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結局、乃地を刺した犯人は防犯カメラを細かく追っていったのと、乃地の親友の松坂斗真さんが乃地の行動について警察に話したことで、捕まえることができた。

乃地が飲み屋で知り合った女性の彼氏らしい·····

その女性が乃地を好きになり、何度も乃地の行きつけの飲み屋さんに押しかけ、付き合ってとか責任とってとか迫っていたらしい。

その彼氏は別れるのが嫌だったのと、好きだった女性を取られた憎しみで、乃地を刺しに来たと供述している。

人を刺すことは、絶対に許されることではないけれど、乃地の行動の結果でもある。

斗真さんはよく乃地と一緒に行動していたから、その女性がよく来ていたことも知っていたし、一度その彼氏が女性を連れて帰るのに来たこともあったらしい。

その時彼女に暴言を吐かれて、すごく傷ついた顔をしていたけど彼女への思いをなくすことはなく、なだめていたとか。

捕まった時は、逃げることも否定もせず、ただすみませんでしたと言って、素直に警察に従ったそう。

斗真さんも自業自得だと乃地に言った。

付き合う気もないのに、面倒だから今は無理とか適当に楽にかわそうとして、相手をちゃんと分からせなかった罰だと。


「だからりんちゃんは、こいつを見捨てても責められることなんてないよ。散々いいかげんにしろって言ってたのになぁ」


事件を知って、ようやく面会謝絶が解かれてお見舞いに来た斗真さんが、乃地の傷の具合を確かめ、安心した後に放った一言だった。

斗真さんは、一見ちょっと悪そうに見えるけど、話すと普通の話しやすい感じで、気遣いのできるひと。

乃地は猫被ってると言ってたけど、本当にそういう人でないと、気付いたり出来ないと思う。少なくとも私には優しい。


「斗真さん、ありがとうございます」

「正直そうするつもり、というか、別れたんだからいつまでも一緒にいるのも·····って思ってたんですけど」

「えっそうなの?あーそうか、やっぱりそうだよなぁ·····うん、りんちゃんはもっといい男がつかなきゃダメだ。もったいないよ。乃地には仕方ない、うん」


別れた方がいいと威勢よく言っていたのに、なんだか残念そうなのはどうして·····


「斗真、余計なこと言うな。せっかくそばにいてくれることOkしてくれたのに、やっぱりやめるって言われたらどうしてくれるんだ」

「そっ、そばにいるって言っても、乃地が体が治って記憶のことも問題なくなるまでのお世話係で、バイトとしてするだけだからっ」

「バイト?お世話係?ふはっ。家政婦ってこと?」

「そうそう!家政婦みたいな感じです」

「ふはっ。マジで?ワハハハハ!面白い、それいいじゃん」


なぜか、爆笑してる。


「りんちゃん思い切ったね。そうでなくちゃね!こいつを振り回してやりなよ、今まで悲しい思いさせられた分!」

「やめろよ、俺は彼女になってほしいんだから」

「彼女?何言ってんの?散々かわいそうなことしといて、今更·····彼女の定義わかってんのか。浮気されても飯作ってくれる都合のいい女のことじゃないんだぞ」


斗真さん、それ私のことですか?

そう思ってたんですか?

·····でも本当にそうだった。だから、もう嫌だった·····


「違う!そんな風にしない!俺は!」

「そう思われても仕方ないことしてきただろう?いくら怖かった、自分のそばにいても、幸せになれないと思っての行動だとしても!臆病なだけの情けない男に、愛想つかされる前に逃げることばかりしてただけだったろ」


(怖い?逃げる?)


何のことか分からなかった·····意味が掴めない·····乃地が?


「今言った通り、男のプライドもあるし、こいつの気持ちもわかるから言えないでいたけど、こいつはずっと大学行ってちゃんとした会社員になる、りんちゃんに焦ってたんだ。自分よりもっとちゃんとした男がいるって、気づいて捨てられるかもしれないとか、そう言いながらも、自分のような人間に付き合わせる人じゃない、幸せにできない。

だから自分の中の葛藤に疲れて逃げて、女で気を紛らわせて辛い思いさせてるから、もう別れてやった方がいいって·····な」


「え·····知らなかった·····わからなかった·····乃地がそんな劣等感を持っていたなんて·····別れた方が、私のためって·····そんな風に悩んで·····でも·····だからって!」


