序章2話 良い薬の方が甘いらしい。
「……ここ、どこ……」
なんだか長い夢を見ていた気がする。暖かい村で、治療をして褒められる。そんな……
「お目覚めかい?」
ビクッと肩を震わせて声のした方を向く。そこには夢の世界で見た優しい顔のおばさん、ミレーヌが……
「夢、じゃない?」
口から零れでたのは本音であり……それには少しの安心感があった。
「昨日のことは後で聞くから、さっさと顔を洗ってきな。」
少し呆れたように言い残して部屋から去ってゆく。開いたドアからはパンの焼けるいい匂いがした。
「……お腹、空いた。」
空腹だ。とてつもなく。そりゃあ昨日何か食べた記憶はないし……当たり前ではある。
「顔、洗ってこよう。」
私は昨日のことを思い出しながら部屋を出るのだった。
(なんて言い訳しようかな)
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「で?昨日のあれはなんだ?」
椅子に座った途端真剣な顔付きで睨まれ思わず身が強ばる。
「……」
私がどうしようかと考えているとミレーヌは顔を緩ませ笑った。
「そんな真剣に悩まなくたっていいさ。あんたの処置は正しいことをした。この世界じゃ珍しい技術を持ってるんだ。誇ればいい。」
きっと私の不安が伝わったんだと思う。だからこそ励ますように、言ってくれた。
「ま、それはさておき……だ。その技術はどこで覚えたんだ?」
「……」
またも黙るしかない。そりゃあ気になるのも当然と言えばそうだ。そもそもとして10歳前後の子供が出来るはずのないことをした。それだけは確信を持てる。でも……やらなきゃいけなかった。それは間違いない。
「ったく、あんたの父親はそんなことまで仕込んでたのかい?」
父親……?
私が首を傾げるとミレーヌはまたも困ったような顔をした。
「違うのかい?じゃあ、母親か、それとも別の親族か?」
違うのだ。そうじゃなく……私が疑問なのは……
「えっと、ミレーヌさんと私って、血の繋がり、無いんですか?」
そう、ここだ。私が目を覚ましたときからさも当然のように居たのだから家族なんだと思っていた。
「はぁ?んなわけないだろ。私ゃ親が死んで独りになっちまったあんたを拾ってやっただけさ。これも忘れたのか?私のことは忘れてもいいが恩は忘れさせねえぞ?」
なんとびっくり。初めて会った時から思っていたが……やっぱり、ミレーヌさんって……
「お人好し、ですね。」
そう言うとミレーヌは居心地が悪いような、そんな顔をしてそっぽを向いた。
「なんだってそんな急に……私ゃお人好しって言われんのがいちばん嫌いなのさ。次はやめておくれ。私は私がやりたいようにやっただけさね。」
そう言い残すと台所の方へ行ってしまった。なんとか言及は避けられたようだ。ならば……と、昨日考えていたことを話そうと近くへより一度深呼吸してから、告げた。
「あ、あにょ!」
……初手から噛んでしまった。気合いを入れるといつもこうである。恥ずかしさに悶えたい気持ちを押し殺して言葉を続ける。
「また、お手伝いしてもいいですか!」
言えた……!今度は噛まずに……!
