序章おまけ2 シルヴァーナの真意
序章8話でのリンがエレナから勧誘を受けた後のエレナ視点の話。
「い……言ってしまったわ……!」
リンが出ていった後、エレナは顔覆いたくなるような衝動を抑えながらフィオナの肩を掴んだ。
「どうしましょう〜!?あれほど言ってもし、もし、断られたら……うぅ……それに、怪しいですよね……めちゃくちゃ。」
分かってはいた。それでも自身の思いを伝えずには居られなかったのだ。
「大丈夫ですよ、お嬢様。あれだけ真摯に言われれば伝わるものはあるはずです。」
「でも……でもぉ……それに、私、めちゃくちゃ恥ずかしいこと口走っていたような……今からでも記憶を消したいわ……!」
「お嬢様、自分で言ったことを取消したがるのは領主のお嬢様らしくないかと。」
いつものようフィオナがエレナを宥める。
エレナはあそこまで毅然として頑張ることは出来るのだが如何せん変なところで弱気になる節があるのだ。だからこそフィオナが必要だった。
「それに……そのように唸っていたらまたミレーヌ様にお叱りを受けるかもしれませんね。」
「うっ゛!」
エレナが苦虫を噛み潰したような顔をした。それほど、あの人の言葉は刺さるものがあるのだ。
「……頑張らないと……安心してリン様にこちらへ来て欲しいですもの。」
立ち上がり、乱れてしまった髪や服装を整えると部屋の扉へ向かった。
「行きましょう!フィオナ。まずはお父様に説明よ!」
と、息巻いていたのも束の間。フィオナは首を横に振り……
「私は別件があるので、お嬢様、ファイトです。」
その、残酷な事実を告げた。
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「──で、私が呼ばれたということですか。」
どこか気配のない黒髪の男、側近クロウがため息を付きながら言った。
「えぇ、そうよ。休暇中に申し訳ないわ。」
「それは構わないのですが……フィオナはエレナ様1人で頑張って欲しかったのでは?」
「うぐっ」
その通りだ。最近はそれがより顕著になっている気がする。
「…………出来る限り、一人でやるつもり。貴方は着いてきてくれればそれでいいの!」
そんな会話をしているとお父様ことガルディスの部屋へ着いた。エレナは深呼吸をしてからドアを3回ノックする。
「お父様。エレナです。」
「入れ。」
「失礼します。」
扉を開き、お辞儀をする。例え家族だとしても貴族としての振る舞いは忘れてはならないという教えがあるからだ。
「座りなさい。」
「ありがとうございます。」
ガルディスの侍女が用意した椅子へエレナは腰掛ける。そして一度落ち着いてから、口を開いた。
「お父様、今日は報告があって参りました。」
「……」
ガルディスは黙ってエレナに次の言葉を促した。
「リン様を、このシルヴァーナ領における主治医として雇おうと思いまして……それで、既にリン様には話を通しました。帰ってしまわれるとのことでしたので報告が事後報告になり申し訳ありません。」
「……そうか……」
ガルディスは一言、それだけ返した。エレナはまさか断られるのかと思い言葉を連ねた。
「リン様は凄いのです。それはお父様も分かっていらっしゃるでしょう?ですがあの若さに加えて身寄りが無いとお聞きしています。なので、私達が庇護するべき、才能の持ち主だと……考えました。いかがでしょう。」
言ってるうちに段々と自信が無くなっていく。良くない所だと内心で反省しつつエレナはガルディスの次の言葉を待った。
「……エレナ。お前は……あの子が、リンがどう見えた?」
その言葉には何か含みがあった。とはいえエレナにはその意図は分からずそのまま率直に答える。
「とても聡い子だと。簡単には人を信用していませんでした。それは何か分からないことがあればミレーヌ様という自分が信用出来ると判断した人に聞いていたからです。そして、あの腕前……あれはミレーヌ様によるものなのかは分かりませんが…素人目に見ても異常かと。」
「…………そうか……」
またも長い沈黙の後にそれだけが返される。さらにエレナの不安が大きくなっていく。
次の言葉を待つ中胃がキリキリする思いを堪えているとガルディスはとても、それはもうとても真剣な顔で口を開いた。
「……あの子には、魔力が無いんだ。エレナ。」
「……え?」
言われた言葉の理解が遅れた。それほど、訳の分からないことだったから。
この世界の全てが魔力を持つ、というのは有名な話だ。それゆえ魔力を持たないものは迫害されこの国では生きることすら難しい。
「で、では、あの子がしていたのはなんだと言うのですか!」
あの凄まじい手さばきはなんだと言うのだ。
「ただの、医術だ。それもミレーヌ以上の、だ。どこで拵えたか分からんが……何か事情があるのは間違いない。」
「……本気で言っているのですか……」
「あぁ、私の魔力感知の精度はお前もよく知っているだろう。」
確かに、そうだ。お父様は魔力を感知するという能力に関しては国内でトップを張れるほどだ。
「あの施術において、魔力を使わなかったのは分かりました。ですが……魔力が無いというのは…」
「人の身体には、魔力の核がある。それは知っているな。」
腹の方を指さす。確かにそこに魔力が溜まり全身へ流れ循環するというのは子供に魔力感知を教える時の常套句である。
「……あの子にはそれが無かった……いや、正しくはあってもその器にヒビが入って魔力が溜まらず抜けていっている。まるで……死者が動き出したみたいだ。」
「そ、そんな……」
そんなこと有り得るのだろうか、と一瞬怖い想像をしたがそれは有り得ない。少なくとも、エレナの知る限りのリンは。
「さて……本題だ。お前はこれを知った上で……彼女を庇護下に起きたい、そう考えるか?」
難しい問いだった。
そもそもとして衝撃が強すぎる。魔力がないなんて夢にも思わなかった。ただ……それで例え領地が不利になるとしても……この恩義だけは忘れてはいけない。
「『貴族であれば礼節は欠かすな』」
「!」
これは……目の前の父から教わった言葉だ。
意味はそのまま……貴族として生まれたなら受けた恩義や期待には礼を尽くせ。そういう意味だったはずだ。
「お父様、我々シルヴァーナは彼女に……リン様によって救われました。……それゆえ、これは礼として、彼女に礼の限りを尽くすのが貴族としての矜持では無いでしょうか。」
これが、私の出した答えだ。それでこの身が焼かれようとも…礼を忘れた時点で貴族失格だ。
「本当に……よく出来た娘だ。」
エレナの答えを聞いたガルディスは満面の笑みを浮かべた。それは我が子の成長を思ってのことであり……その答えに納得したということでもある。
「その通りだ。エレナ。」
ポンとエレナの頭に大きな手が置かれた。
「私は、お前の意見に肯定しよう。」
「お父様……」
エレナは泣きたくなるのを我慢して……父を見つめた。そして、決意する。
「私達が、リン様を救う。」
短くも、確かで強い、決意を。
ちなみにガルディスは最初から反対するつもりなど毛頭なくそれどころかリンに少し娘の面影を感じて一対一で話す診察が楽しいとか。リンは診察時意外だと話しかけても逃げてしまうらしいが。
一章も少し書き溜めてから投稿していきたいので投稿遅れるかもです!




