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序章おまけ1 2日目から変わった小娘

※序章1話にて凛がリンとして目覚めるより少し前のミレーヌ視点でのお話です。

 それは私が林へ薬草を集めに行った時のことだ。


 ある……家族を見つけた。それも……瀕死の、だ。


「あんたら、大丈夫かい?」


 こういうのはそこまで多い訳じゃないが珍しい訳でもない。特に……ここ最近では。

 それでも見捨てるのは寝覚めが悪いためミレーヌは声を掛けた。


「う……」


 母親らしき女が、起き上がった。抱きしめているのは10歳ほどの子供。そして足元には……旦那であっただろう、遺体。ここで何があったかなどミレーヌは考えなかった。……考えてもどうしようもないと、分かっているから。


「助けて、下さい……この子を……この子だけでも……」


 這い寄ってくる女の目は血走っていた。子供の方に意識は無くブラブラと手足が揺れた。


「お願いします!なんでも、なんでもしますから……お願いです……この子だけでも……私から……奪わないでください……お願いします……お願い、します……」


 まるで呪詛のようにお願いしますと繰り返した。ミレーヌはどうしたもんか、と悩み……気付いた。

 女の腹からありえないほどの出血が見られた。


「その傷はどうした。いや……それだけじゃない、そこの男も。」


 何も聞かずに助けるほどミレーヌは馬鹿では無い。


「これは……××に襲われて……でも……この子は、無事です……お願い、します。…ぐぶっ!?」


 ついに女が吐血した。それも当然だろう、とミレーヌは納得する。なにせ、既に致命傷であり動いていることがおかしいとも言えたからだ。


「はぁ……」


 ここまでされて、少女1人助けないのは……どうなのだろうか、とミレーヌは自身に問いかけ……そして、長い葛藤の後、女へ問う。


「この子の名前は?」


「助けて、下さるのですか……?」


 女は神にでもあったような、信じられないものを見たような目をした。


「だから、名前聞いてんだろ。名前ぐらい覚えてやるから。早く言いな。」


 女はしばし涙を流した。その中で、泣きじゃくりながら、呟く。


「……リン。」


 その、名前を。


「そうかい……じゃあ、リンは責任をもって私が育ててやる。だから、さっさと眠りな。」


 それだけ言い残すとミレーヌは足早にその場を離れる。これ以上居ても……辛いだけだから。


「ありがとう、ございます……ありがとう……ございます……」


 -----------------


 リンを連れ帰った翌日。寝床に寝かせたが一向に目を覚ます気配が無かった。様子を見に行けば熱が高く息がハァハァと苦しそうであった。


「薬草を採りにいった直後で良かったね。はぁ……また採りなおしか……」


 ブツクサと呟きつつも村の連中にしてやるように処置を施す。


「氷も溶けにくい時期だしつくづく運がいいねぇ、あんた。」


 脇、頭に氷を入れた麻袋を挟む。そして薬草をゴリゴリとすり鉢で潰して作った汁を飲ませた。


「ぅ……ぁ……にが……ぃ……」


「そりゃそうさね。でもその分よく効くよ。」


「ぅぅ……」


 例え苦味によって起きたとしても起きればそれはいい傾向だ。一度も目を覚ましてないよりは安心できる。


「また夜になったら様子を見に来るから、それまでに何かあったらそこのベルを鳴らしな。」


 寝床の近くに置いておいたベルを指しさっさと部屋を出ようと立ち上がる。

 自分までうつされたら溜まったものじゃないから。

 だがその時、小さな手がミレーヌの衣服の裾をギュッと握って…


「ぁりがとう……おかぁさん……」


 そう、確かに言った。

 ミレーヌは少し硬直した後、手を払い今度こそ部屋を出た。


「……似ても似つかないだろうに。」


 あの必死の形相を思い返しながら。


 -----------------


「リン、体調はどうだい。」


 約束通り夜になったためミレーヌはまた寝床を訪れた。少女はミレーヌの足音で眠っていたところ、目が覚めたようだ。


「ぅ……ん……ここは……どこ……おかぁさん……おかぁさん……」


 寝ぼけていた顔から次第に不安が浮かび上がる。見慣れぬ居所に加え知らない人、さらには自分を愛してくれていた母親も居ない。


「ここはルミエール村の私の家。私はミレーヌ。行き倒れになってたあんたの家族を見つけて、あんたを助けた。」


 淡々と事実を述べていく。どうせ泣くんだろうと思いながら。案の定わんわん泣き始めて話にならない。


「あんたの母親は……死んだ。そして私はあんたを育てるように頼まれた。だから責任持ってあんたが成人して働けるようになるまでは世話してやる。いいね?……リン。」


「おかあさん……おかあさん……ぅ……おとうさん……いやだぁ……」


 一応聞こえてはいるのか余計に激しくなった。やれやれとミレーヌは頭を抱えつつ1度部屋を出た。

 そして夕飯にと用意していたお盆の上の粥を持って部屋に戻る。


「さっさとこれでも食って寝な……って、おい!また熱上がってるじゃないか!さっさと寝ろ!」


 顔色の悪さから察したが案の定頬やらデコやらから熱が上がっているのを感じた。無理やり床に付かせ寝るよう促す。


「ぅぅぅぅ……」


 病は気から……という言葉がある通り、精神力というのは体調に影響を及ぼす。それが顕著に出ている。


「……無理もないか……世話の焼けるガキだ。」


 こうなったらミッチリ教育して育ったらきっちり借りを返してもらおう。そう決意した。


 -----------------


 そうして……夜が明けた。ご飯を作り終え一応呼んでみるが反応は無い。寝てるのだろうと自分の分だけよそっていた時、戸が開いた。


「え、えと、お邪魔しまちたっ!」


「…………は?」


 訳が分からなかった。残ったのはドタバタと家中に響く足音だ。


「熱で頭おかしくなったか?」


 昨日はそこまで体調は良くなかったし記憶が混濁しているのかもしれない。それに今そこまで動けるのなら……むしろいいのかもしれない。

 そう考えミレーヌは声を掛けるべく肩にポンと手を置き呼びかけた。


「どうしたんだい、慌てて。」


 普通に、そう、普通に言ったつもりだった。

 だが……


「………………ひゅ……」


 なぜか小娘は気絶した。


 -----------------


 それからというもの、おかしな事続きだ。どうにも昨日話した内容は全く覚えていないしそれどころか……昨日あれほど求めていた親をまるで忘れているように振舞っているのだ。


「……とんでもない拾い物をしたみたいだねぇ…」


 そして今、目の前で私が対応するつもりだった患者に対してとてつもない速度で処置を施していた。その手さばきはあまりにも美しく、無駄が無かった。


「その歳で手にしていいような技術じゃないと思うんだがね。」


 ……もう、どんな小娘でもいい。私は1度決めたことを捻じ曲げるつもりは無いのだから。


「……ぁ……」


 処置が終わった直後、気絶するように眠りについた少女を見つめながらそんなことを考えていた。


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