自身の成長に心の中でガッツポーズをする。
「……やる気はあるんだね?」
目を見つめられ思わずたじろぎそうになった。が、私もしっかりと目を見て、答える。だって、私には…
「はい!」
これしかないのだから。
それを聞いたミレーヌはにっこりと微笑んだ。初めてだった。初めて……信用してもいいと思える笑顔を見た。
「よろしい。早速今日から頼んだよ。」
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私は手を引っ張られ朝霧の麦畑を抜けた1つの大きい民家に着れてこられた。そこを開けると結構な人数の、顔色の悪そうな人達がいた。服装的にはこの村の人達だろうが……
「患者20人。全員流行病みたいでね。早速見せてもらうよ。その腕をね。」
ニンマリと、嫌な予感のする笑みを浮かべた。これももう何度目だろうか。でも、不思議と断ったりだとか弱気にはならなかった。
「……順番に見ていきます。整理しやすいように……そうですね、ミレーヌさん、病状が重い人を前へ。」
「了解。」
ミレーヌさんが布手袋と三角巾を口元に付けて部屋へ入っていく。その間に私も準備だ。同じように手袋と三角巾を付ける。そして……
「……大丈夫。私なら、出来る。」
思い込む。昨日のように『助けて』と言われた時は自然と体が動くがそうでない時もある。そういう時は自身に言い聞かせるのだ。自分は出来るやつなのだ──────────と。
「連れてきたよ。個室はそっちで大丈夫かい?」
机1つ、椅子がふたつで対面している部屋。恐らくは執務室か何かなのだろう。
「はい。お願いします。」
キュッと三角巾をきつく締め……最初の患者と対面した。
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『患者1、女性、30代。発熱38.5度、咳、呼吸困難。感染症、可能性80%。肺の炎症を疑う。』
『患者2、男性、40代。喀血リスク30%、進行度高い。即時処置、胸部圧迫で呼吸補助、野草液3滴。』
『患者3、子供、8歳。発熱軽度、咳頻発。早期処置で完治率95%。野草液半量、薄めて投与。』
『患者4、男性、30代。発熱39度。激しい咳。感染症、可能性50%。患者1と同じく肺の炎症を疑う。野草液3滴。』
『患者5、女性、50代。進行度高い。即時処置が必要。応急処置として野草液を煮沸させたものを飲ませる。』
『患者6、子供、12歳。発熱高い。咳は少ないが息が苦しそう。気道のつまり、損傷の可能性あり。喉用の薬と蜂蜜を投与。様子を見る。』
『20人中6人完了。残り14人。疲労40%、集中力維持。私なら、出来る。』
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「もう終わりだよ。」
声と共に肩へ手を置かれる。そこでようやく私の意識は切り替わった。
「び、びっくりした…えっ、えっと、いつの間に…」
自分的には一瞬の、夢の中のような感じで頭がふわふわしている。でも疲労感やらは間違いなく残っているし患者たちの様子も見る限りでは落ち着いている。やったのは間違いないはずだ。
「この体に意識が馴染んでいない影響…?意識のメインがこの子の元のもので記憶媒体が私のものになってるのかな…ううん、でも…」
前世では気持ちの切り替えはしていても意識が飛ぶようなこと無かった。だから不思議なのだ。そもそも転生だったり不思議だらけではあるのだが…
「手際がよすぎて私はびっくりだよ。手伝い程度だと思ってたが…思っていたよりも本物だね。それも私以上にね。」
ミレーヌからの労いの言葉で考え事を打ち切る。なにはともあれ大量の治療は終わった。後は数日様子を見て問題が無ければ元の生活に戻ってもらえばいい。
「毎年この病気が流行るんだがねぇ…これが流行るたび大量のポーションが必要で大変だったんだけどあんたポーション無しで治療できるなんて、さっさと言ってくれりゃよかったのに!」
「…?」
褒めてくれている。のは分かったが問題は…私の知っているようで知らない言葉が出てきたこと。
…ポーション?って…あの、よくゲームとかアニメであるような…あれ?なのかな?この世界、今のところそんな感じのものがあるような感じは...
「ポーションって、何ですか?」
「ん?これのことさ。ほら。あんたも見たことぐらい…いや、無かったね。あんたはこれにかかったこと無いか。」
ミレーヌの手元には濃い赤色の液体が入った小瓶があった。色的には本当にゲームにあるようなものだ。
「ちょっと借りてもいいですか?」
「落とさないようにね。これ…一本銀貨一枚分…って言っても分からないか。二週間は無賃労働させられると思っておきな。」
慎重に受け取り小瓶の中を観察する。
『…赤い。血と同じぐらい?治癒効果は?気になる…』
小瓶の蓋を開け中が見たくなった。でも…
「気になるんなら見りゃいい。」
私が求めるよりも先に許可が下りる。でも…なんでこんなにあっさり…?