「だからって·····!傷つけていいはずがない!他の女の人のとこに行っていいはずがないんだ!」


·····私が言おうとしたところを被せて怒鳴ったのは、乃地だった。


「りんを傷つけるようなことをしたのは許せない·····俺、俺なら·····」

「·····乃地?」


斗真さんをまっすぐ見て·····怒ってる、すごく·····


「だから、俺が·····俺が今度こそちゃんとりんを大切にする。口ではなんとでも言えるから、これから態度と行動で示していくんだ」

「乃地·····」


正直何言ってるのって感じもした。

自分がしでかしたのにって·····でもそれよりも、本気で私をもう傷つけないと言ってるんだと伝わってきた。


本当にやり直したいんだと·····


「すげえな·····そんなに意気込んだお前、初めて見る気がするわ。でもまぁ、本当にりんちゃんが大切だと気付いたんなら、ちゃんと真面目にして示していけよ·····俺もそういうお前を見たい」

「ああ、約束する。ありがとう、斗真」

「な、なんだよ。何か乃地じゃなくなったみたいだな。生死をさまようような経験したら、人が変わるのか?·····照れるわ」

「ふふ」


斗真さんの照れて、慌てる様子が面白くて思わず笑ってしまった。

それに嬉しそうだ。斗真さんも。

ここ最近の乃地に思うところがあったんだ、きっと·····

「笑った·····」

「え·····?」


乃地がびっくりして、こっちを見てる。


「な、何?」

「りんが笑った·····やっと·····」


苦しそうな笑みを見せて、乃地が言った。


(笑うことが、そんなに?)

ああ·····そっか。

私達が笑顔を見せ合うような状況は、この1年ほどなかった。一体この1年ほど何を話して、何をしていたのか思い出せないほど、何もなかったのだろうし思い出すことが辛い。


だけど知らなかった。

乃地が怖がっていたなんて·····不安だったなんて。

どうして言ってくれなかったんだろう·····言ってくれていたら、ちゃんと話せていたら、少しは違う二人だったかもしれない·····なんて思ったり。

私も気づかなかった。

ちゃんと向き合っていなかったから。

だからといって、乃地がしてきたことは許されることじゃない。正当化されない。


「まぁとにかく、全てが一からやり直しだな。生活も仕事も。務めてた運送会社辞めたんだろう?」

「あー·····やめたというか、クビだな。ほとんど分からないし」

「ほとんどか·····よく俺たちのことは覚えててくれたよなぁ。なぁ、りんちゃん」

「はい·····本当に。運送会社の人達のことは全く分からないようで、ただ働いていたくらいにしかないみたいです」

「何なんだろうな。もしかして本当に大切な人のことだけ覚えてるんじゃないか!?」


斗真さんはとても嬉しそうに言った·····けど


「ふふ。管理人さんやお散歩仲間の人達のことも覚えてますよ?」

「え·····」


そう、覚えてるのは住んでいたマンションの周辺の人達のことばかりだ。もしかしたら、それ以外のところは乃地にとって安心できない、嫌なところだったりしたからとか·····?


「もういいよ、記憶のことは落ち込むしな。これからを考えたい」

「おお·····そうだよな、今までのことずっと考えててもどうしようもないしな。俺も役に立てることあったら、何でもするし」

「ありがとう、斗真」

「なっ、だから何か調子狂うわ。照れる」

「フフ·····」

「りん·····」


こぼれてしまった笑い声に、乃地がまた嬉しそうに私を見る。


「そんなに見ないで」

「ごめん·····でも久しぶりの笑顔を見れたから·····今まで嫌な思いばかりさせてきて、暗い顔しか見てなかった」

「誰が言ってるんだよ。そう思うならこれからは、笑顔だけを浮かべてもらえるように大事にしろよ」

「ああ、そうだな。俺が必ず笑顔が絶えないようにするよ、りん」

「う、うん·····友達なんだし、そこまで·····」


思わず友達を強調してしまう。

こんな甘い言葉を言ってくれるなんて·····でも浮かれてしまう自分が怖い。

またこの前までの辛さを味わうかもしれないと、頭によぎる。心が開くのをストップさせてしまう。


「お前、本当に変わったなぁ。でもいい方向だし、いいよな、りんちゃん。もしこいつがまた何かしでかしそうになったら、俺に言って。ちゃんと逃がしてやるし、その時は、俺が·····」

「えっ?」


最後の方の言葉が聞き取れなかった。


「あ、いいや!何でもない!」

「斗真さん、いつもありがとうございます。よろしくお願いします」


(斗真·····やっぱり、りんに気持ちがあったんだな·····でも、悪いが譲れない。気づいてないフリさせてもらう)

「·····ねぇよ、絶対」

そう呟いた乃地は、私から目をそらしていた、今までの乃地とは全く違う乃地になったんだと感じた。

そんな乃地にドキッとしてしまった。

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