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1章6話 不愉快です

2日も投稿空いて申し訳ないです…

ブックマーク、評価ありがとうございます!とても励みになっています!

「終わりました。」


「お疲れ様です。リン様。宿へ戻られますか?」


 治癒院を出て馬車の方へ向かうとフィオナが待っていた。


「そうですね。疲れたので…少し眠りたいです。」


 試験中、かなり集中していたし魔力が無いことがあれで本当に誤魔化せていたか分からなかったため気が気ではなかった。そういった諸々の事情でかなりの疲労感を感じる。


「では、馬車を走らせますね。お眠りになっても構いませんよ。」


「そうさせてもらいますね…」


 欠伸をしながら荷台へと入る。


「よぉ、マスターのお気に入り。」


「・・・」


 見覚えのない、成人男性が居た。黒い髪で、背の高く目付きが鋭い、フード付きのマントの男…


「ぴゃぁぁぁぁぁ!?!?」


 困惑と恐怖の中、咄嗟にでた叫び声と共に手元の針やら糸やらで攻撃する。

 正直、この時の記憶は曖昧である。


「わっ、ちょ、おま、はなっ、しっ、を!」


 男は身を捩りなんとか針を受けることを回避するもフードやら衣服やらに引っかかり荷台に固定されてしまう。

 今がチャンスと私はナイフを手に男へ襲いかかる。


「何事ですか!?」


 ピシャッと荷台のカーテンが開くと共にフィオナの声が響く。


「あっ、ちょい、フィオナ。いいとこに…助けてくんね?」


 男はギリギリで私の一撃を受け止めながら、軽い口調でフィオナへ乞う。


「貴様ぁ!リン様に何をしたぁ!」


 しかし…その願い虚しく何故か男にとっての敵が増え、最終的には私がフィオナを止めることとなっていた。


 -----------------


 謎の男はフィオナから逃げるように…いや、機嫌を取るためだろうか。馬車の制御を変わった。

 結果私は今、荷台の中でフィオナと向かい合っており、御者台にクロウが座っている。


「彼はクロウ。私と同じく、エレナ様の側近です。」


「はぁ…そうだったんですね。」


 一先ず不審者では無かったようで安心である。

 ただ、疑問なのが…先程クロウの顔を見たフィオナがありえないぐらいブチ切れて、しまいには「ここであったが100年目ぇ!」とか言って眼光だけで殺しかねなかった。

 あの時だけは名前も知らなかった男の人に同情した。


「そうだぜ。だからあんまり虐めないようにそこの堅物にも言っといてくんねぇ?リンちゃん。」


「あぁ?」


 いつもの澄んだ綺麗な声からは想像できない威圧感の籠った低い声が発せられる。

 思わず私も肩を竦めた。


「おお、怖。マスターにチクっとこうかなぁ。」


「ちっ…」


 だがまるで慣れたようにクロウはフィオナの怒りを流した。…飛び火、しないよね?


「…失礼しました。私…少々、いえ、かなり…大分…めちゃくちゃ、嫌いなんですよ。あの男。えぇ…なんというか、癪に障るというか…」


 とてつもなく、嫌悪を顔に出してフィオナが言った。

 …何をすればここまで嫌われるんだろうか。


「酷いよね。俺はこんなに先輩として尊敬してんのにさぁ。」


「ほざけ。その口縫い付けるぞ。」


「はいはい。黙っときますよっと。」


 荷台のカーテンが閉め切られ、ようやくピリついた雰囲気が落ち着いた。


「…恐らくですが、彼の方が先にこの街へ送り込まれていたのでしょう。彼は潜入向きですから。」


「そうだ!そうだ!しかもマスターの親父からだぞ。俺は何も悪いことはしてねぇ。」


 閉まったままでも会話は聞こえるらしく普通に会話に割り込んで入ってくる。

何のために閉めたのだろうか。


「…」


 いつまで経っても説明が終わらないと、ようやく分かったみたいで多少の茶々入れは無視することにしたのだろうか。

フィオナがしばらく黙り込む。


「…では、先程のはどう説明するおつもりで?明らかに…私か、リン様を驚かせようと企んでいましたね?」


 …違ったらしい。なんならさっきよりも冷淡に理詰めするようになっている。

なんか、余計に怒りを焚き付けてないか?