私が不思議そうな顔をしていたからだろう。ミレーヌはフッと笑って言った。
「あんたね、気づいちゃいないと思ってるんだろうが薬草の知識も元は無かっただろう?にも関わらず実物を見てどんな成分があって何に効くのか自分の舌を使って確かめていたね?」
う…気づかれてた。でも実際のところどんなものがあるか分からないから飲んだりするしかないし…
「ご、ごめんなさ」
「謝ることはないんだよ。知らないことに興味を持つのは当然だしね。ま、私が何を言いたいかって…そのポーションの原材料が分かればいいなって思ってね。これは行商人から領主様が買い付けてくれてるものだがいざと言うとき作れるならそれに越したことはない。だから原材料を調べておくれ。」
原材料…原材料か…私、そこまで詳しく見分けられないんだよね。毒かそうでないか、体があったまる、熱が下がる、痛みが引く、ぐらいしか分かんないし…なにより、この世界のものの知識が足りない。
「えっと、とりあえず、舐めてみても、いいです、か?」
それでも気になるものは気になったので恐る恐る聞く。ミレーヌは良いって言っただろという風な顔をしたので小瓶の蓋を開ける。するとハーブティーに似た渋そうな匂いが漂ってきた。
「いただきます」
手に少しポーションを零しそれを舐める。味は渋い。子供とかは嫌いそうかな。
「いい薬ほどまずいものだよね…うん」
「いや、これは私たちのような平民用で一番安いもんさ。高いものは甘いらしいよ。」
なんとびっくり。ここではその常識は通常しないらしい。
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「それで?原材料は分かりそうかい?」
何回かの味見の後に聞かれる。
「えっと…薬草についての本はありますか?」
恐らくは見たことあるし先ほど使ったものの中にあったのは違いない。でも名前が分からないので説明しようがない。だから本をねだったのだが…
「本か…生憎この村にはそんな専門的なものは無いね。私でよけりゃ教えるけど?」
「お願いします。」
本が無い理由に関してはおいおい聞くとして今はこの辺りの薬草だ。説明のためにミレーヌが机に何種類かの薬草を置いた。
「こいつがルナミント。咳や軽傷の消毒に使う。この辺で一番採れるね。」
青い双葉の薬草。そこからは名前の通りミントのさわやかな香りがした。覚えやすいし…多分使ったことあるね。
「こいつがサルビアフラム。止血、殺菌効果が強い。丘陵の方で採れる。」
赤みがかった葉っぱだ。土っぽい匂いとスパイシーな匂いが混ざっている。なんか辛そう…これは多分見たこと無いし名前も分かりにくいからしっかり覚えておこう。
「こいつがエーテルウィード…のサンプル。こいつはこの辺りには無いんだ。抗菌、解毒効果が強い。実物は結構生臭いらしいよ。」
白い花だ。匂いはサンプルだから無かった。解毒はこの辺りだと貴重らしい。毒蛇や毒を持ってる生き物についても後で聞いた方がいいかも。
「最後、こいつがヴェルドローズ。鎮痛、疲労回復に使われる。麦畑のあたりの土手を探せばあるだろうが…うちの領には少ないから貴重だ。」
緑色の花だ。しかも見た目通りの花のいい匂いがする。バラに近い感じかな。
「私が知ってるものはこれで全部さ。王都にゃもっと詳しいのが居るだろうが……とりあえずこれだけ知ってれば大丈夫だ。」
「はい。ありがとう、ございます。」
色々気になることがあるなぁ……
案外薬学も楽しそう……
「それで、原材料は分かるかい?」
あ、そうだった。忘れてた……えっと、確か……
「ルナミントが50g程でほぼ全てを占めています。サルビアフラムとの辛味も感じるので薄く入れてある気がしますね。で、溶媒には水を使ってるんじゃないでしょうか……」
何かが引っかかる。それだけではないような……でも、私の知ってる限りだと……これだけのような……
頭を悩ませているとミレーヌが嬉しそうな顔をした。
「そうかい!それならうちでも作れそうだね!……あんた、何か浮かない顔してるけど……大丈夫かい?」
「へ?あ、えっと……それだけじゃ、ないような気がして……でも、私の知識にも、さっき教えてもらったものにも無かったもので……」
本気で分からず首を傾げていると今度はミレーヌが肩をがっくしと落とした。
「ああ……やっぱり……そうなのかい……」
ミレーヌには心当たりがあるらしい。……聞いてもいいものなんだろうか?
「治癒魔法だ。」
………………治癒、魔法?
「魔法って、何ですか?」
喉が上手く回らなくて、途切れ途切れの質問になった。
「はぁ!?それすら覚えていないのかい!?」
ミレーヌが驚きを隠せていない。そんなにおかしな事なのだろうか。
「初日に教えた……なんなら、流石に両親にだって教わるはず……」
しばらく呟いたあと、私に視線を合わせ肩に手をおきまるで子供に言い聞かせるように……言った。
「リン、この国は『魔法至上主義』の世界だ。魔法を知らないなんて冗談でも口にするな。」
そう、有無を言わせぬ真剣な眼差しで。
ご覧いただきありがとうございます!今回はリンの医術を前回よりも深く見せてみました!
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