2章1話 初手左遷
今回から二章です!先日PV数が過去最高を記録しました!ありがとうございます!
「あなたには、アーカナ領アルカナリス中央病院へと行ってもらいます。」
「……え?」
なんということだろうか。治癒院に入って開口一番、私は左遷を命じられた。
「ついでに、孤児院の方に人手が足らないので貴方はそこの職員もやってもらいます。」
……どうやら、かなりのブラックらしい。治癒士というのは。
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〜数日後〜
「もう、馬車は懲り懲り…」
「同感です…」
私に続き馬車から気分の悪そうな顔で降りたのは、薄紫色の髪を結った旅装の女、ナーシャである。
彼女はエレナの従者の中で2番手の優秀者らしく、流石にエレナを他領までは出せないということでナーシャを連れて私はアーカナ領へと降り立った。
「ここからはさらに馬車を乗り継いで……中央街、アルカナリスまで……だそうです。」
「また、ですか……」
2人して、馬車酔いである。つい数日前までは少し彼女と話すのに人見知りしていたのだがこうして気の合う(?)部分があり、いつの間にやら軽く口を交わせるようになった。
「……行きましょう。」
「はい……」
私たちはまたも、馬車に揺られ余計死にそうになった。
もう、野宿してでも歩いて行った方が良かったんじゃないか……なんて考えるぐらい。
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「ここが……」
領の間の馬車で乗り継いでから、また2日後。ようやく私とナーシャはアルカナリスへと辿り着いた。
本当に、気の遠くなる道のりであった。
アルカナリスにはなんというか、機械的な建物が多く工業地帯のようなイメージを受ける。
実際、魔法研究が盛んな街であるらしいので、間違いではないだろう。
「治癒院へ向かいましょう。地図はありますか?」
「あります。さっさと行って……文句言ってやりましょう。」
荷物袋から地図を取り出す。立地はどうやら高低差が激しくここから更に階段の移動が多いようだ。
「腹を括りましょう。」
「はい。」
私とナーシャはそこから1時間かけてアルカナリス中央治癒院へ向かった。
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「助っ人が来るとは聞いていたが、君のような子供か……遊びじゃないんだ。孤児院の子供達の相手でもしておいてくれ。」
バタン、と扉を締め切られ私は追い出された。
あまりにも速すぎる。私じゃなきゃ見逃しちゃう…
「……なんで?」
「……あの方々に一言言ってまいります。少々お待ちを。」
……何やらハイライトのない目で扉を見つめていたナーシャがドアノブに手をかけようとした。
何をしでかすか分からないため私は急いで止めた。
「あの人たちの言ってることは間違いじゃありません……ので!一旦、落ち着いてください。」
全力で手を握るとようやく歩みをとめた。
が、その顔はどうにも納得がいってない様子だ。
どう説得したものか…
「…あの、ですね。少なくとも、私は見くびられるのは慣れているのでそこには問題は無いのです。ただ……働けないとなるのは困るので、まずは孤児院の方に向かってみませんか?」
あの人たちは子供たちの相手でもしていてくれ、と言ったのだ。ならば言った通りにしてやろう。
「……分かりました。リン様がそう仰るのであれば。」
「ありがとうございます。」
一先ず、ナーシャを落ち着かせることは出来たが……幸先が悪すぎて、先を考えると思いやられる。流石に、今日泊まる場所はあるよね?
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治癒院から約一時間。今度は下りの階段だったため少しはマシだったがかなり歩き疲れた後、ようやく地図の孤児院の位置へと着いたのだが...
