……何かして欲しいことある?私に出来ることなら何でもいいよ!」
して欲しいこと……か。何かあるかな……この世界について……はミレーヌさんが教えてくれるし……
「じゃあこの村について教えてくれる?私、この村に来たばっかりだから……」
とりあえず村を散策しながら考えればいいだろう。そう考えての提案だ。その提案に対しエリカは
「お任せあれ!」
と、自信満々に宣言するのだった。
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「あっちがおじさんの家で〜あっちが私んち!」
説明にひと区切りが付いたところで私とエリカは木陰で休んでいた。時刻は夕暮れ。既に明かり灯している家もある。
「…どう?」
期待の籠った眼差しで見つめられ眩しさに溶けそうになる。はっきり言って……そういう視線は少し苦手かもしれない。
「なんというか、穏やかで……平和、だね。」
特段言うことがないということだが……それでも嬉しそうに頷いて共感を示してくる。
「でしょでしょ!穏やかなの!……うーん、でも、平和は……」
「こんなところで何してるんだ。エリカ。」
エリカが何か不穏なことを言おうとしていたまさにその時。張りのいい青年の声が向けられた。
「ひぅっ!?」
突然現れた大きい男の人に思わず悲鳴をあげてしまった。その上、エリカの背中に隠れて丸まった。もはやプライドなど無いに等しい。
「リュイ兄!また来てくれたんだね!」
エリカはこの人と知り合い……いや、兄?でも一瞬しか見なかったけどそんなに顔似てないし……
「あぁ、まただ。……今夜は外に出るなよ。絶対だ。」
「はーい!」
元気のいい挨拶だ。このまま会話を終わってくれれば……
「ところでエリカ。お前はしっぽでも生えたのか?」
「!」
そのしっぽが誰を指すかなんて言うまでもない。嫌だ!近付かないで!エリカだけでも手一杯なのによりによって男の人、しかも……身長高い……!怖い……
「んーっとね……また今度紹介するね!」
……あれ?
「そうか。……エリカと仲良くしてくれてありがとうな。名も知らない嬢ちゃん。」
それだけ言うとあっさりとどこかへ行った。確かあっちは……村長の家?
「ね、ねぇ。あの人は……」
服に着いた砂を払いながらエリカに尋ねる。
「リュイ兄のこと?えっとね!すごく強くて、頭も良くて!カッコイイの!すごい人なんだよ!」
「へ、へぇ……」
説明が雑過ぎて正直何も分からなかったが少なくとも私やこの村に害をなす人ではないだろうし……むしろ……
「というかあの服装はこの村じゃ見た事ない。つまりは村の外から来た人……もしかしたら情報を引き出せるかも?」
明日もいるなら頑張って……頑張って頑張って頑張れたら聞いてみよう。うん。
「えっと、それと今夜は外に出るなって……」
これだけは聞いておかなければならない。何か……危ないことがあるのなら。余計に。
「……多分、魔物の群れじゃないかな。よく来るんだよ。この辺りにね。」
さっきまでと態度を変えて神妙な面持ちで彼女は告げた。
「魔物…そんなのもいるんだ…」
私は…この時まではよくわかっていなかった。彼女のそれが、何を意味するのか。
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