「それは〜えっと〜…ははっ、悪い悪い。そこまで驚くとは…」


「その件、旦那様に報告しておきますね。」


「なぁっ!ちょっ!それだけは!」


「リン様はどう思われましたか?先程の、こいつが表れた時。驚きましたよね?怖かったですよね?不愉快でしたよね?不快ですね?」


 もはや最後は事実確認である。

 鋭い眼で睨まれ思わず頷きそうになるのを堪え、首を横に振る。


「えと…驚きはしましたけど、その、視線の件もあるので…頭数が増えるのは、悪くない…と思います。はい。」


 恐怖で上手く喋れなかったが自分の考えは言えたと思う。

 フィオナはため息を付くと強ばらせていた顔を緩ませた。


「…はぁ、リン様がそう仰るのでしたら…仕方ありませんね。そこの男は盾にでも使いましょう。」


「酷くね!?」


 扱いにクロウが騒ぎ立てるも意味は無かった。

 何はともあれフィオナが納得してくれたみたいで一安心…である。


 -----------------


「あ、そういえばさぁ。」


 馬車が街中へ入ったあたり、黙っていたクロウが口を開く。


「さっき聞きそびれたんだけど、視線の件ってのは?」


 …あぁ、言ってなかったっけ?でも確かに、色々あり過ぎて忘れていた気がする。


「治癒院までの道中にて、この馬車を追う視線があったのですよ。確か、3人ほど。」


「そうですね?」とフィオナに改めて確認され、頷く。


「あー…なるほどな。でもそれ、1人なら心当たりあるぜ?」


 それを聞いたフィオナが察したようで不機嫌になる。…私も、なんとなく分かった。


「それはぁ…そう、俺だぁ!」


 カーテンがガバッと開かれ顔が見えた。

 改めて、顔を見ると…馬車の中が暗いからか結構いかついなぁ。


「そうですか。ところでリン様。」


 心底どうでも良さそうにフィオナは軽く流し次の話題へ移ろうとした。


「ちょっ!もうちょい驚けって!リンちゃんも、なんか反応薄くない? 」


「察したので。」


 …多分だが、この人に喋らせるとどうでもいい話が広がるのだろう。フィオナは恐らくそういう所が苦手なんじゃないだろうか。

 正直私も初対面の、成人男性と話すことなど無いためできる限り会話は拒否したい。


「今更ですがリン様はお客人ですよ?ちゃんと敬称を付けなさい。」


「やなこった。俺が敬語を使うのはマスターだけだ。」


「はぁ…それで側近を名乗るということがお嬢様の顔に泥を塗るということ、忘れないようにと言いましたよね!?」


 …また、再燃しだした。私は…どうすればいいんだろうか……



 ふと窓の外を見た、その時だった。

 何か…赤いものが、飛来して…


 -----------------


「っ、フィオナ!防御魔法!」


 外にいたことで早くに気付いたクロウが声を荒らげる。


「『ミル・アルカス』!」


 フィオナが反応し馬車を覆うように何かを展開した。

 その膜に飛来していた赤いものがぶつかり、弾ける。


「しっかり掴まっとけ!逃げるぞ!」


 クロウの声と共に馬車が加速する。

 リンは荷台から投げ出されないよう、身構えた、その瞬間。


「『ファル・マグナス』」


「伏せて!」


 荷台の入口に何かがぶつかった衝撃が荷台に走る。

 リンは振り落とされないように荷台にしがみついた。


「フィオナさん!」


「迎撃します!」


 フィオナは無事だった。リンは自分の指示がちゃんと聞こえていたことに安堵する。

 その安堵もつかの間、荷台の破壊された入口から…深くローブを被った誰かが入ってきたのだ。


「『ファル・マグナス』」


 先程も、聞こえた…詠唱。その声は男性のもので、とても無機質なものだった。

 詠唱により男の周りから無色の何かが生成され、放たれる。それらはリンとフィオナへ向けて飛来した。


「『ファル・アルカス』」


 しかしフィオナの詠唱により生成された先程のものよりも強度を上げた防御魔法が被弾を許さない。


「てぇぇぇぇい!!」


 そのままフィオナは防御魔法を展開したまま男へと突撃し、男と共に馬車に飛び出た。


「クロウ!魔法の使用を許可します!なんとしても…リン様を逃がしなさい!」


 その、指示を残して。


「わぁーってるよ!言われなくても!」


 馬車はさらに加速する。1人減った荷台を背負って。


 -----------------


 …場所は人気の少ない広い路地。当然相手もそれを狙って仕掛けたのだろう。でないとすぐに衛兵に捕まるだろうから。


「…何か言い残すことはございますか?今のうちに聞いておきましょう。」


 防御魔法の圧迫を押しのけ距離を取ったローブの男へ向けて告げる。


「『ファル・マグナス』」


 先程と同様、中級の基礎攻撃魔法が放たれる。

 一見、透明に見えるが魔力の塊であるそれは魔力感知さえすれば避けることは難しくない。


「無視か…広い場所に出たからか、随分と派手に…」


 先程は確実に仕留めるための大きめのものだった。だが今は…小さいものを無数に、展開し四方八方から狙いを付けてくる。


「……久々ですね。」


 こうして…戦うために魔法を使うのはもう2年以上ぶりだ。それが、人相手なら…もっと前である。

 だとしても…


「取るに足りません。」


 四方八方に広がった魔力の塊は最終的に私へと向かってくるのだ。

 つまり…着弾する瞬間にその地点に防御魔法もしくは他の魔法を使って弾けばいい。


「『ミル・アルカス』」


 展開するのは最も魔力消費が少ない初級防御魔法。消費が少ない分、耐久力が低いのだが…


「二重展開すれば問題ないでしょう。」


 可能な限り、小さい範囲に、正確に、透明な魔力の防壁を展開していく。

 男との距離を詰めながら、である。

 フィオナは一瞬にして男に肉薄し、手のひらに魔法を展開した。


「不愉快です。さっさと…消えなさい。『ノヴァ・アクアレント』」


 小さい水球。だが、見た目に騙されそうになる小さい塊の中にはとてつもない魔力や、様々な魔法式が込められている。

 繊細で豪快な一撃が、男の腹を抉った。


前回から少し見えていた通り、フィオナは実際のところ結構気性の荒いタイプです。ですがお嬢様の前では常にお淑やかに、を意識しているので何があっても声を荒らげたり、舌打ちしたりしません。

クロウとの関係ですがお互いがお互い嫌いあっています。ただクロウもマスターであるエレナの前では大人しいため目線だけで睨み合っているようなものです。所謂、同族嫌悪と言うやつですね。


クロウの服装が違う!と思った方いらっしゃいますが執事服で髪を整えるのはエレナの前だからでありどちらかと言えば一人でいる時は今回のような旅人みたいな服装である場合が多いです。


フィオナの実力についてですが、彼女は元冒険者であり上級までの水、無属性の魔法を扱えます。戦い方のスタイルとしては遠くから魔法打つよりも近接で確実に当てた方がよくない?ということで防御魔法を貼りながら接近し魔法を叩き込む戦法を好んでいます。

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