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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

剣聖は苦悩する〜原因は戦闘狂の幼馴染〜

作者: 平原誠也

「ではこれより天恵の儀を執り行います」


 人類統一国家アストラシオン。

 その東端にシーリスという村があった。

 人口は約百人。海が近く、主に漁業で生計を立てている小さな村だ。

 そんなシーリス村の教会に少年と少女が集められていた。


 少年の名前はディー。苗字はなく、孤児である。

 腰まで届く漆黒の髪に燃えるような真紅の瞳を持つ少年だ。シーリスの近くでは見かけない褐色の肌をしている。

 そんなディーは椅子に座り、前にある椅子の背もたれに足を乗せていた。

 その態度の悪さに神父が顔を顰めているが、本人はどこ吹く風だ。

 

 そしてディーの隣にお行儀よく座っているのはティリア・リース。

 亜麻色の長髪に金の瞳を持った小柄な少女だ。

 美男美女で有名な村長夫婦の一人娘で、その遺伝子をしっかりと受け継いだ美少女である。

 そんなティリアは胸の前で手を組み、神に祈りを捧げていた。


「どうか神様。お願いします。D級以下の天恵(てんけい)を御授け下さい」


 天恵。

 それは人間が十五歳になると、神から授けられる特殊な能力だ。S級からE級と等級が定められており、等級が上がるほど強い天恵となる。


 ならばなぜ、ティリアが低い等級を望んでいるのか。

 

 それは()()()C級以上の天恵を授かってしまった子供達は、アストラシオンの首都にある人類統一学園アルカナに入学を義務付けられるからだ。


 人類統一学園アルカナ。

 そこは魔族と戦うための兵士を育成する学園だ。

 シーリス村からも数年に一度、学園に行くことになる者が現れる。しかし、すぐに小さな()となって無言の帰宅を果たす。


 高位の天恵というものは戦場への片道切符なのだ。

 常人ならばまず喜ばない。それほどまでに人類は劣勢を強いられている。


「では、どちらからにしますか?」


 神父が言うと、ディーとティリアが視線を合わせた。


「オレはどっちでもいい。お前が決めていいぞティリア」

「ごめん。私怖いからディー。先にお願いしてもいい?」

「ん。じゃあ早くやってくれ神父」


 ディーは椅子から立ち上がると、神父の元へと歩いていった。


「神父って。何度も言っていますが私の名前は――」

「はいはい。神父神父。名前なんてどうでも良いだろ」

「まったくあなたと言う人は……」


 神父はこめかみに青筋を浮かべたものの、大きくため息を吐いた。何を言っても無駄だとわかっているのだ。

 そして心配そうにディーを見る。


「怖くはないのですか?」

「怖い? んなわけねぇだろ。オレがこの日をどれだけ待ちわびたか! 早くやってくれ!」

「……わかりました。いきますよ?」


 神父はまたも大きなため息を吐くと、ディーの額に手を翳した。そして真剣な顔つきで言葉を紡ぐ。


「神よ。この者、ディーに天恵を御授け下さい」


 すると神父の手のひらに光が宿り、ディーの身体の中へと入っていった。


 天恵は授けられた瞬間に全ての能力を把握する事ができる。ディーも自らに与えられた天恵の能力を瞬時に理解した。


「おお! これが! 最高の天恵じゃねぇか! 神父! 超速再生ってのは何級だ?」

「超速……再生ですか? ディー。本当ですか?」


 しかし、喜ぶディーとは対照的に神父の顔は浮かない。

 

「ああ。本当だ」

「これは……。神よ。なんという試練をお与えになるのですか……」


 神父は胸の前で腕を組むと、悲しそうに目を伏せた。しかしディーは全く気にしていない。

 それどころか神父の頭を引っ叩いた。


「そういうのは良いんだよ。早く教えろ」

「……まったく! あなたはどうしていつもそうなのですか!? もっと落ち着きを――」

「また始まったよ。はいはい。うるせぇうるせぇ」

「ディー。叩くのはダメ。今のはあなたが悪い」


 ティリアがディーを窘める。

 するとディーは鼻を鳴らしながら再び椅子に座り、腕を組んだ。


「わかったよ。悪かった。んで、どうなんだ?」


 とても謝っている態度ではないが、神父は諦めた。

 再び大きな大きなため息を吐く。

 

「超速再生はC級です。ですがはっきり言ってハズレです」

「ハズレ? なんでだ? 怪我してもすぐに再生するんだろ?」

「はい。ですが致命傷は再生できません。それに身体能力が上がるわけでもない。それは普通の人間と変わらないんですよ。そして普通の人間では魔族に太刀打ちできない」


 しかしそんな死刑宣告とも取れる言葉を聞いても、ディーは動じない。

 

「ふーん。まあどうでもいいや。とりあえずC()()()()()()()()。じゃあ次はティリアの番だな」

「本当にディーはブレないね……」


 ティリアは呆れたように呟く。神父も目頭に手を当て、疲れたように息を吐いた。


「……ではティリア。いいですか?」

 

 神父の言葉にティリアは一度目を瞑り、深呼吸をする。

 そして再び、目を開いた。


「はい。お願いします。神父さま」

「わかりました。ではいきますよ」


 神父はディーの時とは違い、緊張した面持ちでティリアの頭に手を翳した。

 神父もこの村で生まれ育った人間だ。その為、ディーとティリアの事も幼い頃から知っている。

 頭のおかしいディーとは違い、ティリアはただの少女だ。だから高位の天恵が出ないようにと祈りを込めて、その言葉を口にした。


「神よ。この者、ティリア・リースに天恵を御授け下さい」


 すると神父の手のひらが強烈な光を放った。

 神父も、ディーもあまりの光量に眼を細める。

 やがて光は収束し、ティリアの中へと入っていった。するとティリアが息を呑んだ。


「……う……そ。……うそですよね? 神父さま?」


 ティリアは縋り付くように神父を見た。しかし神父は目を伏せ俯いた。


「申し訳ありません。ティリア」

「どうしよう……。ディー。私……私……。剣聖……だって……」


 剣聖。

 人を超えた身体能力を有し、自分専用の武具を召喚できる。まさに神から祝福された人間に与えられる天恵。

 当然、等級は最高のS級だ。

 

「やだよ……。 私、戦いたくなんてないよ……」


 ティリアの目からポロポロと涙が流れ落ちた。

 身体は震え、目の焦点が定まっていない。


 そんなティリアを神父は悲痛な面持ちで見ていることしかできなかった。

 掛ける言葉がない。まさにそんな様子だ。

 しかしディーは神父とは対照的に、冷めた目でティリアを見ていた。

 

 物語の主人公ならば、「大丈夫。オレがキミを守るよ」なんて歯の浮くようなセリフを言うのだろうが、ここにいるのは頭のネジが吹っ飛んだディーだ。

 

 そしてディーは言い放つ。


「はぁ? 何言ってんだおまえ。戦えるんだから最高じゃねぇか」


 心底呆れたとばかりの言葉にティリアの感情は決壊した。

 

「ディーのばかぁぁぁあああああ。天恵を授かって喜ぶのなんてディーみたいなアホしかいないんだよぉぉぉおおお!!!」


 ディーは生粋の戦闘狂だった。

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