「...なにも、無くないですか?」
「気のせいですよリン様。きっと魔法か何かで見えないだけで...」
「おや、お前さんたち、見ない顔だね。」
必死に現実逃避していた私とナ―シャに、いかにも老後を満喫していそうな散歩中のご老人が話しかけてきた。普段なら警戒心が働いて絶対に返事はしないのだが、藁にもすがる思いで私は振り返り老人へ問うた。
「あの、ここの孤児院に派遣された治癒士なのですが...孤児院はどこにありますか?地図にはここだと書かれているのですが...」
「どれどれ...」
私が広げた地図を老人が覗き込む。それを見て、しばらく考えた後、「あー!」と何かを思い出したかのように口を開いた。
「ここネ、僕が管理してた孤児院でね。確かもう何年も前に治癒院の方々が僕が死んだ後困るからって管理を変わってくれてね。でも確かに、最近話を聞かないなぁ。ちょっとばあさんに聞いてこようか。どうだい、そこのカフェで待っててくれればいいから。はい、これ。」
一気にまくし立てた後、私の手元に銀貨が二枚手渡される。
別にお金には困っちゃいないが厚意を無碍にするわけにはいかず仕方なく受け取る。それを確認すると老人はさっさとどこかへ行ってしまった。
忙しい人だな、という初対面の感想を抱きつつ、私はナ―シャの方を向いた。
「ナ―シャさん。」
「恐らく詐欺の類では無いと思われます。」
「そうですよね...話を聞くだけでも、行きましょうか。」
「私も同意します。」
ナ―シャは優秀だ。それ故こちらが聞きたいことを事前に察して答えてくれる。
それが、コミュニケーションの苦手な私にはとてもありがたかった。
私とナ―シャは受け取った銀貨を手にすぐ近くのカフェに入った。
「いらっしゃい。」
中に入ると少し日焼けた茶色の肌に綺麗な銀髪を一つ結びにした女性が見えた。店主だろうか。
店の中は現代日本では中々見られないであろう、昔ながらのカフェといった感じでカウンター席があり、そこで女性が食器だったりを磨いていた。
「二人で。テーブル席でお願いします。」
「適当にお座りください。」
「失礼します。」
ナ―シャがお辞儀をしたため私も続いてお辞儀をし、適当な席に座った。
ナ―シャはメニューを手に取ると少し機嫌のよさそうな顔になった。そんなにお腹が空いていたのだろうか。ここまで連れまわしているのは私のせいでもあるし...少し申し訳ない...
「いや、こういう時はありがとうございます...ですね。」
「?どうかされましたか?」
「あ、いえ。大丈夫です。決まりましたか?」
「そうですね。ここはランチセットがおすすめみたいなので私はそれを。リン様はどうなさいますか?」
「私も同じもので。」
「分かりました。すみませーん。」
少し弾んだ声でナ―シャが店員を呼ぶとカウンターの奥から「少々お待ちをー!」と綺麗な声が聞こえてきた。
他の店員さんは見えないし、一人で経営しているんだろう。待ち遠しいが無理は言えない。
「お待たせしました。ご注文ですか?」
少し待つと息を切らせて店長がやってきた。
今、何かあるんだろうか。私達以外に客は見えないが...
「はい。この店長おすすめランチセットを二つお願いします。」
「かしこまりました。」
注文を聞き終えるといそいそと厨房の方へと戻っていった。
何か急ぐ理由があるのかもしれないし、大人しく待ってればいいかな。
ナ―シャは...少しそわそわしてるけど。
「ちょっとおじいちゃん!急に来るのやめてって言ってるでしょ!」
先ほど注文を取った綺麗な声が少し焦りを含んだ様子で厨房の方から聞こえてくる。
忙しいのはこれが理由だろうか?
「いつも悪いねぇ。それじゃ、コーヒーを頼むよ。」
「全く...」
そんなやり取りが聞こえた後、厨房の方から出てくる人物がいた。
それは料理を持った店長...ではなく
「お、ちゃんと来てくれたのネ。よかったよかった。」
つい30分ほど前、私達に孤児院について教えてくれた老人である。
ようやく来たのか...いや、寧ろ早い...というか、なんで厨房から?
老人は当然のごとく私とナーシャの席と同じテーブルについた。
「なんでそっちから?って思ったでしょ。」
「はい。」
「実はね、ここ僕の孫が経営してるお店なのヨ。だから特別にあっちから入ってるってコト。」
なんと。だからこのお店を勧められたのか。
さらに言えば…この客数の少ないお店に少しでも貢献出来るから、だろうか。
「私は許可してないって!普通に入口から入って。」
そんなこと考えていたら料理を持った店主が声を上げた。
先程とは異なり口調が軽いものであるため2人が本当に血縁関係にあることが分かる。
「あ、すみません。こちらランチセットになります。」
お盆が2つ、テーブルに置かれる。
片方のお盆にはオムライス。卵は少し硬めっぽい?もう片方はスープと、サラダ。それとゼリーっぽい固形の何か。後は、果実水。
一見、普通に見えるのだが……なんか、量多くない?気の所為?
「……!」
大きいオムライスに少し隠れて見えるナーシャの顔は……なんというか、とても輝いて見えた。
「お話は後でよろしいですか?」
「うんうん。いつでもいいヨぉ〜」
ついでに持ってこられたコーヒーを啜りながら老人はカラカラと笑った。
ならば遠慮なくご飯にしよう。正直お腹が空いて仕方がない。
「こちらで、全部になります。」
……もう1つ、オムライスが運ばれてきた。
そういえば、2つ頼んだっけ。食べ切れるかな…




