2.澪猫と女神 2
「なるほどねぇ」
と澪猫が言う。
イリアは質問をする前に、澪猫の命令で正座させられているので、下の方から見上げる形で澪猫をみている。
未だ涙目だ。
…あー
……神の威厳、どした?
「あ、あの、え、っと、何が欲しいですかぁ?」
「チート?」
「は、はい、ち、チート、です、えっと、全属性とかですか?」
「とりま全部、全属性と魔力無限、アイテムボックス的なやつ、聖力、あと、全言語理解は、前提じゃん?」
「ぜ、ぜんてい、ですか?、す、すでに多い気がしますぅ」
「は?異世界転生の前提の能力でしょ、最低でもそれぐらいないと」
「ひぃえええ〜、ほ、他の神様に、怒られちゃいますぅ」
「知るか、そっちのミスなんだから、うちが損するのはおかしいでしょ?」
「い、一属性でも、前世の記憶があれば、え、えっと、じゅ、十分チートになる得ると思いますぅ」
「記憶保持は当たり前だし、一属性って、魔法がある世界で一属性以上が普通なら関係ないよね?」
「そ、それはぁ、その、魔力無限はともかく、全属性と聖力は、えっと、血筋の問題もありますしぃ」
「血筋とは」
「聖力は召喚された聖女と、その血筋、あるいは神子でなければ持ってないんですぅ」
「そゆこと…じゃっ、神子なら問題ないわけだよね」
「えっ、それは、そうですけどぉ」
「で、全属性と血筋には何の関係が?」
「き、貴族や王族、皇族が複数の属性を持っているのも血筋に関係があって、く、国同士の結びつきのために他国の貴族、王族が婚姻することは滅多にないんですぅ」
「は?何で?」
「な、なぜか、彼ら彼女らは、純血至上主義なのでぇ、た、例えば、水属性の王族の国では、水属性の持たない子供は、は、恥とされているんですぅ」
「へー、面倒くさい思想だね」
美和は頬杖をついて、ため息をつく。
「で、でも、そういう国では、必要以上に他国と婚姻するのはタブーなんですぅ」
イリアは縮こまりながら説明を続ける。
「純血主義とか、ファンタジーの定番だね」
「は、はいぃ。で、でもいいことばかりじゃなくてぇ、け、血筋が濃いほど、まぁ、ただぁ……」
「ただ?」
「か、魔力制御ができなくなったり、近親婚の影響で、短命になったり、魔力暴走をひき起こしたり……」
「へー、寿命とかリスク付きかぁ、じゃっ、私が全属性+魔力無限だと、血筋的に変なことなるわけね」
「そ、そうなんですよぉ」
イリアが頭を抱えてわんわん泣き出す。
「大げさだなぁ。でもまあ、血筋の理屈は分かった。じゃあさ」
美和はにやりと笑って、指を立てる。
「神子として生まれるように設定しといて。そしたら聖力も自然に持ってるわけでしょ?」
「え、えぇ?そ、そんな勝手にしたら、歴史がぐちゃぐちゃになっちゃいますぅ〜!」
「元から十三人も事故転生させてる神様共が歴史語るなよ」
「うぅっ……!」
イリアが言葉を詰まらせる。
「だ・か・ら。神子にして、全属性はおまけでいいや。魔力無限とアイテムボックスは絶対」
「ひ、ひええええ〜、わ、分かりましたぁ……」
「よし。あと〜」
「も、もっとですかぁ〜!?」
〜中略〜
「じゃ、これが最後ね」
「は、はいぃ〜も、盛りすぎですよぉ〜、どこの最強主人公ですかぁ〜」
と泣きべそを描きながらイリアが言う。
「どうせなら貰えるものは貰っとけの人間なので、謙遜とか、いらないでしょ?普通に、つまらないものですが、って渡されるより、いいものだよって言われた方が嬉しいじゃん?」
「に、日本人なのに、、、」
「…あのさ、もしかして、今まで転生させてきたのって、みんな日本人だったりする?」
と、みおが言うと、あからさまにイリアが目を逸らす。
「…えーと、そのー、えと、は、はい」
「え?まじ?何で?日本人贔屓?」
「い、いえ、そういうわけじゃ、贔屓とかじゃなくって、その、波長の問題でぇ」
「波長?」
「は、はい、我々神の波長と日本人の波長がよく会うんですぅ」
イリアはこくこく頷く。
「ふーん、そっかぁ(日本の神話は人間と関わったものも多いし、全てに神が宿ると言われてるし、日本と神の結びつきが強いのかな?)なんで?」
「に、日本ではぁ、か、神様が人の生活の中に当たり前にいてぇ、い、一緒にいるのが普通って考え方が根付いてますよね?」
「まあ、確かに。神棚とか祭りとか、生活の一部って感じだし、最近は神棚とかも減ってるけど」
「そ、それが影響しててぇ、わたしたち神の世界に呼び込みやすいんですぅ。ほ、他の国の人だと、神と人の間に強い線引きがあってぇ、魂が合わないことが多いんですぅ」
「へぇ〜、じゃあ異世界転生って、言ってみれば“神と近い日本人”の特権ってこと?」
「ひ、ひぇええ、言い方が極端ですけどぉ……まあ、そういう感じですぅ、まあ、絶対日本人ってわけじゃないですよぉ、多いってだけですしぃ」
「でも、確率的には低いよね、魂の波長があってて、しかも、神様による死ってわけじゃん?日本人がめっちゃ大まかだけど、1億人いるとしたら今までの転生者は13人で、簡単に十人として計算すると多いけど、人間が誕生して30万年、しかも、今と違って昔は人間の人数自体が少なかった、って考えると、ほぼないよね」
「うっ、え、えーと、は、はい、まぁ、そうですぅ」
「まあ、いいや、じゃ、最後ね、って、そうなに構えないでよ」
とみおは半笑いでいう。
「だ、だってぇ、すでに能力値がキャパオーバーなんですぅ」
「でも、そう言いながらオーケー出してるよね」
「…ま、まあ、私の力じゃ流石に全ての要求は無理だったんですけどぉ、面白そうだからって、上がぁ」
「上?」
「その、みおさんがお気に入りだったみたいでぇ」
「お気に入り、ねぇ〜、まっ、貰えるもんは貰っとく主義だし、別にいけど、で、最後のは」
「さ、最後のは」
「友達なってよ」
「と、友達」
「そっ、友達」
「友達」
「友達」
「な、何でですか?私ってポンコツで、い、いっつも失敗ばっかりで、迷惑かけでばかりですし、が、頑張って見習いから、創造主になりましたけどぉ、う、生み出した神たちはみんな好き勝手にしててぇ、ほ、ほとんど、みんなに管理はやってもらってて、や、役立たずでぇ、わ、私なんていなくても、あの世界は大丈夫ですしぃ、ほ、報告とかもしてもらってないので状況も知りませんし、べ、別に、人間が好きであの世界を創ったわけじゃないですし、ち、力のためですし、い、意味なんてないですし」
「ふーん(…めっちゃ動かしやすそうだなぁ、それに、神様の友達ポジって都合がいいし、…力かぁ、気になるけど、今聞くより友達ポジをゲットした方がいいよね)」
「な、なので、わ、わたしなんかと友達になってもいいことないですしぃ」
「そんなことないと思うけど、まあ、普通に、知らないとこで友達一人いないとこで生きてくんだから、寂しいじゃん」
「寂しい……」
「うん、寂しいー(棒)」
「さ、寂しい?」
「うん、寂しいから友達なって?」
「えっと、それなら、まあ」
「友達になったら加護が変わったりする?」
「えっと、はい、まあ、変わりますけど」
「どんなふうに?」
「属性検査の時に加護も一緒に表示されるんです、も、もちろん、わたし以外のみんなも加護を与えられますけどぉ、わたしよりかは弱いですぅ」
「さっきから、地味に自肯定感高いのなに?否定して肯定して欲しがる、自虐ちゃん?」
「べ、別にぃ、そういうわけじゃないですけどぉ」
「まあ、いいや、とりま、話、変えるね?で、うちの転生先はどこ?」
「と、特に決まってないのでご指定のところでいいですけど、ど、どこがいいとかありますか?」
「皇族もしくは王族、高位貴族、そして、家族仲がいいとこ、金があるとこ、あと、末っ子がいい」
「お、多くないですかぁ?」
「力を持つなら権力と金は必須、あと、家族仲が良くないと後々面倒、それから、末っ子は一番重荷が少なくって楽だからし、可愛がってもらえるからね」
「し、私利私欲すぎるぅ」
「せっかく2回目なら自重しない方が面白そうじゃん?」
とみおがいう。
イリアは転生させる前にみおの一生を見ていたので、
「じ、自重?」
と困惑した表情をする。
「うん、自重」
「??????あれだけ自重の対義語なのかというぐらいにやっていたのにですか?????」
「何の話?」
「えっと、だって、だって、学校で高嶺の花、天才って言われて自重無しに能力をフル活用していたのにですか???」
「?うん、だから自重してたじゃん、テストは満点じゃなかったし、シャトルランとかの体力測定も二位との差が出ないようにしてたじゃん」
「…」
あまりないいようにイリアは声を出せなかった。
なぜなら、みおが通っていた学校は日本の中でもトップの学校であり、世界ランキングでも上位に位置する学校だ。
あらゆる分野においての天才が集められた学校。
100メートル走での二位だった子は将来オリンピック選手になるだろうと言われていたし。
テストもすでに大学で習う範囲も勉強させられる。合計平均が500点満点で250を下回ることもある。
二位ですら合計450が最高得点だった、そして、二位に抜かされないようにみわは常に480を取り続けていた。
常に、480、を。
何度も見てきている教員ならわかるだろう、みおが意図して満点ではなく480をとっているといことに。
もっちろん、バレていた。
気づいていないのは本人ぐらいだろう。
閑話休題
「で、まだ?」
「え、えっと、ちょ、ちょっと待ってくださいぃ」
「……」
「…」
「…」
「で、できましたぁ、で、では楽しい異世界生活を」
「ん〜」
「あっ、記憶が戻るのは、3さ…」
と言う、中途半端なイリアの声で澪猫の視界は暗転した。




